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第6話 暗礁

 照明が消えた理由はいたって簡単。

 単純にバッテリー切れだった。


 日が射している間しか充電できない、太陽光発電システムの欠点をつかれた形だ。

 安定して電力を得るには、ちょっと心許ない。


 照明が消えてしまい、真っ暗になった食卓でソシエちゃんが、


えるいーでぃー(LED)、消えちゃいましたね……」


 と呟いた言葉は、いまも耳に残っている。

 ドヤ顔で照明つけたくせに中途半端な結果になっちゃったもんだから、恥ずかしいやら情けないやらで、ご飯の味がよくわからなかった。

 それでも、せっかくロザミィさんとキエルさんが作ってくれたから、「おいしいですよ!」とは言っておいたけどね。


「いや~、まいったねぇ」


 計画の練り直しだ。

 決して安くはない額を投資しちゃったから、廃棄ってわけにはいかない。

 太陽光発電システムはサブ電力として使うことにしよう。


「気を取り直しって、検索検索ぅ~っと」


 社畜にとって貴重な休日が徒労に終わったのは残念だけど、人は失敗によって学んでいくもの。

 失敗は成功のもと、ともいうしね。


 だからここで挫けるわけにはいかない。

 俺は錦糸町の自宅でパソコンを起ち上げ、太陽光以外の発電システムを調べはじめた。


「ふ~む…………。やっぱコレかな?」


 前回の脳内プレゼン大会で太陽光発電システムと最後までしのぎを削っていた、もうひとつの案。

 それは――


「水力発電にトライしてみるか?」


 個人用の水力発電機だった。

 なんと、1秒間に数リットル程度の水量で発電が可能だというから驚きだ。


 太陽光発電セットよりお高いけれど、水路を確保さえできれば24時間、常に発電できるのが水力発電の強みといえる。

 俺が脳内プレゼンで水力発電を却下した理由は、水路の確保や、なによりも取水パイプと排水パイプの設置工事が必要になってくるからだ。


 発電機への水は、ズェーダで飲水や生活用水として使われている上水道からお借りする(異世界あっちの家の裏を流れてる)としても、そこまでの水路をつくるのが難しい。

 はたして、取水パイプを設置するのは素人の俺でもできるんだろうか?


「発電機だけ買って、設置工事はやり方だけ教えてもらうとか、できないよなー」


 そんなことをブツブツ呟きながら検索を続けていると、あるサイトにいきついた。

 農業のコンサルから土壌分析、それに次世代エネルギーの普及などに力をいれている会社。


「ガイア・ゲオールギア・カンパニー? あれ、ここは確か……」


 ネットの海を泳ぎに泳いでたどり着いたサイト。

 それは、俺の親友である中島が勤めている会社のサイトだった。


 俺はすぐにスマホを取りだし、電話帳から中島の名をタップする。

 呼び出すこと数秒。


『もしもし、近江か?』

「いよう中島! ちょっとお前にまた頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

『おおっ!? 草野球チームの助っ人ならいつでも駆けつけてあげるぞ!』

「違うって、野球じゃないって」

『ちぇ、残念。それで、こんどはどんな頼みなんだい?』

「実はなぁ――――……」


 俺は中島に水力発電機についての相談をする。

 相談内容は、俺ひとりでも設置工事ができるか、だ。


『うーん……水力発電は僕の管轄じゃないんだよなぁ。あ、でも、僕の同期がそっちの部署で働いてるから聞いてきてあげるよ』

「ありがと中島! こんど一杯奢るぜ!」

『いいっていいって。特注の防獣ネットのことで近江にはかなり世話になったからな。むしろ、僕の方が近江に奢らなきゃなんだから』

「別に気にしなくていいんだけどね。俺も中島のおかげで助かった部分が大きいし」

『それでも、だよ。じゃあ、訊いたらすぐに連絡するよ』

「ヨロシクー」

『おう。じゃ、またなー』

「はいよー」


 通話を切ってスマホをしまう。

 あとは中島からの連絡を待つだけだ。


 一日の疲れを洗い落とすためお風呂にはいり、湯冷ましがてらベランダでビールを飲みつつスカイツリーを眺めていると、中島から着信がはいった。


『起きてたか近江』

「まだ0時前だぜ。思春期のキッズだって起きてる時間だっての」

『あははは、確かに』

「そんで、どうだった?」

『ああ、水力発電のこと聞いてきてあげたぞ』

「さんきゅー! んでんで?」


 食い気味に質問する俺に、中島は咳払いをひとつしてから答える。


『こんどうちの会社が農地用の水路に水力発電機を設置することになってさ、そこに僕と近江も見学できるよう頼んでおいたよ』

「さすが中島! ちょー愛してる!!」

『よせよなー。愛は奥さんのだけで間にあってるんだからさ』

「くっそー、のろけてくれるじゃないか。クラスのマドンナだったカオリちゃんの愛を独りじめかよー」

『へへっ、悔しかったら近江もいいひと見つけるんだな。それで日にちなんだけど――――……』


 幸いにも、工事の日は次の土曜日だった。

 場所は山梨。中島が泊まりでくるっていうもんだから、ついつい俺も温泉宿を手配してしまったぞ。


 プチ旅行バンザイ。

 こんどの週末は、中島とおいしいお酒が飲めそうだ。

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