第5話 サマーアクシデント
異世界のマイホームに『ソーラーパネル自作セット』を持ち込んだ俺は、さっそく組み立てはじめた。
「……ふんふん。ソーラーパネルのラインをバッテリーにつなげる時はプラスからで、外すときはマイナスから、と。なるほどねー」
説明書を読み込み、組み立てかたから配線までの流れを頭に叩き込む。
かつてプラモデルのデンドロさんを作った俺にとっては、夏休みの自由工作レベルのイージーさでしかない。
バッテリーの重量が20キロ以上あることさえ目をつむれば、小学生にだってつくれるぐらいシンプルなつくりだった。
「うんしょっと」
マイホームの屋根によじ登り、作業に取りかかる。
手順はまず鉄パイプを組み合わせて設置台をつくり、ソーラーパネルを太陽に向けて敷く。
そして配線を、ソーラーパネル、バッテリー、チャージコントローラー、インバーター、とつなげて完成。
ここまでにかかった時間は90分ほど。
かかった時間のほとんどは設置台の組み立てだ。
こりゃ慣れてくればもっと短縮できそうだな。
「さーて、残りもやっちゃいますかー」
俺は半日かけて『ソーラーパネル自作セット』を4セット組み立て、さらに半日かけて家中にコードを這わせ、各部屋に電源を持ってくる。
リビングはもちろんのこと、俺とロザミィさんの部屋にキエルさんとソシエちゃんの2人部屋(ひとり一部屋を提案したら、ふたり一緒の部屋がいいと固辞されてしまった)。
全部で4部屋だ。
すべての作業が終わるころには、とっくに日が暮れていた。
「夕飯までにはひと区切りつけたいな」
いま台所では、ロザミィさんとキエルさんのふたりが夕食の準備をしてくれている。
「ちょっとキエル、代わりなさいよね。あたしがマサキのご飯をつくるんだから」
「いいえ、代わりません。ロザミィ、貴方に任せてまた塩の量を間違えられてはマサキ様がかわいそうです」
しょっちゅう言い合いをしているふたりだけど、いまではファーストネームで呼び合っちゃうぐらいの仲良しさんだ。
外から見てると、『親友』と言ってもいい関係な気がする。
「言ったわねぇ……。そんなこと言ったら、キエルに任せると料理が野菜ばっかりになるじゃない。それも塊でっ。いーい? マサキはお肉が好きなのよ」
「そ、それは……そうですっ、お、お野菜を美味しくいただくには、できるだけ素材そのままの姿であったほうが――」
「そんなこと言って、またマサキにジャガイモを生のまま食べさせるつもりなんじゃないの?」
「こ、こんどはちゃんと茹でてます!」
台所からふたりの会話がリビングまで漏れ聞こえてくる。
さーて、今日の夕食はいったいどんなファンキーな料理が飛びだしてくるのかな?
近江家の食卓は、いまのところ28戦3勝25敗の戦績だ。
3勝のすべてが俺が料理当番だった日だってんだから、なかなかに残酷な結果だと思う。
「それより続き続き、っと」
俺は意識を切り替えて、目のまえの配線と電源づくりに集中する。
異世界で夜の灯りといったらロウソクか獣の油、もしくは魔法の灯りの3択しかない。
ロウソクも油も火事が怖いし、かといって魔法の灯りではいまいち明るさが足りないうえ時間が短い。
となれば、LEDで食卓を明るく照らすしかないよね。
そんなわけで、リビングに間接照明をえっちらおっちら運びこむ俺に、
「マサキさま、それはなんですか?」
ソシエちゃんが小首をかしげて訊いてきた。
「ん? これかい? これはねー」
不思議そうな顔で俺を見あげるソシエちゃん。
俺は運んできた間接照明を電源につなぎ、得意げに笑うと、
「ポチっとな」
と言って間接照明のスイッチをいれた。
瞬間、電球に白色の光が灯る。
「わわっ!? まぶしいですっ」
「あははは、ごめんごめん。ビックリさせちゃったかな?」
急に電気をつけたもんだから、ソシエちゃんが眩しそうに目を細めている。
「いいえ、ソシエは大丈夫です。それよりマサキさま、この灯りは……なんですか? まるでお日さまみたいですっ」
「これは『LEDライト』といってね、まわりを明るくするアイテムなんだ」
「えるいーでぃー……ですか。精霊とも魔法ともちがう灯り……。ソシエははじめて見ました」
「ロウソクとかより明るいでしょ? 部屋が明るくなれば心も明るくなるもんだからねー。今日からは昼間のように明るい部屋で夕食が食べれるよ」
「わぁ……。すごいですっ。すごいですマサキさまっ!」
リビングを明るく照らす間接照明に、ソシエちゃんが喜びの声をあげる。
夕食ができたのも、同じタイミングだった。
「お待たせ、マサキ」
「お待たせしましたマサキ様」
ロザミィさんとキエルさんが、料理の乗ったお皿をテーブルに運ぶ。
今日のメニューは大きな肉の丸焼きに、これまたでっかいジャガイモの丸茹で。
どちらも胃への攻撃力が高そうだ。
「さ、温かいうちに食べましょ」
「マサキ様、こんどはしっかり茹でたので大丈夫ですよ。……あら、どうしたのソシエ? 元気がないみたいだけど……お腹でもいたいの?」
「…………いいえ姉さま、ソシエはどこも痛くありません」
「そう。よかった。なら早く席について。みんなで食べましょう。マサキ様もどうぞ」
「え、ええ」
そう言ってロザミィさんの隣に座る。
正面にキエルさんで、その隣にソシエちゃんの並びだ。
スーパーウェルダンな焼き加減のお肉と、お祭りの屋台でしか見たことのないようなジャガイモの塊。
せめてバターがほしい。
そんなことを考えつつも手を合わせ、
「いただきます」
と俺が言い、
「「「いただきます」」」
とみんなで唱和した瞬間、間接照明の灯りが落ちたのだった。




