第4話 電力を巡る戦い
先日の競馬で思わぬ大金をゲットした俺は、かなりゴキゲンだった。
東京競馬場から、2時間5万円のリムジンサービスで錦糸町まで帰っちゃうぐらいゴキゲンだった。
リムジンの車内で俺はシャンパン、リリアちゃんはアップルジュースで乾杯。
ふっかふかのシートに俺もリリアちゃんも大興奮。
あまりにも楽しすぎて、ゆっくり走ってもらったにもかかわらず、錦糸町まであっという間だった。
機会があったらまた頼んでみたいと思う。
競馬場に誘ってくれた吉田さんもレース後半はリリアちゃんの目利き(というか俺の魔法)にのっかり、笑顔で最終レースをフィニッシュすることができたから、毛根もギリギリのところで守られたしね。
吉田さんのおかげで、思い出に残るような楽しい一日になったぞ。
こんど菓子折り持っていこっと。
「さーて、このお金をなにに使おうかな?」
吉田さんの話では、税金でけっこー持ってかれるらしい。
それでもかなりの額が残る。
半分は貯金や投資にまわすにしても、もう半分はパーッと使ってみようかな?
「ふっふっふ……たまにははっちゃけちゃうか!」
いっそ新築のマンションでも買うか?
いやいや、将来どこに住んでるかわからないんだから、まだ早いでしょ。
なら広い部屋に引っ越すか?
ん~……。いまの部屋は陽当たりよくて気に入ってるし、特に不便に感じることもない。
となると海外旅行とか?
海外行くぐらいだったら、異世界に行ったほうが楽しいからなー。
……あれ? あんまお金の使いかたを思いつかないぞ。
大金をゲットした瞬間、物欲がなくなっちゃったみたいだな。
余裕があるが故の、ってやつかも。
とりあえず、両親と姉ちゃん夫婦に温泉旅行でもプレゼントしておくか。
俺も一緒だと、みんなして「結婚しろ、結婚しろ」ってうるさいから行かないけどね。
「となれば……」
俺はネットを開いて検索をはじめた。
前々から考えてはいたけれど、予算的な理由であきらめていた計画を実行に移す時がきたと思ったからだ。
ずっと考えていた計画。
それは――
「え~っと、ソーラーパネルは……っと」
異世界のマイホームに太陽光発電システムを持ち込んで、電気を使えるようにすることだ。
現代日本に育った者としては、やっぱ電気がないと不便に感じてしまう。
照明ひとつとっても、ロウソクに火を灯したり、ライティングの魔法を使ってみたりしないといけないのだ。
だから俺は、異世界のマイホームに電気を欲していたのだ。
この考えに至るまでに、いくつかの発電機を持ち込んでみたことはある。
ガソリンタイプの発電機はうるさいし、どうしても排ガスがでて臭ってしまう。
カセットボンベを使うタイプの発電機は連続使用時間が2時間しかないうえ、出力が低くていまいちだった。
となれば、音も静かで自然にも優しい、太陽光発電システムを導入するしかないよね。
「やっぱ時代はエコだよな。エコ」
そんな意識高い系のつぶやきをしつつ、ネットの海を泳ぐこと実に2時間。
専門店のサイトや、ソーラーパネルをいま流行りのDIY――自作で設置しちゃったひとたちのブログを読み漁り、必要なものをメモしていく。
「ふんふん。ソーラーパネルに設置台、チャージコントローラーとバッテリーにインバーター、っと。こりゃ一式セットで購入するのが正解だな」
最終的にオンラインショップで『ソーラーパネル自作セット』なるものをポチり、買物カゴに放りこむ。
これで電力を発電できるようになったら、異世界マイホームの住みやすさが格段にあがるぞ。
俺……発電が上手くいったら冷蔵庫やテレビとか異世界に持ち込んじゃうんだ。
そしてリリアちゃんとロザミィさん、キエルさんにソシエちゃんをリビングに集めてパーティーゲームやるんだ。
やっぱルームシェアでの醍醐味、『みんなで集まってワイワイ』をやらなきゃもったいないもんね。
いつかUSA人も妬んじゃうぐらいのビックリなパーティを開いてみせるぜ。
「おっし、俺がんばっちゃうよ!」
ソーラーパネル自作セットが届くのは、次の金曜日。
今週の土日は、日曜大工ならぬ土日大工にいそしむことになりそうだった。




