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エピローグ

「コホン、……えー、只今、ご紹介に預かりました近江正樹でございます。ズェーダへ移住してきてまだ数か月の若輩者でございます」


 ズェーダで一番大きい酒場はいま多くのひとで溢れかえっていた。

 キエルさんとソシエちゃんの解放祝い&グリフォン捕獲祝いを身内でやろうとしたら、どこからか聞きつけた冒険者ギルドのみなさんに街のひとたちまで加わって、ドえらい人数が集まってしまったのだ。


 冒険者ギルドの顔なじみさんから、どっかで見た顔だなーぐらいの微妙な関係のひと。すがすがしいほどにまったく知らないひとまでいる。

 そんなひとたち全員の視線が、ジョッキを持つ俺へと注がれていた。


「はなはだ僣越せんえつではございますが、冒険者ギルド職員であるムロンさんよりご指名を頂戴しましたので、わたくし近江正樹が乾杯の音頭をとらせて頂きます」


 フランさんが陽気な曲を奏でるなか、ゴドジさんが「なげーぞ。早く飲ませてくれよー」とヤジを飛ばしては、ロザミィさんから「静かにしなさいよね」とヒジ鉄をもらっていた。


 イザベラさんと手をつないでるリリアちゃんからは、「お兄ちゃんがんばれー」と声援が送られてくる。

 ありがとリリアちゃん。俺がんばるよ。


「それでは、みなさまご唱和をお願いします。ズェーダのますますのご繁栄と、この場にいらっしゃるみなさまのお幸せを祈念致しまして――」


 俺はジョッキを掲げ、続ける。


「乾杯!」

「「「「「乾杯ッ!!」」」」」


 酒場のいたる所でジョッキが打ち鳴らされる。まるで演奏みたいだ。

 そのあまりの賑やかさに、リリアちゃんはぴょんぴょん跳びはねて喜んでいた。

 きっと楽しくて心がぴょんぴょんしちゃったんだろうな。


「マサキは前置きがなげぇんだよ」

「えー。『乾杯の音頭とれ』ってムチャぶりしてきたムロンさんがそれ言います?」

「がはははは! あったり前だろ。この宴の主役はマサキ、お前なんだからなぁ」


 そう言って笑うムロンさんと俺はジョッキをぶつけあう。

 エールの黄金色の雫が豪快に飛び散っても誰も気にしない。

 なぜなら、ここの酒場だけじゃなく街すべてがお祭り騒ぎになっていたからだ。


 ズェーダの経済を停滞させていたグリフォン問題が解決されたうえに、悪名高いラミレス商会まで潰れたんだから、そりゃ祭りにもなるってものよ、とはゲーツさん談。

 そう。ラミレス商会は潰れた。

 ズェーダを治める城主さん直々の命により、ラミレス商会はお取り潰しとなったのだ。


 なんでも、ラミレス商会のダーティな行いに、住民や各種ギルドからの苦情と懇願が相次いでいたそうだ。

 いくら調査しても悪事の証拠がぜんぜん出てこないもんだから、城主さんはずっと頭を悩ませていたとか。

 そんななか、俺の提出したボイスレコーダーと動画を録画したタブレットPCが動かぬ証拠となり、やっとラミレス商会の悪行三昧を処罰することができたのだ。


 ラミレス商会を潰せて城主さんはハッピー。

 ラミレス商会に迷惑かけられていたひとたちもハッピー。


 あっちもこっちもハッピーづくしなもんだから、俺が街を歩くといろんなひとから感謝の言葉を送られるわ、城主さんからは「礼を言いたいから、後日城まできてくれ」とお招き受けちゃうわで、なかなかに大変だった。

 お礼とか別にいらないのになー。


「マサキ様、杯が空になっていますよ。さあ、どうぞ」

「あ、すみませんキエルさん」


 エールのはいったピッチャー(のようなもの)を持ったキエルさんが、空になった俺のジョッキに注いでくれる。

 キエルさんの隣ではソシエちゃんがニコニコしていて、さらにその隣ではリリアちゃんがもっとニコニコしていた。

 どうやらいつの間にか仲良くなっていたらしい。


 リリアちゃんにとってソシエちゃんは、歳の近いお姉ちゃんみたいな存在なんだろうな。

 ソシエちゃんの実年齢が90歳って聞いた時はぶったまげたけどね。


「あー!? ちょ、ちょっとあなた! ま、マサキの杯に――」

「まあ落ち着けよロザミィ。あのエルフの姉ちゃんにとってマサキさんは恩人なんだ。酌ぐらいさせてやろうぜ」

「うぅ~~~っ」


 ゴドジさんとロザミィさんがこっちを見ている。

 ひょっとしてロザミィさんもエールが飲みたいのかな?

 まったくー、欲しがり屋さんなんだから。


「キエルさん、それかしてください」

「はい、どうぞマサキ様」


 俺はキエルさんからピッチャーを受け取り、ロザミィさんへ近づいていく。


「ささ、ロザミィさんもエール飲んじゃいますか!」

「あ、ちょっと――」

「いいんですって。わかってますから」


 いつもは果実酒ばっか飲んでるロザミィさんのジョッキに、今夜はエールをドボドボド。

 会社の飲み会ではビールを飲んでやっと一人前、みたいな風潮があるから、ロザミィさんがつい背伸びしたくなっちゃう気持ちもわかるというもの。


 十代の女の子であるロザミィさんにエールを注ぐのはちょっと気が引けたけど、ヨーロッパのスイスじゃ14歳からお酒を飲めちゃう土地もあるし、なにより異世界こっちじゃ15歳で成人扱い。法的にはなにも問題ない。

 表面張力かかってこいよとばかりに、なみなみと注いじゃったぜ。


「あう~……」


 ロザミィさんが両手で持ったエールのジョッキを、しょげた顔で見つめている。

 うーん。注ぎすぎちゃったかな?

 半分ぐらいにしとけばよかったかも。


「さ、ロザミィさんも俺と乾杯してください」

「……うん」

「かんぱーい」

「か、乾杯……」


 ロザミィさんとジョッキをコッツンこして、喉を鳴らしながらエールを飲む俺。

 対照的に、ロザミィさんはちびりちびりと飲んでいた。

 その顔には、「おいしくない……」と書かれている。

 ロザミィさんにエールはまだ早すぎたか。


「っぷはー。ロザミィさん、そのジョッキくださいな」

「え? あ、ちょっと――」

「いちばーん! 近江正樹、これからイッキしまーす!」


 ロザミィさんからエールのはいったジョッキを借りてそう宣言すると、酒場中の男たちから野太い歓声があがった。


「んぐんぐんぐ…………っぷはー……。どんなもんじゃーい!」


 再びあがる野太い歓声。

 そんな俺に触発されたのか、ゴドジさんが楽しそうに笑う。


「やるじゃねーかマサキさん。ならおれも……」


 ゴドジさんが俺からピッチャーを奪い取ると、なんとピッチャーごとイッキしはじめたではないか。

 第一回ズェーダイッキ大会の幕開けである。


「ね、ねぇマサキ、あっちにいかない?」

「ですね。ここにいるといつマーライオンに襲われるかわかったものじゃありませんから」

「まーらいおん? なにそれ?」

「ははは、架空の生物なんですけど、まれに酒場にあらわれることもあるんですよね」

「?」


 きょとんとするロザミィさんの手をひいて、俺は酒場のはしっこに避難する。


「あー! やっとお兄ちゃんがもどってきた!」

「ただいま、リリアちゃん。それにソシエちゃんも」

「ん!」

「おかえりなさいませ、マサキさまっ」


 思いっきり抱きついてくるリリアちゃんと、遠慮がちにぎゅっとしてくるソシエちゃん。

 そんなに抱きつかれると、おっさんってば娘がほしくなっちゃうよ。


「こらこらリリア、マサキさんが動けなくなっちゃいますよ」

「ソシエ、こっちにいらっしゃい。マサキ様を困らせてはいけません」

「「はーい」」


 イザベラさんとキエルさんにたしなめられ、小さな天使たちが俺から体をはなす。

 酒場のはしっこにはムロンさん一家とハウンドドッグ(ゴドジさんを除く)のいつものメンバーに加え、キエルさんとソシエちゃん姉妹に吟遊詩人のフランさん、それになんとギルドの受付嬢であるレコアさんまでいた。

 なんかゲーツさんが必死にレコアさんを口説いてるみたいだけど、


「どどど、どうだレコア? このあと二人でのの、飲みなおさないか?」

「結構です。明日も仕事ですので」

「そ、そう言わずによ。いこうぜ? なぁ?」

「結構です」


 つーんとしたレコアさんの心には響いてないご様子。

 若いっていいね。


「戻ってきたかマサキ。いまイザベラたちにマサキの活躍を話してたとこなんだぜ」

「へ? 俺の活躍って……グリフォンのときのことですか? でもあれはみんなの――」

「違う違う。ラミレス商会でのことだよ。あんときあのクソ野郎にマサキが言ったセリフを、イザベラたちにも聞かせてやってくれよ」

「おうしっと。……勘弁してくださいよムロンさん」





 ラミレス商会での一件は、俺の記憶から抹消したい出来事となっていた。

 ジャマイカンさんにデンジャラスフックをキメたあと、駆けつけてきた衛兵さんたちによりラミレス商会のみなさんは御用となった。


 縄に縛られ、悔しそうな顔をするジャマイカンさん。

 そんなジャマイカンさんに向かって、キエルさんは静かに、でもハッキリと、


「わたしたち姉妹にとっての最大の幸運はマサキ様と出逢えたことでしたが、貴方にとってマサキ様との出会いは最大の不運だったようですね」


 と言ったのだ。

 その皮肉の効いたセリフにムロンさんは「ヒュー♪」と口笛を吹き、


「エルフの姉ちゃんも言うじゃねぇか。マサキ、お前もこのクソ野郎になんか言ってやりな」


 と俺の背中を叩いた。

 まさかのムチャぶり。


「えぇっ!? お、俺もですか?」

「そうだ。言ってやれマサキ」


 ロザミィさんも、キエルさんもソシエちゃんも、うなだれているジャマイカンさんですら俺の言葉を待っていた。

 あろうことか衛兵さんまで連行するのをいったんとめて、俺の言葉を待っているじゃないですか。

 そんな重圧の中、俺は必死になって言葉を絞りだす。


「そ、その……た、確かに、キエルさんの言うように不運でしたね」

「…………」


 ジャマイカンさんは答えないかわりに俯いていた顔をあげ、恨み骨髄な視線を俺へ向ける。

 俺は続けた。

 キメ顔までつくって続けたのだ。


「ジャマイカンさん、あなたは――」


 この場を締める、かっちょいいセリフを言うために。


不運ハードラックワルツっちまったんですよ。俺という名の、不運ハードラックとね……」


 あの時のあの場にいたみんなのポカンとした顔は、いまも脳裏に焼きついている。

 まさかこの歳にもなって、まだ黒歴史が更新されるとは思ってもみなかったぜ。

 穴があったら埋まりたかったぐらいだ。





 なのに――。


「いやー、あのときの微妙な空気はあの場にいたヤツじゃないとわからねぇな。姉ちゃん(ロザミィ)もそう思うだろ?」


 ムロンさんは絶好調にネタにしてくれていた。

 なんか、ムロンさんの笑い話のなかで鉄板ネタになりそうな勢いだ。


「ちょっと、やめてあげてよね。いくら旦那でもひどいわ。マサキが可哀そうでしょ」

「おとーさんだめだよ。お兄ちゃんがかわいそーだよー」


 ロザミィさんとリリアちゃんに庇われる俺。


「わたしは……あのときのマサキ様は凛々しかったと感じました」

「ソシエも姉さまと同じです! マサキさまは凛々しかったと思いますっ!」

「あ、ず、ずるいわよあなたたち。あたしだってちょっとはカッコよかったと思ってるんだからっ」

「ほんとかー? 姉ちゃんこんな顔してたぜ。こんな」

「もうっ、旦那は黙っててよ!」

「リリアも! リリアもお兄ちゃんのことずっとカッコいいとおもってるもん!」


 なんだかここも賑やかになってきたな。

 今日は俺の奢りだからか、みんな財布の中身を気にせず楽しんでくれている。

 楽しそうなみんなを見れて、俺もすっごい楽しいぜ。


 なんで俺の奢りかというと、ラミレス商会との契約が、契約違反により破棄となったからだ。 

 金貨1800枚は元より、前金で払っていた金貨700枚もズェーダの役人さんを通して無事に戻ってきた。


 ムロンさんに借りていた金貨400枚をお返しして、グリフォン捕獲で得た金貨2400枚は5人で均等に割った。

 みんなは受け取りを拒否していたけれど(ゴドジさん除く)、みんなの協力あってこそ捕獲できたので無理やり押しつけといた。

 ひとり頭金貨480枚。日本円にするとだいたい2億4千万円ぐらいか。

 命がけでグリフォンを捕まえただけのことはある金額だ。


「そういえば……キエルさんキエルさん、」

「はい、なんでしょうマサキ様?」

「えっと、キエルさんとソシエちゃんはこのあとどうするつもりですか? もし故郷に帰るんだったら、俺が旅の資金を用意しますけど?」

「そんな……ダメです。そこまでマサキ様にお世話になることはできません。それにまだマサキ様にご恩をお返ししていませんから、わたしたちはここを離れるつもりはありません」


 キエルさんがすっごい真顔で言う。

 その隣では、ソシエちゃんもコクコクと頷いていた。 


「いやいや、俺が勝手にやったことですから恩なんか感じなくていいんですってば。そもそも恩に着せたなんて思ってもいませんし」


 俺がそう言うと、ロザミィさんがずいと身を乗りだしてきた。


「そ、そうよ! マサキはすっごいお人好しなんだから気になんかしなくていいのよ! なんならマサキじゃなくてわたしがおカネをだすから故郷へ帰りましょう! ね? そうしましょうよ! 奮発して金貨100枚だしちゃうわっ。うんうん、これだけあれば大陸の果てにだっていけちゃうわね。ね? どうかしら?」


 おお! ロザミィさんたらちょー優しくて太っ腹。

 自ら帰郷の資金提供を名のりでてくれたぞ。

 それも金貨100枚も。

 

「ダメです! 月の森のエルフの誇りにかけて、故郷へ帰るのはマサキ様へご恩をお返ししてからです! そうよねソシエ?」

「はい! 姉さまの言う通りですっ!」


 エルフは義理人情の種族なのか、断固として譲らない。

 その意思の固さに、ロザミィさんも若干顔が引きつっている。


「まあ、いろいろあったあとですからね。故郷に帰るにしても、少し落ちついてからのほうがいいかもしれませんね」

「はい! マサキ様のおっしゃる通りです!」


 キエルさんの顔がぱぁっと輝く。

 となると、滞在する場所を確保しないとだよな。


「んー、じゃあ住む場所探さないとですね」

「マサキ様、お気をまわさないでください。わたしたち姉妹のことはわたしたちでなんとかしますから」

「いいんですよ。こうして知り合ったのもなにかの縁ですから。最後までガッツリかかわらせてください」

「そんな……『最後まで』だなんて……」


 キエルさんの顔が赤い。

 お酒がまわってきたのかもしれないな。

 はやく今夜お泊りする場所を決めてあげないと。


「あ、そうだ! 俺の家にきます? 部屋あまってるんですよねー」

「ダメよ!!」

「……な、なぜロザミィさんがダメだしを?」

「ダメなものはダメ! ま、マサキの家に住むなんて……そんなのズルいわ」


 俺の家はズェーダでもそこそこ立派な部類にはいる。

 冒険者たちの多くは借り宿住まいって聞くから、羨ましいのかもしれない。


「ちょっとマサキ、」

「な、なんですロザミィさん?」


 ロザミィさんが俺に顔を近づけ、そっと耳打ちする。


「薬草のこと秘密だったでしょ。あのふたりが住んだらバレちゃうじゃないの」

「ああっと! そうでした。最近放置プレイしてたからすっかり忘れてた……」

「もうっ、そうなんじゃないかと思ってたわよ。あたしがずっとお水あげてたんだからね」

「すみません。ありがとうございます」


 こんどタイマー式の散水機買ってこよっと。


「んー……じゃあ、2階は立ち入り禁止、ってことでどうでしょうか?」

「はぁ……。マサキのなかで部屋を貸すことはもう決定してるのね」

「いやー、ははは……。ほら、宿だとおカネかかっちゃいますし、それにおカネ貸すって言っても受け取ってくれなさそうですし……ねぇ?」

「……マサキの家、部屋いくつあまってたかしら?」

「えーっと、」


 俺の家は驚異の7LDK。

 そのうちふた部屋しかつかってないから、5部屋は空き室状態だ。


「キエルさんとソシエちゃんにそれぞれひと部屋ずつ貸しても、まだ3部屋あまってますね」

「そう。ならあたしも住むわ」

「えぇっ!?」

「安心して、ちゃんと家賃は払うから」

「いや、そうじゃなくてですね……」

「や、薬草の世話するなら一緒に住んでいたほうが効率いいじゃない。それにキンシチョーの住人であるマサキは家を空けることが多いんだから、家に誰かいたほうがいいでしょ?」


 ロザミィさんの言う事はもっともだ。


「……ふむ。確かに」


 とてもナイスな提案かもしれない。

 俺は錦糸町と異世界こっちを行ったり来たりしてるし、ズェーダ()に疎いキエルさんたちには、詳しいひとがそばにいたほうがいいに決まってる。

 それにいろいろなことを考えると、同じ女の子であるロザミィさんがいてくれたほうが俺としても心強い。

 となれば――。


「ロザミィさん、」

「な、なによ?」

「引っ越し、手伝わせてくださいね」

「え……? じゃあ――」

「いろいろ迷惑かけちゃうとは思いますけど、これからよろしくお願いしますね!」

「う、うん! あたしのほうこそよろしくね、マサキ!」


 俺は手を伸ばし、ロザミィさんと握手をする。

 ぎゅっと握ってくるロザミィさんの手は、とても温かかった。


 しっかし……学生時代ルームシェアに憧れていたことがあったけど、まさかその夢が異世界こっちで叶うとはね。

 なんだか楽しくてドキドキしちゃうぜ。


 とか思っていたら、


「お兄ちゃん、お姉ちゃんといっしょにすむの?」


 いつの間にやら足元にリリアちゃんがしゃがみこんでいた。


「あれ? リリアちゃん聞いてたの?」

「ん!」


 俺とロザミィさんの会話もバッチリ聞こえていたみたいだ。

 足元にしゃがみこんでいたリリアちゃんが、じーっとこちらを見あげている。

 ジト目のリリアちゃんに見つめられ、動揺するロザミィさん。


「お、お嬢ちゃん……いまの話はみんなにはないしょ――」

「おとーさーん! お姉ちゃんがお兄ちゃんといっしょにすむんだってー。リリアもお兄ちゃんとすみたーいっ!」

「なっ――お嬢ちゃん!!」

「……わーお」


 楽しい夜は続いていく。


「キエルさん、よかったら俺の家にきませんか? 部屋あまってるんですよねー」

「これ以上マサキ様にご迷惑は――」

「いいからマサキに甘えときなさいよ。小さい妹さんのことを考えれば、答えなんてひとつじゃない。ま、まぁ、あたしも一緒に住むんだけどね」

「マサキ様、ぜひ住み込みで働かせてください! このキエル、マサキ様のために尽くさせていただきます!」

「ソシエも姉さまと一緒にマサキさまに尽くしますっ!」

「つ、尽くすって――あなたたちは住むだけでいいのよ!」

「いいえ。エルフの掟ですから」

「ですからっ」

「ウソよ! そんなのぜったいにウソ!!」

「本当です!」

「ですっ!」

「お兄ちゃーん! リリアもいっしょにすむのー!!」


 仲間たちとの騒がしい宴は、このまま朝まで続きそうな勢いだ。


「お兄ちゃん、リリアもすんでいいでしょ?」

「ははは、ムロンさんがいいって言ったらねー」

「えー。リリアお兄ちゃんのお嫁さんになるから、おとーさんはかんけーないのっ」

「……マサキ、ちょいと表へ出ねぇか? 外の空気を吸いによ……」

「む、ムロンさん、それ……地獄の空気の間違いじゃ?」

「がはははは! 地獄なもんか。…………天国だよ」

「おうしっと」


 異世界にこれてよかった。

 俺のまわりにこんなにも楽しい仲間たちがいてくれて、本当によかった。


「おにいちゃーん!」

「もうっ、マサキもなにか言ってやってよ!」

「マサキ様、いいですよね?」

「ですよねっ?」

「そーらマサキ、表へいくぞー」


 俺は5人にぐいぐいと引っぱられながらエールを飲み干し、そろそろ記憶をなくそうと決意するのだった。

 賑やかな喧騒に、身をゆだねながら。 

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