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第39話 震える山 後編

『キュルルルルルルオッ!!』


 グリフォンがこっちに向かってまっすぐ飛んできた。

 目がすげー血走っているから興奮状態なのは明らかだ。

 なんか今すぐにでも襲いかかってきそうな雰囲気だぞ。


「マサキ!?」

「ロザミィさん走って! 俺は大丈夫だから! それとみんなは準備をお願いします!」

「わ、わかったわ!」

「マサキ、無茶すんじゃねぇぞ!」


 みんなが隠れるよう移動していき、決めていた配置につく。

 ちょっと予定がくるっちゃったけど、フランさんの丸薬のおかげでグリフォンをおびき寄せることはできたんだ。

 あとは俺がグリフォンを引きつけられるかにかかっている。

 ぶっちゃけまだ心の準備ができてないけど、ここは意識を切りかえないとな。


『キュルルッ! キュルルルオォッ!!』


 グリフォンが俺を中心に上空で旋回をはじめた。

 隠れたみんなは無視して俺に狙いを定めたみたいだな。


「いいよ。かかってきなよグリフォン。俺と一緒に遊ぼうぜ!! ブースト(肉体強化)発動!!」

『キュルルルルルオッ!!』


 俺が自分に肉体強化の魔法をかけるのとグリフォンが急降下してくるのは同時だった。


「しゅわっち!」


 鋭い爪が迫る。

 俺は地面を蹴りギリッギリのタイミングで鋭い爪から逃れる。

 十分な距離をとってからグリフォンを見れば、いったん上昇してからまた急降下してくるところだった。


「よっ! ほっ! はあっ! ほわちゃーっ!!」

『キュルルルルルッ!!』


 しばらくの間鬼ごっこが続いた。

 捕まった瞬間に爪で引き裂かれるという鬼畜ゲーで、もちろん鬼はグリフォンだ。


『キュルルッ! キュルルッ! キュルルルルルッ!!』


 俺を捕まえらないからか、グリフォンがイライラしてきたのがわかった。


『キュルルオォッ!!』


 グリフォンが上空でその翼を大きく広げる。


「気をつけろマサキ! フェザーバレットがくるぞ!」


 ゲーツさんが隠れている木から顔をだして警告するやいなや、


『キュルルルルルルルッ!!』


 ものっすごい数のフェザーバレットが俺に向かって撃ちだされた。

 ちょっとひと羽ひと羽(一発一発)の間隔が狭すぎてかわすのはムリそうだ。


「くっ、よけるのはムリか。なら――」


 俺は地面に手をついて呪文を唱える。


「ストーンウォール!!」


 地面から石の壁がせりあがりフェザーバレットを防ぐ。


『キュルル!?』


 どうだっ?

 この日のために練習しておいたんだからなっ。

 貫通されたらどうしようとかちょっとビビってたけど、なんとか防ぎきることができたぞ。

 フェザーバレットが防がれたグリフォンは悔しそうに鳴いたあと、再び急降下アタックを再開してきた。


『キュルルルルルルルッ!!』

「くぬうっ!!」


 もう何度目になるかわからない急降下。

 毎回ギリッギリのタイミングでかわしていく。

 それもすべて、グリフォンが諦めてどっかにいかないようにするため。

 だからこそ俺は捕まえられそうで捕まえられない絶妙な距離を保ち続けていたのだ。


 手をのばせば届きそう。でも届かない。

 そんな恋心みたいな関係を俺はグリフォンと築きはじめていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 集中力の限界が近い。

 体力に余裕があっても気力が大きく削られている。

 でも――


『キュルルルッ!!』

「――くっ、はぁっ!」


 あと少しだ。

 あと少しでグリフォンを例のポイント(・・・・・・)まで誘いこめる。


 俺はグリフォンの攻撃をよけながらちょっとずつ山へと移動していた。

 グリフォンも空から俺を追っている。


「んなっ!?」


 俺はぬかるんだ地面に足をとられてすっころんでしまった。

 斜面だからなかなか起きあがれない。

 当然グリフォンはそんな決定的な隙を見逃すほど生易しいモンスターではない。


『キュルオォォォッ!!』


 歓喜の鳴き声をあげながらグリフォンが向かってきた。

 俺を引き裂こうと足の爪がひらかれる。

 瞬間――


『キュガッ!?』


 グリフォンは俺まであと僅かというところで、何かにひっかかったかのように動きをとめた。


『キュル!? キュルルゥァッ!?』

「……無駄だよグリフォン。お前の力じゃ中島の結界は破れない。なんせ、対紅カブト用につくられたネットなんだからね」


 グリフォンの動きをとめたもの。

 それは中島が町工場に特注でつくってもらった対紅カブト用決戦兵器。

 極細のワイヤーで編み込まれた防獣ネットで、しかも目視しにくいように非反射処理までされてる優れもの。

 俺はその防獣ネットをみんなと一緒にこの場所ポイントに仕掛けておいたのだ。


 グリフォンの力でも折れそうにない大木にワイヤーで固定した防獣ネットだ。

 夕暮れ時の、それも木々が生い茂る暗い山の中でこれを回避することは不可能に近い。

 自ら防獣ネットに突っ込んでいったグリフォンは極細ワイヤーに絡み取られながらも、それを振り払おうと暴れ続けている。


 中島の結界(防獣ネット)によりグリフォンの動きはとめた。

 オペレーション・NAKAZIMAは第二段階へ移行する。


「みんなっ、いまです!!」


 俺が合図をだすと、


「おうよっ!」

「がははは! 待ってたぜマサキ!!」

「マサキ、そこから離れとけよ」


 次々とメンズたちから返事がかえってきた。

 ゴドジさんが大きな壺をふりかぶって叫ぶ。


「まずはおれからいくぜぇぇぇ! どおりゃぁぁぁっ!!」


 さすがゴドジさんだ。

 ボボサップなフィジカルでもって、ひと抱えもあるほどの壺をグリフォン目がけて投げつけたぞ。

 グリフォンに命中した壺が割れ、なかにはいっていた液体がグリフォンの翼を濡らしていく。


『キュルッ!?』


 グリフォンが驚くのがわかった。

 壺のなかにはいっていたのは車用のエンジンオイル。

 それもとびっきり粘度が高いヤツを選んでおいた。


「やるじゃねぇかでけえの。オレも負けてらんねぇな、っとぉ!!」


 ゴドジさんに続いてムロンさんもエンジンオイル入りの壺をぶん投げる。

 ムロンさんが投げたあとにゲーツさんも。

 的であるグリフォンが動かないから、あてるのはすげー簡単だった。


『キュルルル! キュルル!?』


 壺は次々と投げられ(ロザミィさんもちっちゃい壺を投げてた)、ねっとりしたエンジンオイルがグリフォンの全身を濡らしていく。

 あんなにヌルヌルになればもう飛べないだろうし、フェザーバレットだって撃てなくなっている可能性が高い。


 グリフォンの特性である飛行能力と、恐るべき攻撃であるフェザーバレット。

 このふたつを同時に封じた形だ。

 いまはもう、ただのぬるぬるしたおっきなモンスターでしかない。


 グリフォンがどんなに暴れても墨田区が誇る町工場特製の防獣ネットはビクともしない。

 どちらかというと防獣ネットを固定している大木がミシミシと悲鳴をあげているぐらいだ。

 このままぬるぬるグリフォンが暴れ続ければ、木が折れてしまうかもしれないな。

 グリフォンがここまで粘るなんて、ちょっと驚いた。


「ま、マサキ、まだグリフォンが暴れてるわよ? どうするの?」


 ぬるぬるになっても挫けないグリフォンを見て、ロザミィさんが不安そうに言う。


「活きがいいですよねー。仕方がない。最終フェーズに移りますか」


 オペレーション・NAKAZIMAの最終段階。

 それは動けなくなったグリフォンを殴って昏倒させるのだ。


「はぁぁぁぁぁッ!!」


 体内のオーラを爆発させ両腕に意識を向ける。オーラの集まった両腕が光りを放ちはじめる。

 俺のアーツ(闘技)はオーガに届かなかった。それなのにグリフォンに通用するだろうか……?

 そう思っていると、


「マサキ、相手はあのグリフォンだ。おれのオーラも重ねてやる」


 後ろに立ったゲーツさんが俺の背中に手を押し当て、自分のオーラを送り込んできた。

 両腕の輝きが増す。


「ゲーツだけじゃ足りねェだろうな。オレのも乗せてやるよ。一発で眠らせてやんだぞマサキ」

「兄貴!」


 ムロンさんも俺の背中に手を押し当てオーラを送り込んできてくれた。

 両腕がさらに輝きを増し、手のひらの先に眩い光の球が生まれる。


 光の球はどんどん大きくなっていく。

 この光球には、俺ひとりのオーラでは決して生み出せないほどのエネルギー()が込められているんだ。

 これなら――三人のオーラをひとつに重ねたこの光球ならグリフォンの意識をも奪えるはずだ。


「いまだマサキ!!」

「やっちまいなマサキ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! いくぞグリフォン! 俺たち三人の想いをこめた一撃を受けてみるがいい!」


 右後方にゲーツさん。左後方にムロンさん。

 オーラの輝きは三人を包み込み黄金色に輝く。

 俺は後ろからオーラを送り込んでくれるふたりの声を受け、吠えた。


「マサキ・エクスクラメーション‼︎」


 俺は片膝を着いた姿勢で光球をグリフォンの頭部目がけて撃ち出す。

 直径2メートルほどにまでなった光球はグリフォンの頭部に命中し、


『―――――ッ!?』


 易々とその意識を刈り取るのだった。

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