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第38話 震える山 前編

 森に着き、様々な状況を想定したうえでちょっとした山みたいな場所を選んだ俺たちは、さっそく準備に取りかかった。

 錦糸町で買いそろえたものをみんなであーでもないこーでもないとか言いながら配置する。

 全ての準備を終えるころには、もうだいぶ日が傾いていた。


「ふいー、さすがに疲れましたね」


 俺は汗をぬぐい、隣のロザミィさんに話しかける。


「そうね」


 ロザミィさんもお疲れの様子。

 俺が貸してあげたTシャツが汗でグッショリだ。

 これがいつものローブ姿だったら、熱がこもってえらいことになってただろうな。

 脱水症状をおこしていてもおかしくない。


「マサキさんよ、こっちの準備も終わったぜ」


 そう言ってきたゴドジさんなんか上半身裸になっていて、ボボサップな胸板に生い茂る勇ましい胸毛が汗に濡れてしっとりしているぞ。

 できれば近づきたくない。


「ありがとうございます。いやー、俺ひとりでこれを準備してたら大変なことになってましたよー」

「がははは! 違ねぇ!」


 ムロンさんが豪快に笑い、俺の背中をバシバシ叩いてくる。


「そんじゃー、そろそろひと休みしましょうか?」


 俺がそう提案すると、全員が待ってましたとばかりに頷いた。

 何時間もぶっ通しで作業してたから、みんなへとへとだったみたいだ。

 俺たちは火を起こして食事をとることにした。


「いやー、相変わらずイザベラさんのお弁当はおいしいですねー」

「当ったり前だぜマサキ。イザベラの料理はズェーダで一番なんだからな」

「いいなー。俺にもこんなおいしいお弁当をつくってくれるひとがいれば……あれ? 大丈夫ですかロザミィさん?」


 隣のロザミィさんが激しくむせていたので背中をさすってあげる。

 イザベラさんのお弁当が美味しすぎて、ついがっつきすぎてしまったのかも知れないな。


「あ、ありがとう」

「いえいえ」


 そんな俺とロザミィさんのやり取りを見て、ゲーツさんとゴドジさん互いに顔を見合わせては肩をすくめていた。

 お弁当をたいらげ、食休み。お腹が満たされたからか、一気に眠気がやってきた。

 ゴドジさんもゲーツさんも地面に寝っ転がっている。


「ロザミィさんも横になっていいんですよ?」


 俺が隣のロザミィさんにそう提案すると、


「いやよ。そんなことしたら……ま、マサキから借りたこの服が汚れちゃうじゃないの」


 と言ってTシャツをひとつまみ。


「別に気にしなくていいんですよ? その服は作業用に汚れてもいいの持ってきたんですから」

「それでも! それでも汚したくないの!」


 ロザミィさんたら、リリアちゃんみたくほっぺを膨らませてそっぽを向いてしまったぞ。

 そんなにこのTシャツのデザインが気に入ったのかな?


 前面に『魚心』、後ろに『水心』と漢字でプリントされた、ネタのつもりで買ったTシャツをここまで気に入ってもらえるなんて……ある意味感動だ。


「ありがとうございます。俺の服を大事にしてくれて」

「……う、うん」

「じゃー、これを敷くんで一緒に横になりましょうか?」


 俺はそう言って、リュックからレジャーシートを取りだして広げる。

 畳2畳分はあるレジャーシートだから、ふたりで寝っ転がるにはちょうどいいサイズだ。

 しかも地面には草がボーボーだからクッション性まであるぞ。


「ひゃっほい!」


 俺は広げたレジャーシートにダイブし、隣のスペースを手でポンポン叩く。


「ささ、ロザミィさんも横になりましょ。疲れが取れますよ」

「え……? あ…………うん」

「さあさ、ゴロンとなってください。シートの下に草が生えてるから痛くないですよ」

「……うん。その、いまのあたし、あ、汗くさいから、匂いとか……かがないでよ?」

「やだなー、そんなの気にしないでいいのに。それにロザミィさんは汗くさくなんてないですよ。汗くさいのは俺です。ゴドジさんなんかもっとです!」

「聞こえてるぞマサキさんよ」

「いっけねー」


 ロザミィさんはモジモジしながらも俺の隣に寝っ転がった。

 これで少しは疲れも取れるはず。

 俺たちはみんなして横になり(ムロンさんとゲーツさんは交代であたりを警戒していた)しばしの休息をとるのだった。




 フランさんお手製の丸薬を手でもてあそんでいるゲーツさんが、俺に顔を向ける。


「マサキ、あとはこの丸薬に火をつけるだけってわけか?」

「はい」


 レジャーシートで横になったまま頷く俺。

 ちなみにいまはゴドジさんが見張りをしている。 


「まさか、こんな物をあの吟遊詩人がつくったなんてな。信じられん」

「そうなんですか?」

「ああ。モンスターを、それも特定のモンスターを呼び寄せる薬を調合できる薬師なんてなかなかいない。アイツ、かなり腕のいい薬師なんだろうよ」

「へー」

「まったく……なにが吟遊詩人だ。このおれが騙されたぜ」

「歌だけじゃ食べていけないのかもしれませんですしねー」


 日本じゃバンドマンなんて夢追い人のフリーターばっかなのが現実だしな。

 異世界こっちでも音楽だけで食べていけるひとは、意外と少ないのかもしれない。


「ふーん。そんなにスゲーのか……。ゲーツ、ちっとおれにもその丸薬見せてくれよ」


 見張りが退屈なのか、ゴドジさんも丸薬に興味を持ちはじめた。


「ああ。ほらよ」


 ゲーツさんがゴドジさんに向かって丸薬を放り投げる。


「おっとっと――」


 みんなが見守るなか、ゴドジさんは丸薬を空中でお手玉し、


「あ……」


 見事たき火のなかへと落ちていった。

 ゴドジさんが口をあんぐり開けてやっちまた顔。

 みんなはただただポカン。

 焚火からは煙がモクモクと立ちはじめる。

 やがて、数秒の静寂の後――


「「「「「あーーーーーーッ!?」」」」」


 全員が声をあげた。


「みずっ、水を――はやく消さないとっ!?」

「ゴドジのバカ! なんてことするのさっ」

「ゴドジぃてめぇ!!」

「すまねぇ。すまねぇ」


 予期せぬ出来事に俺たちはパニックに陥り、その間にも煙はモクモク天まで昇っていく。

 それはそれはもう、絶好調に。

 風でも吹いたのか、あたり一面に不思議な匂いがひろがっていく。


「水……水……ってそうだっ! ウォータースプラッシュ!」


 俺は魔法を使ってたき火ごと火を消す。

 じゅうと音が響き、もわっと煙があがる。


「間に……合った?」


 俺の問いの答えたのは、


『――――キャルオオオオオオオオ!!』


 上空から聞こえてきた、グリフォンの鳴声だった。


「やべーやべ―! やっべーぞこれはっ!!」

「マサキ、どどど、どうするのっ!? 逃げる? ねぇ逃げる?」


 ロザミィさんがしがみついてきて俺の体をガクガクと揺らす。その間にも羽ばたきの音がどんどん大きくなっていく。

 もう近くまできているみたいだ。ご近所さんだ。


「チィっ。マサキすまない。ゴドジが下手こいた」

「ゲーツの投げ方が悪ぃんだよ!」

「なんだとっ!?」


 小競り合いをはじめるゴドジさんとゲーツさん。


「お前ら落ちつけっ!」


 ムロンさんが一喝し、全員の動きがピタリととまる。


「ムロンさん……」

「ジタバタしてもムダだ。いまからやるぞ!」

「やるって……まさか?」

「ああ! グリフォンを捕まえるぞ! マサキ、合図を出せ」

「は、はい!」


 俺は大きな声で叫ぶ。


「オペレーション・NAKAZIMA、発動!!」

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