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第36話 決戦迫る! タイムリミット3日前

 ムロンさんたちと一緒にグリフォン捕獲の準備をすすめるなか、空いた時間をつかって俺はラミレス商会へと足を運んだ。


「おじゃましまーす。毎度おなじみの正樹でーす。キエルさんとソシエちゃんの面会にきましたー」


 ここにくるのももう5回目ぐらいかな?

 キエルさんたちに渡した暇つぶしアイテムの充電をするため、3日に1回のペースで来てるからもう常連さんみたいなもんだな。


「ほう。また来たのか」

「ジャマイカンさん……」


 ラミレス商会に入って早々にジャマイカンさんと出くわしてしまった。

 このひと苦手なんだよねー。


「聞いたぞ。近々グリフォンの捕獲に向かうらしいな?」

「あら、ご存知でしたか。耳が早いですね」

「フン。商人として当たり前のことだがな」

「ですよねー。いやー、さすがだなー」


 とりあえずは持ちあげておく。

 変にへそを曲げられてもめんどくさいだけだしね。


「じゃ、俺ふたりに会ってきますんで」

「クックック、思い残すことがないよう、しっかり話しておくがいい。最期になるのかもしれんのだからな」


 その場から離れる俺の背中に、嫌な言葉を投げつけてくるジャマイカさん。

 ホントこのひと性格わるいよねー。

 うちの会社にいたら、お茶に雑巾のしぼり汁いれられるタイプだな。間違いなく。


「やだなー。ちゃんと生きて帰ってきますって」

「クックック、せいぜい励めよ。私を儲けさせるためにな」

「わかってますって」


 嘲るような笑いを受け流しつつ、俺はキエルさんとソシエちゃんが軟禁されている部屋へと向かう。

 見張りのボボサップがカギを開け、俺が部屋の中にはいると、


「マサキ様!」


 すぐにキエルさんとソシエちゃんが駆け寄ってきた。

 なんども面会にくるうちに、少しは心を開いてくれたみたいだ。


「ふたりとも大丈夫? 嫌なことされてない?」

「ええ。わたしもソシエも平気ですよ。ねぇ、ソシエ?」

「はい。姉さまもソシエも元気です。マサキさまのおかげです」

「そっかー。よかったー」


 俺はほっと胸をなでおろす。

 契約書に書いてもらってはいたけど、あのジャマイカンさんのことだ。

 約束を守ってくれてるか毎回不安になっちゃうんだよね。

 変なことされてないかーとか、ぶたれてないかーとか。


「マサキさま、ソシエ、『げーむ』うまくなったんですよ。見てください!」

「んー。どれどれ」


 ソシエちゃんがタブレットPCにいれてたゲーム、『ブツブツ』をプレイして見せてきた。

 ブツブツは千葉の人気テーマパークのキャラクターたちが出てくるパズルゲームで、ちびっ子から大人まで幅広く人気がある。


「みてください! ソシエいっぱい消せるんです!」

「おー! すごいねー」


 タブレットPCの画面に指を滑らせ、楽しそうにゲームするソシエちゃん。

 そんなソシエちゃんを、キエルさんは優しさを湛えた瞳で見守っていた。

 しばらくの間、ブツブツのゲーム音だけが部屋に響く。


「そろそろ充電――じゃなくて、魔力を補充しようか?」

「はい。お願いします」


 ゲーム用のタブレットPCと、音楽を聴くように渡していたボイスレコーダーの両方に充電器を繋ぎ、バッテリーをチャージする。


「しばらくはこのままにしててくださいね」

「はい。わかりました」

「ソシエもわかりました」


 もう何回もやってるから、ふたりとも慣れたもの。

 最近じゃ電池残量の見方まで理解しちゃってるみたいだし。

 初老に両足つっこんでるマイマザーより、よっぽどタブレットPCを使えているぞ。


 充電にはそれなりに時間がかかる。

 俺は真剣な顔をして、ふたりに向き合った。


「キエルさん、それにソシエちゃんも、」

「はい」

「なんでしょうマサキさま?」


 ふたりが俺をまっすぐに見つめ返してくる。

 そんなふたりの視線を受け止めながら、俺はゆっくりと話し出した。


「俺、明日グリフォンを捕まえにいきます。絶対に捕まえてきますから……だから、もうちょっとだけ辛抱しててください」

「マサキ様……」


 キエルさんの表情が曇る。

 なにを言ったらいいかわからないって顔だ。

 俺に任せっぱなしで心苦しいって、前にもいってたからなー。

 

「そんな顔しないでくださいよ。大丈夫ですって。俺、こー見えてもけっこー強いんですから」


 俺はふたりの不安を取りのぞけるよう、おどけたように言う。

 そんな俺の手を、ソシエちゃんが握ってきて自分のおでこにあてる。

 まるで、祈るかのように。


「ソシエは……ソシエはマサキさまのお帰りをまっております」

「うん。待っててねソシエちゃん。俺、絶対に帰ってくるからさ」

「はい。お待ちしてます!」

「わたしも……わたしもマサキさんを待ってます。ですから……必ず帰ってくるって約束してください」


 ふたりとも、不安で不安でしかたがないんだろうな。

 こんな見ず知らずのおっさんに自分の人生を預けなきゃいけないんだもんね。

 そりゃ不安にもなるよ。


「ええ。もちろんですよ。約束します! ……じゃあ、もういきますね。ふたりもあと少しだけがんばってください」

「はい」

「はい!」


 ふたりは同時に返事をし、俺を見送ってくれた。

 美人なエルフ姉妹に応援されちゃうとか、異世界冥利に尽きるよね。

 よーし。おっさんちょっくらがんばってきちゃうよ。





 ラミレス商会をでた俺は、次に冒険者ギルドへと足を運んだ。

 もちろん、フランさんからグリフォンを誘いだすお薬をちょうだいするためだ。


「やあやあ、お兄さん。待ってたよー」


 先にきて待っていたフランさんが、ひらひらと手をふってくる。


「お待たせしちゃいました?」

「ううん。ボクもさっききたとこだよー」

「おー、ならよかったです」


 そんなカップルみたいな会話をしながらイスに座り、フランさんと向き合う。

 すると、さっそくフランさんが革袋を俺に手わたしてきた。


「はい。約束してたやつ」

「ありがとうございます。けっこー大きいんですね」

「まーねー。ボクはりきってつくっちゃったから、大きくなっちゃったんだ」

「中を見ても?」

「いーよー」


 いちおー確認してから革袋をあけると、なかには大きな泥ダンゴみたいなのが3つはいっていた。


「これが……」

「うん。グリフォンをおびき寄せる丸薬だよ。使いかたはね、火をつけるだけでいーんだ」

「火をつければいいんですか?」

「そう。煙の匂いがグリフォンを誘うの。でも気をつけてね。ちょっときょーぼーになってると思うから」

「わーお。凶暴ですか?」

「うん。きょーぼー。なんかねー、その煙を嗅ぐとグリフォンはえっちな気分になっちゃうんだって。ママがいってた」

「ほうほう」


 その煙の匂いを嗅いじゃうと、グリフォンが発情しちゃうってことか。

 うーむ。確かに凶暴そうだな。

 でも、その分グリフォンを目的の場所に誘導しやすいかもしれないな。


「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

「がんばってねー。ボクも応援してるから」

「がんばりますよ。がんばって俺をフランさんの歌う歌の主人公にしてもらうんですから」


 そう小粋なジョークを飛ばしつつ、イスから立ちあがる。


「えー。もういっちゃうの? もっとお話しよーよー」

「すみません。もうあまり時間もないので。そのかわり、帰ってきたらまたお話ししましょう!」

「いいねー。約束だよー?」

「もちろん!」


 俺はそういって席を離れ、別れ際に「ばいちー」と言って手をふると、フランさんも嬉しそうに、


「ばいちー」


 と手をふってくれた。

 これで……オペレーション・NAKAZIMAに必要な全てのものが揃った。





 家に戻ると、ちょうどムロンさんたちも準備を終えたところだった。

 レンタルした荷馬車にはオペレーション・NAKAZIMAで使うものが山と積まれ、各自装備も整っている。


「お待たせしました!」

「待ってたぞマサキ。準備はいいな?」

「はい!」


 俺はムロンさんにそう返し、荷馬車に乗り込む。

 荷馬車の中では、すでにハウンドドッグのお三方が待っていた。


「マサキ、遅いわよ」

「いやー、すみません」

「へっへっへ。マサキさんよ、ロザミィがいろいろと心配してたぜ」

「ん? なにをです?」

「ば、バカ! よけいなこと言わなくていいのよっ」

「おおっと、そうだったな。わりーわりー」

「おしゃべりはそこまでにしとけ。マサキ、はやく座れ。兄貴が出発できないだろ」

「はい」


 ゲーツさんに急かされ、俺はロザミィさんの隣に座る。

 荷馬車は3頭立ての幌つきで、かなり大きい。

 しかも所々金属で補強してあって、防御力も期待できそうだ。

 ムロンさんったら、さてはけっこームリして借りてくれたな?


「よし! いくぞ!」


 御者台に座るムロンさんが馬に鞭をいれ、馬車が進みだす。

 グリフォンの待つ、森を目指して。


「待ってろよ、グリフォン」


 期日まで、残すところあと3日。

 時間は、それほど残されていなかった。

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