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第35話 ハウンドドッグ戦場へ帰る

 ムロンさんが荷馬車の手配を約束してくれた。

 街からでれないせいで、いまズェーダには荷馬車があまりまくりらしく、かなりお安く借りれたそうだ。

 もちろん、壊しちゃったときは修理費を持たないとだけど。


「ところでマサキよ、いったい荷馬車でなにを運ぶつもりなんだ?」


 のどかな午後の昼さがり。

 今日1日仕事がお休みなムロンさんがそう訊いてきた。


「おれも興味があるな」


 と言ったのはゲーツさん。

 いまムロンさんのお家には、猟犬ハウンドドッグのみなさまが集まっていた。

 たぶんやることがなくてヒマすぎるから、遊びにきてるんだと思う。


 ムロンさんのお家にこのメンツが揃うのは、オークキングを倒したとき以来かな。

 みんないるもんだから、リリアちゃんが楽しそうなこと楽しそうなこと。

 もっとも、俺の首に手をまわしてずっとぶら下がっているんだけなんだけどね。


「ふっふっふ。知りたいですか?」


 フランさんからグリフォンを誘いだすお薬も発注済み。


「マサキさんよ、馬車まで用意するってーことはだ、なにか手でも考えついたのか?」

「バカだねゴドジ。マサキはあなたと違って考えなしじゃないのよ。グリフォンを捕まえる算段がついたにきまってるじゃない」


 ゴドジさんの脇腹にロザミィさんが肘をいれる。

 けっこーえぐい角度だったけど、ゴドジさんは平気な顔をしていた。


「それで、どうなのマサキ?」


 みなを代表するかたちで、改めてロザミィさんが訊いてくる。

 俺は自信まんまんな顔で、得意げに説明をはじた。

 オペレーション・NAKAZIMAについて……。


「……――といった感じです。これならグリフォンもチョロイモンですよ」


 説明を終え反応が返ってくるまで、けっこーな時間があった。


「マサキ……ひとついいか?」


 と訊いてきたのはムロンさん。

 いつになく真剣な顔をしている。


「はい。なんですか?」

「お前、いったいどうやってそんなにも多くのアイテムを用意したんだ?」


 うーむ。答えにくいことをズバッと訊いてくるなー。

 まさか、「墨田区の町工場とホームセンターです!」なんて言えるわけないし……。


 俺が答えに詰まったのを察したのか、背中にひっついてるリリアちゃんが代わりに答える。


「お父さん、お兄ちゃんにだってひみつはあるんだよ!」


 なんのフォローにもなってないよリリアちゃん。

 だってムロンさんったら怪訝な顔しちゃったし。

 でも、ありがとね。


「リリア、これはな――」

「ムロンの旦那、マサキだってズェーダじゃ名が売れてきた冒険者なのよ。個人的なツテがあっても不思議じゃないわ」


 こんどはロザミィさん。

 したり顔でそう言ってくれてるけど、きっとリリアちゃんもロザミィさんも俺が錦糸町で準備してたことに気づいてるんだろうな。


「それはまぁ……そうだがよぉ」

「ムロンの旦那、それよりも重要なのは――」


 ムロンさんがぼやくのを制して、ロザミィさんの話は続く。


「マサキの作戦通りことがすすめば、ホントにグリフォンを捕まえられるかもしれない、ってことじゃないかしら?」

「ぬう……」


 ロザミィさんの言葉にムロンさんが黙り込む。

 その隣では、ゲーツさんとゴドジさんもマジな顔をしていた。

 つまりは、それだけオペレーション・NAKAZIMAのクオリティが――成功率が高いってことなんだろう。


「マサキ、お前の話はわかった」

「ゲーツさん……」

「そこでおれから頼みがある」

「頼みですか……。いったいなんです?」

「マサキの策に、おれたちハウンドドッグも参加させてくれ」


 おいおい、ゲーツさんの口からびっくりな言葉がとび出てきたぞ。


「げ、ゲーツさん? 本気ですか?」

「マサキ、お前の考えた作戦ならグリフォンを捕まえられる可能性が高い」


 ホントは考えたの中島なんですけどね。


「え、ええ。俺は捕まえる気まんまんですけど……でも――」

「まあ聞け。パーティーリーダーとしてリスクが高いことはできない。だがな、この作戦ならリスクはそれほど高くない気がするんだ。そして勝算が高いのなら、おれはこの作戦にのってみたい」


 ゲーツさんの顔は真剣そのもの。

 かなりの本気度が伝わってくる。


「へっへ、ゲーツがこう言ってんだ。マサキさん、おれたちも参加させてくれよ」

「ちょっ、ゴドジさんまで」

「そうよマサキ。それにこの作戦なら人数が多い方がより成功率があがるわ。ね、そうでしょ?」

「それは……そうですけど。でもいいんですか? だって……報酬のほとんどはラミレス商会にもってかれちゃうんですよ?」


 俺の質問に、ゲーツさんはわかってるとばかりに頷く。


「別にかまわない。それよりもグリフォンを捕まえたことで手に入る名声の方がおれはほしい」

「名声……ですか?」

「ああ。危険なモンスターであるグリフォンを捕まえたともなれば、ズェーダだけじゃなく、この国中にハウンドドッグの名が広く知れ渡るだろうな。そして――」

「名が売れれば、それだけ腕を高く買ってもらえるってわけよ」


 ゲーツさんの言葉をロザミィさんが継いで、きれいに締めた。

 なるほど。名声ですか。

 冒険者にとって名を売ることは確かに重要なことだ。

 名前が売れてれば、割り増しで依頼を受けれるみたいだしね。


「俺としては手伝ってくれると……その、すごく助かります。けど……」

「フッ、なら決まりだな。グリフォン捕獲作戦におれたちハウンドドッグも参加させてもらうぜ」


 ゲーツさんが右こぶしを突き出して、クールな笑みを浮かべる。

 俺はそのこぶしに自分のこぶしをゴチンとぶつけ、


「ありがとうございます!」


 と礼をいった。

 オペレーション・NAKAZIMAはひとり増えるだけで成功率が格段にあがる。

 それが一気に3人も増えるだなんて……正直、かなり助かるぞ。


「やれやれ、なら仕方ねぇな」


 そんな俺たちを見たムロンさんは、深いため息をはいてから顔をあげた。


「ならオレも参加させてもらうぜ」

「兄貴!」

「ムロンさん!」


 俺とゲーツさんが同時にムロンさんを見る。

 ムロンさんは恥ずかしそうに頬をポリポリしながら、


「ひよっこばっかじゃ危なっかしいからなぁ」


 と言って笑った。


「わーい! じゃあリリアもお兄ちゃんと一緒にいくー!」


「「ダメだ(よ)!」」


 ムロンさんと俺の声が重なった瞬間だった。


 リリアちゃんは置いてきた。

 冒険者はそう言ってのけるぐらいのシビアさも必要なのだ。

 頭部が不毛地帯になってる三つ目の武道家のようにね。


 このあと、俺たちはオペレーション・NAKAZIMAの役割分担を決めてから、準備にとりかかるのだった。

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