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第32話 雨の再会…フォーリング・中島 前篇

 翌日。

 錦糸町から異世界こっちに転移すると、ロザミィさんが家のソファに座っていた。

 どうやら俺が転移してくるのをずっと待っていたみたいだ。

 なにやら思いつめたような顔をしている。


「マサキ……待ってたよ」

「ロザミィさん」

「ねえマサキ。ホントに……ホントにグリフォンを捕まえられると思っているの?」

「ははは……。そこはまだなんとも。昨日からいろいろと調べたり考えたりしてんですけど、いまいちいい考えが浮かばなくて……」


 俺は力なく笑い、ポリポリ頭をかく。


「もし何も思い浮かばなかったらさ、その……どうするつもりなの? あのエルフのことは諦める?」

「いいえ。もし期日までにおカネを用意できなかったときは最後の手段(・・・・・)にでるつもりです」

「え……? 『最後の手段』……?」

「はい。最後の手段。それは――」


 小首を傾げるロザミィさんに向かって、俺は邪悪な笑みを浮かべる。


「あの姉妹ふたりを連れて錦糸町に逃げます! そしてほどぼりが冷めたころにこっそり戻ってきて、どこか遠くへ連れだしますよ」

「それって誘拐じゃ……」

「ええ。そうなりますね。だからこの最後の手段を選んだ場合、俺はこの街に……いいや。たぶんこの国にいれなくなると思います」


 俺が犯人だってバレバレだろうからね。


「マサキ……」

「ヤダなー。そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。これはあくまでも最後の手段ですから。グリフォンを捕まえる作戦が思いつかなかったとき残された、ほんとーに最後の手です。まあ、それ以外にも手はうってあるんですけど、そっちは賭けみたいなものなのであまり期待はしていません」

「あたしは……あたしはマサキがどっかいっちゃうなんてヤダ。……ヤダよ」


 ロザミィさんが俯いて肩を震わせる。

 うーん。こんなに寂しがってもらえるなんて嬉しいな。

 日本あっちじゃメールなり電話なりSNSがあるから、遠く離れていてもそれほど寂しく感じないもんなー。


 親友である中島と4年は会ってないけど、ぜんぜん寂しくないからね。

 まー、これが彼女とかだったらまた違ってくるのかもしれないけどね。

 俺にはいないんだからわからない。


「確かにみんなに……リリアちゃんやムロンさんにイザベラさん。ゲーツさんとゴドジさん。それに……ロザミィさん。みんなに会えなくなるのは寂しいです。だってこっち(異世界)で知りあえた大切なひとたちですからね」

「…………」


 ロザミィさんは黙ったまま。


「それでも、こんな俺でも助けられるひとがいるんなら、なんとかしてあげたいんです」

「なら……しも……く」

「え? いまなんていいました?」

「あたしもマサキについてく。マサキがズェーダを離れるならあたしもついてく!」

「いやっ、そんな――」

「ダメよ。もう決めたんだから」


 そう断言して笑うロザミィさんは、とってもきれいだった。

 ロザミィさんはこう見えて意志が固い。

 リリアちゃんも頑固だけど、ロザミィさんも負けてないのだ。


「いやー、ははは……。こりゃまいったな」

「それに逃げるにしてもマサキはこの国の地理がわからないでしょ? なら案内できるひとが必要じゃない。誘拐犯に手を貸してくれる酔狂なヤツなんてきっとあたしぐらいよ」

「……うーむ。確かに」

「ね? だから逃げるときは一緒だよ」


 ロザミィさんのいう通り、俺にはどこに逃げていけばいいのか知識がない。

 散々逃げ回ったけどけっきょく捕まっちゃいましたなんて、笑えもしないからなー。


「うーむ……」

「ふふん。どーするのさマサキ?」

「むうーーーーーー……」


 腕を組み、さんざん考えてでた答えは、


「……わかりました。逃げる時はぜひご同行願います」


 だった。

 俺がそういった瞬間、ぱーっとロザミィさんの笑顔が花開く。


「ふっふーん。きーまりっ。いーいマサキ、約束だからね。あたしも一緒だからね」

「はい。一緒に手に手をとりあって逃避行しましょう」

「なっ!? てて、手をって……もう、バカぁ」


 なぜかさらっとディスられてしまったけど、最後の手段を使う時はロザミィさんにもご同行願うことになってしまった。

 まー、最後の手段はほんとーにどうしようもなくなったときのためだ。

 手がある、ってだけで心に余裕が生まれるしね。


 でもみんなと別れるのは俺だっていやだ。

 そのためにはなんとしてもグリフォンを捕まえてみせるぞ。





 それからの俺はネットの海を泳いでいろいろとグリフォン捕獲大作戦を考えたけど、これだ! といった手ごたえを得られぬまま数日を過ごしていた。


「やっべーなー」


 錦糸町の自宅のパソコンの前でそう呟き、イスに座ったまま意味もなくくるくる回る。

 スマホがアヒルの鳴声で着信を告げたのはそんなときだった。


 時刻は夜の9時半。

 こんなど平日の中途半端な時間に電話をかけてくるなんて、いったい誰だ?

 そんなことを思いながらスマホの画面を見る。


 すると、そこには――


「中島?」


 俺の親友の名が画面に表示されていた。

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