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第31話 命の値段

「マサキ、あなたなに考えてるのよっ!?」

「ははは……お、落ちついてロザミィさ――」

「これが落ちついてられるわけないでしょー!!!」


 レミレス商会を出た俺たちは、いったん冒険者ギルドへと戻ることにした。

 そしてカフェスペースのイスに腰をおろしたとたん、急にロザミィさんが俺につめ寄ってきたのだ。


「グリフォンなのよ、グリフォン! わかってるの!?」

「わか、わかってま――」

「わかってない! マサキはぜんっぜんわかってない!」


 ブオンブオンと髪をふり乱して、ロザミィさんが首を横に振る。

 隣にいるもんだから髪がぱしぱし俺の顔にあたってます。

 あと、さっきから俺の言葉に8割がた被ってます。


「ちったぁ落ちつけロザミィ」

「ゴドジ……」

「な? いいからよ。まずは座って話そうじゃねーか」

「……わかったわよ」


 ゴドジさんに諭され、ロザミィさんが隣のイスに座る。

 その唇はとんがったまま。


 ロザミィさんはグリフォンの捕獲に大反対みたいだ。

 それもこれも、俺のことを心配してくれているからだろうけどね。


「そんでマサキさん、あんた本気でグリフォンをとっ捕まえるつもりなのか?」


 ロザミィさんが落ちつくのを待ってから、ゴドジさんがそう質問してくる。

 その隣では、ゲーツさんも俺の答えを待っているみたいだ。


「いやー。なんというか…………はい。全力で捕まえる所存です」


 俺がそう答えた瞬間、


「「「「はぁ~……」」」」


 4人がまったく同じタイミングで深いため息をついたじゃありませんか。


「やっぱり本気だったのかよ」


 ゲーツさんが呟けば、


「がはは! 本気じゃなかったらあんな大金払わねぇだろうが」


 ムロンさんが呆たように笑い、


「仕方ねぇよゲーツ。マサキさんはお人好しだからな」


 ゴドジさんがぼやく。

 ロザミィさんは黙りこんだまま、ずっとプルプル震えていた。


「マサキ、オレはお前がグリフォンを捕まえようとしてんのはわかってたぜ。あのエルフたちを助けるにはそれしか手がないからな」

「ムロンさん……」

「だがな。いったいどうやって捕まえるつもりだ? お前のことだ。なにか手があるんだろう? ん?」


 ムロンさんから向けられる期待に満ちた眼差しが痛い。

 ごめんなさい。なにも考えてません。


「ははは……。じ、実はこれから考えようかなー、なんて……」

「「「「はぁ~~……」」」」


 さっきよりも深いため息がだだ漏れですよみなさん。

 うーむ。だいぶ呆れられてしまったぞ。

 それでも一番つき合いの長いムロンさんは、すぐに顔をあげてくれた。


「グリフォンをなんとかしたいのはギルドも同じだ。じゃねぇと――」


 ムロンさんがカフェスペースを見まわし、


「ギルドのなかが飲んだくれだらけになっちまう」


 やれやれとばかりに首をふった。


 いま冒険者ギルドに併設されているカフェスペースには、お酒のはいったジョッキを持った冒険者たちであふれていた。

 それも和気あいあいと飲んでいるのではなく、みんなどんよりと暗い顔をしてはちびちびと飲んでいる。

 グリフォンのせいで街からでれないから、「やることが他にないんだよ」とはゲーツさんのお言葉。


 つまりは『飲まなきゃやってられないんだよっ』モード発動中ってことであり、ぶっちゃけやさぐれているのだ。

 俺の親友である中島が、応援していた野球チームが負けたときそんな感じだったな。


「だからなマサキ。お前がグリフォンを捕まえるってんなら、ギルドとしても協力したいんだよ。オレたちギルドの連中に手伝えることがあったら遠慮なくいってくれ」

「ありがとうございますムロンさん。じゃー、さっそくですけどひとついいですかね?」

「おう。なんだ?」

「グリフォンの生態について知りたいんですけど、資料みたいなのありますかね?」

「わかった。ちっとレコアに聞いてくる」

「お願いします」


 ムロンさんが席をたち、受付の奥へ消えていく。

 資料みつかるといいなー。


「マサキ、悪いがおれはつき合えないぞ。いいや、おれだけじゃない。ゴドジもロザミィもだ」


 真剣な顔をしたゲーツさんが言う。


「ちょっとゲーツ! 勝手に決めないでよっ」

「ダメだ。パーティリーダーとして、仲間をみすみす死ににいかせるようなことはできない」

「やってみなきゃわからないじゃないのよっ」


 立ちあがったロザミィさんが、テーブルを手のひらで叩く。

 バンと、大きな音が響いた。


「あたしはマサキを手伝うわ。たとえ……パーティを抜けることになってもね」

「ダメだ。抜けることは許さない」

「そんなの勝手よっ!」

「勝手はどっちだっ!」

「おいおいロザミィ、熱くなんなって。ほらゲーツ、お前もだっ」


 まずいぞ。

 俺のせいでハウンドドッグ(猟犬)が解散の危機だ。


「ちょっ――ちょっと待ってください! みんな落ちついて!」


 俺は慌てて立ちあがり、ハウンドドッグの間に割ってはいる。


「ロザミィさん、ありがとうございます。ロザミィさんの気持ち、俺すっげー嬉しいです」

「マサキ……」

「でもこれは俺がはじめたことです。俺がひとりではじめて、ひとりでなんとかしなきゃいけない問題なんです。ロザミィさんに……みんなに迷惑はかけれませんよ」

「でも……あたしは……」


 なおも食い下がってくるロザミィさんに、俺は安心させるよう微笑み、そっと耳打ちする。


「ロザミィさんなら俺の『とっておき』をもうしってますよね。だから大丈夫です。なんとかしますから」


 ロザミィさんは目に涙をため、


「…………ばかぁ」


 と嗚咽まじりに呟いた。

 溜めに溜めていた涙が決壊し、俺はロザミィさんが泣きやむまで背中をポンポンする。


 俺がいまいった『とっておき』とは、もちろん錦糸町へいけちゃう転移魔法のことだ。

 この魔法チートがある限り、俺の命がデンジャーになる可能性はずっと低くなる。

 なんせピンチになったら一時撤退すればいいんだしね。


 ロザミィさんが泣きやんでからゲーツさんに向きなおり、頭をさげる。


「ゲーツさん。ロザミィさんを止めてくれてありがとうございます。ゲーツさんの判断は正しいです。さすがはパーティーのリーダー的存在だなって思いました」

「……チッ。おれはリーダーとして当然の決断をしたまでだ。悪く思わないでくれ」

「もちろんですよ」


 ゲーツさんはなぜか俺と目を合わせようとしてくれない。

 グリフォンの捕獲に同行できないことを心苦しく思っているのかもしれないな。

 そんなの気にやむ必要ないのに。


「マサキさんよ、その……うまく言えねーけど……。死なないでくれよな」

「ゴドジさん……。あったりまえじゃないですか! 俺死ぬつもりなんてこれっぽっちもないんですから。それよりグリフォン捕まえたら余った金貨でパーリーしましょうね!」

「マサキさん、あんたってひとは……。へっ、こないだみたく世界一可愛いひとの歌だけは勘弁してくれよ?」


 ゴドジさんが、ニヤリと笑う。

 たぶん、俺とゴドジさんはいま同じことを考えている。


「なにいってんですかっ。世界一可愛いひとの歌を歌わずしてどーやって騒げと!?」

「酒場にいた吟遊詩人でも連れてくりゃいいじゃねーかよ。歌うまかっただろ?」

「あー、フランさんですか。彼女に世界一可愛いひとの歌を教えて歌ってもらうのもよさそうですねー」

「そこは譲らねーのかよ……」


 ゴドジさんが大げさに肩をすくめてみせる。


「はははー。残念ですけどそこは譲れませんねー」


 俺もゴドジさんも、笑うことでこの湿った雰囲気を吹きとばしたかったのだ。

 ロザミィさんとゲーツさんが元気になるなら、延々と繰り返してもいい。


「チッ……。もう捕まえた気でいやがる。まったくマサキはおかしなヤツだぜ」

「バカ。そこがマサキのいいところなのよ。どっかのリーダーと違ってね」


 ゲーツさんとロザミィさんがあきれ顔で言う。

 ふたりとも口元がちょっとだけゆるんでいるぞ。

 少しは元気になってくれたのかもしれない。


 ちょっとだけ雰囲気がよくなったそのタイミングで、受付からムロンさんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おーいマサキ。資料があったぞ。こっちきてくれ」

「あ、はい!」


 俺は3人に片手をあげてから受付へと移動する。

 そこではムロンさんとレコアさんが並んで立っていて、大きな本をカウンターに広げていた。


「マサキ、これがグリフォンの調査報告書だ」


 ムロンさんが大きな本を指さす。

 本は動物図鑑のようにグリフォンの絵が描かれていて、その端にいろいろと説明書きがされていた。


「ありがとうございます。ちょっと読んでみてもいいですかね」

「構わねぇ。持ち出しはできねぇから今のうちに頭に叩き込んでおくんだ」

「はい!」


 と返事しつつもスマホを取りだしてパシャリ。

 ページをめくってまたパシャリ。

 これでいつでも読めるぞ。


 スマホをしまって図鑑に目を落とす。


「ふむふむ。なるほどねー」


 そこにはグリフォンについていろいろと書かれていた。

 上半身が鷹で下半身が獅子の姿をしており、性質は極めて獰猛なお肉大好き肉食系モンスター、とのこと。


 つまり結論としては、


「ヤバいから手を出すな、ってことですか」


 という、身も蓋もないものだった。


「うーん。弱点とかないのかなー」

「すくなくともコレには書かれてねーな」


 ムロンさんと頭をつき合わせて「うんうん」考えを巡らせていると、横からレコアさんが遠慮がちに声をかけてきた。


「マサキさん、正直……マサキさんには危険なモンスターだと思います」

「ははは……。で、ですよねー」

「ラビアンローズ国が雇った冒険者が、問題を解決するのを待つのが賢明かと思います」


 レコアさんがそう提案してくれるけど、俺には早急に金貨2000枚を用意する必要があるんですごめんなさい。

 半月で用意するにはこれしか思いつかなかったんです。


「すみません。どーしてもおカネが必要でして……」

「命を落としてはなんの意味もありませんよ?」

「わかってます。だから死にませんよ俺は」

「……。そう言って何人も戻ってきませんでしたよ?」

「レコア、止めてやるな。これは男の戦いなんだよ。悪いヤツに捕らわれてるお姫様を救う男の、な。へっ……戦いなんだよ」

「そんなの……わたしには理解できません」

「わかる必要はねぇ。どうだマサキ? グリフォンを捕まえられそうか?」

「んー。そうですねぇ……」


 図鑑にはグリフォンの力の強さだとか、連続してどれぐらい飛べるのかが書かれている。

 個体差はあるだろうけど、十分参考にはなる。


「ちょっと考えてみます。きっとなにかいい手があるはずですから」

「おう。そうだな。マサキ、お前ならなんかいい作戦を思いつくだろうさ」

「ははは。がんばります」

「おう! がんばれ!」


 俺は図鑑を閉じ、レコアさんにお返ししてから冒険者ギルドを後にする。

 そして家に帰ってお風呂にはいりながら、どーすればグリフォンを捕まえられるのか考えるのだった。

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