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第30話 再会 後編

「これで……いいですかね?」


 俺は契約書に目を通してからサインし、金貨700枚をジャマイカンさんに支払う。


「ふむ……ああ、問題ない。これでひとまずは契約成立ということだ。あくまでも、『ひとまず』だがな」


 金貨を受け取ったジャマイカンさんが、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。


「半月以内に貴様が残りの金貨を持ってくれば、あの――」


 あごでキエルさんをさし、続ける。


「エルフも貴様の物だ。せいぜい気張るのだな」

「あはははー。が、がんばります」


 仮にもお客である(取引相手)である俺に対して「貴様」呼ばわりですか。そうですか。

 とか思いつつも、内心では胸を撫でおろしていた。


 というもの、契約書をつくるにあたっていくつかの要望をねじ込むことができたからだ。

 契約内容をざっくりとまとめると、


 その1、キエルさんとソシエちゃんが正式な手続きを経た奴隷であることを、ラミレス商会及びジャマイカンさん自身が保証すること。


 その2、ソシエちゃんを金貨500枚で俺が身請けしたこと。


 その3、キエルさんのお値段、金貨2000枚の内、内金として200枚を支払い、残りの1800枚は15日以内に支払うこと。また、15日たっても俺が残りを支払わなかった場合、内金は返却されずにぼっしゅーとされる。


 その4、支払いを終えるまでの間、キエルさんとソシエちゃんを大切に扱うこと。


 その5、俺がいつでも面会できるようにすること。


 てな感じだ。


 その1はあとから俺に罪がおっ被せられないようにするための保険だから当然として、その4とその5をねじ込むのにはかなり苦労した。

 だけど、なんとかジャマイカンさんの首を縦にふらせることに成功したぞ。


 現状、もうソシエちゃんは俺が身請けした形になってんだけど、お姉さんであるキエルさんと離れ離れになるのを嫌がったので、身請けするタイミングはふたり一緒の予定だ。

 それにソシエちゃんが一緒にいたほうが、ジャマイカンさんたちもひどいことできないだろうしね。

 ある意味、ソシエちゃんは監視役でもあるのだ。


「ジャマイカンさん、わかってるとは思いますけど……ふたりを大切に扱ってくださいよ?」

「当然だ。小さい方はすでに貴様の所有物だし、大きい方も半月間は貴様にも所有権があるからな。もっとも、1割程度でしかないがな。クックック……」

「……ご理解いただいてるなら幸いです。じゃあ、俺はグリフォンを捕獲する準備がありますので、これで失礼させてもらいますね」

「フン、ちゃんと私に利益を運んでくるのだぞ」

「はい。わかってますって」

「これで本当にグリフォンを捕獲できたのなら、我々ラミレス商会の専属冒険者として契約してやってもよいぞ。クックック、まあ、あまり期待はしていないがな」

「…………」


 俺は無言のまま立ちあがり、キエルさんとソシエちゃん、ふたりのそばへ近づく。


「キエルさん、それにソシエちゃんも。もう少しだけ待っててくださいね。俺が必ずなんとかしてみせますから」

「マサキ様……」

「そんな心配そうな顔しないでくださいよ。あ、そだ! ただ待ってるのもヒマでしょうから、これでも聴いててください」


 そう言って俺が取りだしたのは、昨日酒場で出会った吟遊詩人フランさんの歌声が録音されてるボイスレコーダー。

 俺はボイスレコーダーとヘッドホンをキエルさんに手渡し、ニッコリ笑う。


「これは……なんですか?」


 キエルさんは戸惑った顔を俺へ向けてくる。

 まあ、わけわかんないものを押しつけられたらフツーはそうなるよね。


「俺の持ってるマジックアイテム(魔道具)です。このマジックアイテムを使うと、なんと歌が聴けるんですよ。ちょっと聞いてみてください」

「あ……」


 俺はキエルさんの耳にヘッドホンをかぶせ、再生ボタンをポチっとな。


「――ッ!?」


 目を大きくして驚くキエルさん。

 その隣では、ソシエちゃんが不思議そうな顔でキエルさん……というか、ヘッドホンを見ている。


「どうです?」

「そんな……この歌は……エルフの……」

「ええ。エルフ語で歌われた歌です。聴いたことあります?」

「母が……母がよく歌っていました。ソシエの一番好きな歌です」


 キエルさんがソシエちゃんを見る。

 急に視線を向けられたソシエちゃんは、不思議そうに首を傾げていた。


「これいい歌ですよね。俺もここ最近では一番のお気に入りです。特に故郷への想いをつづったサビがいいですよねー」

「えッ!? マサキ様は……え、エルフ語がわかるのですか?」


 その質問に俺は頷き、エルフ語で答える。


『はい。エルフ語も話せます』

「――ッ!?」

『といっても、まだちょっとたどたどしいかもしれませんけどね』

『いいえ。そんなことありません!』

『よかった。よーし、じゃあいまからこのマジックアイテム(ボイスレコーダー)の使いかたを教えます。すっごく大切なことですから、しっかり憶えてくださいね?』

『は、はい』

『いいですか、まず――――――…………』


 キエルさんとソシエちゃんのふたりに、俺はボイスレコーダーの使いかたをがっつり教える。

 軟禁状態も退屈だろうから、ゲームアプリ(ネット環境がなくても動くやつ)が山ほどはいったタブレットPCも渡して、これも使いかたを教えておく。

 あとはmamazon(ママゾン)で買った大容量モバイルバッテリーを2~3日に一度交換しにくれば、電池切れを起こすこともなく使えるはずだ。

 ボイスレコーダーとタブレットPCが気になるのか、ジャマイカンさんがずっとチラチラこっちを見てたけど、とーぜん無視シカトしといた。





「といった感じです。大丈夫そうですかね?」

「はい。憶えました」


 キエルさんが頷き、


「マサキさま、ありがとーございます」


 ソシエちゃんがペコリと頭をさげる。

 未知のアイテムだってのに、ふたりはすぐに使いかたを憶えた。

 なんて優秀なんだろう。おっさんの俺より憶えるのが早いぐらいだ。


「ちょっとの間だけガマンしててください。かならず俺が迎えにきますから」

「マサキ様……どうかご無事で」


 俺はふたりを安心させるように笑ってから、最後にジャマイカンさんに向き直る。


「ジャマイカンさん、いまふたりに渡したマジックアイテムには決して触らないでくださいよ。商人であるあなたならマジックアイテムの価値をよくご存知だとは思いますけど……万が一にも壊れてたら、ちゃーんと買い取ってもらいますから」

「フン。わかっておるわ。マジックアイテムを壊されたと金貨2000枚を請求されてはたまらんからな。触れもせんよ」

「ありゃ~。バレてましたか。金貨2000枚払ってくれるならどんどん壊してくれてもよかったんですけどねー」


 俺はペロッと舌をだして頭をかく。

 これだけ念押ししておけば、ふたりに渡したボイスレコーダーとタブレットPCが壊されることはないだろう。

 ジャマイカンさんの言葉を信じるなら、お触りも一切しないっぽい。


 あとはWiFiでも飛んでたら、ネットを介していつでもふたりと連絡とれるんだけどね。

 さすがにファンタジー世界にそこまで求めてはダメか。


「それじゃー、おじゃましました。みなさん、でましょうか」


 俺の言葉にムロンさんが頷き、ロザミィさんが心配そうな顔で俺を見つめる。

 ゲーツさんとゴドジさんは、ラミレス商会をでるその瞬間までジャマイカンさんを睨みつけていた。


 慌ただしい一日だったけど、いま俺が打てるだけの手は打ったつもりだ。

 タイムリミットまで、あと15日。

 1日たりとも、ムダにはできないな。


「ふん!」


 俺は自分の頬を叩いて気合をいれると、すぐに準備に取りかかるのだった。

 グリフォンを、捕獲するための準備を。

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