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第28話 再会 前編

 翌日。

 出勤早々サボリーマンをキメた俺は、さっそく異世界へと転移していた。

 もちろん、エルフ姉妹のことが気になっていたからだ。


「キエルさんとソシエちゃん……だったよな。いったいどこにいるんだろう?」


 このズェーダの街でわからないことがあるならば、俺の選択肢はたったひとつ。

 それは、困った時のムロンさん頼み。

 俺はスーツから冒険者コーデに着がえると、すぐにギルドへと向かった。





「ムロンさーん。いますかー?」


 冒険者ギルドにはいると、ムロンさんはすぐに見つかった。

 なんてことはない。ギルドのカフェスペースで猟犬ハウンドドッグの3人とお話していたのだ。


「おう、マサキじゃねぇか。昼前からギルドにくるなんてめずらしいな。でもちょうどよかった。お前もこっちこい」


 ムロンさんが俺を手招きしてくる。

 その向かいではロザミィさんが隣のイスをぽんぽんと叩き、ここに座ってと目でうったえかけていた。


「……なにかあったんですか?」


 俺はみんなのテーブルまで歩いていき、ロザミィさんの隣に腰をおろす。

 ゲーツさんもゴドジさんも今日は軽装だ。

 どーせグリフォンのせいで街の外にでれないんだから、ガチ装備する理由がないもんね。


「さぁて……マサキもきたことだし、もっかい話しとくか」


 そう言ってムロンさんが切りだしてくる。

 

「話……ですか?」

「おう。マサキ、昨日ゲーツたちと一緒にオーガと戦っただろ?」

「え、ええ」

「その時の生き残りの商人がな、お前たちに礼を言いたいんだと」

「商人……? ああっ! あの身なりのよいおじさまのことですかっ」


 俺の脳裏に、ゴドジさんが担いでいたおじさまの姿が甦る。

 ぐったりしてたけどちゃんと意識が戻ったんだ。

 よかったー。


「お礼だなんてそんな……でも律儀なひとですねー」


 うんうん、とひとり関心していると、


「助けたのがおれたち(冒険者)だからな。あとから吹っ掛けられないように先手を打ったんだろうよ」


 ゲーツさんがひねくれたことを言うではありませんか。


 冒険者はその日暮らしのアウトローみたいなもの。

 商人みたいな真っ当なお仕事をされてるひとたちからみれば、冒険者は信頼に値しない職業なんだろうな。

 それをわかっているからこその皮肉なのだ。


「ムロンの旦那からその話を聞いてね。あたしたち、マサキがきたら一緒にいこうと思ってたとこなのよ」

「そうだったんですか……。俺、ひょっとしてみんなを待たせちゃいました?」

「んーん。ぜんぜん待ってないよ。あ、あたしたちもさっききたところだし……ね」


 ロザミィさんが大げさに手をパタパタとふる。

 どうやらナイスタイミングだったみたいだな。

 でもゲーツさんとゴドジさんは、なんでジト目でロザミィさんを見ているんだろう?

 なぞだ。


「そんじゃよ、マサキさんも来たことだし商人のとこいこうぜ。こちとらオーガと命のやりとりしたんだ。それなりの額もらわねぇとな」


 ゴドジさんがニカっと笑ってたちあがる。


「同感だ」


 それにゲーツさんも続き、


「マサキ、いこ」

「はい!」


 ロザミィさんに手をひかれて俺も席をった。


「やれやれ、そんじゃ商人のとこまで案内してやるか」

「ほへー。ムロンさんが連れてってくれるんですか?」

「気にすんな。商人が相手ならギルドの職員がいたほうがいいだろうからな」

「兄貴、分け前はやらないからな?」

「いるかバカ野郎」


 冗談を言ったゲーツさんをムロンさんが肩パンする。

 なんだかすっげー痛そうな音が聞こえた。

 ゲーツさん肩おさえてうずくまっちゃったし。


 苦悶の表情を浮かべるゲーツさんを放置プレイしたムロンさんは、


「いくぞ」


 と言って、俺たちを連れて(ゲーツさんは放置プレイ中)ギルドをあとにするのだった。





「ここだ」


 ムロンさんに連れられてきた場所は、大きな建物の前だった。

 木造づくりの3階建てで、倉庫も併設されているのか、敷地面積はかなり広い。

 忙しなくひとが出入りしていて、入口のうえには大きな看板に『ラミレス商会』と書かれていた。

 相変わらずミミズが腹筋しているような文字にしか見えないんだけど、バッチリ読めるあたりちゃんとチート能力が作用しているんだなー。


「……『ラミレス商会』? はて、どっかで聞いたような……」

「忘れちまったのかマサキ? ファスト村にきてたクソ商人が所属してるとこだよ」

「ああっ! そうだった!!」


 どうりで聞き覚えがあるはずだ。

 ラミレス商会って、俺がジャイアント・ビーの素材を売りつけたとこじゃん。

 悪徳商人のデニムさんが所属している商会の名前だ。


「ん? マサキ、どうかしたの?」


 ロザミィさんが心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。

 たぶん、思いきりひきつってたんだろうな。

 最終的に適正価格で売ったとはいえ、デニムさんとの商談は正直あまりいい思い出ではないからだ。


「いえ。大丈夫です。ちょっと嫌なこと思いだしただけなんで」

「大丈夫? ムリはしないでよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫です」


 俺はロザミィさんにニッコリ笑う。

 ロザミィさんは顔を赤くして、なぜかうつむいてしまった。

 きっと俺の笑顔が眩しすぎたせいだろう。


「ってわけだマサキ。お前たちが助けた相手はここの商人だったのさ」

「……なるほど。ムロンさんがついてきてくれた理由がわかりましたよ」


 俺とムロンさんのなかで、デニムさんの評価はかなり低い。

 そんな低評価なひとが所属してる商会だ。

 きっと、ひと癖もふた癖もあるに違いない。

 だからムロンさんは、俺たちを心配してついてきてくれたのだ。


「いいかマサキ。ここだけの話、このラミレス商会はあまりいい噂を聞かない」

「まー、デニムさんがあんな感じ(・・・・・)でしたもんね」

「そういうこった。だからあんま期待はすんなよ。マサキも、お前たちもな」


 そう言ってムロンさんが俺、ゲーツさん、ロザミィさん、ゴドジさんと、順に視線で念押しする。

 俺の生活基盤は錦糸町だから問題ないけど、ロザミィさんたちは生活かかってるからね。

 謝礼金に期待しちゃってるとこもあるだろーな。


 まー、命がけでオーガと戦ったんだ。

 期待するな、というほうがムリか。


「おし。なかにはいるぞ」

「おっす」


 ムロンさんが扉をあけ、俺たちはラミレス商会へとはいっていった。  


 建物の中に入ると正面には受付カウンターがあり、奥は商談用なのか、テーブルと椅子が数組置かれていた。

 こうしてる間にも、何人かの商人が真剣な顔をして話し込んでいる。


「冒険者ギルド職員のムロンだ。ここのなんとかって商人を助けた連中をつれてきたぜ」


 ムロンさんが受付の青年に言う。

 青年は「少々お待ちください」と言って、奥へとひっこんでいった。


 待つこと少々。

 受付の青年を伴って、昨日お助けした身なりのよいおじさまがやってきた。

 身なりのよいおじさまは、やってくるなり開口一番、


「やれやれ、やっときたか。このわたしを待たせるなんて、冒険者は時の価値というものを理解していないようだな」


 と言ってきた。

 その顔は、不機嫌さを隠そうともしていない。

 というよりは、冒険者に対する嫌悪感かな?


「ラミレス商会副代表のジャマイカンだ。昨日は世話になったようだな。ほれ、礼だ。受け取るといい」


 身なりのよいおじさま改め、ジャマイカンさんが革袋をぽいと俺に投げわたしてきた。

 不意打ち気味に投げられたもんだから、慌てて手をのばす俺。


「うわっ、おっとっと」


 革袋をおてだましつつもなんとかキャッチ。

 手に伝わる僅かな重みが、なかに硬貨がはいっていることを知らせてくる。


「そのなかに金貨が10枚はいっている。貴様たち冒険者への報酬としては破格だろう」


 金貨10枚。

 金貨1枚は50万円ぐらいの価値(俺計算)だから、500万円ぐらいか。

 500万円という金額が、命を助けた値段として正当なのか俺にはわからないけどね。


「まったく、助けにくるならもっと早くきてほしかったものだな。貴様たちが遅かったせいで多くの損失がでてしまったではないか」

「……損失?」


 俺の疑問に、ジャマイカンさんはただ一言、


「奴隷共にきまっているだろう」


 と言った。

 オーガに襲われ命を落としたひとたちのことを思いだす。

 グリフォンのせいで街からでれないから、いまも遺体は野ざらしになったままに違いない。


「損失って……。ひとがいっぱい亡くなったんですよっ!! あなた正気ですか!?」

「ハッ、なにを言うかと思えば……バカバカしい。あれらはひとではない。奴隷だ」

「……護衛もいたんじゃねぇのか? ギルドに依頼してただろ」


 ムロンさんが静かに問う。

 その言葉には怒りが見え隠れしていた。


「ああ。そういえばいたな。とんだ役立たず共だったが」

「――ッ」


 ムロンさんが鬼の形相になり、握りしめた拳がわなわなと震えている。

 必死になって堪えているんだろう。

 きっと、冒険者ギルドの職員って立場がなかったらぶっ飛ばしていたに違いない。


「さっきからなんだぁ! テメェのその態度はよぉッ!!」


 代わりに、ゴドジさんがキレた。


「おれたちはテメェの命の恩人なんだぞっ!」

「別にたのんだ憶えはないが?」

「ってんめぇ……」


 ゴドジさんの拳が握られる。

 まずい! このままボボサップパンチを放つつもりか!?


「ゴドジさん、落ち着いてください!」

「そうよゴドジ。ちょと落ち着きなさいよ」


 俺とロザミィさんがゴドジさんを必死になってなだめていると、店の奥から商会の用心棒っぽいボボサップたちが近づいてきた。

 たぶんゴドジさんの怒鳴り声に反応したんだろう。


「ジャマイカンさん。なにか問題でも?」

「問題ない。野良犬が吠えてるだけだ」

「面白れぇこと言ってくれるじゃねぇか……」


 ゴドジさんの額に血管が浮き上がる。

 激おこ状態だ。


 ラミレス商会のボボサップ(用心棒)は5人。5ボボサップだ。

 対してこっちはゴドジさんで1ボボサップ。

 ムロンさんとゲーツさんを合わせれば1.5ボボサップぐらいにはなると思うけど、それでも2.5ボボサップだ。


 5ボボサップ対2.5ボボサップ。

 クソ、こっちのが不利か。2.5ボボサップ足りない。


「よせ、ゴドジ。もめ事をおこせば兄貴に迷惑がかかる」

「そうよゴドジ。ムロンの旦那だけじゃない。ギルドにだって迷惑がいくのよ。お願いだから堪えて」

「ぐぎぎぎ……」


 悔しさから歯ぎしりするゴドジさん。

 だいたいの問題を荒事で解決するゴドジさんにとって、この状況はすげー歯がゆいんだろうな。


「わたしの用は済んだ。もう出ていきたまえ」

「ちょっと待ってください!」

「……まだなにかあるのか?」

「その、あの子たち……あのエルフの姉妹はどうなりました?」


 俺の質問を聞きいて、ジャマイカンさんはニタリとひとを不快にさせる笑みを浮かべる。


「ほう……。あのエルフのことか。おい、お前、」

「はっ」


 ジャマイカンさんが用心棒ボボサップのひとりを呼び寄せる。


「あの奴隷をここに連れてこい。抵抗するなら多少は殴ってもかまわん」

「承知しました」


 頷いてから奥へと消えるボボサップ。


「……ジャマイカンさん、あなたいま『殴る』って言いました?」


 自分の声が、怒りで震えているのがわかった。


「それがどうかしたか? わたしの商品をどう扱おうかわたしの勝手だろう」

「……女の子に手をあげるなんて、あなた男として恥ずかしくないんですか?」

「フン。商品を躾ける(・・・)のも商人の仕事でな。文句があるなら貴様が買い取ればよかろう。わたしを助けた礼に少しぐらいならまけてやるぞ? どうだ? ん? もっとも、貴様のようなランクの低そうな冒険者にエルフが買えるとは思わんがね。クックック」

「…………」


 黙り込む俺の手を、


「マサキ……」


 ロザミィさんがぎゅっと握ってくれた。

 そんな気遣いが、なぜか涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

「ジャマイカンさん、連れてきました」


 そう言い、ボボサップが鎖をひっぱる。

 首に繋がれた鎖にズルズルと引きずられるようにして、キエルとソシエさんが連れられてきた。

 お姉さんであるキエルさんの頬が赤く腫れている。

 殴られたに違いない。


「キエルさん!」

「あなたは……マサキ……さん?」


 キエルさんの瞳が、まっすぐ俺に向けられた。

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