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第27話 決着の時! 豪熱ボボサップパンチ

「生きのびたことに乾杯だっ」


 クエストの打ち上げ(?)は、ゴドジさんの皮肉気な音頭ではじまった。


「「「「かんぱーい!」」」」


 それぞれが好き勝手に注文したもんだから、テーブルに運ばれてきた料理の数がヤバイ。

 まだ厨房つくってる料理もあるから、空腹時の注文オーダーがいかに危険なのかがわかるってもんだ。

 運ばれてくる料理の数々を見てゲーツさんが軽くあきれてたからね。


「…………」


 ゲーツさんは料理を食べるでもなく、クールにお酒を飲んでいる。

 さっきからまったくしゃべらない。おこってるのかな?

 ごめんねゲーツさん。

 すべてはゲーツさんがおトイレにいってるスキに、バカみたいな量を注文したゴドジさんが8割がたいけないんです。


 むっつり顔のゲーツさん。

 そんなゲーツさんを気にもとめずに大食漢のゴドジさんは、ひとり大食い選手権を開催していた。


「うっめー。これうめぇなぁ」


 マンガみたいな骨つき肉にかぶりつくゴドジさん。

 ボボサップな肉体はそうしてつくられるんですね。

 お次は俺の隣に座るロザミィさん。


「ましゃきー、どんどんのめぇー」

「の、飲んでますって。ほらロザミィさん、もちっとはなれてください。密着しすぎですよ」

「いーやーでーすー」


 はやくもお酒がまわっているのか、ロザミィさんは俺に体を預けるようにしてしなだれかかってきていた。

 多少の抵抗は試みたものの、女の子とは思えない力で俺の右腕に自分の腕をからませている。

 可愛くても冒険者。鍛えてるんだな。


 おかげで利き腕じゃない左手で料理を口まで運ばないといけないもんだから、食べづらいったらありゃしない。

 まぁ、右腕に伝わるやわらかい感触は悪くないんだけどね。


「はぁ……」

「仲間が苦労をかけるなマサキ」

「へ……? げ、ゲーツさん、いま……いまなんて言いました?」

「苦労をかけるって……なんだよ、その顔は?」


 ゲーツさんからの労いのお言葉に、俺は思わず目をまるくしてしまった。

 普段がツンツンしているだけに、ふとした優しさが胸をうってくるのだ。


「い、いえ、なんでもありません!」

「チッ、変なヤツだぜ」

「はははー。よく言われます。それよりゲーツさん、グリフォンいつごろ捕まりますかねー」


 話題がえのため振った質問に、ゲーツさんは真面目な顔をして考え込む。


「そうだな……。ラビアンローズの出方次第だが……。どんなにはやくても半月はかかるだろうな」

「半月ですか。それはまたなんで?」

「単純に距離の問題だ。ラビアンローズから早馬をとばしても、ズェーダにつくにはそれぐらいかかる」

「なるほど。こっちにくるだけで半月ですか……。となると、準備だ捕獲だーっていれると、もっとかかりますよね?」

「ああ。倍かかってもおかしくないだろうな。そのあいだおれたち冒険者は休業中だ。チッ、わらえねーよ」


 ぐいとお酒をあおるゲーツさん。

 冒険者なのに街の外にでれないとか、稼ぐ手段がなくなるから死活問題じゃん。

 クールにふるまってはいるけど、胸中穏やかじゃないはず。


 ゲーツさんはパーティリーダー。

 今後についていろいろと考えなきゃいけない立場なんだ。 

 俺やゴドジさんみたく、お気楽にご飯を食べてる場合じゃないんだろうな。


「あーあ。だれかはやく解決してくれませんかねー」

「同感だな」


 ゲーツさんが俺の言葉に頷く。

 俺はゲーツさんとエールのはいった杯を軽くうち合わせ、グリフォンの捕獲を見知らぬ誰かに託しながら口へと運んだ。





 それから俺は、ずっとゲーツさんとふたりで話し込んでいた。

 というのも、お酒の力でロザミィさんは夢のなかへ。


 冒険者っぽいひとにケンカを売られたゴドジさんは、即決でコレをお買い上げ。

 いまもなお店の外でボボサップ同士によるしばき合いを繰りひろげている。

 俺はとめようとしたけれど、ゲーツさんが「ほっとけ」と言うのでほっとくことにした。


 ケンカは日常茶飯事なのか、客たちのあいだで賭け金がとびかっていたし、ケガしててもあとで治せばいいからね。

 ちなみに俺はゴドジさんに銀貨を5枚ばかり賭けている。

 ぜひとも勝ってほしいもんだ。


 ゲーツさんとの会話がひと段落したタイミングで、


「やあやあお客さん。一曲いかがかな?」


 弦楽器リュートを抱えた小柄な女の子がそう声をかけてきた。

 頭にターバンみたいなものを巻いた女の子は、人懐っこい笑みを浮かべたままリュートをひと鳴らし。


「やあやあはじめまして。ボクの名前はフラン。見ての通り旅の吟遊詩人さ」


 フランと名のった女の子が俺たちに一礼してみせる。

 まるで舞台女優のような、優雅な礼だった。


「どうかなお客さん、素敵な夜のお供にボクの歌をきいてみるのは?」

「あいにくと歌の良し悪しをわかるほど上等な耳をもっていなくてな。悪いが他をあたってくれ」

「まーまーゲーツさん。せっかくだから聴いてみましょうよ」

「マサキ……」


 ゲーツさんは嫌そうな顔をしているけれど、ここはワガママをいわせてもらおう。

 だって吟遊詩人なんだもん。

 せっかくファンタジーな異世界にいるんだから、吟遊詩人による生演奏つきの生歌を聴いてみたいもんね。


 俺は吟遊詩人のフランさんに顔を向け、一曲お願いする。


「というわけで、お願いできますかフランさん?」

「おおっ。お兄さん話がわかるねー。いいよいいよー。お兄さんが今日はじめてのお客さんだよー」


 嬉しそうに笑うフランさん。

 俺にニコニコした顔を向けたフランさんはリュートを抱くように持ち、絃に指をそえる。


「さてお兄さん、なにかリクエストはあるかな?」

「お任せで!」

「はいきた。お任せあれっ」


 そして、アップテンポな演奏とともに陽気な歌が酒場をつつみこんだ。


「すげえ……」


 音楽の素人だけど、フランさんの歌声が尋常じゃないのだけは理解できた。

 J-POPアーティストが裸足で逃げだしてトホホするぐらいの差は確実にある。


「すげえすげえっ! もう一曲お願いします!!」

「はいきたっ」


 そんなわけだから、ついついおカネをはずんでしまうのもしかたがないよね。

 ボボサップ決定戦に勝利したゴドジさんの賭け金をぜんぶ使っても惜しくないぐらい、フランさんの歌声は素晴らしかったのだから。


「アンコール! アンコール!」

「ハァ……ハァ……お、お兄さん、ちょ……ちょっとだけ休ませて……」


 さすがに連続はきつかったのか、胸をおさえて呼吸をととのえるフランさん。

 俺はそんなフランさんに飲み物をわたしながら「すみません」とひと言あやまった。


「これ、飲んでください」

「ありがと。んぐ……んぐ…………っぷはぁー。生き返ったよ。お兄さんやさしいねー」

「そんなことないですよ」

「謙遜はしなくていいよお兄さん。あ、そうだ。たくさんお代をはずんでくれたお礼に一曲サービスさせてよ」

「え、いいんですか?」

「もちろんさ。こんなに稼がせてもらったのは久しぶりだからねー」


 フランさんはそう言っておひねりのはいった皮袋を鳴らしてみせる。

 ちゃりんちゃりんと小気味よい音が聞こえた。


「払いすぎだマサキ」

「ははは……。いや、フランさん歌うまいからつい……」

「いいじゃねぇかゲーツ。おれだってこんなにうめぇ吟遊詩人にははじめてあったぜ」


 ボボサップ決定戦に勝利し、テーブルにもどってきたゴドジさんが俺をフォローしてくれた。

 ありがとゴドジさん。顔面がどえらいことになってるからあとで治したげるね。


「お兄さん、最後の曲はどんなのがいい?」

「そうですねぇ~……」


 小首をかしげて聞いてくるフランさんに、俺は腕を組んで考えこむ。

 陽気な歌ばっか歌ってもらっていたから、最後はしっとりとした曲で締めてもらおうかな。

 うん。そうしよう。


「じゃあ、最後はおとなしめの曲でお願いします」

「ん? 『おとなしめ』かい?」

「はい。こう……目をつぶってじっくり聴き入ってしまうような曲です」

「そうかい。となると……うーん……うん。よしきた。お任せあれ!」


 フランさんがリュートを弾こうとして――


「あ、ちょっと待ってください」


 俺はいったん待ったをかける。


「どうかしたお兄さん? やっぱ曲を変えるかい?」

「いえ、そうじゃなくてですね…………あった!」


 俺は自分のカバンからボイスレコーダーをひっぱりだす。

 このボイスレコーダには、ムロンさんから教わった『冒険者の手引き』みたいなものが録音されていて、俺が異世界こっちで持ち歩いているアイテムのひとつだ。

 mamazonママゾンレビューによれば、このボイスレコーダーは音楽プレーヤーとしてもすこぶる優秀らしく、俺はフランさんの歌声をこのボイスレコーダーに録音しようと考えたのだった。


「録音ボタンをポチっとな。お待たせしました。どうぞ歌ってください」

「んー、よくわからないけど、じゃー歌うよー」

「イエーイ!」


 細い指先が絃をはじき、曲がはじまる。

 俺のテンションとはうらはらに、それはどこか哀しげな曲だった。


 酒場にいるひとたち全員の視線がフランさんに集まる。

 誰もかれもが黙り込み、その歌声に耳をかたむけていた。


「これは……エルフ語か?」


 ゲーツさんが呟く。

 録音中なんだからお静かに、とか思いつつも、ゲーツさんの言葉でフランさんの歌が異世界こっちの共通語ではないことに俺も気づいた。


 なるほど。これエルフ語なのか。

 見れば、ゲーツさんもゴドジさんも、そればかりか酒場にいる全員がエルフ語を理解していないようだった。

 俺だけは神さまからもらった他言語を理解するチートもってるから、歌詞の内容もまるわかりなんだけどね。


 歌が終わり、数秒ののち酒場に歓声がわきおこった。

 フランさんの歌声がみんなの心に届いたのだ。


「ありがとー。ありがとー。吟遊詩人のフランちゃんをよろしくねー」


 フランさんが酒場のひとたちに愛想を振りまく。

 俺も口笛を吹きながらパチパチと手をたたいた。

 もちろん、ボイスレコーダーの録音はとめてある。


「フランさん、すっごくいい曲でした!」

「ありがとお兄さん。いまのはボクのいちばん好きな歌だから、そう言ってもらえると嬉しいよ」

「故郷を想う少女の歌ですよね? フランさんのオリジナルなんですか?」


 俺がそう言うと、フランさんがすごく驚いた顔をした。

 目を大きくして、俺の顔をまじまじと見つめてくる。


「ビックリだよ。お兄さんエルフ語がわかるのかい?」

「ええ。す、すこしなら……」

「へー。人族なのにエルフ語を学ぶなんてもの好きもいたもんだ」

「は、ははは……。ですよねー。」


 俺はごまかすように頭をポリポリ。


「おっと、お兄さんの質問に答えてなかったね。いまの歌はね、ボクのママに教えてもらったんだ」

「お母さんに……ですか?」

「うん。ボクね――」


 フランさんは頭の巻いてるターバンをすこしだけずらして耳を出す。

 ちょっとだけ長くとがった耳がこんにちは。


「ハーフエルフなんだ。ママが純血のエルフで、いまの歌ははそのママから教えてもらったんだよ」

「なるほど。それでフランさんもエルフ語を」

「うん。と言っても、エルフとはめったに出会わないから話すきかいがないんだけどねー」


 そう言ってフランさんはからからと笑った。

  

「さて、今日はもう十分歌ったからボクは宿に戻ろうかな」

「お疲れさまです。素敵な歌をありがとうございました」

「なんのなんの。ボクのほうこそ稼がせてくれて感謝だよお兄さん。ボクこの街にきたばっかでね、実はお兄さんがボクのはじめてのお客さんだったんだー」

「ほえー、俺が最初だったんですか。それは光栄だなぁ」

「お兄さんみたいなひとがいる街なら楽しそうだ。ボクしばらくこの街にいるから、またよろしくねお兄さん」

「こちらこそ。また歌聴かせてくださいフランさん」


 フランさんはリュートを背負って酒場の出口にとことこ歩いていき――くるりとふり返る。


「お兄さん、ばいちー」

「ばいちー」


 そう手をふりあって、こんどこそフランさんは酒場をでていった。


「なーにが『ばいちー』だよ、マサキさん」


 ゴドジさんに肩をこずかれる。


「いてっ。なにするんですかゴドジさん」

「はぁ……。ロザミィが寝ててよかったなぁ」

「ん? なぜそこでロザミィさんがでてくるんです?」

「おいおい、気づいてねぇとは言わせねーぞ」

「よせゴドジ。くだらない茶々いれてロザミィを怒らせたくなければな」


 ゲーツさんの言葉にゴドジさんは肩をすくめたあと、その視線を爆睡中のロザミィさんに向けた。

 つられて、俺もロザミィさんを見る。


「んん……ダメだよぉましゃきぃ……お日さまが見てる……から」


 いったいどんな夢を見ているんだろうか?

 とりあえずロザミィさんの夢のスタッフロールに俺が加わっていることは確かみたいだな。 


「そろそろ出るか。マサキ、ロザミィを任せたぞ」

「ええ!? また俺ですか?」

「へへへ、ロザミィを頼んだぜマサキさん」

「はぁ……。わかりましたよ」


 深くため息をついてから、俺はロザミィさんをおんぶした。

 前と違って悪酔いしてないみたいだから、マーライオンにフォームチェンジすることはなさそうだ。

 合鍵も持ってるし、家のベッドに寝かせておけば大丈夫だろう。


 俺はゲーツさんたちと別れ、家のベッドにロザミィさんを運ぶ。


「すー……すー……」


 可愛い寝息をたててお休み中のロザミィさん。

 お酒もはいっているし、こりゃ当分は起きそうにないな。

 まー、グリフォンのせいでしばらく街からでれないみたいだから、いくらでも寝ていいんだろうけどね。


「はぁ……。社畜なこの身が悔しいぜ」


 明日は月曜日。

 憂鬱な月曜日。

 でも今月のノルマももう達成してるから、タイムカードきったらすぐこっち(異世界)にこよっと。


「しっかし、ひさびさに濃ゆい一日だったなー。オークキング以来のピンチだったぜ」


 馬車から助けだしたエルフの姉妹は大丈夫だったのかな。

 正直、鎖につながれていたのがひどく気になる。


「奴隷……なのかな」


 この世界にそういった存在がいるのには、なんとなく気づいていた。

 もしもあのエルフ姉妹がそうだとしたら……。

 俺は頭をふり、イヤな考えを頭からふり払う。

 いま考えたところで意味はない。


「明日こっちきたら、衛兵さんに聞いてみよっと」


 俺はそう呟き、ひとり錦糸町へと帰るのだった。

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