第25話 エルフの少女
「なんとか……ズェーダに戻ってこれましたね」
「……ああ。さすがに骨が折れたぜ」
俺の言葉にゲーツさんが重々しく頷く。
その顔は疲労の色がこい。
まー、そんなこといったらみんなへとへとなんだけどね。
全力で走り続け、疲労困憊となった俺たち。
にもかかわらず、ズェーダの街になかなかいれてもらえなかった。
というのも、街へはいろうとする俺たちを門番さんが呼びとめ、
「その者たちはなんだ?」
と聞いてきたからだ。
門番さんが言う「その者たち」とは、もちろんゴドジさんが担いでる身なりのよいおじさま(気絶中)と、俺が手をひく&おんぶしている女の子たちのことだ。
冒険者が身分証のない女の子や、気を失ってるおじさまを担いでいたら、そりゃ不審に思いますよね。
門番さんったら、ちゃんとお仕事してるー。
とまあ、そんな感じで門番さんが応援要請した衛兵さんたちに囲まれる俺たち。
ピリピリとした空気のなか、俺たちの代表としてゲーツさんが衛兵さんたちに説明をはじめ、
「なに、オーガだと!?」
「ぐ、ぐぐ、グリフォンだってーーーっ!?」
「これが本当なら、ズェーダの一大事だぞ……」
どうにか事の重大さを理解してもらえたみたいだった。
慌てはじめる衛兵さんたち。
空を自由に飛べるグリフォンは、それだけ危険なモンスターだということなんだろう。
伝令のため、あっちこっちへ走り去る衛兵さんたち。
そんななか、ひとりの衛兵さんが俺たちに近づいてきて、
「その者たちは我々が預かろう」
と申し出てくれた。
純粋な親切心からかもしれないし、ひょっとしたら俺たちのことを誘拐犯と疑っているのかもしれない。
どちらにせよ、助けた3人をどうするか決めていなかった俺たちは、衛兵さんたちの申し出にのることにしたのだった。
「ほらよ。このおっさん、たぶん目ぇまわしてるだけだぜ」
「承知した。こちらでできる限りの手当はしておこう」
「頼んだぜ」
ゴドジさんが、身なりのよいおじさまを衛兵さんその1にパスする。
おじさまは絶賛気絶中だ。
大丈夫かな?
「じゃあ、この子たちをお願いしますね」
ゴドジさんに続き俺も衛兵さんその2に女の子たちを預けようとして、
「エルフか。珍しいな」
「ええー!? この子たちエルフなんですかっ?」
「耳を見て気づかなかったのか? おかしな奴だ」
「いや、耳が長いのには気づいてましたけど、はじめて会ったもんで……」
この子たちがエルフだと、はじめて知ったのだった。
「さ、その娘たちを預かろう」
「は、はい」
俺がおんぶしてた女の子を地面に降ろし、衛兵さんに預けようとして――
「少し、待ってもらえますか」
手をひいていた女の子が、そう言ってきた。
女の子は真っすぐに俺を見つめ、儚げに笑う。
「わたしたちを助けてくださり、ありがとうございました」
「い、いえっ、俺だってその……助けるのが遅くなってすみません」
俺は彼女からの視線から逃げるようにして頭をさげた。
お礼を言われるようなことなんか、なにひとつしていない。
――気づくのがもっとはやければ。
――助けにはいるのがもっとはやければ。
もっと多くのひとを助けられたかもしれないんだ。
正直、悔しい想いでいっぱいだ。
「それでも……ありがとうございました。どうか顔をあげてください。わたしの名はキエル。こちらは妹のソシエと申します。さあソシエ、あなたもお礼を」
「はい。姉さまとソシエをたすけてくださりありがとーございました」
ソシエちゃんと名乗った女の子は、右手の人差し指と中指を額にあてたあと、その指を俺にむけた。
「?」
不思議がる俺に、お姉さんエルフのキエルさんが、
「わたしたちが育った森で、感謝を示すしぐさです」
と言い、ソシエちゃんと同じように指を俺にむける。
日本でいうところの、頭をさげてお礼をする、みたいな感じなんだろうな。
異文化コミュニケーションだぜ。
それも、エルフとだぜ。
俺が人知れず心の中で小躍りしていると、じれったそうにしていた衛兵さんその2がついにしびれを切らしたのか、強引に割ってはいってきた。
「さあ、君たち。こっちへ来なさい。いくつか質問したいことがある」
「あ……」
強めに腕を引かれるキエルさんが、ふり返る。
「あのっ、名前を――あなたのお名前を教えてもらえますかっ?」
「正樹! 正樹っていいます!」
「マサキさん……ありがとうございました。人族のなかにもあなたのような方がいて、わたしたち姉妹は少しだけ救われました。本当に――本当にありがとうっ」
そう言い残し、エルフの姉妹は衛兵さんに連れていかれてしまった。
どことなく子牛がドナドナな気分だ。
「いっちまったな」
「だーな」
ゲーツさんが呟き、ゴドジさんが相槌をうつ。
「ふんだっ。ま、マサキのヤツ鼻のしたのばしてさ。あのエルフきれいだったけど……でも、だからって……」
「ああん? なんだー、ロザミィ、お前嫉妬してんのかぁ?」
「うるさいよゴドジ。つぎ話しかけたらもうヒールしてあげないからね」
「おおっと。おっかねぇ、おっかねぇ」
「じゃれんなよ。それよりギルドに報告しにいくぞ。ムロンの兄貴にグリフォンのこと伝えないとな」
「わかってるわよ」
「だってよ。いくぜマサキさん」
ゴドジさんが俺の背中をばしんと叩く。
俺は前につんのめりながら、非難じみた目をゴドジさんに向けた。
「悪ぃ、悪ぃ。そんな目で見ないでくれよマサキさん。それよか、はやくギルドへ行こうぜ、ゲーツたちにおいてかれちまう」
「わかってます。いまいきますよ」
「ロザミィのご機嫌とりもまかせたかんなー」
ゴドジさんが、前をいくゲーツさんとロザミィさんのあとを追う。
なんかロザミィさんの歩くスピードがやけに速いけど、なんでだろ?
さっき「ご機嫌とり」って言ってたから、不機嫌なのかな?
まー、人間ってば疲れがたまると機嫌わるくなっちゃうもんね。
このあとみんなでお酒でも飲んで騒いじゃえば大丈夫だろ。
うん。はやくお酒が飲みたいぜ。
「みんなー、待ってくださいよー!」
俺はロザミィさんたち3人の後を追おうとして、最後に一度だけふり返る。
エルフの姉妹の姿は、もう見えなくなっていた。
「キエルさんと、ソシエちゃんか。……また、どこかで会えるといいな」
俺はそう呟いてから、走って3人のあとを追うのだった。




