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第24話 頭上の悪魔

「チィッ、まだ立つかよ……」

「おいおい、さすがに笑えねぇぞ……」


 身を起こすオーガを見て、ゲーツさんとゴドジさんが言葉を失う。

 そんななか、俺はひとりオーガの動きを注視していた。


「…………あと、ひと押しってとこか」


 立ちあがりはしたものの、オーガの体はフラフラと前後に揺れている。

 足元がおぼついていないのだ。

 ゲーツさんのアーツ(闘技)と俺の三十路オーバーにのみ赦された必殺技の直撃を受けたんだから、いかに頑丈なオーガとはいえ立っているのがやっとのはず。


 だから――


「あと、ひと押し」


 俺は呟き、ゴドジさんの手を借りつつも、オーガに負けじと立ちあがった。


『グオオォォォォォォォオオオッ!!』


 オーガが咆哮をあげる。

 窮鼠猫を噛む。

 手負いの獣はなんとやら。


 俺たちに追い詰められ、激おこ状態なオーガのことだ。

 きっと死に物狂いで反撃してくるに決まってる。


るか殺られるか、ってやつですか。リーマンにはハードルが高いぜ」

 

 グチったところで意味はない。

 オーガは瀕死。

 あとひと押しでとどめをさせるはず。


 ならば、こうなったらオーガと一緒に錦糸町の自宅に転移して7階のベランダから蹴落とすという、ダーティな切札をついに使うときがきたのかもしれないな。


 ゲーツさんもゴドジさんも余裕はなさそうだ。

 なら――おれがやるしかないっ。

 オーガにスカイツリーを拝ませてやる!


 そう思ったときだった。

 突然、周囲に影が落ち、俺の頭上を大きな影が通りすぎていく。


「ほえ……?」


 無意識のうちに顔をあげ、空を見あげる。


「――ッ!?」


 顔をあげた視線の先。

 そこには、翼の生えた四本足のモンスターが空を飛んでいた。

 上半身はワシ。下半身はライオン。

 あのモンスターは確か――

 


「バカな! グリフォンだとっ!?」


 ゲーツさんが驚愕し、空飛ぶモンスターの名を呼んだ。

 その驚きようは、オーガの比じゃなかった。


「えぇ!? あ、あれグリフォンなんですかっ?」


 初めて見るグリフォンに、俺は目を奪われる。

 その雄々しい姿は、ある種の芸術ともいえた。


 グリフォンは俺たちの頭上を何度か旋回したあと、突如として急降下。

 翼をたたみ、すごいスピードでオーガへと襲いかかった。


『キャルオオオオオオオオ!!』


 落下速度と全体重をのせた一撃。

 オーガがなすすべなく地面へと叩きつけられる。

 

『グゥゥ、グガァァァァァァァァァッ!!』

 

 オーガも反撃するが、起きあがって腕を振るうころには、もうグリフォンは上空へ飛びあがって攻撃範囲外へと移動している。

 平面でしか移動できないオーガに対し、グリフォンは空までが行動範囲なんだ。

 そのうえ、オーガにとっては俺たちにやられた傷まであるんだから、不利なんてもんじゃない。


「マサキ、ゴドジ、この隙に逃げるぞっ」


 オーガとグリフォンのモンスター大決戦に目を奪われていた俺は、ゲーツさんの言葉で自分たちが置かれている状況を思いだす。


「は、はい!」

「おうよ!」


 回れ右して一直線に走る。

 そのまま突撃するようにして、ロザミィさんが救出活動している馬車へと飛びこんだ。


「ロザミィさん! 女の子たちはっ!?」


 馬車のなかにはいった俺の目に、鎖につながれた少女たちが映りこむ。

 キラキラと輝く金色の髪から、長い耳が突き出ている少女たちだった。

 ロザミィさんは少女たちに繋がれた鎖を握り、


「マサキ、この鎖が切れないんだよっ」


 苛正しさを隠そうともしないでそう言った。


「手伝います!」

「おれも手伝うぜぇ」


 俺に続いてゴドジさんも馬車にはいってきた。

 ゲーツさんは馬車の外でオーガとグリフォンの戦いに目をやり、警戒してくれている。

 馬車こっちに危険がせまったら、すぐに教えるつもりなんだろう。


「マサキさん、鎖を外すぞ!」

「はい!」


 俺とゴドジさんは鎖に手を伸ばし、握りしめる。


「あ……」


 少女――姉妹かな?

 お姉さんっぽいほうと目があった。

 相当怖かったんだろうな。顔は涙で濡れていた。


「もう大丈夫だよ。いま助けるから」

「……たすけ……る?」

「うん、助ける。助けてみせる。いま俺が君たちを助けるから」


 俺はにっこり笑い、安心させるように頷いてみせる。


「マサキさん、この鎖を壊す。手ぇかしてくれ!」

「わかりました! はぁぁぁぁぁッ! 俺のこの手が真っ赤に燃えるっ! しょ――」

「いや、そ-ゆーのいいからさ。この鎖をそっちに引っぱっててくれや。このくそったれな鎖の留め具を壊すからよ」

「あ、はい」

「ふんっ!」


 俺が鎖を引っ張り、ゴドジさんが馬車の壁に繋がっていた留め具にとげとげメイスを振りおろす。

 ガシャンと音がして、馬車と鎖を繋いでいた留め具は壊れた。


「おーし。もういっこもだ」

「はい!」

「よっ!」


 続けてもう一回。

 こんどは小さい女の子を縛っていた鎖を壊す。


「よし! さっさとずらかろうぜっ」

「みんな、走るよ!」

「さあ、こっちへ!」


 俺は小さい女の子をおんぶして、お姉さんの手を引き、叫ぶ。


「走れーーーっ!!」


 馬車の外へと飛びだす。

 横を見やると、いままさにオーガとグリフォンの決着がつこうとしているところだった。

 

『キャルルルルルルル!!』


 空に飛びあがったグリフォンが翼をひろげ、無数の羽を矢のようにしてオーガにとばす。


「フェザーバレットかっ」


 ゲーツさんが足をとめ、戦いの結末を見届けようと食い入るような視線を向ける。

 つられて、俺たちも目を向けてしまう。


 まるでマシンガンのようにとんでいくフェザーバレット。

 両手を交差して耐えるオーガに、次々と羽が刺さっていく。

 膝をつき、ついにはどうと倒れ込むオーガ。

 急降下してきたグリフォンがオーガにのしかかり、とどめとばかりにクチバシを深く突き刺す。


『グガァァ―――…………』


 オーガは一度だけびくんと大きく震えたあと、動かなくなった。

 死んだんだろう。


『キャルルル』


 グリフォンがゆっくりとオーガの肉をついばみはじめる。

 その鳴き声は、良い獲物をしとめた、とばかりに誇らしげにも聞こえた。

 

「手負いとはいえ、オーガが……あんな簡単に……」

「空を飛ぶグリフォンにはオーガでも勝てやしないんだよ。クソ、あと少しでオーガを倒せたのに横取りしやがって」


 呆然と呟く俺に、ゲーツさんが悔しそうに言う。

 あれだけ強かったオーガだ。

 きっと素材が高く売れたに違いない。


 俺たちからしてみれば、命がけで戦い、あと少しで倒せたオーガをグリフォンにかっさらわれたようなものだからね。

 悔しいどころの話じゃない。


「ぼやいてもしかたねぇよゲーツ。やっこさんがおれたちに目をつけねぇうちに逃げよーぜ」

「チィ……。いくぞ」


 踵を返し、ズェーダ目指して走りだそうと踏み出したとき、


「……ん?」


 視界の端で、倒れているひとのひとりが、僅かに動くのが見えた。


「あっ! あのひとまだ息がありますよっ!」

「だってさゴドジ」


 俺が指さし、即座にロザミィさんが反応する。


「おうさ! おれが担げばいいんだろっ」

「わかってるじゃないの。デカイ図体してんだから、こういうときこそ役にたたないとね」

「うるせぇよロザミィ! よっと」


 ゴドジさんが、倒れていた身なりの良い男のひとを肩に担ぎあげた。

 男のひとは気を失っているらしく、ぐったりしている。


「ゴドジ、そのひとヒールは必要そうかい?」

「いんや。頭打って目ぇまわしてるだけみてぇだな。ヒールはあとまわしでいいだろ。それよりこっから離れようぜ!」

「他に生存者はいなさそうだな。みんな、いくぞ!」


 ゲーツさんの号令のもと、俺たちは一目散にズェーダの街を目指して走りだすのだった。

 嬉々としてオーガをついばむ、グリフォンに背を向けて。

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