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第23話 燃えよおっさん

 オーガの身長は3メートル。

 俺よりもはるかにデカイ。

 でも……それがどうしたっ。


 肉体強化から生まれた凄まじい加速からの跳躍。

 両脚をそろえ、オーガの後頭部めがけ渾身の飛び蹴りをお見舞いする。


三十路みそじドロップキィィィッッック!!!」


 俺のドロップキックは、まるで砲弾のような勢いでオーガの延髄へとブチ当たる。


『グガァッッ!!』


 さすがは3メートルのバケモノ、ってとこか。

 体重が65キロの俺じゃ、ほんのすこしだけ体をよろめかせるのが精いっぱいだった。


かってぇぇぇ(堅い)ッ。なんて頑丈なんだっ」


 俺は受け身で腰へのダメージを軽減してから立ち上がり、悪態をつく。

 自分でいうのもなんだけど、完ぺきなドロップキックだった。

 まるで、ミラクル日本ジャパンプロレスの人気レスラー、『血の雨を(レイン)降らす男(メイカー)』ばりの打点の高いドロップキックだったんだ。


 なのに――


『グガァ……』


 オーガは、ゴキゴキと首を鳴らすだけ。

 まるで、肩がこった、とでも言いたげな顔だ。


「くっそー……」


 それでも、


『グゥゥッ』


 オーガの標的を女の子たちから俺へ移すことには成功したみたいだな。

 俺を見据えたオーガは、牙をむき出しにして威圧してくる。

 なら、このままヘイトを稼がせてもらおうかっ。


「ファイア・ボルトッ!! ファイア・ボルトッ!! フレイム・ランスッ!!!」

『ガアァァッ!?』


 俺は立て続けに攻撃魔法を放ち、すこしづつ馬車からオーガを引き離す。

 オーガから距離をとった俺が魔法で攻撃を加えていると、


「マサキッ! チィッ、無茶してくれるっ!」


 後ろから猟犬ハウンドドッグの3人が追いついてきた。

 しかも、なんか武器を構えて加勢してくれるみたいだ。



「特別だマサキ。おれたちが手を貸してやるよっ」

「ゲーツさん!」

「マサキ、お前は後方から魔法で援護しろ。ゴドジ、オーガの攻撃に耐える自信はあるか?」


 そう問われたゴドジさんは背中から大盾を外し、正面に構えながら笑う。


「へっへ、3発までは耐えてみせるぜぇっ!」

「上等だ。ロザミィ、おれたちがオーガを引きつけている間に馬車から生きてるヤツをひっぱり出せ!」

「わかったわ」


 ロザミィさんが馬車に空いた穴から中にはいっていく。

 それを確認したゲーツさんは、左腕につけていたカイト・シールドを地面に投げ捨てた。

 いや、それだけじゃない。

 ゲーツさんったら、なんと手甲や鎧まで外しはじめたじゃないか。


「げ、ゲーツさん!? なんで鎧を外しているんですか?」

「オーガのパワーが相手じゃ鎧なんて意味がない。むしろ、速さを殺すだけジャマになる」

「えぇ!? で、でも――」

「どーせ1発もらえば終わりなんだ。なら……スピードで翻ろうして少しづつ削るまでよっ。ハァッ!!」


 ゲーツさんがオーガに向かってダッシュした。


「マサキさん! 魔法でゲーツの援護をっ!!」

「は、はいっ! ブースト!! あーんど、ファイア・ボルトォォッ!!」


 ゴドジさんに言われ、俺は連続して魔法を放つ。

 肉体強化の補助魔法がゲーツさんの身体能力を爆アゲし、炎の塊がオーガへと命中する。


『グガァァァッ!!』


 爆炎に包まれ、視界を奪われたオーガにゲーツさんが急接近。


「ハァッ!!」

『ガアァァァッ!!』


 ゲーツさんがオーガが振りまわす腕をかいくぐり、脚にロングソードの一撃をお見舞いしたぞ。

 オーガの脚にパックリと開いた傷口がつくられ、血が噴きだす。


「いいぞゲーツ!!」

「すごいですよゲーツさん!」


 一撃を食らわせたゲーツさんは地面を転がりオーガから距離をとる。

 そして隙を見てはまた斬りかかり、オーガに傷を負わせては素早くその場から離れていく。

 ボクシングでいうところの、ヒットアンドアウェイってやつだ。


「マサキさんよ、おれにもブーストを頼めるか?」

「わかりましたゴドジさん! ブースト!!」

「あんがとよ! おれもいくぜぇぇぇ!!」


 大盾を構えたまま、ゴドジさんがオーガに向かって突撃していく。


「ゴドジ、3秒稼げ!」

「おうさ! 喰らえぇぇぇっ! シールド・バッシュッ!!」


 ゴドジさんが叫び、大盾をオーガに叩きつけた瞬間――


『ガァァァッ!?』


 突然、大盾が発光しオーガの体勢を大きく崩す。

 いまのはいったいなんだ!?


「ゲーツ! いまだっ」

「ああっ!」


 ゲーツさんがロングソードでオーガの側面から斬りかかる。


「ソード・スラッシュッ!!」


 おいおい、こんどはゲーツさんのロングソードが発光しだしたぞ。

 光を帯びたロングソードがオーガの左肩に喰いこみ、


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『グガアアァァァァァッ!!』


 血煙が舞った。

 オーガは斬られた左肩をおさえ、咆哮をあげる。


「チィッ、浅かったかっ」

「頼むぜゲーツ、斬るなら首にしてくれよなぁっ」

「ゴドジ、もう一度だ」

「わーったよ。だがよぉ……おれもコイツ(・・・)も、そう長くは持たないぜぇ」


 ゴドジさんが自虐的な笑みを浮かべながら、大盾を振ってみせた。

 大盾はさっき叩きつけた衝撃で、ところどころ歪んでいる。

 オーガってば、どんだけ硬いんだよ。


「うおおぉぉりゃああぁぁぁああっ!! こんどはコイツならどーだっ、シールド・ストライク!!」


 大盾がまたまた発光し、さっきよりも強い衝撃がオーガの動きをとめる。

 でも、それと引き換えにゴドジさんの大盾がひしゃげてしまった。

 完全に壊れてしまったみたいだ。


「もう次はねぇぞゲーツ!!」

「決めてみせる! ハァーッ!! ブリング・スラッシュッ!!」


 ゲーツさんのロングソードが赤く輝き、デンジャーな一撃をオーガに浴びせた。


『ガアアアアァァァァァァァッ!!』


 ロングソードの剣先がオーガの肩から腰までをはしり抜ける。

 しかし――


『グガァ……』


 浅い。

 オーガの前面に斜めに走る傷を負わせることはできても、倒すまでにはぜんぜん至らなかった。

 むしろ、怒りの形相を見るかぎり、火に油をそそいじゃったって感じだ。


「チィッ、おれじゃオーガにとどかねーのかよっ」


 ゲーツさんが吐き捨てる。

 青ざめたその顔には、まったく余裕がない。


「ご、ゴドジさん……」

「あん? どうしたマサキさん。いまちーっと取り込み中なんだ。話ならあとにしてくれねーか」

「すみません……でもいま(・・)じゃないといけない気がするんです」

「……どうしたってーんだ?」


 壊れた大盾を捨て、トゲトゲのついたメイスを構えたゴドジさんが聞いてきた。

 目線はオーガから外さずに、意識をほんのすこしだけ俺に向けている。


「いま……いまゴドジさんとゲーツさんが使った、ピカーって光る技はなんなんです? ひょっとして必殺技ですか?」

「へっ、『必殺技』か……。んなもんがホントにありゃよかったんだけどよぉ……ま、そんなに間違ってもねぇーか」

「……というと?」

「いいかいマサキさん、さっきおれやゲーツが使ったのは闘技アーツってんだ。闘気オーラを武器や身体にまとわせて攻撃する技――マサキさん風に言やぁ『必殺技』ってヤツよぉ」


 闘技アーツ……戦士にとっての魔法みたいなもんか?

 それともスキルっていったほうがいいのか……とにかくっ、いまはどっちでもいい。


「ゴドジさん、そのアーツって俺でも使えますか?」

「マサキさんがか!? 急になにを言うんだ。アーツってのはなぁ、師匠や修練所の教官から教わってはじめて使えるようになるもんなんだぜぇ。教えもなくアーツを使えるなんてよぉ……それこそ吟遊詩人の詩にでてくる英雄さまや勇者ぐらいなもんだろうよぉ」

「そうですか……」


 教えを受けないと使えない。

 ……本当にそうだろうか?

 俺は誰に教えを受けたわけでもなく魔法を使えているんだ。


 神さまからもらった贈物ギフトのおかげでね。

 なら……アーツだって使えてもおかしくないはずだ。


 思いつく限りの贈物チートをもらったもんだから、正直、全部把握できてはいない。

 でも、キッズの心を忘れない俺のことだ。

 きっと、


『かっちょいい必殺技を使えるようになりたい』


 とかおねだりしていたはず。

 いいや。ぜったいしてた!


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺は気合を入れ、内なる感情を爆発させる。


「マサキさん!?」

「マサキ、お前――ッ」


 体から眩い闘気オーラが放出され、風を起こしはじめた。

 精神エネルギーが闘気となって周囲に影響を及ぼしているからだ。


「これが……オーラ。なら――いけるぞっ!」


 オーラがどんどん膨らんでいく。

 いますぐにでも暴発してしまいそうだ。

 俺は頭の中で無数の必殺技をイメージしては、己の肉体に問いかける。


 ――これはどうだ?


 ――これならできそうか?


 ――これだったらできるんじゃないか?


 と。

 いくつもイメージしてはいくつもボツにし、ついにあるひとつの必殺技にたどりついた。


 オーガに届き得る、致命の一撃を。

 必死と書いて必ず死なす、必殺技を。


「ゲーツさん! ゴドジさん! オーガから離れてください!」


 俺のオーラに圧倒されていたふたりがはっと我に返り、すぐにオーガから距離をとる。

 オーガの怒りに燃えた双眸が、俺へと移動した。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!! 燃えろっ!! 俺のなかの宇宙っぽい何かよっ!!」


 俺のオーラとテンションは爆発的に膨れあがり、全身が黄金色に輝きはじめた。

 肉体と精神が極限まで高まった時にのみ発動するといわれる、ハイパーなモードってやつだ。


 オーガの動きがひどく緩慢に見える。

 いまならどんな攻撃も確実にヒットさせることができそうだ。


「……いくぞオーガ。三十路オーバーにのみ赦された、禁断の必殺技を喰らうがいいっ!」


 オーガをまっすぐに見据えた俺は、かっちょいいポーズをキメながら叫ぶ。


「天にスカイツリー! 地に浅草寺せんそうじ! 目にもの見せるは、最終秘伝っ!!」

 

 俺はオーガへ向かって一直線に駆け、拳を握る。


「真・ペガサス流星胡蝶りゅうせいこちょうけぇぇぇぇぇんっ!!!」


 体感的に1秒間に100発ものパンチがオーガに雨あられと降りそそぐ。

 パンチの嵐にさらされ身動きができない状態のオーガ。

 次に俺は全力でジャンプし、オーガの頭上からとどめとなるとび蹴りを見舞った。


『グガァァァァァァァッッッ!!!!』


 蹴りがオーガの角をへし折って顔面へとめり込む。


「ヒィィィィト! エンドッ!!」


 俺の持つありったけのオーラをぶつけられたオーガが、冗談みたいな勢いでふっ飛んでいき、頭から落ちて「ズシャッァア!!」と地面をすべっていった。

 三十路ドロップキックをお見舞いしたときはほとんどダメージを与えられなかったけど、こんどは違う。

 確かな手ごたえがあったぞ。


「はぁ、はぁ、はぁ……へへ、ど、どんなもんじゃーい……」


 はじめてアーツを使ったからか、全身から力が抜け落ち、不覚にも尻もちついてしまう。

 そんな俺にゲーツさんとゴドジさんが走り寄ってきて、体を起こしてくれた。


「マサキ! 無事か!?」

「すげーぜマサキさん! なんだよいまのアーツはよっ」

「へへへ……ぶ、ぶっつけ本番でしたけど、なんとかなりました」


 ぷるぷる震える腕でピースサイン。

 異世界こっちのひとにはピースの意味がわからないのか、ふたりとも不思議そうな顔をしながらピースを返してきた。

 やや気まずい空気が流れる。


「お、オーガは……た、倒せましたかね?」


 そんな微妙な空気を取り除くべく、俺は向こうで倒れているオーガを見ながらそう聞いてみる。

 ゲーツさんがクールに笑えば、ゴドジさんは豪快に笑いながら俺の背中をバシバシ叩く。


「でーじょーぶだって。あんなすげーアーツを喰らったらよぉ、いっくらオーガだって……」


 笑い合う俺たちの視線の先で、オーガがのそり、とその身を起こした。

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