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第21話 戦いの決断

「いまのは……」


 そんな俺の呟きを、


「悲鳴だね」


 ロザミィさんが継ぐ。

 いまこうしている間にも悲鳴は聞こえ続けている。

 しかもひとりふたりなんかじゃない。

 もっと大勢の悲鳴が、街道側からこっちの方にまで聞こえてきていたのだ。


「ロザミィさん……これってまさか――」

「――ッ。どっかの団体さんがモンスターに襲われてるみたいね。ゲーツ、どうするのっ?」

「考えるまでもない。いくぞ!」


 言うな否や、ゲーツさんが悲鳴が聞こえる方に向かって走り出した。

 この判断の速さは、さすがはパーティリーダーといったところか。

 正直カッコイイ。


「へへ、それでこそおれらのリーダーだぜっ!」


 そう言ってゴドジさんも走り出す。

 少しだけ遅れて、俺とロザミィさんも慌ててふたりのあとを追った。


「この悲鳴の数……冒険者ってわけじゃなさそうだね」

「えぇ!? じゃ、じゃあ街のひとですかね?」

「街人とは限らないのよマサキ。街道はいろんなひとたちが使うんだ。商人や運び屋、巡礼者とかね」

「な、なるほど」

「ロザミィ、それにマサキさんもよ。念のためすーぐ戦えるよう準備しててくれよ。この悲鳴を聞く限り……だいぶ余裕がなさそうだかんなぁ」


 前をいくゴドジさんが、いつもののんびりとした口調にいくらかの緊張感を織り交ぜて言ってくる。


「はい!」

「わかってるわよ」


 俺はいつでも魔法を使えるよう意識しながら、走る脚に力を込めた。


「街道に出るぞ!」


 森を抜けて街道へと出る。

 悲鳴の発生源はすぐにわかった。

 いま俺たちがいる場所から100メートルほど先で、1台の馬車が横倒しに倒れていたのだ。


 馬車のまわりには、変わり果てた姿となったひとたちが何人も倒れている。

 悲鳴をあげていたのは……きっと彼ら(彼女ら)なんだろう。


「な、なんですか……あれ?」


 馬車を破壊し、馬を生きたまま喰らっているモンスター。

 俺の視線は、しぜんとそのモンスターへと吸い寄せられていた。


 大きい。

 3メートルはあるだろうか?

 額から一本の角を生やし、手足なんか丸太のように太い。

 まるで……まるで昔ばなしにでてくる『鬼』のような姿をしている。


「ウソでしょ……なんであんなヤツが街道に……」

「ロザミィさん、あれをしってるんですか?」

「え、ええ。もちろんよ」


 ロザミィさんは一度頷いてから、震える声で答えてくれた。


「マサキ、あのモンスターはね……」

「あのモンスターは?」

「……オーガよ」

「オーガですって!? あれが……」


 俺が『鬼』だと思ったのは、そう外れてもいなかったみたいだ。

 怪力を誇る凶悪なモンスター、オーガ。

 ムロンさんに「絶対に戦うな」と言われているモンスターのひとつでもある。

 なんでも、その怪力は一振りで木をもなぎ倒すらしい。


「ハッ!? ボーっとしてる場合じゃなかった。ゲーツさん、はやく馬車のひとたちを助けにいかないとっ」


 悲鳴はもう聞こえてこない。

 それでもまだ生き残ってるひとがいるかもしれないんだ。

 ヤバ目のケガでも俺なら治すことができるはず。


 そう考えて駆け出そうとしたら――


「よせマサキ! おれたちがかなう相手じゃねぇ!」


 ゲーツさんに後ろから羽交い絞めにされ、無理やり引きとめられてしまった。


「なっ、ゲーツさんはなしてください! どうしてとめるんで――」

「いいから聞けっ! いいかマサキ? あそこにいるオーガってのはな、オークキングとは比べものにならないほどやばいモンスターなんだよっ。討伐するには銀等級の冒険者が集まってパーティ組まなきゃならねぇって言われてんだ。わかるか!? ムロンの兄貴クラスが最低でも5人は必要なんだよっ!」

「でもっ――」

「ゲーツの言う通りだマサキさん。ここは堪えてくれ。いくらマサキさんでもオーガはムリだぜぇ」

「そうよマサキ。あたしはあなたに死んでほしくない。だから……ガマンしてちょうだい」


 猟犬ハウンドドッグの3人が、必死になって俺をとめている。

 それだけあのオーガってモンスターがヤバイってことかよ。


「落ち着いてくれマサキ。おれたちにできるのはギルドに走って応援を呼ぶぐらいだ。それしか……やれることがない」

「…………」


 ゲーツさんが諭すように言う。

 いや、じっさい諭しているんだろう。

 俺を……死なせないために。


『グオォォォォォォォォッ!!』


 喰い散らかした馬を放り投げたオーガが、横倒しになった馬車の天井を破壊する。

 大きく空いた穴から、ふたりの少女の姿が覗き見えた。


『グガァ……』


 オーガが少女たちに目をつけたのが、俺にもわかった。

 血が滴る口を拭った手を、こんどは少女たちへと伸ばす。

 瞬間、俺の視界は怒りで真っ赤に染まる。


「これ以上…………」


 わかってる、わかってるさ。

 オーガは俺がどうこうできる相手モンスターじゃないってことぐらい。


 でも……目のまえで女の子が襲われているんだ。

 見捨てれるわけないじゃないかっ。


「好きにさせるかよぉっ!! ブースト(肉体強化)ッ!!」

「なっ!? よせマサキ!!」


 魔法で肉体強化した俺はゲーツさんの腕を振りほどき、オーガに向かって一直線に走る。


「だめよマサキ!」

「戻るんだマサキさん!!」 


 呼びとめるふたりに俺は一度だけ振り返り、


「俺がオーガを引きつけます! その隙にあの女の子たちを馬車から助け出してください!!」


 と声をはりあげる。

 あとはもう、俺の視界にはオーガしか映っていなかった。

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