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第18話 悪夢のマーライオン

 酔いつぶれてぐにょんぐにょんになったロザミィさんを運ぶのは、かなり骨が折れた。

 ゴドジさんの手も借りて、なんとか俺の背中にドッキング。

 マイホームに帰るべく、おんぶしながら歩くこと数分。

 背中のロザミィさんが、


「ましゃき……な、なんだか……きぼぢわるいよぉ……」


 とか急に言いだすもんだから、さあ大変。

 慌ててふり返り、おぶさっているロザミィさんの顔色を確認する。


 ロザミィさんの顔色は真っ青で苦しそうだ。

 俺がおんぶしているから胃がシェイクされちゃったのかもしれない。


「大丈夫ですか? ちょっと休みます?」

「……は、はぐぅ(吐く)……はぐぅぅぅ(吐く)……」

「えぇっ!? いや、ちょっと待ってよロザミィさん。いま――いま降ろすからもうちょっとだけ――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 俺におんぶされた状態でマーライオンになるロザミィさん。

 バラエティ番組だったらキラキラとエフェクトがかかるそれ(・・)を顔面どころか全身で受けとめちゃった俺の悲鳴は、夜の街並みをちょっとだけ騒がしくするのだった。





「た……ただいま……」


 見るに堪えない姿になっちゃったけど、俺はなんとか家にたどり着いたぞ。

 ロザミィさんったら、マーライオンへの変身をあのあと2回も残してたんだもんなぁ。

 全身緑色の宇宙人ばりに驚いちゃったよ。


「ふぅ……こりゃお風呂にはいらないとキッツイな」


 ロザミィさんをソファに運んでから、俺はお風呂を沸かしはじめた。

 お風呂に水をためて薪に魔法で火をつける。

 そして待つこと数十分。やっとお風呂が沸いた。


 電気やガスでもあればもっと楽に沸かせるんだけどなー。

 まあ、でもそれは贅沢ってもんか。


「ロザミィさんーん。おきてくださーい。服が汚れちゃったんでお風呂にはいりましょー」


 ゆさゆさとロザミィさんの体を揺らすけど、


「……すぴー……すぴー……」


 まったく起きる気配がない。


「こりゃ~、まいった」


 俺だけじゃなく、おんぶされていたロザミィさんもけっこー汚れてしまっているのだ。

 このまま寝かせてしまっては、明日の目覚めが最悪なものになっちゃうぞ。


「うーん……」


 かといって、お年頃なロザミィさんを俺がお風呂にいれるわけにはいかない。

 お隣のイザベラさんに頼もうにも、もうこんな時間だ。

 寝てる可能性が高い。

 リリアちゃんにいたっては、とっくに夢の中だろうしね。


「うーーーん…………とりあえず、汚れてるとこだけでもふき取っとくか」


 俺はお風呂のお湯を洗面器にいれ、濡らしたタオルでロザミィさんについた汚れを取っていく。


 顔をふきふき。

 髪をふきふき。

 最後に服の汚れもふき取ると、なんとか見れるようにはなった……と思う。


「すぴー……すぴー……」


 わりと強めにゴシゴシしたのに、ロザミィさんは未だ夢の中。

 俺はそんなロザミィさんをベッドに運び、毛布をかけてから、やっと自分の体を洗うためお風呂にはいるのだった。





 でもって翌日。

 俺がリビングでゴブリン討伐の装備を整えていると、


「マサキ……あたし頭が痛いよ。それになんだか変な臭いがするんだ」


 ロザミィさんがふらふらしながら階段をおりてきた。

 そのゾンビみたいな動きを見るかぎり、二日酔いなのは間違いない。


「ねぇマサキ。ひょっとしてあたし……吐いちゃった?」


 くんくんと自分の臭いを嗅いでは顔をしかめるロザミィさん。


「ははは……昨日は飲み過ぎちゃいましたね」

「…………こ、こっちにこないで! あとお風呂かして!!」

「そう言うと思ってお風呂沸かしておきましたよ。ゴドジさんとの約束の時間まではまだありますし、どうぞはいってきてください。汗をかいたらちょっとはスッキリしますよ」

「あ、ありがと。そうさせてもらうよ」


 ロザミィさんは壁に背中をつけて、俺からできる限り距離をとりながら浴室に移動する。

 背中を見せないその動きは、まるでなんとかさーてぃーんみたいだ。


 ロザミィさんがお風呂にはっている間に、俺は簡単な朝食とお弁当をつくっておく。

 といっても、ザキヤマパンの食パンにハムとマーガリンをぬっただけのサンドウィッチだけどね。


「うー……頭が痛いよぉ」


 ちょうどつくり終わったタイミングでロザミィさんがお風呂からでてきた。

 まだ二日酔いが抜けてないんだろう。

 両手でこめかみのあたりを押さえている。


「大丈夫ですか? 辛いなら今日は寝てたほうがいいんじゃ――」

「やだ! あたしはいくよ! 絶対にマサキといく!!」

「は、はぁ。なら、せめてムリはしないでくださいね」

「心配してくれてありがと。でも平気だよ。ゴブリンぐらいならどうとでもなるさ」


 言葉とは裏腹に、あんま余裕があるようには見えないんですけどねー。


「さ、いこよマサキ」


 ふらっふらしながら玄関に向かうロザミィさん。

 これは無理やりにでもとめたほうがいいのかな?

 とそこで、俺の頭にある考えが浮かぶ。


「あ、ロザミィさんちょっと待ってください」

「うん、なんだい?」

「えーっと、リフレッシュ(状態異常回復)!!」


 柔らかな光がロザミィさんを包み込む。


「そんな……リフレッシュだって!?」


 光が消えると、あんなにも青ざめていたロザミィさんの顔に少しずつ赤みが帯びていった。

 眉間のしわも消えて、いまはただぽかんとした顔をしている。


「どうですか? 二日酔い治りました?」

「…………まさかマサキがリフレッシュまで使えるなんてね。それも、二日酔いを治すためだけに使うなんて……もうっ。神官の連中が知ったら腰を抜かしちゃうよ」


 なんかしんないけど、この反応をみるとどうやらリフレッシュは高位の回復魔法だったみたいだな。


「ほんと、マサキは魔法のムダ使いが好きだね。でもありがと。おかげでスッキリしたよ。これでもう大丈夫」


 ロザミィさんがぎゅっと握りこぶしをつくって絶好調アピールしてきた。


「いやー、これもぜんぶロザミィさんのためですよ」


 二日酔いでモンスターと戦うなんて危なっかしいもんね。

 ゲーツさんに「二日酔いになっちゃってぇ」とか言ったらマジ切れしそうだし。


「あ、あたしのためって…………ばか」


 なんだかまたディスられちゃったけど、俺はそんなロザミィさんと一緒に冒険者ギルド目指して歩きはじめるのだった。

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