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第15話 危険な罠! ロザミィの大逆襲

「ただいまー」


 ふたりを連れて異世界こっちに帰ってくると、


「お母さんにオットセーさんつくってもらってくるねー!!」


 さっそくリリアちゃんがぬいぐるみの材料がはいった袋をもって自分の家へと駆けだしていった。


「あっ、ちょっとリリアちゃん! お財布わすれてるよー! あと服を着替えなきゃイザベラさんがビックリしちゃうよー!」


 俺はリリアちゃんから預かっていた、革袋(金銀銅貨がはいっている)をちゃりんちゃりん振って呼びとめる。

 リリアちゃんはぴたりととまると、


「そうだったー」


 たたたと戻ってきて、錦糸町スタイルの服を脱ぎはじめた。


「お兄ちゃん、てつだってー」

「はいよー」


 風邪ひかないように何枚も着させていたから脱ぐのに手こずるリリアちゃん。

 俺はリリアちゃんを手でささえながら着替えるのを手伝う。


「はい、よくできました」

「お兄ちゃんありがとー」

「いえいえ」

「じゃーリリア、お母さんにオットセーさんつくってもらってくるね! お姉ちゃんのぶんもおねがいしてくるー!」


 また駆けだしていくリリアちゃん。


「ああっと、リリアちゃんお財布わすれてる!」


 また革袋をちゃりんちゃりん鳴らして呼びとめると、リリアちゃんは一度だけふり返り、


「お母さんがお兄ちゃんにわたしてだってー!!」


 と言い残して走り去っていってしまった。

 革袋は、そこそこに重い。

 こんなにもらっちゃっていいんだろうか?


「……あーあ、お嬢ちゃんは相変わらず足が速いね」

「ですねー」


 元気に走るリリアちゃんを、二階の窓から見送る俺とロザミィさん。


「…………」

「…………」


 最近のロザミィさんは、元気印なリリアちゃんがいなくなると黙り込むことが多い。

 そのくせして、目でなにか(・・・)を俺に訴えてくるのだ。

 問題があるとすれば、残念なことにその『なにか』が俺にはちんぷんかんぷんってことかな。


 こうなったロザミィさんは、なかなか自分から話しかけてきてくれない。

 だから最近の俺は、


「あ、ロザミィさん紅茶でも飲みます? いま淹れてきますねー」


 いったん離脱してお茶を淹れてくるようにしていた。

 紅茶とお菓子があれば会話もはずみやすいしね。


「……もうっ、マサキはいつもこれなんだから……」


 なにやら俺に対してご不満がある様子。

 か、加齢臭でもしちゃったのかな?


 まあ、ロザミィさんは18歳。

 日本で言えばじょしこーせーだ。

 JKだ。


 三十路ボンバエのおっさんからしてみたら、女子高生なんてもはや違う生き物なんだから、考え方が違うのもしょうがないよね。

 俺は自分の体をすんすん嗅ぎながら一階のキッチンに降りて、お茶の用意をはじめた。


 錦糸町から持ってきた『北アルプスの天然水』をヤカンに注いでカセットコンロでお湯を沸かす。

 ヤカンの水が沸騰したら火をとめ、カップにティーパックをいれてお湯をどぼどぼ。

 ロザミィさんは甘いのが好きみたいだから、砂糖をたっぷり……っと。


「お菓子はなんかあったかなー」


 棚を開けてお茶請けのお菓子を物色していると、北海道へ里帰りしていた友人からの頂きものである『白き恋人』があったので、それをチョイス。

 お皿にならべ、マグカップと一緒におぼんにのせて二階へとのぼる。


 いまの時間は、お昼過ぎぐらい。

 マイホームで午後ののどかなティータイムとか、ちょー贅沢だよね。

 なんか人生満喫しているって感じ。


「ふふふ……うふふふふ……」


 楽しすぎて、ついつい笑いがこぼれちゃうぜ。

 俺がニヤニヤしながら二階の部屋に戻ると、こんどはロザミィさんが異世界こっちの服に着替えている真っ最中だった。


「………………」


 グラマラスな肢体が衝撃的過ぎて脳がオーバーヒート。

 俺は完全にフリーズしてしまった。

 ニヤニヤ顔のままフリーズしてしまったのだった。


「あっ………………」


 一方でロザミィさんも完全フリーズ。

 ブラのフロントホックを完全開放した状態で完全フリーズ。


「………………」

「………………」


 思わず数秒間見つめあっちゃったぜ。

 先に再起動できたのはロザミィさんだった。


「……きゃ、きゃーーーーーーーーーッ!!!!!」


 ロザミィさんはそばにあった棚からロボットアニメ、『ガンダマー』のプラモ――略してガンプラを掴み、俺に向かって投げつけてくる。


「ハッ!? いや、ちがうんですロザ―――もがっ」


 それはもう、ガンプラが飛んでくること飛んでくること。

 まるで地球に落ちてくる隕石を受け止めるべく、ロボットたちが次々と隕石に向かっていくガンダマー屈指の名シーンを彷彿させる勢いだ。


 ロザミィさんはなかなかの強肩で、ガンプラたちは勢いよく俺に命中しては、次々と床に墜ちていく。

 へへへ……これ、大人になってもキッズの心を忘れない俺には大ダメージなんだぜ。


「ああっ! レイヤーの愛機がっ、西方不敗さんのガンダマーまでっ、ちょっと……ロザミィさんそれだけはダメ! デンドロさんだけはやめたげてっ!! ってああーーーーーっ!! だ、ダメ、ダメだっ――うわあああああぁぁぁぁぁんっ!!!」


 起動兵器と書いて男のロマンと読む全長1メートルあるデンドロさんを顔面で受けとめたまま、俺はゆっくりと床に倒れこんだ。

 ロザミィさんの投擲は、棚からすべてのロボットが消えるまで続くのだった。





 そして10分後。

 俺は泣いていた。


「うぅ……ヒック……うぅ……俺のデンドロさんが……」


 嗚咽を漏らして泣いていた。

 そのあまりなマジ泣きっぷりに、ロザミィさんですらばつの悪そうな顔をしている。


「あんまりだよ……師匠の機体が……木馬チームが……嘘だと言ってよバーナード……」


 思わずアニメのセリフを言っちゃうぐらい落ち込む俺。

 俺だってわかっちゃいるんだ。


 両手がおぼんでふさがっていたとはいえ、ノックしないで部屋にはいった俺が悪いって。

 でも俺のキッズな部分が涙を流さずにいられないんだよ……。


「ま、マサキ。その……ご、ごめんね……?」


 お年頃の女の子として大事なとこを見られてショックなはずなのに、ロザミィさんのほうから謝らせてしまった。

 これは大人として……なにより男として恥ずかしいよね。


「いや……いいんです。気にしないでください。俺の方こそのぞきみたいなことしちゃってすみません」

「い、いいんだよ! 鍵もかけないで着替えてたあたしが悪いんだし! ここはマサキの家なんだし!」

「でも……」

「そりゃいままで誰にも見られたことなかったからさ、なんていうか……ちょ、ちょっとは恥ずかしいよ? でも減るものじゃないから、あたしのことは気にしないでいいよ! それよりさ、そんな顔しないでいつもみたいに笑ってよ? ね?」


 顔を真っ赤にしながら俺を励ましてくれるロザミィさん。

 なんて優しいんだ。

 こんなに優しくされてしまったら、キッズな心はひとまず置いといて、元気ださないとだな。


 うん。ガンプラはまた作ればいいんだ!

 サボリーマンだから時間はたっぷりあるんだし。


「深呼吸からのヨッシャ!! ……よし、もう大丈夫です。ロザミィさん、着替え見ちゃってすみませんでした!」

「や、やめてよ! あたしもマサキの大切なもの壊しちゃったんだから……。あたしこそごめんね。できれば償いをさせてほしいな。なんでもいってよ!」

「そんなのいいですよー」

「ダメだよ! いいかいマサキ? こういうのはしっかりしなきゃダメなんだ。あたしとマサキの今後の関係のためにもね」

「どんな関係ですか……?」

「い、一緒にクエストする仲間だよっ」


 ロザミィさんは『仲間』って言葉が恥ずかしかったのか、顔が赤い。

 これが若さか……。


「ん~……。じゃあ、『おあいこ』ってことでどうです? 俺もロザミィさんも落ち度があったってことで相殺しましょう」 

「いまいちなっとくできないけど……マサキがそれでいいならあたしはいいよ」

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」


 俺はロザミィさんに手をさし出す。

 もちろん、紅茶で濡れてたからズボンでゴシゴシ拭いてからだ。


「ん? なんだいこれ?」

「仲直りの握手です」

「別にケンカなんかしてないよ……」

「ははは、ですよねー。そんじゃやめときましょうか?」

「する! 握手するよ!!」

「あ、はい」


 ロザミィさんは俺の右手を両手で掴み、ぎゅっと握ってきた。

 照れてるからか、手がとてもあったかい。


「さて、片づけよっかな」

「あ、あたしも手伝うよ」

「ありがとうございます」


 ロザミィさんと一緒にカップやらガンプラやらを片づける。

 床にクッション性の高いラグマットを敷いていたからか、80パーセントぐらいのガンプラは無傷だった。なんとデンドロさんまで。

 これは僥倖。

 3万5千円もするデンドロさんが撃墜されずにすんだぞ。


「ふー、片づいたぞ。それじゃ~、俺は紅茶を淹れなおしてきますね」

「そっちも手伝おうか?」

「ひとりで大丈夫ですよ。そうだ! バルコニーのイスとテーブルを拭いておいてもらってもいいですか? 今日は天気がいいからバルコニーでお茶しましょう」


 この家のバルコニーはかなり広い。

 昔500円ぐらいで売っていた、おもちゃじゃないれっきとしたレーシングマシンのコース(全国大会版)を設置できちゃうぐらい広いのだ。

 俺はそんなバルコニーにアンティーク調のイスとテーブルを置いていて、素敵な午後のひと時を送れるようにしていたのだった。


「わかった。やっておくね」

「お願いします」


 一階に降りて再び紅茶を淹れる。

 防水加工されているとはいえ、バルコニーに置いてるからイスもテーブルもほっとくとすぐ汚れてしまう。

 ロザミィさんはきれい好きみたいだから、いまごろガッツリ拭いてるんだろーなー……とか考えていたら、


「なんじゃこりゃーーーーーーーーッ!!!!!」


 今日一番の悲鳴がバルコニーから聞こえてきた。

 ロザミィさんらしからぬ口調だ。

 いったいなにがあったんだろう?


 俺はいったん火をとめ、バルコニーへと急いだ。

 階段を駆けあがり扉を開けバルコニーへ出ると、そこにはまたフリーズしてるロザミィさんがいた。


「ロザミィさん? おーい」


 呼びかけても返事がない。

 ロザミィさんはバルコニーの一点を見つめたまま、固まってしまっている。


「なんかあったっけ?」


 ロザミィさんの視線を追っていくと、そこには――


「あ、やべ」


 大きなプランターでフサフサしてる薬草があった。

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