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第14話 リリアVSロザミィ

『これくださーい』


 リリアちゃんとロザミィさんを連れた俺は、錦糸町でお買い物をしていた。

 目的の物は、もちろんぬいぐるみの材料だ。

 駅の隣にある総合デパートのクラフトショップへ行き、イザベラさんが欲しがっているアレコレをガンガン買物かごにいれていく。


『全部で24800円になります』

『カードでお願いします』

『カードの方お預かりします。お支払い回数はどうなさいますか?』

『一括で』

『かしこまりました』


 今回は大量買いしたせいで、けっこーな額になってしまった。

 こんだけ買えば、しばらくは材料切れをおこさないだろう。

 俺はサインしたあと店員のお姉さんから魔法のカードを受け取り、バリバリサイフにしまう。


『ありがとうございました』

『どもー』


 店員のお姉さんにそうお礼を言ってから、後ろをふり返ると、


「これリリアのー!」

「お、お嬢ちゃん、このヌイグルーミィはあたしが先に見つけたんだよっ」

「ちがうよー。リリアがさきだもん!」


 オットセイのぬいぐるみをひっぱり合う、リリアちゃんとロザミィさんがいた。

 ひっぱり合われてるぬいぐるみはたまったもんじゃない。

 布が限界まで伸びきって、いまにも破けてしまいそうだ。

 はやく止めないと。


「な、なにしてるの? ふたりとも」

「あ、マサキっ。ちょいとお嬢ちゃんに言っとくれよ。このヌイグルーミィはあたしが先に見つけたんだから、手を放しなって」

「ちがうよー。リリアがさきにオットセーさん見つけたんだもん」


 リリアちゃんのほっぺがふくらむ。

 オットセイはスカイツリーの商業施設にある、すみだ水族館のゆかいな仲間のひとり(?)で、リリアちゃんはペンギンの次にオットセイを気にいっていたのだった。


「お嬢ちゃん、う、ウソはいけないねぇ」

「お姉ちゃんこそウソついたらダメなんだよ。いっしょー(一生)おヨメさんにいけなくなっちゃうんだよ」

「うッ……」


 リリアちゃんのひと言でロザミィさんの手が緩む。

 その拍子にぬいぐるみはすっぽんと引っこ抜かれ、無事リリアちゃんの手の中におさまった。

 取り戻そうとしないあたり、リリアちゃんに図星をつかれたのかな? ロザミィさんがなんか泣きそうな顔をしている。


「マサキ……このヌイグルーミィ、あたしも欲しいよ……」

「ロザミィさん……」


 なるほど。ぬいぐるみのあまりの可愛さに、ロザミィさんったらつい大人げない行動をとってしまったわけか。

 5歳の女の子と張りあう大人ってどうなんだろ?

 なんかすっげー泣きそうな顔してるし。


「しかたないですねー」


 ふたりが取りあいしていたオットセイのぬいぐるみは、お店の商品サンプルだ。

 自分で作る系のぬいぐるみで、材料がまるっとはいった袋が棚に並んでいる。


「リリアちゃん、そのオットセイはお店のだから元の場所に戻して。いま材料買うからさ」

「はーい」


 リリアちゃんがオットセイをなでなでしてから元々あった場所に戻す。

 んー。聞き分けの良い子だ。


「ま、マサキあたしのはっ!? あたしのも買っておくれよっ。なんでもするからさぁ!」

「わ、わかってますって。ロザミィさんにはいろいろお世話になってますから、俺からプレゼントさせてもらいます」

「本当かい!? ありがとうマサキ!」

「お姉ちゃんよかったねー」


 俺はロザミィさんに抱きつかれたまま、棚からオットセイ素材のはいった袋をふたつ取り、


『これもください』


 魔法のカードでお買いあげ。

 リリアちゃんもロザミィさんも、歓喜の声をあげていた。


 このあと、俺たちはお昼ご飯を食べるためデパートの10階にあるレストランフロアに行き、定食屋さんの小戸屋しょうとやへとはいった。

 俺はカツ煮込み定食を頼み、ロザミィさんが国産地鶏のから揚げ定食。リリアちゃんはもちろんお子様ランチだ。


『お待たせしましたー』


 15分ぐらいして食べ物が運ばれてくる。

 俺たちは「いただきます」をしてから、すぐに食べはじめた。


「コレおいしーね、お兄ちゃん」

「そうだねー。リリアちゃんはハンバーグすき?」

「ん! リリアはんばぐすきー!」

「『ハンバグ』じゃなくて、ハンバーグ」

「ん。はんばーぐ」


 リリアちゃんは日本語を覚えたいみたいで、言葉が間違っていたら直してくれるよう俺に頼んでいたのだ。



「そう! リリアちゃんは憶えるのはやいなー」

「へへー」


 お箸を器用に使いながらハンバーグを頬張るリリアちゃん。

 その素敵な笑顔は俺だけじゃなく、まわりのひとたちまで幸せにしていた。

 となりのテーブルのカップルなんか、リリアちゃんを見ながらほっこりしてるしね。


「マサキ、これカリャーゲって言うんだっけ? 美味しいね。いったいなんの肉なんだい?」

「それはニワトリ……って向こう(異世界)にもいるのかな? 鶏の肉に小麦粉の衣をつけて油で揚げたんですよ」

「これが鶏肉だって? ……こんな上物、あっちじゃめったに食べられないよ」

「へー。そうなんですか?」

「そうさ。食べれるとしたら……貴族さまや大商人ぐらいじゃないのかねぇ? ……ウフフフ。そう考えると、なんかゴドジやゲーツたちに自慢したくなっちゃうね」


 ロザミィさんはニヤリと笑うと、突然から揚げを紙ナプキンで包みはじめた。

 ゲーツさんとゴドジさんにお土産として持って帰るつもりなのかな?

 俺にふたりへの不満をブーブー言うわりには、なんだかんだ言ってロザミィさんは仲間想いなのだ。優しい女性なのだ。

 でもから揚げをズボンのポケットにいれるのは、どうかと思うけどね。


「ね、ねぇマサキ」

「ん? なんですロザミィさん」


 ご飯を食べていると、不意にロザミィさんが話しかけてきた。

 俺のカツ煮込みを狙っているのかな?


「い、いやね、なんてゆーか……こ、こうしてお嬢ちゃんと3人でいるとさ。ま、まわりからはどー見えるのかなーって」


 ロザミィさんの顔が赤い。

 これはアレかな?

 外国人にしか見えない(本当は異世界人)ロザミィさんは、周囲から好奇な目で見られるのが恥ずかしいのかもしれない。


「そ、そうですねー……」


 俺は言葉をにごす。

 たぶん――いや、間違いなくロザミィさんが注目を集めちゃってるのは、髪が紫色のせいだと思う。

 紫色の髪をしたひとを見る機会なんて、お年寄りの原宿と呼ばれる巣鴨にいったときぐらいだもんな。

 おばあちゃんたちって、なぜか髪を紫色に染めるひとが多いから。


「3人がってよりは、みんなロザミィさんやリリアちゃんのことばっか見てると思いますよ。だって、ふたりともとっても可愛いんですから」


 ナイス俺。

 我ながら大人な対応だ。


「なっ……もうっ、そんなことを聞いてんじゃないよ」

「あれ? 違いました?」

「ぜ、ぜんぜん違うよ。あたしが言ってるのは……その、ほらっ、マサキとあたしとお嬢ちゃんの3人だと、かぞ……家族に間違えられんじゃないかって、そーゆーことだよ」


 ロザミィさんが、ぷいとそっぽを向いてしまった。


「お姉ちゃん、おかおが赤いよー?」

「ふんっ」


 リリアちゃんのツッコミにもシカティングだ。

 大人げない。


 しっかし、俺とロザミィさん、それにリリアちゃんが家族ねー。

 んー……ないな。

 リリアちゃんの顔には俺要素がまるでないし、誰がどう見ても観光客とそれを案内するおっさんにしか見えないだろう。


「ははは、家族ですかー。確かに俺はリリアちゃんぐらいの子どもがいても、おかしくない歳ですけどね」

「そういえばマサキは歳いくつなんだい? あたしとそう離れてないとは思うんだけど……」

「あれ、言ってませんでしたっけ? 俺は33ですよ」


 リアクション芸人もビックリな勢いで、盛大に椅子から転げ落ちるロザミィさん。

 おおう。まわりの目がチクチクといたいぞ。

 店員さんもすっとんできたし。


「な、な、なんだって!? 33!? じょ、冗談言ってるんじゃないよ!」

「いや、冗談じゃないですって。俺33歳ですもん」

「はぁっ!? じゃあなにかい? そんな顔してあたしより15も上だったのかい!?」

「あ、ロザミィさんて18歳だったんですか。うわー、若いなー」


 18歳とか、高校3年生じゃないですか。

 そうとはしらずに連れまわしてたなんて、これは逮捕待ったなしだぜ。 


「なに言ってんのさ。18は十分に大人だろ? 子どものひとりやふたりいたっておかしくない歳じゃないのさ」

「そうなんですか? いやー、こっち(日本)だと晩婚化が進んでましてね……。俺ぐらいの年齢でも独身ってのは、別に珍しくないんですよ。男も女も」

「女もなのかい? さすがにウソだろ……?」

「ところがどっこい、本当なんですよ」

「……ちょっと信じられないね」


 カルチャーショックを受けてんだろうな。

 ロザミィさんは何度も首を横に振っていた。


「まあ、文化の違いってやつですかねー」

「……じゃ、じゃあなにかい? ま、マサキはまだ結婚しないのかい?」

「ははは……俺もそろそろしたいんですけどねー。いかんせん、相手が見つからなくて」


 照れ隠しに後ろ頭をポリポリかく俺。

 ホントは俺だって結婚して両親を安心させてやりたいんだよ。

 でも相手が見つからないんだよ。

 街コンいったってボストロールとしかエンカウントしないんだよ。


「ふ、ふーん。そうなんだ。ま、マサキも結婚したいんだね。じゃ、じゃあ――」

「お兄ちゃんはリリアと結婚するの! リリアがお兄ちゃんのおヨメさんになるのー!」

「な、なにを言ってるのさお嬢ちゃん! 歳の差を考えなよ!」

「あいにとしのさは関係ないってお母さんがいってたもん!」

「でもねぇ、さすがに――」

「いってたもん! だからリリアにぽんごおぼえてお兄ちゃんのおヨメさんになるの!」

「あ、ずるいよお嬢ちゃん。だからこっちの言葉を覚えようとしてたんだね……抜け駆けだよ!」

「リリアお兄ちゃんのおヨメさんになるもん!!」


 突如として騒がしくなった俺たちのテーブル。

 もちろん、店員さんがもの凄い速さですっ飛んできて、


『あの、他のお客様のご迷惑となりますので……』


 俺たちは退店することになってしまった。


「マサキ……その、ごめん」

「お兄ちゃんごめんなさい……」


 しゅんとしょげ返るふたり。

 俺はそんなふたりを連れて、


「ぬいぐるみの材料も買ったし、そろそろ戻ろっか?」

「…………はい」

「…………ん」


 異世界(向こう)へと転移するのだった。

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