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第13話 忘れられたムロン

 薬草栽培に成功した俺は、異世界で安定した収入を得られるようになった。

 転移したついでにプランターで栽培している薬草を引っこ抜いて、冒険者ギルド(ギルド)に持っていくだけでいいのだ。

 いま薬草は品薄で値段が高騰しているらしく、持っていくたびにギルドの受付嬢であるレコアさんに喜んで迎え入れられた。


「マサキさん、ありがとうございます!」


 素敵な笑顔でそんなこと言われちゃうもんだから、俺もついつい調子にのって薬草を引っこ抜いてしまうのだ。

 おかげで、レコアさんは俺の顔を見ただけで、


「今日も薬草ですね?」


 と半笑いで聞いてくるようになってしまった。ちょっと恥ずかしい。

 あと、これはロザミィさんに聞いたことだけど、ギルドの中で俺はいま「薬草の専門のヤツ」とか、もっとシンプルに「薬草」と呼ばれているそうだ。

 せっかく冒険者になったのに、二つ名が「薬草」なんて嫌すぎる。

 もっとかっちょいい二つ名もらえるように、活躍しないとだな。



「さて、このあとなにしよっかなー」


 さきほど、日課となりつつある薬草売却を終えた俺は、家のベッド(鳥忠とりちゅうホームズで買ったやつ)でゴロゴロしながら考えをめぐらす。

 待ちに待った金曜の夜なんだ。

 せっかくだから、おもいきりはっちゃけたい。


 ムロンとお酒を飲むのもいいし、ロザミィさんとのご飯の約束を果たすのもいいな。

 でも、まずは……


「リリアちゃーん。あっそびっましょー」

「わーい! お兄ちゃんおかえりー!」


 リリアちゃんに挨拶しないとだ。


「ただいま、リリアちゃん」

「んー!」


 ムロンさんの玄関から弾丸のようにとび出してきて、ぐわしと抱きついてくるリリアちゃん。

 俺はそんなリリアちゃんを優しく受けとめ、頭をなでなで。


「えへへへ……」


 リリアちゃんは猫みたいに目を細めていて、なんだか嬉しそうだ。

 しばらくなでなでしていると、俺がやってきたことに気づいたのか、奥からイザベラさんが顔をのぞかせた。


「あらあら、いっらしゃいマサキさん」

「こんばんはイザベラさん。いっつも突然おじゃましちゃってすみません」

「いいんですよ。わたしもムロン()も、マサキさんのこともう家族だと思っているんですから」


 なんて暖かい言葉をかけてくれるんだイザベラさん。

 ちょっと目頭が熱くなっちゃったじゃないか。


「あ、いまちょうどお夕飯をつくっているところなんです。マサキさんも一緒にいかがですか?」

「いいんですか? なら遠慮しないでご馳走になっちゃいます」

「うふふ。今日はムロン()が遅くなるそうですので、遊びに来てくれて嬉しいです。マサキさんが来るとリリアが喜びますから。ねぇ、リリア?」

「ん! リリアお兄ちゃんと一緒にいると楽しいの!!」

「あはは。ありがとリリアちゃん。俺もリリアちゃんと一緒だと楽しいよ」

「やったー!! お兄ちゃん、きょうはいっぱいあそぼーねっ」

「もちろんだよ!」

「あらあら」


 リリアちゃんを抱っこしたままテーブルに移動。

 今日はムロンさんが冒険者ギルドの同僚さんたちと飲んでくるそうで、帰りが遅いらしい。

 職場でのつき合いは大事なことだから、これはしかたないか。


「じゃあ、夕ご飯にしましょう。リリア、運ぶの手伝ってくれる?」

「はーい!」

「あ、俺も手伝いますよ」

「あら、ありがとうございます。ならお願いしちゃおうかしら」

「ドーンと任せてください!」


 俺はリリアちゃんと一緒に、イザベラさんが作った料理をテーブルへと運んだ。

 リリアちゃんは、小さな手で器用にお皿を運んでいる。

 まだ5歳なのに、ぜんぜん危なっかしくなかった。


「「「いっただっきま-す!」」」


 三人で手を合わせ、恒例の「いただきます」。

 イザベラさんなんかはまだ「イタダキマス」ってカタコトだけど、リリアちゃんはちょいちょい錦糸町にきているせいか、だいぶ流ちょうになってきた。

 この分だと、そのうち日本語を話せるようになっちゃったりして。


「あ、そういえばマサキさん、ひとついいですか?」


 料理をパクついていると、不意にイザベラさんがそう言ってきた。


「はい。なんでしょう?」

「実は、先日いただいたヌイグルミの材料なんですが、あれはどこで買われたんですか?」

「…………え? な、なんでそんなことを……?」

「いえ、実はあれからいくつもぬいぐるみを作ったんですけど、このあいだついに材料がきれてしまいまして……。いくつかお店をまわったんですが、マサキさんからいただいた材料と同じものを見つけることができなかったんです」

「……な、なるほど」

「それで、もしよかったらわたしにお店を教えてくれませんか?」


 やべぇ。不意打ちすぎるよイザベラさん。

 どうする俺? 「こことは違う世界で買ったんですよー」とか言っても信じてもらえないに決まってる。

 いっそイザベラさんも錦糸町に招待するべきか?


 でもそーするとムロンさんも呼ばないとだから、かなりめんどくさいことになっちゃぞ。

 頭より先に体が動いちゃうムロンさんのことだ。

 ぜったいに錦糸町で行方不明になっちゃう。


「え、えっと……お、お店はですね……」


 しどろもどろになりながら、横目でちらりとリリアちゃんを見る。

 リリアちゃんも激しく動揺しているのか、震える手で持つコップからお水がばしゃばしゃこぼれていた。


「ダメ……ですか?」

「いや、ダメじゃないんです! でもなんて言うか……ちょっといきづらい場所にあるっていうか……その……あっ、そうだ! 俺が買ってきます! うん、それがいいっ!」

「ですが、それだとマサキさんの迷惑になってしまいます」

「ぜんっぜん迷惑なんかじゃないですよ! むしろ大歓迎です! いやホント! それにイザベラさんとお買い物にいっちゃったら、俺、ムロンさんに嫉妬されちゃいますよー」

「でも……」


 なおも食い下がってくるイザベラさん。

 俺だってわかっているんだ。

 イザベラさんが俺に迷惑かけたくないから、自分で買いにいこうとしてるってことぐらい。


 でもぬいぐるみの材料が売ってるのは錦糸町なんだよ。

 日本円が必要になってくるんだよ。

 異世界(こっち)の銀貨をだしたって、みんなポカンなんだよ。


「お兄ちゃん! リリアもいっていーいっ?」

「おー! リリアちゃんが来てくれるのかいっ? 俺うれしいよ!!」

「ん!! お母さん、お母さんのかわりにリリアがお兄ちゃんといってくるね!」


 リリアちゃんから発せられた助け舟。

 俺はその勇ましい助け舟に迷うことなく飛び乗った。

 リリアちゃんの目は泳ぎまくってたけど。


「……ふぅ。そういうことでしたらリリアにお願いしようかな。リリア、あなたにおカネを渡すから、材料を買ってきてもらえるかしら?」

「ん」

「ぜったいにマサキさんに買ってもらうんじゃありませんよ」

「はーい」

「ん。じゃあお願いね。……マサキさん、わたしの代わりリリアがいきますので、どうかよろしくお願いします」

「はい。任せてください」


 明日の錦糸町行きが決まった瞬間だった。

 まあ、久しぶりに錦糸町へいけるとリリアちゃんが喜んでいるからいいか。

 もしロザミィさんがヒマしてたら、一緒に誘ってみよっと。

 

 夕食をごちそうになったあと、俺はリリアちゃんとイザベラさんの3人でカードゲームをして遊んだ。

 勝ったり負けたりきゃっきゃしてると、いつの間にかムロンさんが帰ってきていて、楽しそうな俺たちを見て大いに拗ねてしまうのだった。

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