第12話 頑張れマサキ! 友に捧げた大勝利
中島スペシャルのプランターに薬草を植えかえたら1日がたち、2日がたち、3日がたったところで薬草は枯れてしまった。
「ふーむ。……3日かー」
これは、異世界から持ち帰ってきた、薬草が生えていた土と同じ日数だけもったことになる。
「となると……」
俺はプランターにある中島スペシャルをシャベルでひとすくいし、呟く。
「この土をまた中島に送れば、なにかわかるかもしれないな」
俺は薬草が土から特定の栄養素を吸収していて、それが不足してしまったから3日目に枯れてしまった、と仮説をたてる。
だとすれば、このプランターに残った土を中島に再分析してもらえば、その栄養素がなにか特定できるんじゃないだろうか?
「よーし」
思い立ったら即行動。
俺は中島にメールをいれてからプランターに残った土を箱につめ、再び送りつけるのだった。
そして10日後。
中島から分析結果がかえってきた。
こんどは前回の経験を踏まえてか、簡潔にまとめてある。
《カルシウム足りなすぎ》
非常にわかりやすい回答だった。
中島やればできる子じゃん。
詳しく聞いたところ、なんでも土のカルシウムがめっちゃ少なくなっていたらしい。
なるほど。カルシウムですか。
だとすれば、いよいよもって俺のたてた仮説、森の生き物のオシッコ説が有力になってきたな。
ミネラル豊富なオシッコを受けとめて土が潤い、薬草が芽吹く。
大自然が生み出す奇跡。
居酒屋の男子便器がオシッコ受けすぎて、表面がカルシウムでカリカリになってるのと一緒だ。
俺の脳裏に、立ちションしているオークの姿が思い浮かぶ。
「っつーことはだ、」
ミネラル豊富なオシッコをするオーク。
「尿路結石に苦しむモンスターもいるのかな……?」
そんな俺の呟きは、ベランダに吹き込む風に乗ってどこかへと消えていった。
ってな感じで5分ぐらいカッコつけてた俺は、思いだしたようにスマホを取りだして、
《どーすれば元の数値までもどるの? おせーてプリーズ》
と中島にメールを送る。
1時間後、中島から返信があり、いくつかのアドバイスを頂戴することができた。
「さんきゅー、中島……っと。返信!」
原因さえわかれば、対応は可能だ。
まずは中島スペシャルをつくり、異世界へいって薬草ゲット。
なんか最近、薬草としかたわむれてないなー、とか考えながらも錦糸町に戻ってきてプランターに植えかえる。
ここまでは前回と一緒。
重要なのはここからだ。
俺は鳥忠ホームズで石灰肥料を買ってきて、中島のアドバイス通り土に撒く。
なんでかしらないけど、薬草はカルシウムの吸収率が常軌を逸しているみたいだから、遠慮なくばら撒いてやったぞ。
茎葉に直接カルシウムを吸収させるべく、おまけで葉面散布剤まで吹きつけておいた。
ここまでやったんだ。
もうカルシム不足だなんて、そんなもやしっ子みたいなことは言わさないぞ。
それからの俺は毎朝毎晩、ハラハラした気持ちでベランダの薬草を見守り、
「三度目の正直……神さまっ、お頼もうします! お頼もうします!!」
祈りを捧げた。
そして運命の日となる3日目の朝、
「おおっ」
薬草はピンピンしているじゃありませんか。
それどころか、なんか小さな芽まででているぞ。
「枯れてない……枯れてないぞ! 成功だ! やったぜ中島ッ!!」
どこからか「おめでとう近江」と言う、親友の声が聞こえた気がした。
数日後。
ベランダのプランターを眺めた俺は、
「こりゃあ……大成功なんてレベルじゃないな」
と言って薬草栽培に成功した感動に浸っていた。
「しっかし、すげー繁殖力だな」
プランターには、隙間なく薬草がフサフサしている。
カルシウムを過剰投与した薬草は、まるで水を得た魚のようだった。
ミントさんもビックリな繁殖力をみせ、数日でプランターを埋めつくすほどに増えたのだ。
地下茎でプランターいっぱいにひろがっていき、そこからポコポコと新しい芽が生えてくる。
条件さえ整えてやれば、繁殖させるのはベリーイージーだった。
俺は増えた薬草を別のプランターに植えかえ、そこでも繁殖させていく。
そうやってなんどか繰り返していくうちに、気づけばうちのベランダは薬草でいっぱいになっていた。
いつ向かいのマンションから、「謎の葉っぱを栽培してる」って通報されてもおかしくない状況だぞ。
そんで尋ねてきたお巡りさんに「君、これはなんの葉っぱなの?」って聞かれて、俺は満面の笑みで「元気になる葉っぱです!」と答えるのだ。
うん。逮捕まったなしだね。
はやくなんとかしないと。
「しかたがない。保険としてプランターを1個だけのこして、あとは異世界にぜんぶ持っていくか」
いまでも3日に2日は異世界へ行っている。
いったついでに土を調整すれば、薬草が枯れることはまずないだろう。
それにどうせ引っこ抜いて冒険者ギルドへ売るなら、向こうの家で栽培してたほうが楽だしね。
「うんしょっと」
俺はプランターを抱えあげ、転移魔法を起動して異世界へと運んでいくのだった。
心配して下さったみなさん、ありがとうございます。
おトイレの時とかプルプル震えてますけど、わたしは元気です。




