第11話 託されたもの
そして2週間後。
やっと中島から分析結果がメールで送られてきた。
「おっ、きてるきてる。添付ファイルをひらいて……っと」
中島のメールに添付されていた『診断結果』と書かれたPDFファイルをひらく。
「うおっ!?」
ソフトが立ちあがり、パソコンのモニターが文字と数字でびっしりと埋めつくされる。
これが薬草の生えてた土の成分表なんだろう。
「ぺ、ぺーはーがこれで……石灰に……苦土? 苦土ってなんだよ? カリ? リン酸? もうっ、わっけわかんねーよなかじまぁっ!!」
最初の数行で脳が視覚から送られてくる情報を拒絶したため、俺はスマホを取りだしてそっこー中島に救援要請のメールを送る。
打ち込んだメール内容はこうだ。
《長い。三行で頼む》
すると、すぐに返信があった。
《土の成分バランス悪すぎ》
一行だった。
「……バランスねぇ」
植物は、土が合わないとすぐ枯れてしまう。
そんなのはあたり前のことだ。
だから俺もいろんな土で薬草が育つか試してみたんだけど……なるほど。
さすがはファンタジー世界の植物さんだ。
地球の常識が通用しないとはおそれいったぜ。
「この土の作りかたをおせーて、っと。送信」
薬草が異世界の畑でも育たないで、森の限定的な場所でのみ生育するってことは、きっと土に外的要因が加わったからだろう。
考えられるのは、森に住むモンスターのオシッコやウンチとかかな?
縄張りを示すマーキングが土の成分バランスに影響を与えてるとか?
うーむ。この考え、実はなかなかいい線いってるんじゃなかろうか。
オシッコが要因だったら、薬草の生える場所が安定しないのも納得だ。
そのモンスターが死んじゃったら、その場所でオシッコするヤツがいなくなっちゃうんだもんね。
とか考えていたら、中島から返信があった。
「ふむふむ……」
メールには、薬草が生えてた土のつくり方が詳細に書かれていた。
しかも、ベランダ栽培家である俺でもつくれるよう丁寧に。
親友である中島の心づかいに感謝。
たまには一緒に野球やってあげてもいいかもしれないな。
ふたりしかいないからキャッチボールしかできないけど。
「なるほどね。このレシピ通りまぜれば同じ土ができるわけか」
俺は中島に「サンキュー」とお礼のメールを送ると、間をおかずに返信が届いた。
《いいか近江。そんなバランスの悪い土じゃ作物は絶対に育たない。こんな土は母なる大地への冒涜だ。だから絶対に作るなよ? いいか絶対だぞ! 絶対だかんな!!》
親友から届いた、とっても熱い前フリ。
そんなん言われてしまったら、いやがおうにも古い記憶が呼び起こされ、昔、中島と一緒にテレビで見ていた芸人トリオのカチョウ倶楽部を思いだしてしまうじゃないか。
「ふっ、中島のやつめ……」
ならば、ここは中島の親友として、その想いに応えてやらねばならないな。
「はぁ!!」
俺は自転車で蔵前橋通りを走り抜け、鳥忠ホームズへと行く。
そこでレシピ通りの化学肥料を買いあさり、また自転車で帰宅。
土と肥料をまぜまぜしながら、その光景を動画で撮影。
撮りおわってから中島に送りつけてやった。
メールの文面はこうだ。
《絶対にやるなって……コレのことかぁ? んん? コレのことなのかぁ~。ほーれほれ、まぜまぜしちゃうぞー》
中島の返信は早かった。
《だめぇ!! 近江だめだよぉ……そ、そんなことしたら土が……らめぇになっちゃうのぉ……つ、土が……こわれ、壊れちゃう……おかしくなっちゃう………………おっほおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!》
こんなのが三十路をすぎたおっさん同士のメールだってんだから、ホラーでしかない。
このあと、俺は異世界《向こう》へ薬草を摘みにいき、戻ってきては中島スペシャルの土に入れ替えたプランターに植えていくのだった。
薬草よ、フサフサになれ。
と祈りながら。




