第10話 その名は中島
「いよう中島! ひっさしぶりだなー。元気してたか?」
『おいおい近江じゃないかー。急にどーしたんだよー。あ、さては……また僕と野球やりたくなったんだろ? そうなんだろう? なっ? なっ?』
野球大好き中島とは小学校からの親友で、かれこれもう25年のつき合いになる腐れ縁だ。
最後にあったのは4年も前だけど、こうして電話をすれば昔と同じように会話ができるんだから、やっぱ中島は特別な存在なんだろーな。
「野球はいいよ。俺、どっちかってーとサッカー派だし。それより電話したのは中島に頼みたいことがあるからなんだ」
『頼みたいこと……だって? どんな用だ? いくら親友のお前でも、金貸してってことなら他を当たってくれよ。あと宗教勧誘もお断りだ』
「そんなんじゃないよ」
そんな親友である中島に電話をかけたのには、もちろん理由がある。
『じゃあ聞いてあげようかな。で、僕にどんな用があるんだ?』
中島は土壌分析をしている会社に勤めているのだ。
なんでも、畑とかの土を科学的に分析して農家の方たちに適切なアドバイスを送る仕事なんだそうな。
そこで俺は、薬草が生えてた土を中島に分析してもらおうと思ったのだった。
「実はさ、中島に調べてほしい土があるんだよ」
『おっ、なんだなんだ? ってことは……近江もついに農業に目覚めたな? 農業はいいぞー。なんせ母なる大地と作物っていう子供をつくる仕事だ。恵みをもたらしてくれる大地は母親――つまり女性。昔っから女性を妊娠させるのは男の役目だからなー。ん! 近江もやっと男になる決心がついたか!』
俺が脱サラして農家にでもなると勘違いしちゃったんだろうな。
なんか中島の思考がななめにうえへと向かってしまった。
「あいにくだけど、俺は農家に転職しないからな」
『なんだよー。農業やらないのかよー。農業やろーよー。ふたりで地球を妊娠させよーぜー』
「農業も野球もやらないよ」
『ちぇー』
中島が拗ねたような声を出す。
どんだけ農家になってほしかったんだか。
こんなふうに中島は大地を愛しすぎてちょっと向こう側へへいっちゃうこともある男だけど、信頼はできる。
俺は話の本題へとはいった。
「実はさ、ちょっと珍しい土を手にいれたから、どんな成分なのか中島に調べてもらいたいんだよ」
『なんだよー、なにかと思えばそんなことか。いいよ。土壌分析なんかはいつもやってる仕事だからな。大した手間じゃないよ』
「頼めるか?」
『ああ。分析したい土を僕の会社に送ってくれ。送り先の住所はあとでメールするよ』
「さんきゅー! こんど飯おごるよ」
『いいねー。久しぶりに近江とも会いたいし。来月あたり出張で東京いくから、その時にでも奢ってくれよ』
「おっけー。じゃあよろしくなー」
『おーう』
俺は電話を切ったあと、俺はさっそく土を取りにいくべく異世界へと転移した。
「マサキ、こんなもんでいいかい?」
薬草が生えてた土を袋につめたロザミィさんが聞いてくる。
俺はその袋につまった土を見て、大きく頷いた。
「ありがとございますロザミィさん」
「でも……森の土なんか持って帰ってどうするつもりなんだい?」
「そこはまぁ、いろいろとありまして」
「ふーん。ま、マサキのやることだ。これにも意味があるんだろね」
「ふっふっふ。成功したら教えますね」
「ありがと。期待しないでまってるよ」
俺とロザミィさんはズェーダに戻り、その場で解散。
ロザミィさんはお腹が空いているのか、なんか一緒にご飯を食べたそうな顔をしていたけど、俺には中島に土を送るって約束があるんだ。
ご飯はまたこんどいくとしよう。
「そんじゃ、錦糸町に戻るか」
ズェーダの自宅から錦糸町の自宅へ転移。
家へと戻った俺は、さっそく土をダンボール箱につめて、中島に送るのだった。
翌々日、中島から『土が届いた』とメールがはいった。
いま仕事が立て込んでいるらしく、分析結果が出るには2週間ぐらいかかるとのこと。
「けっこーかかるんだなー。ならしかたがない。ゆっくり待ちますかー」
俺はその2週間を、薄毛の方たちをフサフサにして契約を取ったり、冒険者ギルドの訓練場でムロンさんに剣の使いかたを教えてもらいながら、のんびりと過ごしていくのだった。




