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第9話 勝利と敗北の軌跡

 リリアちゃんとロザミィさんを異世界(向こう)側へと送ったあと、俺は薬草を持って錦糸町の自宅に帰ってきた。


「ぼっちだけど、ただいまー」


 もちろん、ベランダを薬草でフサフサにするためだ。

 先月まで育てていたキュウリは、夏の終わりとともに土へとかえっていった。

 次はソラマメでも育てようかなー……とか思っていた矢先に薬草をゲットしちゃったんだから、こりゃあ育ててみるしかないよね。


「さて、さっそく植えてみるか」


 薬草の見た目はタンポポの葉っぱだ。

 でもそのままでも食べられる(ロザミィさんに教えてもらった)ってことは、葉野菜と同じジャンルなのかもしれない。


「よいしょっと」


 そんなおっさんくさいかけ声をしながら、俺はプランター菜園の準備にとりかかった。


 プランターの底に鉢底石を敷きつめ、その上に鉢底ネットをかぶせる。

 お次は土だ。

 鳥忠ホームズで買ってきた腐葉土を、プランターのふち下3センチぐらいのところまでいれていく。


 そして薬草を植える用の穴をちょっとだけ掘り、そこにやさしく植える。

 薬草がどれだけ根をのばすかわからないので、取りあえず絶好調に根を伸ばすゴーヤ級と仮定し、ひとつのプランターに薬草をふたつだけ植えることにした。

 もちろん、薬草同士の間隔はそれなりにあけてある。


 俺は野菜用、観葉植物用、山野草用、花用、合計4つのプランターをつくり、それぞれにふたつづつ薬草を植えていく。

 特性の違う土のうち、どれが薬草の栽培に向いているか調べるためだ。


「ふっふ~ん」


 土が湿るぐらいゾウさんジョウロで水をやってひとまず完成。

 俺は無事に育ってくれることを祈りながら、お風呂に入って眠りへとついた。





 翌日。

 歯みがきしながらベランダにでると、なんということでしょう、薬草さんたちがぐったりしているじゃないですか。


「……マジかよ?」


 四種類の土を用意したのに、どれも合わなかったってことか?

 俺は薬草の葉をつまみ、じっくりと観察する。


「んー……」


 長年ベランダ栽培してきた経験が告げてくる。

 これはダメなパターンだ、と。

 俺は昨夜に続き、ゾウさんジョウロで水をたっぷりあげながら対策を考える。


 といっても、取れる手なんかない。

 せいぜいが追肥ぐらいなものだ。

 でも、買ったばかりの腐葉土だから、土の栄養はたっぷりなはずなんだけどなー。

 俺は一番栄養がたっぷりな野菜用腐葉土を使ったプランターに、液体肥料で追肥してから仕事へとでた。


 出社し、タイムカードを押して外回りへとでる。

 今月分のノルマはすでに達成してるから、ここからはサボリーマンの時間だ。

 

 その日の俺は、本屋で家庭菜園の本を読んだり、ネカフェで様々な作物の育て方を調べたりして一日を終えた。


「ただいまー」


 帰宅してベランダへでる。


「あっちゃー……」


 予想していた通り、薬草は見事に萎れていた。

 ぐったりを遥かに通り越して、もう土に横たわっている。


「全滅かよ……」


 こうして、第1回薬草栽培計画は失敗に終わった。





 翌日の火曜日。

 俺はタイムカードを押してから自宅に帰り、そのまま異世界あっちに転移。

 冒険者装備に着替え、森へと向かった。


 目的はもちろん薬草だ。

 ロザミィさんに教えられたように日当たりのよい場所を探し、薬草を見つける。

 そこで俺は、薬草と一緒に周囲の土も持ち帰ることにした。


 薬草が生えてた土をプランターに移してみようと思ったからだ。

 10キロぐらいの土を持ち帰り、プランターへと移す。


「こんどこそ……こんどこそ……」


 そう願って薬草を植えるも、三日後には見事枯れていた。

 なんだよこれ?





「くっそー……なんでだよ」


 ビールを飲みながら悪態をつく。

 俺が薬草栽培をはじめてから、すでに10日あまり。

 未だ結果はでていなかった。


 ホームセンターで売ってた腐葉土に、薬草が生えてた周辺の土。

 森の土も試してみたし、ファスト村からゆずってもらった畑の土だって試した。

 けれど、ぜんぶダメだった。


 ホームセンターの腐葉土だと1日しか持たず。

 森の土でも1日半が限界。

 薬草が生えてた土でも3日で枯れてしまった。


 どんな土に植えてみても、数日で薬草は枯れてしまったのだ。

 途方にくれる俺の脳裏に、ロザミィさんの言葉が蘇る。


(薬草はずーっと昔から、多くの錬金術師や魔導士が研究してきたのさ。さっきあんたが言った、『畑で薬草を育てる』ってのをね。でも誰も成功しなかった。おっきな畑に薬草を植えても、すぐに枯れちゃったそうだよ)


 ロザミィさんの言葉は本当だった。

 考えつくかぎりの土を試してみたけど、けっきょく成功しなかったんだから。


「はぁ……。まさか小玉スイカより手強い相手がいるとは思わなかったぜ……」


 ベランダで小玉スイカを栽培したことは、俺のちょっとした自慢だったのだ。

 それがいまでは、ささやかなプライドが粉みじんに砕かれてしまった……。


「なーんで枯れちゃうかなー。土が合わないっていっても、生えてた土でも枯れちゃうってどーゆーことだよ。くそー」


 悔しさからビールをぐびぐびいっちゃう。

 これはアレか?

 生えてた土から必要な栄養素を吸い上げちゃったから枯れちゃうのか?


「んー、せめて土の成分がわかれば…………って、」


 そこでふと、素敵な考えが閃いた。


「そうだよ。調べればいいんだよ! 土の成分をっ!!」


 俺はすぐにポケットからスマホを取りだし、昔の友人に電話をかけるのだった。

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