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第8話 スパイス5種確認

 鳥忠とりちゅうホームズは、1階がホームセンターで2階が家具売り場となっている。


「ふたりとも俺についてきて」


 タクシーをおりた俺は、キョロキョロするふたりを連れて2階へとあがった。


「椅子にテーブルにベッド……それにわけわかんないものまであるね。まったく……なんて広さだよ」


 ロザミィさんが呟く。

 目の前にはフロアいっぱいに様々な家具がならんでいる。


「お兄ちゃんなにかうのー?」

「ふっふっふ。今日はね、俺のベッドを買いにきたんだ」

「ベッド? キンシチョーにあるのじゃダメなの?」

「うん。錦糸町用じゃなくてね、ズェーダの家用にほしいんだ」


 なんせマイホームだ。

 どうせなら家具やインテリアにこだわってみたい。

 マイホームを持つ者だけにゆるされた、贅沢な悩みってやつだ。


 よーし。今日は最低でもベッドとソファを買っちゃうぞ。

 ああ、あと一階で薬草用のプランターと土に肥料も買わないとだな。

 く~。やることが満載だ。


「ベッド売り場は……こっちか」


 俺はベッド売り場へと移動する。


「どのベッドにしようかなー」

「お兄ちゃん、これっ、このベッドすごいふかふかだよ!」


 俺が売り場を見て回っていると、いつの間にかリリアちゃんがベッドでぴょんぴょんしていた。

 うーん。相変わらずすごい跳躍力だ。

 ベッドのスプリングとリリアちゃんの脚力が合わさって、天井スレッスレまでジャンプしてるぜ。


 さすがの店員さんも、これには苦笑い。

 俺は慌ててジャンプ中のリリアちゃんを空中でキャッチ。

 店員さんに向かって深く頭をさげる。


「り、リリアちゃん、ベッドでジャンプしちゃいけません!」

「ごめんなさい……」


 俺の慌てっぷりを見てダメなことだと理解してくれたのか、リリアちゃんが謝ってきた。

 なんて賢い子なんでしょう。

 リリアちゃんみたいな子供だったら、あんまり手がかからないんだろうな。

 もし俺に子供ができたら、ぜひイザベラさんに育て方のコツを聞いてみたい。


「いいかいリリアちゃん、ベッドは飛び跳ねるんじゃなくて、寝るところなんだ。わかるよね?」

「……うん」

「いい子だ。ならもうやっちゃダメだよ」

「はーい!」


 リリアちゃんが大きく頷く。

 俺はそんなリリアちゃんの頭を撫でてからふと横を見ると、


「マサキっ、コレすごい! すっごい跳ねるよこのベッド! ほらっ!!」


 ロザミィさんが絶好調に飛び跳ねていた。





『すみませんっ! ホントすみません!! ほら、ロザミィさんもっ ス・ミ・マ・セ・ン。はい、リピ-ト!』


 俺は店員さんの前にロザミィさんを引っぱってきて、頭をさげさせる。


『……シュミマシェーン』

『い、いえ、次から気をつけていただければ幸いです』


 ロザミィさんのカタコトな日本語の謝罪を受けて、店員のお兄さんがムリに笑顔をつくる。

 若干頬がピクついているような気がするのは、たぶん気のせいでじゃないだろう。

 こりゃあ、いろいろと買って売り上げに貢献しないと出禁になってしまいそうな雰囲気だ。


『ホントすみませんでした!』


 最後にもう一度だけ頭をさげてから、俺はベッドを買うべく真剣に悩みはじめた。


「うーむ……」


 まずはサイズだな。

 シングルベッドかセミダブルか、はたまたダブルサイズまで攻めてみちゃうか。

 錦糸町の自宅にあるのはシングルサイズだ。

 寝ぼけて落っこちたことも、一度や二度じゃきかない。


 となれば……。


「だ、ダブルサイズまで攻めちゃおうかな?」


 どうせ値段も2万ぐらいしか変わらないし。

 ベッドで大の字になれるのは、かなり魅力的だよね。

 ちなみにダブルサイズより上のサイズが選択肢にないのは、ひとえにマンションのエレベーター事情によるものだ。

 

 サイズが決まったところで、次は寝心地。

 俺は一個いっこ寝っ転がって具合を確かめる。

 それでわかったことは、あたり前だけど値段があがるほど寝やすいってことだった。


「お兄ちゃーん。リリアこのベッドからうごけないよぉ」


 悩む俺に、リリアちゃんから声がかかる。

 見ると、リリアちゃんはロザミィさんと一緒にベッドに寝転がって気持ちよさそうにしていた。


「うごけないよぉ……」


 なんか目がしょぼしょぼして眠そうだ。

 そうとう寝心地がいいんだろう。


「ま、マサキ……あたしもこのベッドから動けない。この柔らかさはいったいどういうことなんだい……。あ、あたしを捕らえて放してくれないんだ……。まるで呪い(カース)にでもかかってるみたいだよ」


 寝転がって「うんうん」呻くふたりに、とうぜん他のお客さんの視線が集まってくる。


『店員さーん! このベッドくださーい! だぶ、ダブルサイズのやつー!』


 そんな周囲の視線に耐えられず、思わずベッドをお買いあげ。

 まあ、俺もそのベッドは第一候補だったからいいんだけどさ。


 このあと、引き出しつきのベッドフレームと三人掛けと一人用のソファに、ソファテーブルまで買っちゃった。

 もちろんクレジットカードで。

 なんか金銭感覚がバカになってるけど、そろそろリミットブレイク間違いなしだ。

 会社に内緒でこっそりバイトでもしようかな。


 店員さんと配送日を決めて(一気に届いても置き場所がない)から、1階におりる。

 そこでペットコーナーをチラ見してから薬草栽培用のプランターとかもろもろを購入し、再びタクシーに乗り帰宅。

 家に着くころには、もうお昼をだいぶすぎていた。


「お兄ちゃん……リリアおなかへっちゃった」


 上目づかいで見あげてくるリリアちゃんのお腹が、可愛らしく「くー」と鳴った。

 ロザミィさんはなにも言ってこなかったけど、リリアちゃんと同意見のようだ。

 飢えた獣の目で俺を見ている。


「そうだね。ご飯にしようか?」

「うん! なに食べるの?」

「今日はねぇ……カレーをつくります!」

「かれー?」

「そう! カレー!」


 実は昨夜のうちに下ごしらえはすませておいたのさ。

 そうと決まればさっそく作っちゃおう。

 お米を研いで炊飯器に入れ、早炊きボタンをポチっと押してから準備にとりかかった。


 トマトは湯むきしてざく切りに、玉ねぎは細かく刻んでみじん切り。

 お鍋に油と、スパイスのクミンシードを入れて火をかけて、そこにチューブ式のニンニクとショウガを足して弱火で炒める。

 ほどよく火が通ったら玉ねぎを投入。すき通ったら次にトマトを加え、混ぜまぜしながら数分ばかし炒め、いったん火を止める。


 お次はフライパンを用意。

 油を熱しているあいだに、昨夜自家製ヨーグルトにつけこんでいた鶏肉を冷蔵庫から取りだしフライパンにドン。

 強火で鶏肉の表面をひっくり返しながら焼いていく。


 そこに、ガラムマサラやらターメッリクやら、都合5種類ものスパイスを投入して鶏肉と一緒に油となじませる。

 なじんたら火を止め、フライパンの中身をお鍋に投入してアク取りしながらしばらくグツグツと煮込む。

 あとは待つだけだ。


 昔、小岩に住む友人と一緒にスパイスからカレーを作ることにハマってしまい、ふたりでアメ横のスパイス屋さんに通っていた時期があった。

 その名残でいまでも月に一回ぐらいはカレーをつくっていたんだけど、今回はその経験が活きたかたちだな。

 

 炊飯器が「ピーッ」と炊き上がったことを知らせ、


「できたよー!」


 俺はお皿にカレーを盛りつけてローテーブルに運ぶ。


「さあ、召し上がれ!!」


 俺は得意げにふたりにカレーをすすめる。

 今回は俺の好きなチキンカレー。

 ふたりも気に入ってくれるといいんだけど。


「…………」

「…………」


 なぜかリリアちゃんもロザミィさんも、スプーンを持ったまま動こうとしない。


「ん? どうしたのふたりとも? あったかいうちに食べようよ」

「……お兄ちゃん、これなに?」

「これはね、『カレー』っていうんだよ。ちょっと辛いけど美味しいよ」

「ふーん……なんかこれ、うんちみたいだね」

「…………」


 さすがリリアちゃん。

 子ども特権をフルに活用して、タブー(禁句)中のタブーに触れちゃっだぞ。

 おかげでロザミィさんの顔がひきつることひきつること。


「み、見た目はちょっとアレかもしれないけど……美味しいんだよ! ほら」


 俺はスプーンでカレーをすくい、口に運ぶ。


「んー! 今日も美味しくできたぞー!!」


 ふたりの前で食べてみせ、二口、三口と続けていく。

 すると、やっと食べる気になってきたのか、くんくんとカレーの匂いをかいでいたリリアちゃんがスプーンを握り、おそるおそる口に運んだ。


「…………んんッ!?」

「だ、大丈夫かい嬢ちゃん!? 吐き出していいんだよ! ぺってしなっ、ぺってっ!」

「おいひい!!」

「え……?」


 リリアちゃんの目がおおきく開かれ、カレーを次々と口に運んでいく。

 その目はキラッキラだ。


「ほにいちゃんほいひいよー!!」

「ははは、口にものがはいってるときはしゃべっちゃダメだよリリアちゃん」

「ん! はふはふっ」

「……こんな変な色してるのが……おいしいとか冗談でしょ」


 ロザミィさんは信じられないとばかりにカレーとリリアちゃんを交互に見やる。


「ほねえちゃんかれーほいひいしょー」

「リリアちゃん、口にものがはいってるときはしゃべらなーい」

「ん!」


 ガツガツとカレーをかきこんでいくリリアちゃんを見て、やっとロザミィさんも決心がついたようだ。

 スプーンにちょっとだけのせて、ペロっと小さく舐める。


「ふ、不思議な味だね……」


 ちょっとためらったあと、パクリ。


「ッ!? お、おいしい……」


 スプーンですくって、またパクリ。


「……うん。おいしい。マサキ、これおいしいじゃないのさっ」

「だから言ったじゃないですかー」


 さっきまでの警戒はどこへやら。

 リリアちゃんもロザミィさんも、俺を追いこさん勢いでカレーを食べはじめた。


 きれいにたいらげ、おかわりを要求してきたふたりに「もうないよ」と言ったら、すっげー悲しそうな顔をしていた。

 こんどまた作ってあげようと思うぐらい、すっげー悲しそうな顔だった。





 このあと、リリアちゃんは天使の寝顔でお昼寝タイムに突入。

 俺はロザミィさんに錦糸町(というか日本)のことをざっくりと教えながらのんびりとした時間を過ごしていき、夕方ごろ異世界(向こう)へ戻るのだった。

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