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第4話 ジャイアント・ビーの脅威

 翌日、ムロンさんが用意してくれたベッドで寝ていた俺は、窓から差し込む日差しで目が覚めた。


「うーん……っと。毛皮って肌触りいいんだなぁ……って、アレ?」


 大きく伸びをしていると、腰の辺りに柔らかい何かがあたる。


「すー……すー……」


 毛皮をめくって見てみると、そこには丸くなったリリアちゃんが可愛いらしい寝息をたてていたではないか。

 きっと、俺が寝ている間にベッドに忍び込んできたに違いない。


「リリアちゃん、リリアちゃん、起きて」

「んー……」


 優しく体を揺すっていると、リリアちゃんがうっすらと目を開ける。


「おはよ、リリアちゃん」

「……おはよーまさきおにいちゃん」


 寝ぼけているのか、目がしょぼしょぼしている。


「いつの間にベッドに忍び込んだんだ?」

「んとねー、リリアねー、お父さんとお母さんが寝てからきたのー」

「ダメだよ。リリアちゃんが急にいなくなったら、ムロンさんたちが心配しちゃうよ」

「えー、でもマサキお兄ちゃんひとりで寝てるからかわいそーだったんだもん。お父さんはお母さんと寝てるからさびしくないでしょ? だからリリアはマサキお兄ちゃんといっしょに寝てあげたの」


 あらやだこの子、ちょー優しい。

 小遣いをせびってくるだけの甥っ子とはエライ違いだ。


「そっか。ありがとねリリアちゃん」

「へへー」


 リリアちゃんの頭をなでなでしていると、慌てたような足音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。


「たたた、大変だマサキ! リリアがいなく……………おいマサキ、」

「な、なんでしょう?」

「なんでリリアがここにいるんだ?」

「え、えと、それはです――」

「お父さん、リリア、マサキお兄ちゃんと一緒に寝たんだよー!」

「ほう……マサキ、ちょいとおもてに出ようか。じっくりと話を聞かせてくれ」


 ボキボキと拳を鳴らすムロンさんに首根っこ掴まれた俺は、ずるずる引きずられて裏庭へと連れて行かれてしまう。

 このあと、イザベラさんが仲裁に入って誤解が解けるまでの間、ずっとムロンさんは鬼の形相をしていたのだった。

 でもそれは、リリアちゃんを愛するがゆえだ。





「ははははは! 今朝は悪かったっな」

「もう、ムロンさんちょー怖かったんですからね」

「そう言うなよ。村に着いたら酒場で一杯奢ってやるからよ」


 いま俺は、ムロンさんと一緒に村を目指して歩いている。

 ムロンさんが仕留めた獣の毛皮や肉などを、村で売るためだ。


「でもすまねぇな。手伝ってもらっちまてよ」

「気にしないでください。泊めてもらったお礼ぐらいしたいですからね」


 そして俺は、泊めてもらったお礼がてら、荷物運びを手伝っている真っ最中であった。


「そうかいそうかい。村に降りるのは久しぶりだからなぁ。いろいろ買いこまなきゃならねぇ。マサキ、帰りも頼むぜ!」

「はいはい。ムロンさんには一宿一飯の恩がありますからね。帰りも荷物持たせてもらいますよ」

「がっはっは。ホーンラビットから命を救った恩人ってことも忘れるなよ」


 ムロンさんは豪快に笑い、バシバシ肩を叩いてくる。


「村にはよく行くんですか?」

「ん? 村か、前は7日に一度は下りてたんだがな……今日は20日ぶりだ」

「へー。なんでまた?」

「むぅ……実はな、最近なんでか獲物の数が減っちまってんだ。オレたち家族の分はなんとか獲れていたんだが……村へまわすほどの余裕はなかったのさ」

「獲物の数ですか。……時季的なものなんですかね?」

「いいや、毎年この時季は獣が活発になるからな。獲物に困ることなんざ一度もなかった」


 いまの季節は、日本でいうところの初夏にあたる。

 当然ありとあらゆる生物が活動的になり、ムロンさんの標的となる獣もたくさんいなくてはおかしいそうなのだが……なんでか今年にかぎって、獣の数が激減しているそうだ。

 ムロンさんは笑っているけれど、狩人としては死活問題に違いない。


「ホーンラビット、高く売れるといいですね」


 ムロンさんの話を聞いた俺は、真面目な顔をしてそう言う。


「……ああ。そうだな」


 俺の言葉に、ムロンは深く頷くのだった。





 それから、歩くこと1時間。

 俺たちはやっと村へと到着した。


「着いたぞマサキ。ここがファスト村だ」

「ほえー。のどかでいい村ですねー」


 辺りを見回すと、畑仕事をしてるひとや、草を食べてる牛の姿が見える。

 木造の民家がぽつんぽつんと点在し、広場のようなところでは子供たちが元気に走り回っていた。


「マサキ、ついてきてくれ。まずは道具屋に毛皮を売る。そのあとは肉を売り歩くぞ」

「はいよー」


 ムロンさんに言われるがままに、俺は荷物を運んでいくのだった。





「ふいー。マサキ、ごくろーさん。仕事後の一杯といこうぜ」


 ムロンさんと俺の手には木製のジョッキが握られていて、中にはビールみたいなお酒がなみなみと注がれている。


「いやー、お疲れさまでした」

「んじゃ、乾杯だ!」

「乾杯!」


 俺はムロンさんとジョッキをぶつけあってからお酒を一口飲む。

 予想はしていたけれど、生ぬるくてあまり美味しくはなかった。


「仕事後の一杯はうまいな! ……ん? なんだマサキ、麦酒エールは苦手か?」


 微妙な顔をしている俺とは対照的に、ムロンさんは満面の笑みでガブガブ飲んでいる。


「いや、そ、そんなことはないですよ」

「がっはっは、ムリすんな。顔に『うまくない』って書いてあるぞ。エールを呑めないなんて、マサキはまだまだガキだなぁ」

「ははは……。そうかもしれないですね」


 愛想笑いを浮かべ、適当に相槌をうつ。

 ムロンさんはエールを飲めて上機嫌なのか、終始笑っていた。 


「おう、ムロンじゃねぇか」


 酒場の扉が開き、顔を土で汚した男が入ってきた。

 農夫なのか、よく見れば顔だけじゃなく服も土で汚れている。


「なんでぇ、ジャルムか。久しぶりだな。さっきお前のかみさんに肉を売ったとこだぜ」

「そりゃありがとよ。座っていいか?」

「おう。座れ座れ。こいつはマサキ。うちの客人だ」

「ムロンに客とは珍しいな。おれはジャルム。よろしくなマサキ」

「よろしくです、ジャルムさん」


 運ばれてきた麦種を手に持ったジャルムさんと、ジョッキを打ち合わす。


「ところでムロン、お前のとこには被害は出てるか?」

「……『被害』? なんのことだ?」

「ジャイアント・ビーだよ。ジャイアント・ビー! 最近このあたりにジャイアント・ビーが出やがったんだ」

「なんだってっ!?」


 ムロンさんは驚いた顔をして、身を乗り出す。


「その話は本当か!?」

「ふう……。その顔を見ると知らなかったみたいだな。ディルンのとこの羊と、ラックルんとこの豚が何頭かやられちまった。……村長の話じゃ、丘向こうの道で巡礼者が死んでたそうだぜ。体に何個も穴をあけられてな」

「そんなことが……。そうか、だから獣の数が減っていたんだな」

「そういやお前が下りてくるのは久しぶりだったな」

「ああ。獣の数が減っていてな。ここ最近ろくすっぽに獲れていなかったんだ」

「お前ほどの狩人が獲物を獲れないとすると……ジャイアント・ビーの巣は山の中にあるのかもしれねぇな」

「なっ!?」


 ジャルムさんの話を聞き、ムロンさんの顔色が変わる。

 真っ青になったムロンさんは、ゆっくりと俺に顔を向けると、震えた声を出す。


「ま、まずいぞマサキ。この話が本当なら……イザベラとリリアが危ない」

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