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第3話 ロザミィ降臨

「いいね。なかなか似合ってるじゃないのさ」

「そ、そうですか?」

「おう。悪くねぇと思うぞマサキ」


 ムロンさんとライラさんが立ち合いのもと、やっと俺の装備が決まった。

 軽鎧っていうのかな?

 皮と金属の合わさった、軽めの鎧に決まった。


 ファンタジーな冒険者に憧れるおっさんとしては、できればフルプレート(全身鎧)をキメてみたかったけど、重いのと動くたびにガシャンガシャン音が鳴るもんだから、諦めざるをえなかったのだ。

 そもそもフルプレートは、モンスターとのどつき合いを専門メインにした戦士系のひとが装備する鎧らしく、俺のような採取が目的のお気楽冒険者には必要ないんだそうだ。

 逆に音でモンスターを呼び寄せてしまうこともあるとも言っていたしね。


 だもんだから、俺は動きやすさに重点をおいて、ベテランと本職のおふたりに装備を選んでもらったのだった。

 フルプレートは叶わなかったけれど、これはこれでカッコイイ。

 茶色い皮鎧のなかでキラリと光る金属部分が、とても男心をくすぐってくる。

 思わず頬がゆるんでしまったぞ。


「じゃ、じゃあこれください!」

「まいど。武器はそのふたつでいいのかい?」

「ええ。これでお願いします」


 俺が選んだ武器は、ブロードソードとショートソードの2本。

 ブロードソードが80センチぐらいで、ショートソードが50センチぐらいの長さだ。

 これは右手にブロードソードを構え、左手でショートソードを逆手に構えるという、男心にグッとくるポーズをキメてみたかったからなんだけど……

メイン武器の他にサブ武器を用意しておくのはわりと当たり前のことだったらしく、特になにも言われることはなかった。


 選んでる時もさりげなくポーズとかキメてみたのに、ふたりとも無反応なんだもん。

 ちょっとだけ悲しかったのは俺だけの秘密だ。


「なら、全部で金貨5枚だよ?」

「おいおいライラ、ちっと安すぎやしねぇか?」

「ムロン、マサキはあんたのダチなんだろ?」

「あ、ああ」

「なら儲けようなんて思わないよ」


 金貨5枚。日本円で250万円ぐらいか。

 日本だったらちょっとした新車が買えるぐらいの値段だけど、ふたりの会話を聞くかぎりかなりお安くしてもらえたみたいだ。

 んー、前もって市場価格を調べておくんだったなー。反省。


「いやいやライラさん、ちゃんとした値段で買いますって。てか、買わせてください」

「そうだぜライラ。マサキはカネ持ってんだ。変な気を使わなくていいんだぞ? お前らしくもない」

「バカを言いなよ。あたいはちゃーんと気づかいのできる女なんだよ。知らなかったのかい?」


 そう言ったライラさんが得意げな笑みを浮かべた。

 褐色の肌と合わさって、そんな笑顔がとても絵になる。


「でも……」

「いいかいマサキ? 新人の冒険者はね、ひとの好意には素直に甘えとけばいいのさ」

「えー、甘やかしすぎも良くないと思いますよー」

「頑固だね。そうゆう男は嫌いじゃないけど。う~ん、そうだねぇ……うん、ならあんたが有名な冒険者になったらうちの装備を広めておくれよ。この鍛冶師ライラの名をね」


 ライラさんがドンと胸を叩く。

 大きな胸がぽよんと揺れて、目のやり場に困ってしまった。


「ったく、お前ってヤツは……あーあ、仕方ねえ。マサキ、ライラに甘えちまいな」

「ムロンさん……でも、」

「いいんだよ。申し訳ねぇと思うなら、ライラの打った武器に見合うだけの冒険者になりゃいんだ。わかったな?」

「そういうことなら……俺、がんばります!」

「その意気だ」


 俺はバリバリ財布から金貨を取り出し、ピッタリの額をライラさんに支払う。


「まいどあり。手入れが必要な時はいつでも持ってきなよ」

「ライラさんがちゃんとお代をもらってくれるなら持っていきますよ?」

「うふふ。その時はしっかり支払ってもらうから安心おしよ」

「はい。でしたらぜひお願いします!」

「もちろんさ」


 会話がひと段落したところで、ムロンさんが話しかけてきた。


「マサキ、お前今日はどうすんだ?」

「そうですね~……」


 今日はお買い物ぐらいしか予定がなかったから、とくに考えてなかったぞ。

 仕事がお休みのムロンさんは、このあと家族と一緒に過ごすに決まってる。

 なんせ一家の大黒柱さまだ。

 そんな家族の団欒の時間に、水を差すわけにはいけない。

 となれば……


「せっかく新しい装備を手に入れたので、慣らしがてら森に行ってみようと思います。あの時見つけられなかった薬草も探してみたいですしねー」


 冒険者証はゲットしたけれど、自分の中ではまだ冒険者になれた気がしていなかった。

 それはきっと、あの試験の時に薬草を見つけられなかったからに違いない。

 なら、リベンジかましてやろうじゃないですか。


「そうか。またオークみたいなあぶねぇモンスターが出るかもわかんねぇ。ムリはすんなよ?」

「わかってます。森の浅いところで探すつもりです」

「ならいい。オレはもうちょっとライラと話していくけど……ひとりで森まで行けるか?」

「よゆーですよ。道順もバッチリです!」

「そうか。そんじゃ、またあとでなマサキ」

「はい。ムロンさん、今日は俺に付き合ってくれてありがとうございました。ライラさんもっ」


 俺はふたりに向かって頭をさげた。

 こんなによくしてもらえるなんて、ホント感謝するしかない。

 こんどなにかお礼しないとな。

 戻ってきたらリリアちゃんに相談してみよっと。


「じゃ~、俺いきますね」

「おう」

「ふふ、気をつけていっといで」


 こうして、俺はふたりに見送られながらライラさんのお店をあとにした。





「そこにいるのはマサキかい?」


 そう後ろから声をかけられたのは、俺が街の門を目指しながら世界一かわいいひとの歌を口ずさんでいる時だった。

 思わず振り返り、声の主を探すと――


「ロザミィさん?」


 そこには、ロザミィさんが俺に向かって手をふっていた。

 ゲーツさんとゴドジさんの姿は見当たらない。

 今日はハウンドドッグ(猟犬)として活動していないのかな?


「奇遇ですねー、こんなところで会うなんて」

「まったくだよ。マサキはこれからどっかいくのかい?」

「ええ。ちょっと森まで薬草を探しに」

「なーんだ、もしマサキがヒマならあそこ(・・・)に連れてってもらおうと思ったのに。残念」


 ロザミィさんがいう「あそこ」とは、間違いなく錦糸町のことだろう。

 いつぞやの約束をまだ果たしていないしね。


「はは……すみません。装備を新調したので、せっかくだから使ってみたかったんですよねー」

「ふーん。……そういえばこないだと恰好がちがうね。使いやすそうじゃないか。どこで買ったんだい?」


 ロザミィさんが俺の軽鎧に視線を送る。

 なかなかの好反応。

 まぁ、ムロンさんのお墨付きだから当然か。


「えっと、ライラさんっていう鍛冶師の方から買いました」

「ライラだって!?」


 ライラさんの名前を聞いて、ロザミィさんが大きな声をだした。

 その目は驚きで大きく開かれている。


「あれ? 知ってるんですか?」

「知ってるもなにも……ライラさんはゲーツの姉さんだよ。あたしやゴドジも世話になってる」

「えーーーーー!?」


 こんどは俺が驚く番だった。

 ライラさんがゲーツさんのお姉さんだったとは……。

 いま思い返してみると、確かに目元が似てるかもしれない。


「知らなかったのかい?」

「ぜんぜん知りませんでした。ムロンさんも教えてくれなかったし」

「あの旦那ムロンはそういう茶目っ気があるみたいだからね。あとでマサキを驚かすつもりだったんじゃないかい?」

「もういま十分ビックリしましたけどねー」

「なら旦那の前でもう一回ビックリしてあげなよ。世話になってるんだからさ」


 ロザミィさんもなかなかどうして、無茶を言ってくれるじゃないか。

 それともボケてるつもりなんだろうか。

 とりあえず、


「ははは、考えておきます」


 と言っておく。


「それじゃ、俺そろそろ森に向かうんで失礼しますね」


 俺がそう言って歩き出そうとしたら――


「待ちなよ」


 再び呼び止められてしまった。


「あたしもついていく」

「……え? ロザミィさんもですか?」

「わ、わるいかい? 今日は依頼がないし、そ、それにひとりじゃ危ないかもしれないだろ。またこないだみたく危ない目にあったったら、ど、どうすんのさっ?」


 ロザミィさんがほっぺをポリポリかきながらそう言ってきた。

 なんか目が泳ぎに泳いでいる。

 さては……錦糸町へのワンチャンをねらっているな?


 うーむ。十分ありえるぞ。

 こんな建前ならべなくても、約束してるんだからちゃんと連れっていってあげるのに。

 でも、ひとりで森をウロウロするよりは、ロザミィさんみたいな美人さんと一緒のほうが楽しいに決まってる。

 それに現役バリバリの冒険者であるロザミィさんからは、いろいろと学べるだろうしね。


「俺としてはありがたい申し出なんですが……本当にいいんですか? あとからゲーツさんに怒られたりしません?」

「だ、だからついていくって言ってるだろっ。それにゲーツもそこまで小さな男じゃないよ」

「ありがとうございます。いやー、実は薬草の実物を見たことないから、ちょっと困ってたんですよね。絵なら見たことあるんですけど」

「な、ならあたしに任せな。これでも薬草には詳しいほうなんだ」

「助かります。なら一緒に行きましょう」

「あ、ああ!」


 ロザミィさんが笑顔でうなずいてくる。

 休日の昼間からビールを飲んでいた時の俺と同じように、やることなくてヒマだったのかな?


 なにはともあれ、街をでた俺は、ロザミィさんと一緒に森へとはいっていくのだった。

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