少女が見た流星
近衛正樹がどんな人物であるかをリリア・ドーリアンに問うと、きっとこう返ってくるだろう。
「ながれぼしみたいなひとだよ」
と。
急にあらわれては、光の軌跡を描きながらどこかへといってしまうのだ。
まだズェーダにくる前のリリアは、ひとりで過ごすことが多かった。
毎日といってもいい。
父は狩りに出ていることが多かったし、母は少しでも生活を楽にしようと小さな畑で作物を育てていたからだ。
そんな両親に対し「遊んで」などと、どうして言えよう。
リリアは聡い子だ。
父と母に心配させぬよう絶えず笑顔を浮かべ、父が戻ってくるのと、母の畑仕事が終わるのをひとりで待ち続けた。
友達といえば、野兎やひっくり返した石にへばりくっついている、小さな虫ぐらいなもの。
日が登り、沈むまで、リリアはほとんどの時間をひとりで過ごしていたのだった。
そんな時だ。
リリアの前にお兄ちゃんが現れたのは。
一緒に追いかけっこしたり、木に登ったり。
お兄ちゃんは、リリアとずっと一緒に遊んでくれたのだ。
楽しくて、あまりにも楽しすぎて、息が止まるかと思った。
だからリリアはお兄ちゃんのことが大好きになったのだ。
どこに行くにもついて回り、そのことで母に窘められては涙を浮かべた。
リリアのなかで「お兄ちゃん」という存在が大きくなるのに、それほど時間はかからなかった。
母に「リリアはマサキさんのことが大好きなのね」とからかわれると、リリアは顔を赤らめてうつむいてしまう。
でも、それも当然だろう、とリリアは胸の内で反論する。
だってお兄ちゃんは、リリアのことを命がけで助けてくれたのだから。
あの恐ろしいジャイアント・ビーに襲われた日、お兄ちゃんは命がけで自分を助けてくれた。
いっぱいのジャイアント・ビーに囲まれ、もうダメだ、とリリアが思った瞬間、見たこともない世界へと連れ出してくれたのだ。
大地は色とりどりの光で埋め尽くされ、天に届かんとする光輝く塔まであった。
しかも驚くことに、なんとお兄ちゃんはこの世界の住人だというのだ。
お兄ちゃんは、リリアにいろんなことを教えてくれた。
お風呂、テレビ、もんじゃ、それこそ数え上げればきりがない。
キラキラ光る「すかいつりー」に連れていってもらった時なんか、楽しすぎて死んじゃうかと思った。
あの時お兄ちゃんからもらった「ぺんぎん」の「ぬいぐるみ」は、いまでもリリアの大切なお友達だ。
ペンちゃんと名づけ、毎晩一緒になって眠っている。
最近のお兄ちゃんは「キンシチョー」でお仕事があるらしく、なかなかリリアと遊んではくれない。
でも、前とは違い、リリアは平気だった。
寂しくないといえば嘘になるが、ペンちゃんを抱きかかえ、ベッドに寝転がって目をつむれば、瞼の裏にはいつだってキンシチョーの景色が想い浮かぶからだ。
あの時、スカイツリーから眺めた景色が、いつでも想い浮かぶからだ。
こうして目をつむっていれば、あの人はひょっこり現れる。
星降る夜のように、キラキラと光りながらやってくるのだ。
トントンと、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
リリアはすぐにベッドから跳び下り、扉を開ける。
誰かなんて、確認する必要もない。
だってそこには、いつだって――
「ただいま、リリアちゃん」
「おかえりなさいっ! お兄ちゃん!!」
流れ星が、落ちてくるのだから。




