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第39話 おっさん、出撃!!

 森に戻ると、すでに太陽が傾きはじめていた。

 このまま夜になってしまえば、ムロンさんたちを探すのが困難になるし、危険なモンスターだって出てくるにきまってる。

 いそがないとだ。


「ムロンさんたちを追います。ついてきてください」

「ん!」

「わかったよ」

「こっちです!」


 俺たち3人はムロンさんたちのあとを追い、森を進む。

 その道中で、ロザミィさんがためらいがちに口を開く。


「マサキ、ホントに……いいのかい?」

「え、なにがです?」

「ゴドジたちを助けにいくことだよ。オークとの戦闘は避けられないだろうね。命を落とすかもしれないんだ。あんたにその覚悟はあるのかい?」


 覚悟。その言葉の意味は重い。

 オークはモンスターとはいえ、人のかたちをしている。

 そんな人型のオークを殺すことに、俺は強い忌避感を抱いていたのだ。


「…………覚悟、ですか」


 さっきだってそうだ。

 俺はオークの膝をダブルジョイントにしただけで、行動不能にできたと油断していた。

 リリアちゃんが石を投げて助けてくれなかったら、あの時死んでいてもおかしくはない。

 もしまた同じ油断を――『殺す覚悟』ってヤツができていなかったら、次に危険な目にあうのはリリアちゃんやロザミィさんかもしれないんだ。


「いま街に戻っても、誰もマサキを責めやしないよ?」

「…………」

「いま戻れば、嬢ちゃんだけは無事に連れ帰れるんだよ」


 ロザミィさんの忠告が胸に刺さる。

 でも――だからこそ、


「戻りませんよ。俺は」


 覚悟なんか、一瞬で決まった。

 オークを殺すことでみんなの命が守れるなら、俺はいくらでもやってやるさ。

 リリアちゃんもロザミィさんも、絶対に守ってみせる。

 たとえ……オーク狩りの鬼になろうともだ。


「だって、みんなでズェーダに戻るんですから!」

「いいんだね?」

「あたり前です!」


 俺は森を走りながら、ロザミィさんに向かって力強く頷いてみせる。


「それに、昔だれかが言ってたんです。……『深淵を覗き込む時、深淵を覗いているのだ』って」

「…………どういう意味だい?」


 ロザミィさんの問いに俺は苦笑いを浮かべ、首を横に振った。


「意味は俺にもわかりません。でも――なんとなくいまが『その時』ってやつなんじゃないかと思うんです!」

「マサキ……あんた……」

「急ぎましょう!」


 俺は走るスピードを速める。

 そんな俺を見てロザミィさんは、小さな声で「ありがとう」と口にしていた。





 ムロンさんたちのあとを追うのは、意外と簡単だった。

 なぜなら……


「またオークの死体だ。ゴドジたちはまだ生きてるみたいだね。マサキ、このまま進むよ!」


 途中にオークの死体が道しるべがわりに転がっていたからだ。

 どうやらムロンさんとゴドジさんのふたりは、森の奥を目指してただ真っすぐに進んでいるみたいだな。

 最短距離を、ただひたすらに。

 

「お兄ちゃん、ブタさん(オーク)がくるよ!」


 リリアちゃんが警戒の声をあげる。

 見ると、確かにオークが数体こちらに向かって歩いてきていた。


 消臭スプレーの効果か、見つかったわけではなさそうだな。

 でも、このままいけば発見されるのも時間の問題だ。

 さすがに追いつくまで戦闘なし、ってわけにはいかないか。


「しかたがない。やるよ。ふたりとも準備して」

「ん!」

「ああ」

「ゴーグルつけるのも忘れちゃダメだよ」


 俺は頭につけてたスイミングゴーグルで目をおおってから、クローゼットから発掘したもの(・・)をオークに向けて水平に構える。

 両隣では、リリアちゃんとロザミィさんも同じように構えていた。

 もちろんスイミングゴーグルも装備済み。


「ひきつけてから一斉に撃つよ。狙いはわかってるね?」

「うん。お顔をねらえばいんでしょ?」

「そうだよリリアちゃん。リリアちゃんはホント賢いね」

「へへへ」

「おしゃべりはそこまでにしときな。くるよ!」


 ついにオークが俺たちを見つけた。

 数は3体。

 武器をふりあげ、『ブッヒー!』と鳴きながら突進してくる。


「お兄ちゃん!」

「まだだ。まだ!」


 オークまであと6メートル……5メートル……4メートル……


「いまだ! 撃て撃てー!!」


 3メートルまで迫ったオークに向かって、俺たち3人は引き金をひいた。


「えーい!」

「このっ!」


 圧縮された空気が液体を押し出し、一筋の水流となって勢いよくとび出して行く。


『ブヒヒヒィィィィィイイイィィィッ!?』


 液体を顔に浴び、地面に倒れ込むオークたち。

 オークたちは悲鳴のような鳴き声をあげながら地面を転がり回る。


「オークが……苦しんでる?」


 ロザミィさんが驚いた声を出しているけど、俺からしてみれば計算通りの結果でしかない。

 なぜなら、俺が対オーク用に用意した武器は『水鉄砲』であり、タンクの中の水にはアンモニアを混ぜてあったからだ。

 俺は薬局でアンモニア水を買い占め、水鉄砲のタンクにいれておいたのだった。

 しかも、目を痛めないようちゃんとスイミングゴーグルまで用意して。


 特定悪臭物質にも指定されているアンモニア。

 それを、水で薄めてあるとはいえ顔面に浴びたんだ。

 嗅覚に優れたオークにとっては地獄の苦しみに違いない。


「えーい! えーい!」

『ブヒヒヒブヒィィィッッッ!?」

「このー! やー!」


 のたうち回るオークに向かって、リリアちゃんが執拗なまでに水鉄砲を喰らわせている。

 なんて勇ましい子なんでしょう。

 おかげでオークが完全に無力化されたぞ。


「チャンスだよマサキ!」

「ええ! いまのうちに全部やっつけます!」


 俺はナイフを抜くと逆手に構え、苦しむオークたちの急所に突き立てていく。

 多少のためらいはまだあったけど、絶対に手はとめなかった。

 オークの命をつみ取った俺は立ちあがり、ふり返る。


「凄い……このミズテッポーってのは、なんて凄いのさマサキ!」

「ははは、正確には中の水が、なんですけどね。でも、オークとの相性がよかっただけですよ」

「いける。これならオークキングだって倒せるよ!」

「先を急ぎましょう。水鉄砲がオークに効果的なのはわかったんです。反撃の時ですよ!」

「ああ、もちろんさ! いくよマサキ、お嬢ちゃん!」


 ロザミィさんはオークに圧勝できたことで自信を得たのか、先頭きって走りだしてしまった。

 そのあとを、俺とリリアちゃんが慌てて追いかける。


「待ってなゴドジ、ゲーツ。いまいくよ」

「お父さん……」


 ロザミィさんもリリアちゃんも、その顔は必死だ。

 親しい友人に実の父親。

 なんとしても救いださなきゃな。





 俺たちは強い想いを胸に森を駆けた。

 走ること10分。

 ついに俺たちは、ムロンさんたちに追いつくことができた。


「ゲーツ! ゴドジ!」

「おとーさーん!!」


 追いつきはしたものの、状況は最悪だった。

 なぜなら――


「あれが……オークキング……」


 ムロンさんたち3人は、オークキングが率いるオークの群れに取り囲まれていたからだ。

『深淵を〜』のくだりはニーチェの言葉ではなく、ネタと化したコピペの方を使いましたー

ストーリーにはまったく関係ありません。

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