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第3話 熱血のリリア

「マサキお兄ちゃん! なにして遊ぶ?」


 俺はリリアちゃんに手を引かれ、裏庭へと連れてこられていた。


「そうだなぁ……リリアちゃんはいつもどんな遊びしてるの?」

「リリアね、虫つかまえたりしてるよ! こんなふうに」


 リリアちゃんはそう言うと、足元にあった大きめの石を両手でごろんとひっくり返す。

 石の下に隠れていた色んな虫が、ぴょんぴょんワサワサ逃げ出していくなか、その内の一匹をむんずと捕まえる。


「ほら!」

「ひぃっ」


 リリアちゃんが捕まえたワサワサする虫を向けられた俺は、小さく悲鳴をあげてあとずさる。


「ほら、ほら! マサキお兄ちゃんほらっ!」

「ちょっ、やめ――やめなさい」

「ほらほら! ほらー!」


 脚の数か多い虫が苦手な俺は、リリアちゃんが一歩近づけば二歩下がりを繰り返す。

 そんな俺が面白かったのか、リリアちゃんはワサワサする虫を持ったまま俺を追いかけはじめた。


「まてー!」

「ひぇー!」


 そしていつの間にか、追いかけっこがはじまっていた。


「まてまてー!」

「くっ、速い」


 山奥で暮らしているからかリリアちゃんはとても足が速く、しかも息も切らせず追ってくる。

 都会のもやしっ子に見習わせたいほどだ。

 だが、俺を舐めないでもらいたい。

 俺は異世界こっちにくるまえに神さまからチート能力をもらっているんだからね。


肉体強化ブースト、発動!」


 身体中に力がみなぎり、走る速度が一気に増す。


「マサキお兄ちゃん、はやーい!」

「どーだ、おそれいったか!」


 大きめの岩にとび乗り、腰に手をあてて高笑いする俺。


「すごーい! マサキお兄ちゃん走るのはやいんだね!」

「まあ、それほどでもあるかな」


 異世界にきて、はじめてチート能力を使った相手が幼女だということはこの際忘れておこう。


 このあと、俺はリリアちゃんと木登りしたり、花を摘んだりしてして一緒に遊んだ。

 気を抜くとリリアちゃんが虫を服の中に入れてくるもんだから、そのたんびに悲鳴をあげるはめになったけどね。

 でもそのおかげで、俺はリリアちゃんとすっごく仲がよくなった。

 ムロンさんが俺たちを呼びにきた時、軽く嫉妬していたほどだ。





「さあ、ご飯にしましょう」

「リリアお腹ペコペコだよぉ」

「うわー、美味しそうですね」


 テーブルのうえには、肉料理を中心にいくつもの料理が並んでいる。


「おいマサキ、『美味しそう』じゃねぇ。イザベラの料理は美味しいんだ」

「おっと、これは失礼しました」

「もう、あなたったら。はいマサキさん、どうぞ召し上がれ」

「ありがとうございます」


 俺はイザベラさんからスープを受け取り、テーブルに置くと、両手を合わせて、


「いただきます!」


 と言った。

 その瞬間、みんなポカン。リリアちゃんもポカン。


「なんでぇマサキ、その『イタダキマス』ってやつは?」

「あ、えっと、これはですねぇ……」


 しまった。いつもの癖で「いただきます」って言っちゃった。あまりにも美味しそうだったから、記憶喪失設定なのを忘れてた。

 さて、どうごまかすか……。


「マサキお兄ちゃん、イタダキマスってなにー?」


 ムロンさんもイザベラさんもリリちゃんまで、不思議そうな顔を俺に向けている。


「いただきますっていうのはね、食べ物になってくれた動物や植物にありがとう、って伝える祈りの言葉なんだよ。……たぶん」

「『たぶん』? どーゆーことだマサキ」

「いやあ、なんか急に頭に浮かんだんですよね。俺の故郷の国になにか関係があるのかな?」

「まあ、ひょっとしたらマサキさんの記憶の手掛かりになるかもしれませんね」


 イザベラさんの言葉を聞いて、ムロンさんが考え込む。


「うーん。オレは知らねぇな。でもイザベラの言う通り、手掛かりになるかも知れねぇ。おいマサキ、他にはなにか思いだせないか?」

「あいにくと、他はさっぱりでして」

「……そっか。まあ、いつか思いだすだろ」

「そうですよマサキさん。前向きに考えましょ。それより、その『イタダキマス』って良い言葉ですね。わたしも言っていいですか?」

「確かにいい響きだな。おいマサキ、オレにも祈らせろ。食べ物に感謝するなんてよ、狩人のオレにぴったりじゃねぇか」

「リリアも! リリアもいいたい!」

「ははは、じゃあみんなで言おうか」


 俺たち四人は一緒に手を合わせ、言う。


「「「「いただきます」」」」


 家の裏にある畑で採れた野菜と香草をふんだんに使われた料理は、どれもとても美味しかった。

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