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第37話 錦糸町再び

「ちょ、ちょいとお待ちよマサキ!」


 リリアちゃんを抱きあげた俺を見て、ロザミィさんが慌てだす。


「マサキ、あんたたちいったいどこに行こうってのさ?」

「錦糸町です!」

「キ、『キンシチョー』!? いったいなに言ってんだい? どこなのさそこ?」


 異世界こっちの住人であるロザミィさんが、錦糸町を知らないのは当然だ。

 でも、いまは時間が惜しい。


「説明している余裕はありません! それよりロザミィさん、」

「な、なんだい?」


 俺はリリアちゃんを抱っこしたままロザミィさんにつめ寄り、真剣な顔をして言う。


「服を脱いでください!」

「んなッ!? こここ……こんな時になにバカなこと言ってんのさっ。あんたはっ!!」


 ロザミィさんのビンタが俺の右頬にさく裂する。

 うーむ。いまのは説明不足だったな。

 ロザミィさんたら、顔を真っ赤にして目を白黒させている。

 どうやら怒らせちゃったみたいだ。


「マサキ、あんたもゴドジみたくロクデナシなのかい!?」

「痛い! 痛い! ちょ、ちょっとたんま。落ち着いてください! ご、誤解ですって!」

「なにが誤解なもんか! こんな時にっ」


 顔を赤くしたロザミィさんがポカスカと俺の頭を叩いてくる。

 俺はリリアちゃんを抱っこしているもんだから、ガードのしようがない。


「お姉ちゃんダメ! お兄ちゃんをたたいちゃダメーッ!!」


 リリアちゃんが庇うように俺の頭にしがみつく。

 そのおかげで、ロザミィさんのロボコンパンンチが一時的にとまったぞ。


「……こんどは子供を盾にするのかい?」

「い、いや、俺はそんなつもりじゃ――」

「お姉ちゃん、お兄ちゃんのお話をきいて!」

「あのねお嬢ちゃ――」

「きいてっ!!」

「……わかったよ」


 リリアちゃんの押しの強さにロザミィさんが折れ、目で説明するよう促してきた。


「ロザミィさん、変なかん違いさせちゃってごめんなさい。『俺が服を脱げ』って言ったのははですね、ロザミィさんの匂いが着いたそのローブを、木とかにひっかけて囮にしようとしたからです」

「囮……」

「はい。オークの嗅覚が優れているなら、ロザミィさんの匂いがついたローブを追ってここまでくるはずです。そうすれば――」

「ゴドジたちが相手するオークの数が減る、ってことかい?」

「そうです」


 警察犬や捜索隊の犬は、遺留物から匂いをたどって探し当てるんだ。

 なら、きっとオークもロザミィさんの強い匂いがついたローブを追いかけるはず。

 それにオークたちの目的はロザミィさんの確保なんだ。

 ムロンさんたちとの戦闘より、ロザミィさんの追跡を優先するに違いない。


「まったく、ならはじめからそうお言いよ」

「ははは、すみません」

「わかったよ。いま脱ぐから……こっちを見るんじゃないよ」

「もちろ――」

「お兄ちゃん見ちゃダメ」


 ロザミィさんが恥ずかしそうにローブを脱ぎはじめると、いつの間にか肩にのっていたリリアちゃんが目隠ししてくる。

 うーん。ちっちゃな手だからすき間だらけなんだけど、ここは紳士ジェントルマンとして目をつぶっておこう。


「も、もういいよ」

「あ、はい」


 ちっちゃな手をどけて目をあけると、そこには下着姿のロザミィさんがいるではありませんか。

 いままではフードを目深にかぶっていたせいでわからなかったけれど、ロザミィさんはとても可愛らしいひとだった。

 紫色の髪をくびれた腰まで伸ばしていて、胸もお尻も自己主張するかのように大きい。

 こんなに可愛いひとなのに、ローブで顔まですっぽり隠しちゃうなんてもったいないなー。


「…………」

「じ、ジロジロ見るな」


 ロザミィさんが俯きながら手で体を隠そうとする。

 思いがけない光景に、いつの間にか凝視してしまっていたらしい。

 でもそれもしょうがないよね。

 確かに『服を脱いで』とは言ったけど、まさか下着姿になるとは思わなかったんだもん。


「す、すみません。まさかそんなに脱ぐなんて思ってなかったもんですから……」

「ぬ、脱げって言ったのはマサキだろ! そ、それにだ、匂いがついた服はたくさんあったほうがオークどもを惑わせるじゃないか?」

「言われてみれば……確かに」


 やっぱり現役の冒険者は違うな。

 俺のアイデアから更に上乗せして、もっといいものを考えつくなんてさすがだ。


「それで、これをどうすればいいんだい?」

「あ、貸してもらっていいですか」

「はいよ」

「どもです」


 俺はロザミィさんからローブや服を受け取ると、足元に落ちている大きめの石を包んでいく。


「できた! リリアちゃん、」

「ん?」

「これを遠くに投げてもらっていいかな? それぞれ別の場所に」

「ん。わかった。いくよー……えーい! やー! とー!」


 リリアちゃんは石をくるんだロザミィさんの服を別々の場所に投げとばす。

 これでオークが分散してくれればいいんだけど……こればっかりは運頼みだな。


「お兄ちゃん、ぜんぶなげたよ!」

「ありがとリリアちゃん。なら……」


 俺はリリアちゃんを抱きあげ、ロザミィさんの手を握る。


「な、なんだい急に!?」

「ロザミィさん、いまは黙って俺についてきてください! 転移魔法、起動!」


 足元に魔法陣があらわれ、


「リリアちゃん、錦糸町にいくよ!」

「んっ! きんしちょー!!」

「て、転移魔法だって!? マサキ、いったいな――」


 光が俺たち三人を包み込む。


 そして……光がおさまると、窓からはスカイツリーがのぞいていた。

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