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第33話 すれ違う運命

今回はダブルジョイントさんたち御一行視点のお話です。

苦手な方は飛ばしちゃっても問題ありません。

 誰かに呼ばれた気がして、ゲーツは顔を上げた。

 木々の合間からは覗く空は厚い雲に覆われ、灰色がかっている。


「嫌な天気だ」


 ゲーツは誰とも無しに吐き捨てた。

 まるでいまの自分のようだ、と空を睨みつけながら。


「おいっ、ゲーツって」


 今度ははっきりと聞こえた。

 ゲーツは振り返る。

 すると、岩のような大男、ゴドジが呆れ顔で自分ゲーツの名を呼んでいた。


「ったく、何ぼーっとしてんだよゲーツ?」

「ゴドジ……悪い。少し考え事をしてた。……それで、何か用か?」

「『何か用か?』じゃねえよゲーツ。こんだけオーク共を狩ったんだ。もう十分だろ。そろそろズェーダに戻ろうぜ」


 ゲーツたちの周りには、人型の魔物モンスター、オークが物言わぬ躯となって転がっていた。

 その数、七体。

 三人編成の冒険者パーティとしてみれば、十分すぎる戦果であろう。


 ゲーツたちが拠点としている街ズェーダ。

 その北にある森で、オークの数が異常なまでに増えていると確認されたのはつい最近のことだ。

 すぐにズェーダを治める議会はオークに懸賞金を掛け、街にあるギルドすべてに討伐依頼を出した。


 そして多くの冒険者たちが森へと入っていくことになる。

 ゲーツたちパーティも、そんな中のひとつだ。


「これで最後……っと。ふぅ……。ゲーツ、たまには自分でも耳を落したらどうだい?」


 討伐証明であるオークの右耳を切り落としたロザミアが言う。

 その声には、幾分かの苛立ちが紛れていた。


「…………」

「……無視かい。まったく、うちらのリーダーさまは気まぐれで困るねぇ」

「そう言うなよロザミィ。ゲーツはさっきの戦闘で五体のオークを倒してんだ。ちっとは休ませてやろうぜ」

「ゴドジ、あんたがそうやって甘やかすからゲーツがつけ上がるんだよ? そのこと分かってんのかい?」

「まあまあ、長い付き合いなんだ。大目に見てやろうぜ。なあ?」


 ゴドジに諭されるも、ロザミアは苛立ちを隠そうともしないでゲーツから顔を背ける。

 それを見てゴドジは、


(まずいな……)


 と思った。

 いかに付き合いの長いロザミアといえども、ゲーツの振る舞いに限界が近いな、とも。


 ゲーツが変わったのは、ここ半年ほどのことだ。

 パーティのリーダーとしてふさわしかったゲーツは、ある日を境にひとが変わってしまった。

 探索依頼よりも手堅く稼げる討伐依頼を選ぶようになり、平等にわけていた報酬も討伐数に応じて払うようになった。


 一番わりを食ったのは、治療師ヒーラーであるロザミアだ。

 治療師は仲間を癒すのが仕事(役目)だ。魔物を倒すのは戦士の仕事。

 それなのにゲーツは、ロザミアへの払いまで渋るようになってしまったのだ。


 いまもなおロザミアがパーティに留まってくれているのは、やはり付き合いの長さゆえだろう。

 代わりに、盗賊シーフ魔法使い(メイジ)がパーティを抜けてしまったが。

 五人パーティから三人パーティへとなり、パーティ名も『ハウンドドッグ(猟犬)』へと変えた。

 稼ぐことのみを考えた浅ましい冒険者パーティに相応しい名だ、とロザミアは皮肉を言っていたが。


 このパーティ――『ハウンドドッグ』が解散していないのは、ひとの好いゴドジがかろうじて繋ぎとめているからに他ならない。

 荒れるロザミアをなだめ、ゲーツがやれと言えば、ひよっこ冒険者にちょっかいも出した。

 勘弁してくれ。と、何度も思いながら。


 それでもゴドジは、ゲーツを見放すことができなかった。出来ない理由があった。

 なぜゲーツが強引にでもカネを稼ごうとするのか、その理由(わけ)を知っていたからだ。


 ゲーツの姉、ライラ。

 唯一の肉親であるライラを助けるために、ゲーツはカネに執着するようになったのだ。


 ゴドジはゲーツを子供の頃から知っている。当然、姉のライラもだ。

 ライラはぶっきらぼうだが、優しくて綺麗なひとである。

 誰にも言っていないが、ゴドジは密かに恋心まで抱いていた。


 ライラは鍛冶職人であり、自分で打った武器や防具を店を構えて売っている。

 その店が、どうやらうまくいっていないらしいのだ。

 ゲーツとライラの話に聞き耳たてていたゴドジは、とんでもない額の借金まであることを知ってしまった。

 しかも、よくない商会からカネを借りているらしい。


 だからゴドジは逸るゲーツをいさめ、不満を溜めこむロザミアをなだめていたのだ。

 すべては、ライラとゲーツのために。


「それでゲーツ、どうする? ズェーダに戻るのか?」

「……まだ日はある。もっと森の奥にいってもう少し狩っていくぞ」

「まだ狩る気かい? まったく、付き合わされるこっちはたまったもんじゃないよ」

「文句があるなら帰ってもいいんだぞロザミィ。もっとも、ひとり(・・・)でこの森から帰れるならな」


 いまロザミアがいるのは、森の半ばだ。

 オークが出ない森の浅いところまで戻るには、それなりに距離がある。

 治療師であるロザミアがひとりで戻るには、厳しい場所といえるだろう。


「……ゲーツ、あんたホント嫌なヤツになったね。いったいどうしちゃったのさ?」

「…………いくぞ」

「ゲーツ! 話は終わってないよ!」


 背を向け森の奥へと進むゲーツに、ロザミアが声を荒げる。


「落ち着けよロザミィ。ゲーツとの話し合いはズェーダに戻ってからにしようぜ。な?」

「ゴドジ……仕方ないねぇ。あんたがそう言うならわかったよ。でも……」


 長衣ローブのフードを目深に被ったロザミアは、真剣な声で続ける。


「宿に戻ったら、話があるからね」

「わ、わかったよ」

「フン」


 苛立ちながらゲーツのあとを追うロザミア。

 そんな仲間たちの姿を見ながら、ゴドジはひとり頭を抱えながら呟く。


「こりゃあ……もうダメかもしんねぇな」


 今夜の話し合い次第では、『ハウンドドッグ』は解散するかも知れない。

 そう考えると、ゴドジの胸が僅かに痛む。


「しかた……ねぇか」


 ゴドジは頭を一度振り、暗い考えを払うと、ゲーツたちの後を追いはじめる。

 どちらにしろ、すべては今夜しだいだ。

 そうゴドジは考えることにした。


 この時ゴドジは――いや、ゴドジだけではない。

 ゲーツもロザミアだって、あたり前のように今夜(・・)がくると考えていた。

 あたり前のように森から戻り、あたり前のように宿へと帰り、どこにでもある話のように、パーティを解散する。

 そう思っていた。


 三人は冒険者として、もっと考えるべきだったのだ。

 なぜオークがこんなにも湧いたのかを。

 なぜ異常なまでに数を増やしていたのかを。

 そしてひとつの考えに至らなくてはならなかったのだ。

 オークの群れをまとめ上げた存在が現れたことに。


 すなわち――――オーク・キングの存在に。

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