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第30話 ムロンとの再会

 翌日、冒険者試験を受ける日を迎えた俺は、ムロンさん宅で朝食をご馳走になっていた。

 ベッドで寝ている俺にリリアちゃんが飛び乗ってきて起こされたかと思えば、そのまま手をひかれてムロンさん宅の朝食がのったテーブルに連れてこられてしまったのだ。

 昨夜に続いてのお招き、本当にありがとうございます。


「そんじゃマサキ、試験がんばれよ」

「あれ、ムロンさんもう出かけるんですか?」

「おう、オレは今日が初仕事だからな。早めにいっていろいろと準備しなきゃなんねーんだ」


 ムロンさんはそう言うと、イスから立ち上がり、荷物を持って玄関に向かう。

 そういえば、ムロンさんの仕事ってなにかまだ聞いていなかったな。

 帰ってきたら聞いてみよっと。


「お父さん、いってらっしゃい」


 出勤前のムロンさんに向かって、リリちゃんがミサイルの如く体当たりをきめる。

 なんかすげーいい音がしてた。「めきょ」って。


「ごふぅっ……り、リリア、いい子にして待ってるんだぞ」

「うん!」


 リリアちゃんの突撃を受け止めたお腹を押さえながらも、ムロンさんは笑顔を浮かべている。

 父親の偉大さがわかる、素敵な笑顔だった。


「あなた、がんばってくださいね」

「おう! 夜には帰るからな」

「はい」


 ムロンさんとイザベラさんは熱い抱擁をかわす。

 おかげで俺は目のやり場に困ってしまったぞ。


「そんじゃマサキ、またあとで(・・・・・)な」

「え? あ、はい。また夜に!」


 ムロンさんは俺に向かって片手をあげ、ニヤリと笑うと、そのまま出ていってしまった。

 まさか最後に声をかけられるとは思ってもいなかったから、ちょっとだけ慌てちゃったよ。


 ちらりと腕時計を見る。現在の時刻は午前9時。

 レコアさんはお昼前って言ってたけど、正確な時間がわからないから早めにいったほうがいいよね。

 10時になったら出ようかな。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん」

「ん? どうしたんだい、リリアちゃん」

「お兄ちゃんもおしごといくの?」

「ははは、そーなんだよー。俺はこれから森にいって、薬草を探してこなきゃいけないんだ」

「森!? お兄ちゃん森にいくの!?」

「う、うん」

「リリアもいっていいっ?」


 森と聞いたとたん、リリアちゃんの瞳がキラッキラに輝く。

 リリアちゃんは森に囲まれて育ったから、街よりも森にいるほうが好きなのかもしれないな。

 草原を疾走する姿がよく似合うしね。


「こら、ダメよリリア。マサキさんは遊びにいくわけではないんですから」

「えー」


 イザベラさんにたしなめられたリリアちゃんが、ほっぺをふくらませて唇をとがらす。


「お兄ちゃん、リリアもいっちゃダメなの? リリア、お兄ちゃんのおてつだいするよ!」


 小首をかしげて上目づかいに見あげてくるリリアちゃん。

 あまりの可愛らしさについつい首を縦にふってしまいそうになるけど、俺はこれから試験を受けにいくんだ。

 ピクニックにいくわけじゃない。ここは断固としてお断りしなくちゃいけないぞ。

 がんばれ近衛正樹! 街コンでボストロールに「NO!」と突きつけたあの時のように強い意志で断るんだ!


「ごめんねリリアちゃん。今日森にいくのは試験っていってね。絶対に俺ひとりでやらなくちゃいけないことなんだ。リリアちゃんの気持ちは嬉しいけど、他のひとに手伝ってもらうのは禁止されていてやっちゃいけないことなんだよ」

「……そっかー。じゃあリリア、おるすばんしてるね」

「え? あ、うん。いい子にして待っててね」

「ん!」


 あれ?

 もっとダダこねるかと思ったのに、なんか今日のリリアちゃん素直だな。

 思わず拍子抜けしてしまったぞ。


 てっきりジャイアント・ビーの時みたく、「行く」って言ってきかないと思ってたのに。

 まあ、リリアちゃんも成長したってことかな。

 子どもの成長は早いっていうしね。


「ありがとリリアちゃん。……じゃあイザベラさん、俺自分の家で準備してから冒険者ギルドにいきますので、これで失礼しますね。朝食ごちそうさまでした」

「はい。……あ、そうですマサキさん。お弁当をつくったので持っていってくださいな」


 イザベラさんがお弁当が入った包みを渡してきてくれた。

 朝食だけじゃなく、お弁当までいただいてしまったぞ。

 こんなにもよくしてもらったんだ。絶対に試験に合格してみせなきゃな。


「ありがとうございます!」

「試験がんばってくださいね」

「はい! じゃあ、いってきます。リリアちゃんも、またあとでね」

「うん。お兄ちゃん気をつけてねー」


 こうして、俺はリリアちゃんとイザベラさんのふたりに見送られ、自分の家へと戻っていった。

 別れぎわ、リリアちゃんがいたずらっ子みたいな笑みを浮かべていたのが少し気になったけど、いまは試験に向けて集中しないとだ。

 薬草、すぐみつかるといいなー。





「さて、そろそろ冒険者ギルドへいくかな」


 自宅で準備を整えた俺は、念のためもう一度装備の確認をする。

 安全靴にボディーアーマー。ヘルメットにナイフの数々。

 そしてイザベラさんからもらったお弁当。

 よし! 準備は万端だ。


 明日は有給休暇の最終日。

 そのうえどうしても外せない大切な用事があるから、絶対に今日で合格するぞ。

 冒険者になってやるんだ。


「やるぞー!」


 家を出て鍵をしめ、冒険者ギルドへ向かう。

 俺がすげー気合はいっているからか、はたまた異世界こっちでは奇抜な恰好(日本でもだけど)をしているからか、道行くひとの視線がすげー痛い。

 でも、めげずに進み、冒険者ギルドの扉を勢いよく開けると、そこには――


「いようマサキ。待ってたぜ」

「…………へ? ムロンさん?」


 ムロンさんがひとの悪い笑みを浮かべ、俺を出迎えたのだった。

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