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第29話 ムロンの心

 家に戻ってきた俺は、さっそくお隣のムロンさん宅に行き、冒険者ギルドであった顛末をみんなに話した。


「がはは! そりゃあ災難だったなマサキ」


 ムロンさんはそう言って笑い、


「あらあら、大変でしたね」


 イザベラさんはしょげる俺にお茶を出してくれた。


「もう……俺からしたら笑い事じゃないですよムロンさん。すっごい焦ったんですから」

「お兄ちゃんたいへんだったねー」


 肩を落とした俺の頭を、リリアちゃんがなでなでしてくる。

 いつもと立場が逆だ。ムロンさんが拳を握っているのは目の錯覚だと信じたい。


「ありがと、リリアちゃん」

「げんきでたー?」

「もちろん!元気もりもりだよ。ほら!」


 腕をまくって力こぶを見せると、リリアちゃんも納得してくれたのか、「ん!」と言って首を縦にふる。

 そして俺の膝のうえによじ登って、ちょこんと座った。

 リリアちゃーん。隣のイスが空いてるぞー。


「そうしょげるなマサキ。冒険者になろうとするヤツに絡むのは、ギルドの風習みたいなもんなんだよ。そこでビビっちまうようなヤツじゃ、はなから冒険者には向いてねぇからな」

「えー……ムロンさんもやってたんですか?」

「見損なうなよマサキ。オレはそんなくだらねぇことやっちゃいねーよ」

「すみません……」

「そのかわり、オレが新人のときに絡んできたヤツはボコボコにしてやったけどな。がはは!」

「わーお」


 ムロンさんはかなり体格がいいし、そのうえ強面だ。

 そんなムロンさんにちょっかい出すなんて、なんて命知らずなんだろう。

 でも、ギルドの風習かぁ。

 転校生が初日にその学校のヤンキーグループに絡まれるようなものかな?

 中学のとき転校してった友達にひとりそんなヤツがいたな。

 たしか、ヤンキーに『学校の掟』とか言われたって、言ってたな。

 なぜかそいつもそのあとヤンキーグループに入っちゃったけど。

 まぁ、異世界こっちでも新人に対する洗礼イジメってやつは存在するんだな。


「ムロンさん、あんなのどう見ても新人イジメじゃないですかー」

「イジメか、そうとも言うな。なんせ、弱いヤツにかぎって新人にちょっかい出すもんだからな。オレはギルドじゃ一目置かれてたからよ、新人とハンパもんのケンカを止めるのは、いっつもオレの役目だったんだぜ」

「へー。どうやってとめてたんですか?」

「んなもん両方ぶっ飛ばしちまえばいんだよ。がはは!」

「おう……しっと」


 俺は思い切り脱力してしまう。

 リリアちゃんが膝に乗っていなかったら、きっとイスからずり落ちていたことだろう。


「でもよぉマサキ、」

「はい。なんです?」


 ムロンさんが難しい顔をして話しかけてくる。


「回復魔法を見せたのは失敗だったかもしれねぇな」

「……え?」

「いいか? そもそも魔法を使えるヤツは10人にひとりとか、20人にひとりっていわれてんだ」

「は、はぁ」

「それが回復魔法となると、そこからさらに数が減る。ギルドじゃいっつも回復魔法を使えるヤツを探してるパーティもあるぐらいだしな」

「そ、そうだったんですか……」


 まずい。

 いまさらだけど、やっぱり俺目立ちすぎたんだ。


「しかも無料タダで治療しちまったんだろ? そりゃお前、回復魔法で飯食ってる教会に正面からケンカ売ったようなもんだぜ」

「…………」

「やりすぎちまったな。マサキ」

「……わーお」

「ま、なんだ?いまさらどうこう言っても意味ねぇからな。次から気をつけりゃいんだよ」

「き、気をつけます……」


 あの時は緊急事態だったしな。

 あとあとダブルジョイントのゴドジ(なんか響きがカッコいいぞ)さんたちに因縁つけられたくもないし。

 ムロンさんの言うように、次回からは気をつけることにしよっと。


「話は変わるがよ。そんでマサキ、試験はどんな内容だったんだ?」

「街の北にある森で、薬草を見つけてくることです」

「薬草か……。めんどくせぇ試験にあたっちまったな」

「え~。そうなんですか?」

「あったりまえだろ」


 ムロンさんはテーブルに肘をおくと、身を乗りだして説明をはじめた。


「薬草はな、熟練の冒険者でも森のどこに生えてるかなんてわからねぇ。生える場所が安定していないからな」

「なっ……どこに生えてるかわからないんですか?」

「そうだ。おかげで薬草はいつも品薄状態。値も張りやがる」


 なんてこった。薬草なんて、てっきり特定の場所にいけばモサモサ生えてるもんだと思ってたぞ。

 俺の髪の毛みたく。


「しかも薬草は薬師や商人、錬金術師や教会。どこにだって売れる。冒険者にとっちゃ、見つけたらかならず引っこ抜いてくるアイテムなんだよ。そうかさばるもんでもねぇしな」

「うわぁ……そのひとたちより早く見つけなくちゃいけない、ってことですか」

「そうだ」


 大きく頷くムロンさん。

 俺の顔が険しくなったからか、またリリアちゃんが頭をなでなでしてきた。ありがとリリアちゃん。

 しかし……困ったぞ。まさか薬草がそんなに大人気なアイテムとは思わなかった。

 ゲームみたく、道具屋にでもいけばかならず売ってる量産型アイテムって認識しかもってなかったからなー。

 つまりはライバルがたくさんいるってことだろ?

 そのなかに初心者の俺が割ってはいっていけるんだろうか?


「うーむ……」

「がはは! そーむずかしい顔すんなマサキ。見つかるときは見つかるし、見つからねぇときは見つからなぇんだからよ」

「ムロンさん……」


 悩む俺をムロンさんが豪快に笑いとばす。

 このひとのポジティブさは俺も見習わないとな。人生楽しくなりそうだし。


「でも、そうだなぁ……。薬草は大木の根本なんかに生えてることが多いからよ、せいぜい目を皿にして探すこったな」

「大木の根本、ですか……。ありがとうございます」

「おう」


 なんだかんだいって、こうしてアドバイスをくれるんだからムロンさんも良いひとだよね。


「そんじゃ、そろそろ飯にするか。マサキ、お前も食べてけよ」

「いいんですか?ご馳走になっちゃって」

「あったりまえだろ。イザベラもそのつもりで作ってんだからよ」

「あったまえだろー」


 リリアちゃんがムロンさんの言葉を真似る。舌ったらずで可愛いなぁ。


「いつもすみません。ならご馳走になっちゃいます」

「おう」


 ムロンさんの言うように、イザベラさんがいるキッチンからは良い匂いが漂ってきていた。

 美味しいそうな匂いが胃を刺激して、「ぐー」とお腹が鳴った。


「お兄ちゃんいまお腹なったよー」

「あはは……聞かれちゃったか」

「うん!リリアちゃーんと聞いちゃったもん」


 リリアちゃんが俺を見あげ、ドヤ顔してみせる。

 俺はリリアちゃんの頭を撫でながら、話題を変えるべくムロンさんに顔を向けた。


「そういえばムロンさんはお仕事どうでした? たしかお友だちに紹介してもらったんでしたよね?」

「ああ、それな。いちおう決まったぜ。明日からさっそく仕事だ」

「うわー!おめでとうございます!」

「がはは。あんがとよ」

「それじゃ今日はお祝いしないとですね」

「おいわいー?」


 リリアちゃんが「お祝い」って言葉に反応して、期待に満ちた眼差しを向けてくる。

 これは美味しいものを期待している顔だ。


「そうだよリリアちゃん。ムロンさんがお仕事決まったからお祝いしないとね」

「うん!リリアお父さんおいわいするー!」

「ったく、仕事決まったぐらいで大げさなんだよ」


 とか言うくせに、ムロンさんは照れながら頬をかいている。ツンデレさんめ。


「あらあなた、せっかくマサキさんがお祝いしてくれるんですから、もっと素直になったらどうです?」


 そう言いながらイザベラさんが料理を持ってくる。

 イザベラさんが作った料理は手の込んだものばかりで、夫であるムロンさんを祝う気だったのは間違いない。


 こうして俺たち4人はムロンさんをお祝いし、大いに楽しんだ。

 さーて、次は俺の番だ。

 バッチリ薬草を見つけて、しっかり冒険者試験に合格しないとな。


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