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第26話 悲しみのおっさん

「いようマサキ。いま戻ったぞー」


 ムロンさんたちが帰ってきたのは、日が暮れてからそれなりに経ってからだった。


「ムロンさん、イザベラさん、お帰りなさーい」

「お父さんお母さんおかえりなさーい」


 大きな荷物を抱えて家に入ってきたふたりを、俺とリリアちゃんは出迎える。

 錦糸町の自宅でお昼寝した俺は、リリアちゃんを起こしてから異世界こっちへと戻ってきていたのだった。

 もちろん、元の服に着替えさせ(リリアちゃんは残念そうにしていた)てからだ。

 錦糸町でのできごとは、ムロンさんたちには秘密だからね。

 だけど、ひとつだけ問題があった。


「ただいま! オレの可愛いリリア――ん? リリア、お前になに持ってんだ?」

「ペンちゃんだよ」


 リリアちゃんはペンギンのぬいぐるみ《ペンちゃん》を決してはなそうとせず、こっちまで持ってきてしまったのだった。

 曰く、「ペンちゃんはおともだちだからいっしょにかえるの!」だそうだ。

 不思議そうな顔でペンちゃんを見るムロンさんとイザベラさん。

 動揺する俺の背中を、嫌な汗がつたう。


「んん? これは人形か?」

「お父さん、これはね『ぬいぐるみ』っていうんだよ」

「ヌイグルーミィ? 聞いたことねぇな。リリア、どうしたんだコレ?」

「ペンちゃんはね、お兄ちゃんがかって――」

「ああっとっ!! お、俺が作ったんです! そのっ、ざ、材料とか集めて! ムロンさんたち待ってる間にっ、俺がっ」


 我ながら苦しい言い訳だと思う。

 でも――、


「ほう。マサキがなぁ。器用なとこあるじゃねぇか」

「可愛らしいお人形さんね。リリア、お母さんにもかしてくれる?」

「うん、いーよ。はい」

「ありがとう」


 リリアちゃんからペンちゃんを受け取ったイザベラさんは、撫でたり触ったりして感触を確かめている。


「しっかしマサキよぉ。こりゃいったいなんの生き物だ? オレは見たことねぇぞ」

「あははは……。と、鳥をイメージして作ったんですけど、な、なんかへんてこりんになってしまって……」

「鳥? こいつが鳥だって!? がははははっ! マサキ、お前には鳥がこんな風に見えてんのか? こんな翼じゃ、空なんか飛べっこねぇーぞ」

「で、ですよねー。あははははは……」


 ペンちゃんの造形がツボにはまったのか、爆笑するムロンさん。


 違うんですムロンさん。

 ホントはそれ、『ペンギン』っていう生き物()なんです。

 空を飛べないかわりに、なんと海を泳ぐんですよ!


 なーんて真実を伝えられるはずがなく、俺はこの場をごまかすために乾いた笑いを繰り返すのだった。


「マサキさん」

「はい? なんでしょうイザベラさん」

「この『ヌイグルミ』でしたっけ? マサキさんがつくったんですよね?」


 俺の顔に浮かぶごまかし笑いが凍りつく。

 まずい。ウソだってバレたか?


「え、ええ。お、俺がつくりました」

「ふうん。そうなんですか」


 イザベラさんは、いろんな角度からペンちゃんを観察し、各部位を触ったりして調べている。

 さて、そろそろ土下座の準備でもしますかね。

 とかそう考えはじめていると、


「これは……素晴らしい人形ですね」


 イザベラさんは、そう感心したような声を出した。


「……へ?」

「ヌイグルミのなかに詰めているのは綿ですか? すごいです。綿をこのように使うなんて。寝具のほかにこんな使い方があるだなんて、わたし知りませんでした」

「は、はあ……」

「マサキさん、」

「は、はい! なんでしょう?」


 イザベラさんは、ペンちゃんをリリアちゃんに返してから、真剣な表情を俺に向ける。


「もしご迷惑でなければ、わたしにこの『ヌイグルミ』という人形のつくりかたを教えてはくれませんか?」

「へ?」

「……迷惑でしたでしょうか?」

「い、いやっ、ぜんっぜんそんなことないですよ! 教えます教えます! ぬいぐるみの作りかた教えます!」

「よかったぁ。ありがとうございます。マサキさん!」

「お母さんよかったねー」


 声をはずませるイザベラさんのまわりを、リリアちゃんが跳びまわる。


「は、ははは……。いやー、そんなよろこんでもらえるなんておれもうれしいなー」


 一方の俺はそれどころではない。

 小さなウソから、とんでもないことに発展してしまったぞ。

 ぬいぐるみの作り方だって? そんなの俺だって知らないよ!


 なにか……なにかないか?

 なんとかして時間を稼がないと。

 少なくとも、俺がぬいぐるみを作れるようになるまでの時間を…………そうだ!


「い、イザベラさん!」

「はい。なんですか?」

「えとですね、その……お、俺まずは、ぼぼ、冒険者になりたいのでですね、冒険者になって、おち、落ち着いてからでもいいですか? その……教えるのは?」

「もちろんですよ。わたしも引っ越ししたてで片づけなければならないことが、たくさんありますからね」

「じゃじゃっ、じゃあ! おお、お互い落ち着いてからにしましょうか? うん! そうしましょう! それがいい!!」

「はい。では落ち着いてからで。そのときはお願いしますね、マサキさん」

「まま、まっかせてくださいよ。は、はははー」


 このあと、ムロンさんたちは自分たちの家へと帰っていき、俺はひとり頭を抱えるのであった。





 翌日。

 俺はひとり錦糸町の自宅に帰り、時間指定したmamazon(ママゾン)の荷物を待ちながら、ネットでぬいぐるみの作り方を調べては、半泣きになりながらどんどんプリントアウトしていく。

 昼過ぎに荷物を受け取ってからは、生地屋さんにいって素材となる生地やボタンにビーズのほかに、糸や針、ハサミなどの裁縫セットも購入。

 そしてすべての荷物を持って、異世界へと戻っていった。


 コンビニで買ったおにぎりで遅めの昼食をとった俺は、mamazonの箱を開く。

 梱包を外すと、そこには俺の装備一式がそろっていた。


 上半身には防刃ジャケット、下半身には防刃パンツを着込み、おまけでジャケットのうえから防弾ベストまで着る。

 手には防刃グローブ。靴は鉄板入りの安全靴。

 頭には強化プラスチックのヘルメットを被り、最後に何本も買っちゃったナイフを全身のいたるところに忍ばせて完成。


 まるで厨二病をこじらせてしまったかのような、全身真っ黒なスタイル。

 これが、この日本だったら職質どころかその場で射殺されかねないデンジャーないでたちこそが、俺の冒険者として装備だ。


「似合ってる……かな?」


 ためしにナイフを抜いて、ポーズをキメてみる。


「マサキー、はいるぞー」


 そんな時にかぎってムロンさんが部屋に入ってくるもんだから、恥ずかしいったらありゃしない。


「マサキ、ぼうけ…………おい、なんだその恰好は?」

「お、俺の……そ、そうびです」


 素になったムロンさんの質問に、俺は消え入りそうな声で答える。

 バカにできない金額でそろえた俺の装備を見たムロンさんは、ただひと言。


「お前……へんなもんつかまされちまったなぁ」


 と、残念そうな声で言うのだった。

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