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第25話 リリア、スカイツリーと叫ぶ

 俺はリリアちゃんと手をつないで家を出た。

 スカイツリーまでは、歩いて10分ほど。


「お兄ちゃん、あれはなに?」

「アレは車っていって、う~ん……あ、鉄でできた馬車! ……みたいなものかな?」

「ふ~ん。クルマかー。おうまさんいなくてもすすむんだね」

「うん。車は馬がいなくても走るんだ。鉄でできててとっても硬いから、ぶつからないように気をつけるんだよ。ぶつかったら死んじゃうからね」

「はーい」


 俺はスカイツリーまでの道すがら、リリアちゃんに歩道と車道の違いや、信号機の見かたを教える。

 賢いリリアちゃんは、すぐに理解してくれた。

 幼い子供は考え方も柔らかいから助かる。


「リリア、すかいつりー楽しみ!」

「もうすぐ着くよ。今日は天気がいいから、のぼったら景色がいいだろうなー」

「とーくまで見えるの?」

「見えるよ」

「わーい!」


 赤毛の女の子(リリアちゃん)が珍しいのか、すれ違うひとがたまに振り返る。

 でも、誰も怪しんだりはしない。

 錦糸町は昔から外国人のひとが多く住んでいるし、ここ数年はスカイツリーもできたおかげで、世界中から観光客が集まってきている。


 だから、地球上のどの国の国籍も持っていないリリアちゃんを俺が連れていても、楽しそうに謎言語で会話しているもんだから、不審がるひとは誰もいなかった。

 誰の言葉か忘れたけれど、ホント、木を隠すなら森の中とは、うまいことを言ったもんだ。


「リリアちゃん、着いたよ」

「うわーーーー!!」


 スカイツリーに併設されてるショッピングモール、ソラマチに着いた俺とリリアちゃんは、通路の両脇に並ぶお店を眺めながら進んでいく。


「んぐんぐ……おひいちゃん、んぐ……これおいひいね」

「クレープっていうんだよ。気に入った?」

「うん!」


 途中で買ったクレープを頬張るリリアちゃんのほっぺは、ハムスターみたくパンパンに膨らんでいる。


「さて、スカイツリーのチケットを買わないとな」


 今日は夏休み前の平日、しかも昼間ということもあって、チケットはスムーズに買うことができた。

 できることなら、リリアちゃんにはスカイツリーからの夜景を見せてあげたかったけど、遅い時間だとムロンさんたちが帰ってきちゃうかもしれないしな。

 今日は昼間の景色でガマンしてもらおう。


「リリアちゃん、じゃあスカイツリーに登ろっか?」

「うん。……でも、てっぺんまでのぼるのたいへんそうだね」

「あはは。大丈夫だよ。エレベーターがあるからな」

「えれべたー? なーにそれ?」

「ふっふっふ。それはね――……」


 俺は怪しい笑みを浮かべると、リリアちゃんの手をひいて展望台行エレベーターの列に並ぶのだった。





 エレベーターから降りたリリアちゃんは、目を大きくひらいて驚いていた。


「お、おお、お兄ちゃん。えれべたーってすごいね! リリアたちこーんな高いとこいるよ!」

「どーだ? 凄いでしょ?」

「うん! すごい! すかいつりーってすごいねお兄ちゃん!」

「ははは、だろー」


 リリアちゃんは、手すりにあごを乗っけて景色を見ている。

 口はポカンと開きっぱなしだ。

 第二展望台の高さは、地上450メートル。

 視界を遮るものはなにもなく、遥か遠くまで見渡せる。

 リリアちゃんの言葉じゃないけど、まるで神さまにでもなった気分だ。


「どう? いい眺めでしょ?」

「………………」


 どうやら言葉もないみたいだ。

 このあと、俺はリリアちゃんをひっぺがすようにして展望台を降り、ちょっとだけ膨らんだほっぺたを元に戻すためすみだ水族館に足を運んだ。


 すみだ水族館はソラマチの5階にあって、規模はとても小さいけれど、リリアちゃんは色鮮やかな魚やはじめて見るペンギンに歓声をあげて喜んでいた。

 真っ白なワンピースを着た小さなプリンセスは、とても楽しそうだった。





「お兄ちゃん、つぎはどこいくの?」


 リリアちゃんは、大きいペンギンのぬいぐるみを抱っこしながら聞いてきた。

 このぬいぐるみは、すみだ水族館のおみやげコーナーで買ってあげたのだ。


「んー、俺もちょっとやらなきゃいけないことあるし、いったん家に戻ろっか?」

「はーい」


 クレープにスカイツリー、そして水族館を楽しんだリリアちゃんは十分に満足したのか、笑顔が咲いている。

 俺とリリアちゃんは元来た道を戻り、途中コンビニによってお菓子と飲み物を買ってから帰宅した。


「リリアちゃん、俺ちょっとやらなきゃいけないことがあるから、テレビ見ててくれる?」

「うん、いーよ。ペンちゃんもいるからへーき」


 リリアちゃんはニッコリ笑って答える。

 ちなみにペンちゃんとは、ペンギンのぬいぐるみにつけた名前らしい。


「ありがと。じゃあジュースでも飲んでてね」

「はーい」


 俺はリリアちゃんにりんごジュースを渡すと、ノートパソコンを開いてmamazonのサイトを開いた。

 冒険者として必要な装備を、購入するためだ。


「そうだなぁ。まずは……プロテクターでも探してみるか」


 俺はキーボードを叩き、様々なものを検索した。『プロテクター』、『防具』、『鎧』、『甲冑』と、本当にいろいろと探した。

 『鎧』と検索したら、一番上にダンボールでできた甲冑がでてきたときは椅子からずり落ちそうになったけどね。

 予算を無視して選んだ結果、俺はいくつかの物を購入した。


 防刃ベスト。

 防刃パーカー。

 防刃グローブ。

 etcetc。


 とりあえず防刃と名がつくものを片っぱしから買い物カゴに放りこみ、ついでに防弾ベストと安全靴も購入。

 いつまでも武器が軽量スコップでは不安だったので、サバイバルナイフとかウォーリアナイフ(名前がカッコイイから買っちゃった)、おまけで10徳ナイフとかも買っちゃった。


 最終的な金額を見た時は、さすがに軽くへこんだけど、これもぜんぶ自分の身を守るためだ。

 命はおカネじゃ変えられない。

 ここはおカネを惜しんではいけない、重要なことだ。


 それに中国発の世界同時株安のタイミングで買った、千葉に巨大テーマパークを持つ会社、『ロリエンタルランド』の株価がいくらか戻していたから、出費は気にしなくていいだろう。

 5000円で買った株が、予想通り6500円まで戻っていた。

 400株持ってるから、しめて60万円の利益だぜ。ひゃっほい。


 これでリリアちゃんにふかふかなベッドも買ってあげれるぞ。

 こんどふたつ先の駅、平井にある家具屋さんの鳥忠とりちゅうホームズに行ってこようっと。

 

「ふぅいー。終わった。お待たせリリアちゃ――」

「スー……スー……」

「――ん……って、寝ちゃったか」


 パソコンと閉じてふり返ると、いつの間にかリリアちゃんはソファで寝息をたてていた。

 ペンちゃんは抱っこしたままだ。

 気づけば1時間ぐらいmamazonで買い物してたから、寝ちゃうのもしかたないよね。


 現在の時刻は午後4時。

 あと1時間ぐらいは寝かしてても大丈夫だろう。


「よっ」


 リリアちゃんを抱きあげてベッドに運ぶと、俺も隣で昼寝をすることにしたのだった。

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