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第24話 リリアと錦糸町と

「ただいまっと」


 二日酔いがだいぶ抜けてきた俺は、転移魔法で数日ぶりに錦糸町の自宅へと帰ってきた。

 手をつないで一緒にやってきたリリアちゃんも、


「たっだいまーっ!!」


 と元気よく言う。

 リリアちゃんの力がこもったその言葉からは、錦糸町への、なによりスカイツリーへの並々ならぬ想いが強く感じられた。


「ねえねえお兄ちゃん、」

「ん? なーにリリアちゃん?」

「ホントにリリアもすかいつりーにいっていいの!?」


 両手をぎゅっと握って俺を見あげるリリアちゃん。

 そんなキラッキラな期待に満ち溢れた瞳を向けられてしまっては、いまさら断れるはずがない。


「もちろんだよ。でも、スカイツリーにいく前にいくつか準備しなくちゃいけないから、リリアちゃんちょっとだけお留守番頼めるかな?」

「うん。いーよ。でもすぐ帰ってきてね?」

「もちろんだよ!」


 俺はテレビをつけてリリアちゃんに見せる。

 お留守番の暇つぶしの意味もかねて、日本こっちでのことを何となく理解するには最適だと考えたからだ。

 テレビにひとが映るたんびに、


「お、お兄ちゃんっ、ひ、ひ、ひとがいるよ!?」


 ってびっくらこいていたけどね。

 しかもひとが映るとテレビの裏を覗きこんでそのひとを探したり、動物が映ってもやっぱりテレビの裏を覗きこんだりと、ずっと不思議そうな顔をしていた。


「これはね、『テレビ』っていって、いろんなものを映す魔法の板なんだ」

「へー。すごいねー」

「この板に映っているだけで、本当はそこにいないし、触ることもできないんだ」

「ふーん。見るだけなの?」

「そう。見ることしかできないんだ」


 おお! リリアちゃん賢い。

 テレビのことを理解してくれたぞ。


「そっかー。さわれたらいいのにね」

「そうだね。触れたらもっと楽しいだろうねー」


 リリアちゃんはソファにちょこんと座り、テレビを凝視している。


「じゃあリリアちゃん、テレビ見てて待っててくれる? 俺すぐ帰ってくるから」

「うん。リリアいいこにして待ってるね」

「ありがと。じゃー、いってきます」

「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 テレビを子供向けのチャンネルに変えてから家を出た俺は、自転車にまたがり錦糸町駅へと向かった。

 目的地は駅ではなく、その隣の駅ビルだ。


 エレベーターに乗り4階で降りると、そこは全国展開するカジュアルウェア専門店『ONIQLO(オニクロ)』がフロアの3分の2を占めている。

 俺は買い物カゴを手に取り、女の子向けのキッズ服をぼんぼんかごに入れていく。

 ホントはリリアちゃんに似合う服をじっくり悩みたいとこではあるんだけど、まわりの目が気になって出来なかった。


 なんとなく、「これぐらいだろう」というサイズの服を数種類。

 それとくつ下やおパンツなどの下着も何枚か買った俺は、次に下の階の靴屋さんで子供用サンダルを購入(サイズが合わないと痛いだろうから、サンダルにしておいた)。

 ここまででかかった時間は30分。なかなかいいタイムだ。


 再び自転車にまたがり帰宅すると、リリアちゃんはまだテレビに夢中だった。

 あの顔じゃあ、時間がたったのにも気づいてないんだろうな。


「ただいまリリアちゃん」

「え? お兄ちゃんもう帰ってきたの!?」

「俺が出てからけっこー時間たったんだよ」

「えー!? リリアぜんぜん気づかなかった! おかえりなさい、お兄ちゃん」

「ん。ただいま。リリアちゃんにお土産買ってきたよー」

「えー。なーに?」


 テレビに若干後ろ髪を引かれてたけど、それを振り切ってリリアちゃんが俺のところにくる。


「ほら、お洋服!」

「わー! きれー!! これリリアのふく?」

「そうだよ。俺からリリアちゃんへのプレゼントだ。魔法の国のこと、内緒にしてたご褒美だよ」

「ありがとお兄ちゃん! ね、ね、リリアこれきてもいい?」


 リリアちゃんが手に取ったのは真っ白なワンピースで、スカートの部分にフリルがついている可愛らしいやつだ。


「いいよ。でも、その前に……」

「まえにー?」


 俺は首を傾げるリリアちゃんを抱きあげて、にっこり笑う。


「お風呂に入ろっか?」


 せっかく新品(おニュー)の服を着るなら体を洗ってからの方がいいし、俺も二日酔いを抜くために汗をかいておきたかったからだ。

 俺はお風呂を沸かして、久しぶりにリリアちゃんと一緒に入ることにしたのだった。





「きもちーね。お兄ちゃん」

「そうだねー。気持ちいいねー」


 お風呂につかった俺とリリアちゃんは、お互いにトロンとした目をしている。

 もうちょっと浸かっていれば、昨日のお酒も抜けるだろう。


「ぶくぶくぶくー」


 リリアちゃんは空気を包んだタオルを沈めて遊んでいる。

 泡がぶくぶくするのが面白いみたいだ。

 こんどお風呂に浮かべるオモチャでも買っておこうかな。


「よし、でよっか?」

「うん」


 汗をかいて調子を取り戻した俺は、リリアちゃんと一緒にお風呂をあがった。


「リリアちゃん、はいタオル。これで体ふいて」

「はーい」


 俺はリリアちゃんにふわふわのバスタオルを渡す。

 すると、リリアちゃんはふわふわな感触が楽しかったのか、バスタオルにくるまって走り出してしまった。


「ちょっ、リリアちゃん!」

「きゃははっ」


 急いでパンツをはき、慌てておいかけると、リリアちゃんはベッドのうえで飛び跳ねていた。


「お兄ちゃん! このベッドふっかふかだね!」


 ぴょ~んぴょ~んとジャンプするもんだから、バスタオルがめくれてお尻が見えている。

 この場にムロンさんがいたら、俺は天国行きの特急列車に乗せられていただろうな。


「リリアもこんなベッドほしー!」

「はいはい。それじゃこんど一緒にベッド見に行こうね」

「ホント!?」

「ほんとほんと。さあリリアちゃん、髪を乾かして服を着よう」

「うん!」


 俺はリリアちゃんの体をふいてからONIQLOで買ってた下着をはかせ、ドライヤーを持ってきて髪を乾かしてあげる。

 そしてリリアちゃんが気に入ってくれたワンピースを着せると――、


「お兄ちゃんどう? リリアにあってる?」

「………………」

「……お兄ちゃん?」

「……いい」

「え? なーに?」

「ちょー可愛いよリリアちゃん! ちょー似合ってる!」


 そこには、可愛らしいお姫さまがいた。


「ほんと?」

「ホント!」

「ほんとにほんと?」

「ホントにホント!!」

「へへー。ありがと、お兄ちゃん」


 照れたのか、顔を赤くしたしたリリアちゃんが俺に抱きついてくる。

 俺は優しく抱きとめ、言う。


「じゃあ、約束のスカイツリーにいこっか?」

「うん!」 

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