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第22話 恐怖! 亡霊ファイター出現

「ここに決めたぜ!」


 ムロンさんは、物件選びでも決断がはやかった。


「うわー。おっきー! おっきーおうちだねお父さん! リリアたちここに住むの?」

「そうだぞリリア。お父さんたちはな、これからここに住むんだ。ほんと、いい家が見つかってよかったぜ」

「すごーい!」


 リリアちゃんが跳びあがって喜ぶ。

 そのくりくりした瞳は、目の前の豪邸に釘づけだ。


「ムロンさん、これは家じゃなくて、もう屋敷ですよ。や・し・き。だって、こんなに大きいですから」

「そうか? 屋敷か。がははは、ちげーねぇ!」


 物件を扱う商会に行ったムロンさんが開口一番、「デカイ家を探していると」と言ったところ、すぐ案内されたのがこの家――屋敷だった。

 ひと言で言うなら、すげーデカい。

 大きな庭には噴水までついてる3階建てで、間取りは驚異の10LDK。

 しかも、なんと地下室まであったのだ。


 1階はだだっ広い食堂に応接室、炊事場キッチンとお風呂場(お風呂があると聞いてリリアちゃんがすっげー喜んでいた)があり、地下室には広い倉庫と小さめの部屋(使用人用と商会のひとは言っていた)が2部屋。

 両開きの玄関の正面にある、横幅がやたらある階段をのぼった2階には5部屋あり、各16畳ほど。

 3階には16畳の部屋がふたつに、30畳の部屋がひとつ。


 日本の住宅事情がちんけに感じる、すさまじい豪邸っぷりだった。

 なんでも、以前はそこそこ名の知れた商人が住んでいたらしく、屋敷の大きさは貴族にも匹敵するとか。

 これが金貨100枚で買えるっていうんだから、ムロンさんがとびついてしまうのもムリはない。

 イザベラさんなんかは、「お掃除が大変そうねぇ」と小さくぼやいてたけどね。


「おい、本当にこの家が金貨100枚なんだな!?」


 確認のためか、ムロンさんが物件を紹介した青年につめ寄る。

 青年はなぜか焦ったように、無理やり笑顔をつくってまくし立ててきた。


「え、ええ。そうですとも。このぐらいの屋敷となると、本来であれば金貨500枚はするのですが……いいい、いまは特別期間中でしてっ。いつもよりずーっとお安くしております。は、はっきり言いましてっ、こ、このお値段でこの大きさの屋敷が出ることはもう二度とありませんよ。断言します!」

「おおっ! そいつはいいこと聞いたぜ! なら買うしかないな!」


 ムロンさんはリリアちゃんと同じように瞳を輝かせて屋敷を見ているが、俺は青年の言葉がひどく気になっていた。

 

「ふつーなら、金貨500枚……か」


 俺は屋敷に目を向ける。

 空き物件であるため、手が入っていない庭は草がボーボーで噴水もコケだらけ。

 さっき手早く内見したとき、屋敷内の空気はカビくさかった。

 なんでこれだけの屋敷なのに、商会のひとたちは掃除もしないで放置プレイしてたんだろ?


「まさか……事故物件、なーんてことはないよな?」


 相場の五分の一しかないという、破格の値段。

 どこかしらじらしい物件の紹介者。

 あれ、なんか条件満たしてない?


「あのー……」


 気になった俺は、上機嫌のムロンさんには聞こえないよう、小声で青年に話しかける。


「はい? なんでしょうか」

「このお屋敷って、なんでこんなに安いんですか?」

「そそそ、それはですね、でで、ですからっ、ととと、特別な――」


 俺の不意な質問に動揺してしまったのか、青年の手からなにかが落ちる。

 チャリンと音を立てて落ちたのは、ほのかな光をまとう細長い金属のプレートで、表面には奇妙な紋様が彫られている。

 そのプレートを見たムロンさんが、口を開く。


「なんだお前、教会の護符なんか持ってんのか?」

「い、いや、ぼぼ、僕はそのっ、」

「その光は魔よけの効力か? へんなの持ち歩いているな」

「し、信心深いものでして……」

「ふーん。そっか」


 すげー怪しい。

 教会の護符だって? しかも魔よけ? お守りみたいなものか?

 ムロンさんはたいして気にしなかったけど、俺は別だ。

 プレートを拾い懐にしまった青年に、俺は再び質問をする。


「へー。特別ですかー。ちなみに前はどんなひとが住んでたかご存知ですか? いやほら、参考までに」

「たしか……い、以前は冒険者のご家族だったような……」

「ほうほう。そのご家族はどれぐらいお住みだったんですかねー?」

「ひ、ひと月……ぐらいでしたかね。なんでも急な用事ができたとかでして。ははは……」

「へー、ひと月で引っ越しちゃうなんてもったいないですね。はははー」


 愛想笑いを浮かべる青年に、俺もまた愛想笑いで答える。

 ってゆうか、ここ絶対に事故物件だろ。だって青年の顔にそう書いてあるもん。

 ここはやめた方がいい。俺がムロンさんに考え直すようそう言おうとしたら、


「リリアあたらしいおうち見てくるねー!」

「あ、ちょっ、リリアちゃん!」


 目の前のお屋敷に行きたくて我慢できなかったのか、リリアちゃんが駆けだしてしまった。

 しかもちょー速い。あっという間に屋敷にはいったリリアちゃんは、笑い声をあげながら走り回っている。


「もう、待ってよリリアちゃん!」


 慌てて俺も屋敷に入る。

 扉を開く前に一度だけ振り返ると、そこにはホクホク顔でサインし、金貨をじゃらじゃら支払っているムロンさんの姿が見えた。





「おーい! リリアちゃんやーい! どこだーい?」


 俺が屋敷に入った時、すでにリリアちゃんはどこかへと消えていた。

 屋敷内には湿った空気が充満しているし、広すぎるせいか、日の光が届かない個所もある。

 ムロンさんには申し訳ないけど、ここできもだめしをやったら絶好調に怖いんだろうな。洋館風の造りだから、ゾンビものでもいいけど。

 とにかく、出ちゃいけない存在(何か)が出ちゃいそうな雰囲気満載なのだった。

 やっべーよコレ。何か(・・)が来ちゃうよ! きっと来ちゃうよ!!

 俺はビビりながら、屋敷の廊下を進む。

 と、その時――


「お兄ちゃん」

「ぎゃーーーーー!!!!」


 後ろから突然リリアちゃんに声をかけられ、俺は不覚にも悲鳴をあげてしまった。 


「り、リリアちゃんかぁ……ふう。ビックリしたぁ」

「へへへ、お兄ちゃんいますごい顔だったよ。こーんな!」


 リリアちゃんが俺の顔真似をして、楽しそうに笑う。

 そんなとこまでムロンさんに似なくていいんだよ、リリアちゃん。


「リリアちゃん、この屋敷から一回出ようか? ムロンさんたちも心配しちゃうよ」

「お兄ちゃんがいっしょだからだいじょぶだよー。あ、そーだ! それよりお兄ちゃん、」

「ん? どうしたの?」

「このあたらしいおうちね、」

「うん。このお屋敷が?」


 ぷくーっとほっぺたを膨らまして、リリアちゃんは続ける。


「しらないひとがあそんでるの!」

「わーお」

「こっちだよ。リリアが言ってもでてってくれないから、お兄ちゃんがおこってちょうだい!」

「え? ……ええ? マジで!?」

「ん!」


 リリアちゃんはほっぺたを膨らましたまま、俺の手を握ってずんずん進む。

 新居となるこの屋敷に、知らないひと(たぶん故人)がいることが不満なんだろう。

 俺だったら、そんなとこを紹介した青年が不満かな。


「ここ! ここでしらない男のこが、かってにリリアたちのおうちであそんでるんだよ! ほら!」


 リリアちゃんに手をひかれるままたどり着いた、地下室。

 そこには、全身を青白くして元気に走り回る少年の姿があった。


『遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで――――……』


 年のころは7歳ぐらいかな?

 下着姿パンイチの少年は、奇声をあげながら地下の倉庫をぐるぐる走り回っている。

 俺はその男の子を、心の中で『トシくん』と名づけた。


「あのこ! あのこね、リリアが言ってもでてってくれないんだよ。お兄ちゃんもおこって!」

「んー……あの男の子(トシくん)、めっちゃ透き通ってるね」


 青白い体ごしに、向こうの壁が見えちゃってるぞ。 

 スケスケだ。いやらしい。


「地縛霊ってやつか? あ、異世界こっちだと悪霊レイスとかいうのかな? まぁ、どっちでもいいか。リリアちゃん、」

「ん? なーにお兄ちゃん?」


 俺はしゃがんでリリアちゃんと目線を合わせる。


「リリアちゃんは、あの男の子と仲良くなりたい?」

「んー……リリアね、はだかんぼさんはちょっとヤダなー」

「そっか。じゃあ、バイバイしちゃってもいい?」

「うん。いいよ」

「おっけー! そんじゃ……」


 念のためリリアちゃんに確認をとった俺は、立ちあがってパンイチ少年に向き直る。

 そして手をかざし、


「聖なる光よ! この者に安らかな眠りを与えたまえ! 浄化ターンアンデッド!!」


 アンデッドに有効な魔法を唱えた。


『遊んで遊んで遊んで遊んデあそんであそンデアソンデアオソンデアソンデアソンデアソァァァァアアアアアアアアアァァァァァァァァァ―――――……』


 浄化の魔法は見事に決まり、パンイチ少年が光に包まれて消えていく。

 はじめて使ったけど大成功だ。

 使いたい魔法を頭にイメージするだけで、前から知ってたかのように使い方が知識として浮かびあがるんだから便利なもんだぜ。


「これでよしっと」

「お兄ちゃん、男のこかえったの?」

「そうだよ。いつまでもパンツ姿じゃカゼひいちゃうからね」

「そっか。ありがとお兄ちゃん」


 抱きついてきたリリアちゃんの頭を、俺は優しくなでる。

 これで事故物件の問題も解決かな? 

 俺がそう思っていると――


「お兄ちゃん、ほかのとこにもね、しらないひとがいるの」

「……わーお」


 どうやら俺とリリアちゃんがこの屋敷から出るには、もう少し時間がかかりそうだな。

 このあと、俺とリリアちゃんは屋敷内をくまなく探索し、


「お兄ちゃん、このおへやのてんじょーに女のひとがいるの! ほら、あそこっ!」

「聖なる光でこの者に安らかな眠りをなんちゃら――浄化! はあぁぁぁッ!!」

「お兄ちゃん! ここにもおじーさんがいるの!」

「さっさと眠れ! 浄化!! はああぁぁぁぁぁ!!」

「お兄ちゃんっ! お風呂にもへんなおじさんがいてリリアを見てくるの!」

「くたばれロリコン! 慈悲はない!! 破ぁぁぁーーーーーッ!!」


 勝手に住み憑いていた方々を払ってまわった。

 気分はもう寺生まれだ。


 その甲斐あって、ムロンさんが青年と契約を終えるころには、お化け屋敷はただの立派な屋敷へと変わっていた。

 俺とリリアちゃんの小さな冒険は、ふたりだけの秘密にすることにした。

 新居を手に入れてご機嫌のムロンさんとイザベラさんのウキウキな心に、水を差したくなかったからだ。


 さーて、次は自分の家を探さないとだな。

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