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エピローグ

 ドロシーさんの婚約が破棄されてから、一週間がたった。

 ゾンビ軍団の襲来を乗り切ったズェーダの街は、やっといつもの落ち着きを取り戻しつつあった。


「へええ。シャリアおじさんがご隠居されるんですか」

「ええ。伯父様の領地はお父様が引き継ぐことになりましたわぁ」


 この日、俺は朝からドロシーさんちを訪れていた。

 あたり前のように薔薇園へと案内され、ティータイムへと突入。

 婆やさんが紅茶を淹れ終わるまでの間、俺とドロシーさんは世間話をすることに。


 錦糸町から二人で帰ってきたあと、俺もドロシーさんも色々あった。

 こうして会うのも久しぶりだったりする。


 お互いここの数日で何をしていたかを語り合う。

 俺は昼はリーマン、夜はズェーダ(こっち)にやってきてギルドに協力したりと忙しく、ドロシーさんはドロシーさんで、パパさんと一緒にシャリア伯父さんが黒幕だった証拠を掴もうと忙しかったそうだ。


 腕利きの冒険者を間者(スパイ)として放ち、シャリア伯父さんの内情を探る。

 そしたらまー、出るわ出るわ。

 ゾンビを使って襲撃する段取りと、その後ズェーダを支配する計画書がわんさかと見つかったそうなのだ。


 証拠を掴み、カロッゾさんが実の兄であるシャリアおじさんを問いただす。

 ネクロマンサーと共謀して領地をぶん取ろうとしたなんて、国王にバレたらタダでは済まない。

 それこそ、家ごとお取り潰しになっておかしくないんだとか。


 問われたシャリアおじさんは当然否定したらしい。

 そんな事するわけがないとか、バカを言うなとか、これは陰謀だ云々。


 一向に認めないシャリア伯父()さんに対し、パパさんは『ちょっとだけ乱暴な手』を使ってみたそうだ。


 すると、なんということでしょう。

 シャリア伯父さんがすべてを白状したではないですか。


 斯くて、シャリア伯父さんは領地内の避暑地で、監禁よりの軟禁で余生をお過ごしになるそうだ。

 チャイルド家がお取り潰しになるリスクもあった以上、事を荒立てずにチャイルド家の身内だけで問題を片付けることができた、最上の結果なんだろう。


「領地はドロシーさんのパパさんが引き継ぐ、つまり統合したわけですね」

「伯父様はあれだけのことをしたんです。処刑されなかっただけ感謝してほしいものですわね」


「確かに本来ならその……厳しい罰を受けてもおかしくないですもんね」

「これが血縁者でなければ断頭台に送り処刑していたところですわぁ」

「で、ですよねー」


 せっかく俺がオブラートに包んだのに、ドロシーさんはハッキリと『処刑』という単語を口にする。


「まったく、お父様が情に弱いお人であったことを伯父様は感謝すべきですわね」


 話に一区切りがついたタイミングで、


「お嬢様、マサキさまから頂いた紅茶をお持ちしました」


 婆やさんがトレーで紅茶を運んできた。

 紅茶を淹れたポットがひとつに、空のティーカップがふたつ。

 どちらもお高そうだ。


「ありがとう婆や」


 そう言うと、婆やさんは一礼して薔薇園から出ていく。

 ふたりきりが再びだ。


「良い香りですわねぇ」


 香りを楽しんだあと、ドロシーさんは紅茶をひと口。

 いまドロシーさんが飲んだのは、俺が錦糸町から持ってきた茶葉から淹れた紅茶だ。

 ドロシーさんに錦糸町にも紅茶があることを教えたら、「ぜひ飲んでみたいですわっ!」を食い気味で言われ、こうして本日のお茶会を開くことになった運びだ。


 しかしドロシーさんは貴族様。

 貴族様のお口に合うような紅茶なんて、錦糸町で手に入るかわからない。

 でも銀座なら……銀座ならなんとかしてくれるはず。


 そんな想いから俺が買ってきたのは、銀座のお店で買ってきたブランド品の高級紅茶。

 お値段なんと、100グラムで3000円。

 ドロシーさんの感想はいかに……?


「……なんて美味しい紅茶ですの」


 ドロシーさんが恍惚の表情を浮かべる。

 紅茶の香りを鼻孔に吸い込み、ウットリしているぞ。


「香りも素晴らしい……マサキさん、わたくしこんなにも美味しい紅茶を頂いたのははじめてですわぁ」

「あはは、それはよかったです。頑張って調べた甲斐がありましたよ」


 俺も紅茶をひと口。

 貧乏舌だからか、パックの紅茶との違いがまるで分らないぜ。


「これはなんという名の紅茶ですの?」

「この紅茶は複数の種類の茶葉を混ぜ合わせたもので、確かお店のひとは『ロイヤルブレンド』って言ってましたね」

「ろいやるぶれんど……」

「はい。ロイヤルブレンドです。まー、俺、紅茶に詳しくないんで、よくわかってないんですけどね」


 そう言い、テヘっと笑う。

 対してドロシーさんはシリアス顔だ。

 紅茶の入ったカップを見つめ、


「この茶葉を紅茶好きの王妃にお贈りすれば、お父様の評価が……」


 とかブツブツ呟いている。

 なるほど。

 さすが英国王室御用達の紅茶だ。

 その味は異世界でもバッチリ評価されそうな様子。


「ドロシーさん、よかったらまた持ってきましょうか?」

「いいんですの?」

「構いませんよ。とびきり美味しいの選んで持ってきますね」


「ありがとうございます、マサキさん」

「お礼なんていいですよ。あ、そだ。俺紅茶に合いそうなお菓子も持ってきたんですよね。よかったら食べてみてください」


 俺はカバンからお菓子をいくつか取り出す。

 今日持ってきたのは、銀座の有名デパートの地下で買ってきたお菓子たち。

 ドロシーさんのお口にも合うはずだ。


「まあ、可愛らしい。これはなんというお菓子ですの?」


 ドロシーさんは見たこともないお菓子に瞳を輝かす。


「これはチョコレートです。さ、どうぞ」

「いただきますわぁ」


 こうして俺とドロシーさんは、午後のティータイムを高級紅茶と高級お菓子で満喫するのでした。


◇◆◇◆◇


 紅茶とお菓子も堪能したところで立ち上がり、うーんと体を伸ばす。


「……そろそろいきましょうか?」

「はい」


 ドロシーさんも立ち上がり、傍らに置いてあるレイピアを手に取り、


「さあっ! 冒険者ギルドへ行きますわよぉ!」


 と言った。

 そうなのだ。

 婚約を破棄できたドロシーさんは、紆余曲折を経て冒険者に復帰することができた。

 パパさん的には、英雄であるドロシーさんを騎士にしたかったみたいだけど、


『わたくしは冒険者に戻りますわぁ』


 のひと言で冒険者を続行することになったそうだ。

 ゾンビ大軍団の襲撃を受けたとき、朱薔薇騎士団は不在だった。

 対して、街を守ったのが冒険者たちだったこともあり、パパさんも強く言えなかったんだとか。


 以前は、パパさんの言う事を守る印象が強かったドロシーさん。

 けれどいまは、少しだけ自分の心に正直になったみたいだ。


 婆やさんに見送られ、薔薇園をあとにする。

 やたら広い玄関ホールに来たところで、


「おや、マサキ君ではないか」


 パパさんに呼び止められた。


「どーもパパさん。おじゃましてます」


「構わんよ。君はあの伝説の存在、死霊王を討ち滅ぼした英雄なのだからね。この屋敷を自分の家と思って好きに使うといい。ああ、そうだ。この際だ、屋敷にマサキ君の部屋をいくつか用意させよう」


「あらお父様、素晴らしいお考えですわねぇ」

「そうだろう? 英雄には相応の持て成しをせねばチャイルド家の恥だ。マサキ君、どんな部屋がいいかね? 私のおすすめは日当たりのよい南の――」

「ちょっ――ちょっと待ってくださいっ。お気持ちは嬉しいのですが、街には自宅があるんでお部屋は結構です! いやマジで!」


「そうか? 遠慮なぞしなくて良いのだぞ?」

「そうですわぁマサキさん。屋敷には部屋も余っていますのよ」


 とチャイルド親子。

 なぜかわからないけれど、親子そろって俺をこの屋敷に住まわせたいご様子。


 けれど俺には帰るべき家が――近江シェアハウスがあるんだ。

 首を縦に振るわけにはいかない。


「いや、俺は庶民なので、こんなに立派なお屋敷だと緊張しちゃいますし、かえって疲れちゃうんですよね」


「ふぅむ。それは良くないな。ならば猶更いまから慣れておくといい」

「お父様の言う通りですわぁ」


 とチャイルド親子。

 この親子ったら……一向に退くつもりがないようだ。


「いや、でもほら……俺にはいろいろありましてね」


 そう言いつつ、俺はドロシーさんにウィンクをパチンパチン。

 お願い気づいて。錦糸町に行き来しているから住めないってことを察して。

 そもそも領主宅(ここ)に住めだなんて意味が分からないよ!


 そう願いを込めてパチンパチン。

 大丈夫。仲間ならきっと想いは伝わるはずだ。


「っ……」


 ドロシーさんが俺のウィンクに気づいてくれた。

 いまこそ伝われ俺の想い。

 ウィンクに意思と意味を込めてパチンパチン。

 しかし――


「い、イヤですわマサキさん……そんなに見つめられては困ってしまいますわぁ」


 顔を赤らめて俺から目を逸らしてしまった。

 通じてない。まったく通じてないよドロシーさん……。


「ハッハッハ。マサキ君、あまりドロシーをからかってくれるな。娘はこう見えて初なのだよ」


 顔を真っ赤に染めたドロシーさんと、そんなドロシーさんを嬉しそうに見つめ、朗らかに笑うパパさん。

 そんなチャイルド親子に挟まれた俺はというと、


「……わーお」


 としか言うことしか出来ないのであった。


 ◇◆◇◆◇


 チャイルド親子からの執拗な勧誘を振り切りった俺。

 屋敷を出てやってきたのは冒険者ギルド『黒竜の咆哮』。


 冒険者に戻ったドロシーさん。

 さっそく復帰後、初の依頼を受けようと中に入ると――


「ドロシー! 戻ってきたのね!」


 カフェスペースにいたロザミィさんが声をあげた。

 その声に、対面に座っていたキエルさんも反応し、こちらを向く。

 ふたりは椅子から立ちあがると、こっちに駆け寄ってきた。


「あらぁ、ロザミィさん、キエルさん。お久しぶりですわねぇ。お元気そうでなによりですわぁ」

「ちょっとドロシー、なんでギルド(ここ)にいるのよ? 結婚はどうなったの? ここにいるってことは冒険者に戻れたのっ?」

「ドロシーさまは騎士になられると聞きましたが、違うのですか?」

「そうよそうよ。あなた朱薔薇騎士団に入るって聞いたわよっ?」


 再会早々に質問攻めだ。

 二人とも笑顔ってことは、会えて嬉しいみたいだ。


「騎士団への入団はお断りしましたわぁ」

「じゃあ――」

「それでは――」


 ふたりが期待の眼差しをドロシーさんに向けた。

 ドロシーさんはゆっくりと頷いて見せた。


「ええ、わたくし、冒険者に戻りましたのよ。おーーーっほっほっほっほ!! これからも冒険者を続けますわぁ!」


 ギルド内に高笑いが響き渡る。

 耳に入ってくる「おーっほっほ」という笑い声に、当然、ギルドにいた冒険者たちは振り返る。

 そしてドロシーさんがいるのを確認すると、みな一様に肩をすくめた。


 でも、そこにはネガティブな雰囲気はない。

 みんな、騒がし仲間がやっと戻ってきた(・・・・・・・・)ぜ、といったやれやれ感を出していた。

 ネクロマンサー氏一派のゾンビ大軍団との戦闘を経て、ドロシーさんはパパさんや、街の住民たちだけではなく、冒険者たちからも認められたってことだ。


「よお貴族のお嬢さま、冒険前に一杯どうだ?」

「こんどアタシたちともクエストに行こうよ!」

「いま剣士を募集しているんだ。よかったらパーティに入ってくれないかな?」

「領主には悪ぃがよ、姉ちゃんには家紋付きの騎士なんかより冒険者の方がよっぽど似合ってるってばよ!」


 冒険者たちが口々に言う。

 そのウェルカムな空気にドロシーさんは戸惑い、


「…………みなさん……わたくしを……」


 やがて、その瞳が潤みはじめた。


「あれ? ひょっとしてドロシー感動してる?」


 ロザミィさんが人の悪い笑みを浮かべる。


「そ、そんなことありませんわっ」

「ふーん。そうなんだー。じゃあ――」


 いきなりロザミィさんがドロシーさんに抱き着いた。

 抱き着かれたドロシーさんが「きゃっ」と小さな悲鳴をあげる。


「お帰りなさい、ドロシー。みんなあなたのことを待ってたのよ」


「ロザミィさん……」

「そうよね、キエル?」


 振られたキエルさんが微笑む。


「はい。わたしも待っていましたよ。マサキさまはどうですか?」


 キエルさんからのパスを受けた俺は、あははと頭をかく。


「とーぜん待ってましたよ。だって俺たちは――――仲間ですからね」


 この言葉にが決め手となったみたいだ。

 ドロシーさんの涙腺は決壊し、床にぽたぽたと雫が落ちる。

 それを見て、ロザミィさんがポツリとひと言。


「ほら、やっぱり感動してるじゃない」


 ドロシーさんが復帰後の依頼を受けるには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。

これにてゾンビ編の終了になります!

なんとか今回の章もエピローグまで持ってくることができました。

ここまで読んで頂き本当にありがとうございました(´;ω;`)


「まあまあ良かったぞハゲ」

「更新おせーよハゲ」

「もっと早く書けハゲ」

「後光が差してるぞハゲ」


 などと思って頂けましたら、感想やブックマーク、レビューや下のボタンをポチッとなして評価等をいただけると励みになります!


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”禿げ”は男の第三次性徴だってばよー:リザレクションの無い世界にて
[一言] カミよ続きを!
[良い点] 一気読みしました次の章楽しみにしてます
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