表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/183

第40話 切り札

 突如、最下層へ乱入してきたあばよ号。

 ハンドルを握るのは武丸先輩だ。


「オォォォォオオオオッ!!」


 アクセルを緩める気配はなし。

 あばよ涙号ごとリッチ氏にぶつかるつもりだ。

 なら――


「ロザミィさん。あばよ涙号に神聖魔法の付与を!」

「わかったわ!」


 ロザミィさんが走行中のあばよ涙号に魔法を放つ。

 淡い光に包まれるあばよ涙号。

 そしてそのまま――


「オラァァァッ!!」


 リッチへとぶつかってやった。

 あばよ涙号アタック神聖魔法バージョンがさく裂だ。


『グヌゥオゥ……』


 圧倒的な質量差で吹っ飛ぶかと思いきや、リッチ氏はあばよ涙号を正面から受け止めたではないか。

 あばよ涙号はのタイヤは、煙を上げながらぎゅるぎゅると回転している。

 だけど、未だリッチ氏を轢けずにいた。


『ヌゥゥゥ……ク、クハハッ。まさか……コレ(・・)が貴様たちの切り札だったのか?』


 リッチ氏が嗤いながら言う。

 エンジンがオーバーヒートしてしまったのか、あばよ涙号が完全に沈黙。


「そんな……クルマが……」


 隣にいるロザミィさんが悔しそうにうめいた。

 確かに、突っ込んでくる車を正面から受け止めるなんて、俺には想像すらできなかった。

 でも、直後にもっと凄いことが起きたのだ。


「ウオラァッ!!」


 あばよ涙号から降りてきた武丸先輩が、バールのような物をリッチ氏に振るった。

 なんの変哲もない物理攻撃だ。

 それなのに――


『ヌゥッ!?』


 バールのような物による一撃がリッチ氏の頭部にヒット。

 リッチ氏が僅かによろめいた。

 さっき上のフロアで魔法を付与していたとはいえ、相手は死霊王なんだ。

 生半可な攻撃が効くとは思えない。

 では、なぜ?


「……凄いわね。あのタケマルって戦士」

「へ? ロザミィさん、どういうことです?」

「アンデッドには神聖魔法か火が有効。これはマサキも知ってるわよね?」


 ロザミィさんの言葉に、俺は首肯する。


「ええ、ムロンさんに教えてもらいました」

「うん。対アンデッドの基本ですものね。でも、上位アンデッドには効き辛い」

「はい。目の前にいるアレがそうですよね」


 俺はくいっとあごでリッチ氏を指し示す。

 ロザミィさんがこくんと頷く。


「そうよ。アレが上位アンデッド。実はね、アンデッドにはもうひとつだけ有効な攻撃手段があるのよ」

「マジですか?」

「ええ。それはね、」


 バールのような物を振り回す武丸先輩を見つめながら、ロザミィさんは続ける。


「強い意思を以て立ち向かうことよ。上位アンデッドは世界の理から外れた存在。通常の攻撃手段じゃダメージは与えられないわ。でも――」

「でも?」

「アンデッドにも魂は存在するの。つまり、魂に直接ダメージを与えられる攻撃を加えればいいのよ。そしてそれを行うには――」


 ロザミィさんが再び武丸先輩に視線を送り、不敵に笑う。


「こちらの攻撃に『想い』を込めればいいの。『想い』を『意思』を『魂』を!」

「想いを……なるほど。早い話が、『気合』ってことですね」

「言うほど簡単じゃない……いいえ、本来はとても難しいことよ。一流の戦士だって、できるひとはほとんどいないんだから」


 説明を聞き、俺は合点がいった。

 なぜ武丸先輩の攻撃がリッチ氏に届いているのかを。


 武丸先輩はいつだって気合バリバリ。

 アラフォーだけど、未だにかつて所属していたチームの集会や走行会にOBとして参加しちゃうぐらいバリバリなのだ。


「突破口が見えたみてぇだな」

「ムロンさん」


 あばよ涙号から降りてきたムロンさんが、ニカッと笑う。 


「ロザミィの嬢ちゃん、オレの剣にも付与を頼まあ」

「わかったわ」


 ロザミィさんがムロンさんの剣に神聖魔法を付与する。

 ムロンさんは、2、3度剣を振ってからにリッチ氏に切っ先を向けた。


「嬢ちゃんはザコが湧いたらあの世に送り返してやれ。マサキ、大技キメる気なんだろ? オレが時間を稼ぐから、リリアを頼んだぜ」

「わかったわ」

「おっす!」

「そんじゃ……いくぜぇ!」


 ムロンさんが戦列に加わった。

 少し遅れてヘンケンさんとドロシーさんも。


「お兄ちゃん! がんばって!」


 リリアちゃんは応援担当だ。

 でも、たまに湧き出た悪霊(レイス)を投石で倒したりもしている。

 リリアちゃんも気合バリバリなんだろう。


「ゴォォォオオオオアアアアアッ!!」

「ふん!」

「いやぁぁっ!」

「おらよぉ!」


 剣士3名と狂戦士1名による全力攻撃。

 さすがのリッチ氏も、幾度となく躰を斬られ、削られ、穿たれる。

 だけど、死霊王の躰はすぐに修復していく。


「マサキ! まだなの?」


 ハラハラした顔でロザミィさん。


「みんながんばれー!」


 一生懸命声援を送りつつ、床から剥がれた石を剛腕で以てぶん投げるリリアちゃん。

 そして俺は――


「お待たせしました!」


 俺は床を蹴り、リッチ氏に迫る。


『ムゥ?』


 リッチ氏が俺に顔を向けるが、もう遅い。

 こちとら準備は終えたんだ。


「喰らえ! 究極回復魔法! アルティメットヒール!!」


 瞬間、凄まじい光の柱がリッチ氏を中心に立ち昇った。


『ヌグァァァァァァァァァァ―――――』


 リッチ氏が絶叫をあげた。

 アルティメットヒール。

 それは俺がスケルトン・ドラゴンたちとの死闘で目覚めた、最強にて最後の回復魔法。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………くっ、ど、どうだ?」


 文字通り、俺の全身全霊を以て放った一撃だ。

 効果のほどは――?


『ヌゥゥゥゥゥゥ……ヌォォォォォオオオオオッ!!』


 効いてはいる。


『ハァァァァ…………まさか……これほどの回復魔法を使うとは、な』


 効いてはいるが――。


『さすがのワタシも……少し肝を冷やしたぞ』


 悔しいことに、決定打とまではいかなかったようだ。

 半身を吹き飛ばされて尚、リッチ氏は嗤っていた。


『……貴様は危険と判断した。最早魂などいらぬ。魂を砕き存在を消滅されるがいい』


 リッチ氏に黒い霧が集まっていき、失われた躰が徐々に修復されていく。

 ゆっくりと、本当にゆっくりと俺へと近づいてくるリッチ氏。

 しかし、全力で魔法を使った疲労感となにより通じなかったショックで、俺は立ち上がれずにいた。


「サセッカヨォ!!」

「逃げろマサキ!」

「マサキさんへの下へは行かせませんわぁ!」

「うぉぉぉ! マシュマー!!」

「マサキにはふれさせない! ターンアンデッド!!」

「えーい! えーい! このー! あっちいけー!!」


 みんなが俺を守ろうと、リッチ氏を俺に近づかせまいと武器を振るう。


『邪魔だ』


 だけど、リッチ氏が魔力を込めた腕の一振りで吹き飛ばされてしまった。

 そしてついに


『…………終わりか回復術師? この死者の王であるワタシに抗う術はもうないのか?』


 膝を着き、荒い息をつく俺の前にリッチ氏が立った。

 魔力の大半を失い、ぼんやりと思考の中でリッチ氏のひと言が脳裏に引っかかる。


『貴様のような強力な神聖魔法の使い手が生きていては厄介だ。ここで消えよ』


 いまリッチ氏はなんて言った?

 ……死者。死者の王。そう言ったんだ。


「死者の反対は…………生者」

『む?』

「そうだ……死者なら、生者に――」


 瞬間、キュピーンと閃きが走る。

 あとひとつ。

 あとひとつだけ俺には手段が残されていた。

 それは――


『死ね。煩わしき回復術師』


 リッチ氏が俺に手を伸ばしてくる。

 俺はその手を掻い潜り、リッチ氏に肉薄する。

 そしてリッチ氏の頭部に手を添え――


「これが本当に最後の切り札だ! 喰らえ死者の王――リザレクション!!」


 死者を蘇らせる、蘇生の魔法を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ