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第38話 絶望の誕生

 一体でもデンジャーなスケルトン・ドラゴンが、もう一体。


「マジかよ……」


 新たに出現したスケルトン・ドラゴン――とりあえずMk-Ⅱと呼ぼう。

 Mk-Ⅱは眼窩に昏い火が灯っている。

 眼の代わりなのかな? その鬼火っぽいもので周囲を見回しているぞ。


 まずヘンケンさんとドロシーさんを見て、次に後方にいる俺を見て、最後にネクロマンサー氏に視線を移動する。

 まるで、ネクロマンサー氏の指示を待っているかのようだ。


「ククク……可愛い私の玩具よ。お前はどちらと遊びたい? 憎きヘンケンか? 忌々しいカロッゾの娘か? それとも――」


 ネクロマンサー氏が俺をチラ見する。


「あそこにいる魔法使いか?」


『グゥゥ……ガ、ガ、ガ……』


 声帯がないのにMk-Ⅱが返事っぽいうめき声をあげた。

 それを聞き、ネクロマンサー氏はなにやらご満悦の様子。

 今ので意思の疎通ができてるのかよ。


「そうか。お前はあの者と遊びたいのか。なら行くといい。ああ、でも壊してはいけないぞ。ここにいる者たちは私の玩具にするのだからな」

『ガ、ガ……』


 やり取りを終えたMk-Ⅱは視線を戦場へ戻す。


 ――どっちだ? どっちに来る?


 俺はMk-Ⅱがどう動いてもいいように身構える。

 一体目のスケルトン・ドラゴン――ややこしいからこっちは初号機と呼ぶか。

 初号機はヘンケンさんとドロシーさんと戦闘中。

 ふたりとも距離を取りつつヒット・アンド・アウェイ戦法でなんとか戦っているけど、あっちにMk-Ⅱが加勢したら一気に不利になる。

 なら――


「サンダー・ボルトッ!」


 俺はMk-Ⅱに雷撃魔法を放つ。

 Mk-Ⅱの顔がこちらを向く。

 俺は極めてカッコイイポーズをキメながら、


「ヘイ! ヘイ! ヘイ! カルシウム不足な骨ドラゴン! 俺が相手してやるぜ。かかってきな!」


 と挑発した。

 骨だから表情とかまったくわからないけれど、眼窩の鬼火がボッと激しく燃える。

 そして、


「グガァァァッ!」


 咆吼をあげた。


「そうだ。俺に向かってこい。ストーンバレット! からの――アイシクルランス!!」


 無数の石つぶてが正面からMk-Ⅱに降り注ぎ、間を置かずに氷の槍がMk-Ⅱに飛んでいく。

 ストーンバレットはカンカンと乾いた音を立てて弾かれる。

 アイシクルランスは尻尾を振られ迎撃された。


『ガ、ガ、ガ………』


 Mk-Ⅱが完全に俺を標的にしたのがわかった。


「来るか!?」


 Mk-Ⅱは這うようにしてこっちへ走り――


『グ……ガ、ウ、ガァァッ!!』


 そのまま俺に体当たりをキメてきた。

 そのスピードは予想していたよりもずっと速く回避することができない


「くぬぅ!」


 それでも当たる瞬間、勢いを殺すため後方にジャンプ。

 しかし、Mk-Ⅱの頭突きの衝撃は凄まじかった。

 骨髄まで響いてんじゃないかって勢いだ。


 俺は吹っ飛ばされ、そのまま後方の壁へと叩きつけられる。

 肺の中の空気が全部外に出て、ついでに胃から逆流してきた何かを床にぶちまけてしまう。

 血だった。


 笑えない量の吐血。

 ひょっとして俺、人生最大のピンチかも。

 衝撃のせいか、意識がもうろうとしてくる。


「マサキさん!」


 ドロシーさんが悲鳴じみた声をあげた。

 俺を助けようとこっちへ来ようとするも初号機に阻まれその場から動けないでいる。


「くぅっ! おどきなさい!」

「待てドロシー君! いま背を向けるのは危険だ!」

「でもマサキさんが――きゃぁっ」


 ドロシーさんが初号機の振るった前肢に当たってしまう。

 前肢の先、鋭い爪がドロシーさんの肩を切り裂いた。

 ドロシーさんは肩を押さえ、片膝を着いてしまう。


「ドロシー君! おのれぇぇっ!!」


「いけませんわヘンケンさん。わたくしに構わないでください。この程度の傷……た、大したことありませんわ」


 ドロシーさんの足元に血だまりが出来ていく。

 早く回復魔法をかけてあげないと……。


「く……ヒ、ヒー――ゲホゲホゲホッ」


 また吐血。

 これ内臓がドえらいことになってそうだぞ。

 回復魔法を使おうにも、喉をせり上がってくる血がそれを許さない。

 自動で回復していくオートヒールも追いついていないみたいだ。


 あ、これ本格的にヤバイやつじゃ……。

 視界が暗転し、意識を失いそうになったその時だった。

 誰かが俺の背に手を触れ、


「ハイヒール」


 回復魔法をかけた。

 切れかけていた意識はギリッギリで繋ぎ止められ、振り返るとそこには――


「マサキ! 大丈夫!?」


 ロザミィさんが立っていた。


「なんで……ロザミィさんがここ……に?」


「まだ動かないで。いま治すから」


 そう言うとロザミィさんは神に祈りを捧げ、


「ハイヒール!」


 もう一度回復魔法をかけてくれた。

 内臓の痛みが引いていき、意識がハッキリする。


「どうマサキ? まだ痛いとこある?」


「いえ、ありません。助かりました」


「よかった……」


 ほっとした顔でロザミィさん。

 でもそれは一瞬で、すぐに表情を引き締める。


「大変な状況ね。はやくドロシーも治してあげないと」


「俺がスケルトン・ドラゴンの注意を引きます。その隙にドロシーさんのことお願いできますか?」


「ええ。あたしに任せて」


「頼みます! ハイブースト!!」


 俺は自分に強化魔法をかけ、まずはMk-Ⅱに、


「ファイアバースト!」


 炸裂魔法を放った。

 ズドーンと音を響かせ、スケルトン・ドラゴンの頭部で爆発が起こる。

 ダメージはなし。ヒビすら入っていない。

 でも動きは止まった。


「マサキミラクルパーンチ!!」


 全力で拳を叩きつける。

 Mk-Ⅱが僅かに後退。


 脇をすり抜けてお次は初号機。


「ヘンケンさん下がってください!」


「承知!」


 俺の言葉にヘンケンさんがすぐに反応する。

 双剣で斬撃を放ったあと、後方へとジャンプ。


「ブリザードストーム!!」


 氷の竜巻が初号機を包み込む。

 これは攻撃というよりも目くらましが目的だ。


『グ……ガ?』


 初号機が俺たちを見失う。

 俺が合図を出すよりも速く、ロザミィさんはドロシーさんの下へ辿り着いていた。

 ロザミィさんは手をドロシーさんの傷口に近づけ、


「ヒール!!」


 回復魔法を使った。

 ドロシーさんの傷口が塞がっていき、出血が止まる。

 俺以外にも治癒師がいるとこんなにも作戦の幅が広がるのか。


「マサキ君、魔力はどれぐらい残っている?」


 隣に移動してきたヘンケンさんが訊いてきた。


「いいとこあと3分の1ってとこですかね」


「なるほど。まだ余裕はあるようだな。だが念のためこれを飲んでおくといい」


 そうヘンケンさんが小瓶を俺に渡してくる。


「これは?」


マナポーション(魔力回復薬)だ」


「ありがとうございます。遠慮なくいただいちゃいます」


 俺は瓶のふたを開け、中身を飲み干す。

 効果はすぐにあった。

 なんか残り3分の1だった魔力が半分ぐらいまで回復した気がするぞ。


 マナポーションは、通常の傷を癒すポーションに比べてはるかにお高い高級品だ。

 それをポンとくれるなんて、伊達にギルドマスターしてないぜ。


「……どうだね?」


 ヘンケンさんが訊いてくる。


「はい。おかげで魔力が半分ぐらいまで回復しました」


「並の魔法使いなら魔力が完全回復するポーションでやっと半分か。ふふ、どうやら私はまだ君を過小評価していたようだ」


「やめてください。俺は期待に弱いタイプなんです」


「いいえ。期待させてもらうよ。なぜならいまのこの状況は、君こそが唯一の突破口なのだからね。マサキ君、」


「はい?」


「君は回復魔法が得意らしいな?」


「え? ええ、まあ。それなりには使えるつもりですけど……?」


「けっこう。なら君の全力の回復魔法を、あの――」


 ヘンケンさんは初号機を指さし、続ける。


「スケルトン・ドラゴンにお見舞いしてやりたまえ!」


「っ!?」


 アンデッドは基本的には火の魔法に弱い。

 でも、火魔法のほかに、もうひとつ苦手な魔法があるといわれている。

 何を隠そう、それが回復魔法だ。


 くそー。すっかり忘れていたぜ。

 てか、やっぱアンデッドとはいえ、回復魔法かけたら元気になっちゃうんじゃないかって、どうしても心配しちゃうんだよなぁ。


『ゴ、ガ……』


 初号機を包んでいたブリザードストームが解ける。

 初号機は所どころ凍ってこそいるけど、ダメージほぼなし。

 それどころか再びドロシーさんに襲いかかろうと動き出す。

 迷っている時間はない。

 俺は初号機に手を向け――


「ハイヒールッ!!」


 上位回復魔法を使った。

 暖かいヌクモリティ溢れるキラキラした光が初号機を包み込む。

 頼む! 効いてくれ。


『ゴァァァァァァァ――――ッ!?』


 効果はバツグンだった。

 なにをやっても動じなかった初号機が、はじめて苦しみ悶えたのだ。


 ――いける。


 俺が確信を持つと同時に、背後からMk-Ⅱが迫る。


「なら――エリアヒール!!」


 俺を中心に回復魔法の輪が広がった。

 圏内には仲間たちの他にも、初号機とMk-Ⅱも含まれている。


『グゥゥゥ――』

『ゴガァァァァァ――』


 苦しみ悶えるようにスケルトン・ドラゴンたち。

 視界の端では、ネクロマンサー氏がなにやらブツブツと呪文を唱えているのが見えた。


 まだ何かするつもりか?

 そっちが何かする前にケリをつけてやる。


「ヘンケンさん! ドロシーさん! ここから反撃といきましょうか!」

「うむ!」

「承知しましたわぁ!」

「マサキ、あたしのことも忘れないでよね」


 ロザミィさんが、プーとほっぺを膨らませて言う。


「もちろんロザミィさんのことを忘れるわけがありませんよ。ロザミィさんは後方から支援をお願いします。特にヘンケンさんとドロシーさんのフォローを!」

「わかったわ」

「さあ! いままでの借りを返してやりましょう!」


 俺が両手を初号機に向ける。

 まずは一番ダメージを与えている初号機から倒そうと思ったからだ。


「……初号機よ、俺の最大の一撃を受けてみろ!」


 俺は意識を集中。

 そして――


「オメガヒール!!」


 極上の回復魔法が放たれた。

 オメガヒールは初号機に命中。

 キラキラと聖なる光の柱が立ち上がる。。


『ゴ、ガ、ガ……ァ』


 初号機の頭部にヒビが入り、骨格全てへと広がっていく。


「ドロシーさんいまです!」


「わたくしの華麗な剣技で天へ還りなさぁい! はぁぁぁぁっ!!」


 ドロシーさんが刺突と斬撃を織り交ぜた闘技を放つ。

 初号機を覆っていたヒビはついに致命的なものとなり、


『ァァ……グ……ア、ア、ア、アァァ…………』


 粉々に砕け散った。


「よくやった2人とも! あとは残り一体だ!」


 ヘンケンさんが双剣を残ったもう一体、Mk-Ⅱへと向ける。


「いけるかマサキ君?」

「もちろんです。ここはきつくても無理するところですからね!」


 ヘンケンさんがMk-Ⅱの攻撃を受け流し、ドロシーさんが斬り込む。

 俺とロザミィさんは同時に、


「「ハイヒール!!」」


 回復魔法をMk-Ⅱに放つ。

 アンデッドにとっての弱点属性魔法。

 それも二重掛けだ。

 Mk-Ⅱの体にもヒビが入っていき、最後はヘンケンさんの斬撃で以て冥府へとお帰りいただいた。


「…………」


 ネクロマンサー氏はなにも言わない。

 切り札が破られてショックだったのかな?


「終わりだ。マシュマー」


 ヘンケンさんがネクロマンサー氏に向けて言う。


「これがお前にかけてやる最後の温情だ。抵抗を止め素直に投降するならいま殺しはしない。……さあ、どうする?」


 ヘンケンさんの問いに、


「……どうする、だと? ククク……カーッカッカッカ!!」


 ネクロマンサー氏は狂ったように笑いだした。


「終わりだと? この私が終わりを迎えるだと!? 馬鹿を言うな。私はここから始まるのだ! 見ろ!!」


「む?」


 ネクロマンサー氏が懐に手を入れ、紅い水晶球を取り出す。


「新たなる死霊王の誕生を見届ける赦しをやろう」


 そう叫んだネクロマンサー氏は、水晶球を天へと掲げた。

 水晶球が強い光を放ち、足元に魔法陣が展開される。


「よく見ておくのだヘンケンよ。これこそが、あの時私が望んだものだ!」


 叫ぶや否や、足元からどす黒い霧が湧きネクロマンサー氏を包み込んだ。


「そんな……まさかこれは……」


 ヘンケンさんが呆然と言う。

 なんかまずいことが起こっているみたいだな。


「ぬ、ぬぅぅ……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ァァァァァァァァアアアアアアア!!」


 ネクロマンサー氏の悲鳴にも似た叫びがフロア全体に響き渡る。

 黒い霧が晴れ、中から現れたのは、


「……フゥゥ。待たせたナァ」


 なんかお肉がごそっとなくなって骸骨になっちゃったネクロマンサー氏だった。

 それを見てたヘンケンさんが、震えた声で呟く。


「……死霊王(リッチ)

遅くなってすみません(´;ω;`)

あと感想返しできてなくてホントすみません!

ちょっとずつ返していきますね。

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