第34話 決戦への序章
中央区画にいる冒険者たちや町の男衆を集めた俺は、
「はい注目ぅ!」
ネクロマンサー氏への反抗作戦を開始するべく、準備に取り掛かった。
「まずはキエルさんとソシエちゃん!」
「はい」
「はいですっ」
俺の呼びかけに応じ、キエルさんとソシエちゃんのエルフ姉妹が進み出る。
「まず俺がストーンウォールで壊れた門を塞ぎます。でも簡易的なものでしかないので、そう長くはもちません。ふたりは土の精霊さんにお願いして、地面に溝をつくってください。あと土嚢用の土も山盛り用意してください」
「承知しました」
「ソシエにお任せくださいっ」
「ありがとうふたりとも。そんじゃ、ターンアンデッド! からのストーンウォール!」
俺はターンアンデッドの魔法で門に群がっていたアンデッドをやっつけ、すかさずストーンウォールで石壁を作る。
このコンボ技が見事に決まり、無事に門を塞ぐことに成功。
「土の精霊ノームよ。顕現し力を貸し給え」
「ノームさんっ。ソシエたちをお助け下さいっ」
キエルさんとソシエちゃんが精霊に呼び掛ける。
すると、すぐに地面がもこもこと盛り上がり人型になった。
土の精霊、ノームのご登場だ。
ノームはのそりのそりと動き、地面に深い溝を作っていく。
また、溝を作る過程で生まれた土を一か所に集め、小山をつくる。
サンキュー、ノーム。
門をストーンウォールで塞いだことにより、あばよ涙号が自由となる。
俺はあばよ涙号を門からバックさせ、積んでいたアイテムを降ろす。
「はい、また注目ぅ! 次は街の冒険者のみなさんです。冒険者のみなさんは、この――」
俺はチェーンソーを手に取って続ける。
「マジックアイテム……えと、魔剣チェーンソーでアンデッドと戦ってもらいます! この魔剣チェーンソーは、アンデッドを簡単にバラバラにすることが出来る恐ろしい武器です! 見ててください!」
俺はチェーンソーを起動し、高速回転する刃で近くに生えていた木の枝を無造作にぶった切る。
そこそこ太い枝だったけど、チェーンソーの前では紙も同然だった。
「「「おお~~~」」」
冒険者たちから感嘆の声があがる。
普段から武器を使う冒険者だからこそ、チェーンソーの威力に感動を覚えたんだろう。
「この魔剣チェーンソーがあと20個あります。けっこー重いので体力に自信のあるひとが使ってください」
「ふむ。では私がマサキ君の所有する魔剣の使用者を決めよう」
そう言いてくれたのはヘンケンさんだ。
ヘンケンさんは次々と冒険者の名を呼んでいき、順番にチェーンソーを渡していく。
その中には、ゲーツさんとゴドジさんもいる。
みんな、高ランクの冒険者ばかりだった。
選ばれた戦士全員にチェーンソーを渡したところで、俺が使い方をレクチャーする。
といっても、スイッチの入れ方と切り方だけだからすぐに終わった。
次には非戦闘員である住民のメンズたちだ。
「住民のみなさんには――」
住民のみなさんに支援を頼むのは気が引けたけし、勇気と覚悟も必要だった。
でも、いまは有事なんだ。
みんなが協力しないとこのピンチを乗り切れないのだ。
俺は錦糸町に戻ったときホームセンターで買ってきた土嚢袋とスコップを、この場にいる住民のみなさんに見えるよう掲げる。
「この袋にノームが集めた土をスコップで詰め、土嚢を作ってください。もうパンパンにしちゃっていいですからね。地味に大変ですけどお願いします。力に自信のある方は出来上がった土嚢を――」
地面にチョークでUの字に書いた線を指さし、説明を続ける。
「この線に沿って積み上げていってください。アンデッドが中央区画に侵入できないよう、目いっぱい積み上げてください」
「わかった」
「それぐらいなら俺たちでもできるな」
「冒険者たちが体を張って戦ってんだ。これぐらいはやらなきゃバチが当たるってもんだぜ」
ある程度の非難を覚悟はしていたんだけど、意外や意外。
俺たち冒険者が命懸けで戦っている姿を見ていたからか、協力を求められた住民のみなさんからNOの声はあがらなかった。
たぶんだけど、ドロシーさんが戦っていたことも理由のひとつなんだと思う。
「協力感謝します。でも危なくなったら急いで逃げてくださいね」
「がはは! ここを破られたらもう逃げ場なんてどこにもねぇけどな!」
冗談めかして言ったムロンさんの言葉に、住民のみなさんの顔が曇る。
もう。せっかくイイ感じでまとまっていたのにそんなこと言わないでくださいよ。
俺が非難の意味を込めた視線を送るも、ムロンは動じてないご様子。
それどころか、
「ここにいる全員が全力を出さねぇと生き残れねぇ。ここにいる連中だけじゃねぇ。この奥で震えてるオレたちの家族もだ。……わかるか? オレたちは家族を守るために命を懸けてんだ。家族を守るためにここに立ってんだ。テメェより大切なもんを守るために、いまオレたちはここにいる。家族、ダチ、恋人、なんでもいい。テメェの大切なもんをクソッタレなアンデッド共に奪わせやしねぇ。そうだろテメェらっ?」
「「「おおーーーっ!!」」」
住民のみなさんの士気を爆上げさせたじゃないです。
下げてから上げる。
ちゃんと考えがあってのことだったんだ。
さすがムロンさんだぜ。
ムロンさんの言葉がきっかけとなって、住民たちは額に汗を流しながらせっせと働くのだった。
◇◆◇◆◇
どんどん土嚢が積み上がる。
住民のみなさんの頑張りにより、土嚢防壁が完成だ。
「それじゃ……」
俺は中央区画の防衛準備が整ったことを確認してから、後ろを振り返った。
「確認ですけど……本当にいいんですね?」
後ろに並ぶメンバーに、俺は最終確認。
なぜなら、俺はいまからあばよ涙号で地下墓地へ乗り込むつもりだったからだ。
ここで防衛していても、アンデッドの数は増えるばかり。
なら、もっと増える前にその発生源を――アンデッドを操っているネクロマンサー氏を倒そうと考えたのだ。
地下墓地へとカチコミをかけるのに立候補したのは、
「がはは! マサキはオレがいねぇと心配だからな」
まずムロンさん。
ムロンさんは、
「それにアンデッド共の親玉を叩きにいくんだろ? オレは借りをキッチリと返す主義なんだよ。さんざんズェーダで好き勝手やってくれたんだ。ならよぉ……その礼はしてやらなきゃなんねぇーわな」
と不敵に笑う。
大切な家族と住む街を攻撃されて、ムロンさんはかなり怒っている。
口には出さないけど、全身から放たれる殺気は俺でもビビっちゃうぐらいだ。
そうそ、殺気といえばもうひとり。
「クックック……オレニ“ジョートー”クレルヤツハ“ミナゴロシ”ダヨゥ」
俺の魔法で、異世界言語を話せるようになった武丸先輩もカチコミメンバーのひとりだ。
武丸先輩は端からやる気満々。
やるの『や』が、『殺』になっちゃうぐらいの気合の入り様だった。
カタコトで「コロス、コロス」呟く武丸先輩は、誰がどう見てもバーサーカー以外の何者でもなかった。
そんで、
「マサキ、回復はあたしが引き受けるわ。マサキは出来るだけ魔力を温存していてね」
回復役が俺ひとりでは大変だろう、ということで同行してくれたロザミィさんに、
「おーっほっほっほ! アンデッドなんて襲いかかってくる前にわたくしが倒して御覧にいれますわぁ」
最初っから同行する気だったドロシーさん。
最後に、
「騒動の元凶であるネクロマンサーとは浅からぬ因縁があってな。私も同行させてもらおう」
ギルドマスターのヘンケンさんも一緒にカチコムことになった。
みんな実力は折り紙付き。
正に少数精鋭って感じだ。
「わかりました。じゃあ……行きましょう!!」
まず俺があばよ涙号の運転席に乗り込む。
続いてドロシーさんとムロンさんとロザミィさんとヘンケンさんが後部シートに。
武丸先輩は助手席に乗り、バールのようなもので肩をポンポンしている。
『さあて、“行こう”ぜ近江ぇ』
武丸先輩が日本語でGOサイン。
そのタイミングで門を塞いでたストーンウォールが破られた。
俺はアクセルを踏む。
あばよ涙号の発進だ。
「行きますよ! 地下墓地へ!!」




