第31話 マサキの決意
今回はちょっと短めです
「ネクロマンサーは地下墓地にいるかもしれませんね」
「ええ。わたくしも同じ事を考えましたわぁ」
地下墓地とは、ズェーダの街の北西にある住民のみなさんのための共同墓地だ。
信仰する神さまによってはご遺体を焼く文化がないため、万が一の悪臭対策と疫病対策として地下に造られていた。
「なるほど。あそこならいくら死体があってもおかしくはないですもんね」
「ですわねぇ。……それでどうしましょう? 精鋭を集めて地下墓地に向かいましょうか?」
「そうですね……いい考えだとは思います。騎士団が戻ってくるまで門が破られない保証はありませんからね」
街の外だけじゃなく、街の内側にまでアンデッドが現れたのは、ぶっちゃけ想定外だった。
当初の予定では街の門が破られる前に中央区画付近にバリケードを作ったり塀を強化したりして時間を稼ぐつもりだったのに……。
それが、お役人の暴走により住民の避難に時間がかかり、その上、街の内側にまでアンデッドが現れたことによって、当初の計画は台無しになってしまった。
つまり、騎士団が戻ってくるまで中央区画を守り切れるか、一気に怪しくなってきたわけだ。
だからだろうか、ちゃんと状況が見えている冒険者たちのなかには、険しい表情をしているひとが多かった。
ドロシーさんの提案も、そんな現状を見極めた上でのことだろう。
「でも……」
俺は腕を組み、嗜好を巡らす。
ネクロマンサー氏が原因なら、術者を倒せばアンデッドの動きは止まるかもしれない。
最悪止まらなくても、これ以上増えることはないだろう。
試してみる価値は十二分にある。
問題は――
「どうやって地下墓地まで行くか、か」
「ですわね」
まず考えるのはレビテーションやフライの魔法を使い、空から移動する手段だろう。
俺はどっちの魔法も使えるし、中堅以上の魔法使いなら使える者も多い。
だからこそこうも考えてしまうのだ。
――既に飛行魔法対策は取られているのではないか、と。
アンデッドが弓やクロスボウを使い狙撃したり、ネクロマンサー氏が魔法効果解除の魔法を使えるかもしれない。
そしたら落ちる先はアンデッドの真っただ中。
多勢に無勢じゃ、生きて帰れる可能性はけっこー低い。
となると、アンデッドに気づかれずに向かうか、ゴリ押しで突き進むしかないわけだ。
「むぅ……」
悩んでいると、
「マサキ! あれを見ろ!」
ムロンさんが北門の方を指さして叫んだ。
「狼煙が上がってる。北門を放棄したに違ぇねぇ」
夜空に昇る、キラキラした煙。
暗いところでも視認できるこの狼煙は、門の防衛に向かった冒険者たちが持っていたものだ。
そして、アンデッドに門を破られたとき、あるいは門を放棄したときに上げることになっていた。
「マサキさん、他の門からも狼煙があがってきましたわぁ」
「ホントだ」
北門の狼煙がきっかけになったのか、他の門からも次々と狼煙があがってくる。
これでもうアンデッドから門を護る者はいなくなった。
「クソが! 予定よりずっと早え」
ムロンさんがイラついように悪態をつく。
後ろの方では、避難してきた住民のみなさんが不安そうな表情を浮かべている。
おっと、いけないいけない。
ここで俺たち冒険者まで不安な顔してたら、パニックになっちゃうかもしれないじゃんね。
不敵に、クールに、常に余裕を見せて。
俺は無理やり笑みを浮かべ、動じてない風を装う。
「マサキ、なにか手はないか?」
「マサキさぁん、どうしましょう?」
ムロンさんとドロシーさんが意見を求めてくる。
俺は脳をフル回転させた。
考えろ俺。
いま俺に出来ることを考えるんだ。
「…………………………ムロンさん、」
「おう。なんかいい手を思いついたのか?」
「ぶっちゃけ、この場所でどれぐらいアンデッドを防いでられますか?」
俺の質問に、ムロンさんが考え込む。
いまめっちゃ頭の中で計算しているんだろう。
「数にもよるが……防げて2日。ダメでもまぁ1日は持つだろうよ」
この場にいる戦力をチラ見してからムロンさんが答えた。
「1日……か。えーっと、なんか自意識過剰に聞こえちゃうかもなんですけど、その1日って、俺抜きでもいけますかね?」
「オレを舐めんなよマサキ。どうせなんかやるつもりなんだろ? 端っからお前を計算に入れちゃいねぇよ」
ムロンさんがドヤってみせる。
なんか俺の行動なんかお見通しだぜって感じが、めっちゃ仲間っぽくていいよね。
「さっすがムロンさん! 俺をわかってるー! ……なら、なんとかできるかもしれません」
「マサキ、お前さんが何しようとしてるかは聞かねぇ。だけどよ、これだけは言わせてくれ」
「なんです?」
「期待してるぜぇ」
「はい!」
「おし! ならここは任せろ。マサキはマサキにしかできないことをやってくれ!」
「おっす!」
現在、ズェーダは大ピンチ。
アンデッドの数に対して、圧倒的に戦力が足りていないのだ。
その戦力を埋めるためには…………俺がやるしかない。
「ムロンさん、それじゃ俺、ちょっと行ってきますね」
「おう」
「そんでドロシーさん、」
「はい。なんでしょう?」
「住民のみなさんをお願いします。アンデッドが街に現れ、みんな怯えています。その恐怖を……不安を取り除いてあげてください。それができるのは――」
「領主の娘であるわたくしだけ、というわけですわね?」
ドロシーさんの言葉に、俺は頷いて答える。
「そうです。お願いします!」
「頼まれましたわぁ」
ムロンさんとドロシーさんに見送られ、俺は自宅(いちおー高級住宅街なんで中央区画にある)に戻り、
「転移魔法! 起動!」
錦糸町へと転移するのだった。




