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第25話 緊急事態

 街に鐘の音が鳴り響いていた。

 有事の際に鳴らす鐘。

 その存在だけは知っていたけど、実際に聞くのは俺もはじめてだったりする。


「いったいなにが起きやがったっ!?」


 お隣からムロンさんが飛び出してくる。

 続いてリリアちゃんも飛び出してきて、


「あっ、お兄ちゃん!」


 道にぽっつんとひとりで立っていた俺を見つけた。


「マサキか。この鐘は何事だ?」

「俺にもわかりません。急にあっちの方から、」


 街の南を指さし、続ける。


「鐘が鳴りはじめたんです」

「南門か……」


 ムロンさんが険しい顔を街の南に向ける。


「よし。ちっとオレが行って確かめてくる」

「なら俺も行きます!」

「お兄ちゃんがいくならリリアもいくっ!」


 リリアちゃんがぴょんぴょこ跳ねて、自分の存在をアピール。

 ムロンさんはしゃがみ込み、そんなリリアちゃんと目線を合わせ、首を横に振った。


「ダメだリリア。この鐘は街に危険を知らせるためのもんなんだ。お父さんがなにがあったか調べてくるから、リリアはお母さんと一緒に待っているんだ」

「ぶー。リリアもいきたい」


 なおも食い下がるリリアちゃん。


「リリアちゃん、ダメだよムロンさんを困らせちゃ」

「お兄ちゃん……」

「リリアちゃんはイザベラさんとお家で待ってて。ムロンさんと俺はすぐ戻ってくるから。ね? リリアちゃんならわかってくれるよね?」

「……ん」


 渋々といった感じだったけど、リリアちゃんはなんとか頷いてくれた。

 俺とリリアちゃんの一連のやり取りを見て、ムロンさんがポツリと漏らす。


「ったく、親父のオレが言うよりマサキが言った方が聞くんだから、やんなっちまうぜ」

「あはは、それだけムロンさんに甘えてるってことですよ」

「へっ、ものは言いようだな。でもありがとよ。さあ、リリア、家に入るんだ」

「はーい。お兄ちゃんもおとーさんもきをつけてね!」

「おう!」

「もちろんさ!」


 リリアちゃんが家に戻ったのを確認し、いざ南門へ! ……っといったタイミングで、


「な、なにがおこったの!?」

「ロザミィ服! 服を着てから出てください!」

「姉さまも服をきてくださいっ」


 俺の家の玄関が開かれ、中から体にバスタオルを巻いただけの3人が現れたじゃありませんか。

 このあられもない姿を見る限り、どうやら3人は一緒に入浴中だったみたいだな。


 ロザミィさんは玄関から外を伺うように顔を出し、周囲をキョロキョロ。

 必然的に家の前にいた俺とバッチリ目が合う。


「……マサキ?」

「あ、どもーロザミィさん」


 ロザミィさんに右手をひらひら。

 瞬間――


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ロザミィさんは周囲に悲鳴を響かせながら家の中へと引っ込む。

 代わりに、


「ロザミィお姉ちゃんのひめいっ!? だいじょーぶロザミィお姉ちゃんっ!?」


 またまたリリアちゃんが表に出てきてしまう。

 事件が渋滞してるとはこのことだな。


 しばしの間が空き再び俺の家の玄関が開かれると、ロザミィさんはスウェット姿となっていた。

 北関東のヤンキー娘が再来だぜ。


「……」

「……」

「……コホン。マサキ、それにムロンの旦那も、この鐘はどうしたことなの?」


 誤魔化すようにロザミィさん。


「それをこれからムロンさんと調べに行くところです。あ、そうだ。ちょうどよかった」


 俺はいいこと閃いちゃったぜとばかりに、ぽんと手を叩く。


「ロザミィさん、それにキエルさんとソシエちゃんも、俺とムロンさんが調べにいっている間、ムロンさんのお宅でリリアちゃんたちと一緒に待っていてもらってもいいですか?」


 なんせ緊急事態っぽいから、冒険者のロザミィさんとキエルさんが、自分の家族と一緒にいてくれるとムロンさんも安心できるってもんだ。

 俺の意図を理解してくれたのか、ロザミィさんはすぐに頷いた。


「わかったわ。ふたりのことはあたしたちに任せて。なにがあっても絶対に守ってみせるわ」

「ありがとうございます。じゃ、俺ちょっと行ってきますね」

「マサキさま、なにかあったらすぐに駆け付けます!」

「ソシエも駆けつけますっ!」

「リリアもー!」

「あはは、ムロンさんが一緒だから大丈夫だよ。でもありがとふたりとも」

「「はいっ」」


 さすが姉妹。

 お返事がハモっていらっしゃる。


「リリアとイザベラを頼んだぜ嬢ちゃん」

「ええ、頼まれたわ。マサキ、気をつけてね。あとついでに旦那も」

「ついでは余計だ!」

「なによ、ちょっとした冗談じゃない」


 ほっぺを膨らませてぶーたれるロザミィさんたちに見送られ、俺とムロンさんはこんどこそ南門へ向かうのだった。



 ◇◆◇◆◇



「隊長! 門の外にまだ人がいます!」

「構わん! 閉めろ!」

「しかし――」

「いいから早く閉めろ! これは命令だ! 早く閉めんと取り返しのつかんことになるぞっ! 奴らが街に入って来てもいいのかっ?」

「くっ……。了解しました! 門を閉めろー!!」


 南門に着くと、門番さんたちの怒声が飛び交っていた。


「おい、なにがあった?」


 そんななか、ムロンさんが門番のひとりを呼び止めた。

 ぐいと肩を引き、強引に何事かを訊く。


「なんだお前たちは?」

「冒険者ギルドのもんだ」


 門番さんは、ムロンさんと俺の装備をちらり。

 俺は依頼帰りでフル装備だし、ムロンさんも腰に剣を刺して武装している。

 

「冒険者とはありがたい。実は門の外にアンデッドが出たんだ。君たちが腕に自信があるなら力を貸してもらいたい」

「アンデッドですって!?」


 アンデッドと聞いてまっ先に思い浮かんだのが、あのネクロマンサー氏の存在だ。

 俺とムロンさんは顔を見合わせ、同時に頷く。


「わかりました。俺たちも力を貸します。それよりいま門の外にまだひとがいるって言ってましたけど、本当ですか?」

「……本当だ。しかしアンデッドの数が多すぎて救出は不可能と、隊長が判断したところだ」

「そいつは薄情じゃねぇか? 外の連中も街のもんなんだろ?」

「我々は門番。街を護るのが仕事だ。いまは門を閉じることが最善と判断した」


 門番さんが悔しそうに言う。

 そうこうしている間に門が閉められ、押し開かれないように閂がかけられる。


「なら俺が助けに行きます」

「なっ!? 門は閉めてしまうんだぞ?」

「大丈夫です! 浮遊(レビテーション)!」


 浮遊魔法で俺の体がふわりと宙に浮く。

 


「魔法使いか?」

「そゆことです。んじゃ、ムロンさん、俺ちょっと門の外へ行ってきますね」

「待てよ。オレもいくぜ。よっ」


 ムロンさんが俺に背中におぶさってくる。

 どうやら御同行してくれるようだ。


「さあ、行こうぜマサキ!」

「わかりました!」

「私が言えた義理じゃないが、外の者たちを頼む!」

「おっす!」


 門番さんに見送られるなか、浮遊魔法で塀を超え街の外へ。

 そこにはゾンビとスケルトンが、数百体の群れとなってズェーダに迫っているところだった。


「開けて! 開けて!! お願い開けてよ!!」

「頼む! 中に入れてくれ!!」

「うわーーん! おかーさーーん!!!」

「ああ……どうか子供たちだけでも入れてください!」


 門の外側には、20~30人ほどのひとたちが悲鳴をあげている。

 閉ざされた門を叩き、泣き叫んでいた。

 そしてそのすぐ後ろにアンデッドが迫る。


 アンデッドの群れを見て、隊長さんが門を閉める判断をしたことはわかるけど、もうちょっと閉めるタイミングを遅らせることもできたんじゃないかと思う、そんな微妙な距離だった。


「マサキ! やるぞ!」

「おっす!」

「依頼帰りならロープは持ってるな?」

「当然ですよ。冒険者の七つ道具の内ひとつですからね!」


 俺は荷物入れからロープを取り出し、ムロンさんに手渡す。


「よし、ならオレを塀の上に降ろしてくれ」

「はい!」


 俺はムロンさんを塀の上に降ろす。

 するとムロンさんはすぐに俺が渡したロープの端を塀の出っ張りに結びつけ、残りは門の外側に放り投げた。


「おいお前らっ! のぼれるヤツはこのロープをのぼってこい!」


 ムロンさんが取り残された住民たち――主に自力でロープを上れるであろう男性方に叫ぶ。


「そんでマサキは――」

「ロープを上れない子供や女性を、ってことですよね? 任されました」


 俺とムロンさんは目を合わせ、頷き合う。

 そして行動に移した。


「まずはターンアンデッド!」


 住民たちとアンデッド軍団の間に着地すると同時に、ターンアンデッドをお見舞いする。

 キラキラした光がアンデッドを数体をまとめて昇天させる。

 しかし、数が多い。どう考えても俺ひとりじゃムリな数だ。

 だから――


「ストーンウォール!」


 地面に手をつき、土属性の魔法を唱える。

 石の壁が地面からニョッキし、アンデッドたちの前進を阻む。

 これで時間は稼いだぞ。


「まずは子供から逃がします。さあ、俺に掴まってください」

「うちの子をお願いします!」

「どうか坊やを!!」

「お願い! わたしはいいからこの子をっ」


 俺は背中に10歳ぐらいの男の子を、前に5歳と乳幼児を抱きかかえ、


飛行魔法(フライ)!」


 壁の内側へ。

 ムロンさんはロープでのぼってくる男たちに手を貸し、発破をかけつつ引き上げていた。


「ターンアンデッド! ターンアンデッド! ストーンウォール

!! からのフライ!!」


 子供の次は女性たちを内側にお運びさせて頂く。

 体重100オーバーであろうぽっちゃりな男性をムロンさんが顔を真っ赤にして引き上げる。

 俺も最後に残った年配の女性を抱きかかえ、空へ。

残された住民を救出し終えるのと、ストーンウォールが破られるのはほぼ同時だった。


「間一髪、って感じですね」

「はぁ……はぁ……。……ああ、そ、そうだな」


 ムロンさんは息も絶え絶え。

 最後の男性を引き上げるのがかなりヘビーだったんだろう。


「それにしても……困ったことになりましたね」

「……そうだな。こいつは大事だぜぇ」


 俺とムロンさんは、塀の上から街の外を見下ろす。

 アンデッド軍団は固く閉ざされた門に群がり、ガリガリと爪を立てている。


「なあマサキ、」

「なんです?」

「確か街の兵士共は――」

「はい。いま訓練で遠征中です」

「だよなぁ。はぁ……」


 アンデッドは数百体はいる。

 この数をやっつけるとなると、こっちもかなりの戦力が必要になってくるだろう。


「街の兵士たちに期待ができねぇとなると。ギルドの冒険者連中の出番か。やれやれ、忙しくなりそうだぜ」

「俺も手を貸しますよ。みんなで力を合わせましょう」

「あんがとよ。まずはギルドに行ってゾンビ共と戦える連中を集めなきゃだな。――よっと」


 ムロンさんが塀の上から街の内側に飛び降りる。

 膝のクッションを使って華麗に着地。


 続いて俺も飛び降り、膝をしこたま痛めつつもなんとか着地失敗。

 ムロンさんが心配そうな顔をするが、さりげなくヒールをかけてから立ち上がる。


「だ、大丈夫かマサキ?」

「へ? なにがです?」

「……いや、なんでもねぇ。それよりあんま時間がなさそうだな。ほれ、見てみろよ」


 ムロンさんがあごで門番さんたちを指し示す。


「なんでもいいっ! 門を支えるものを持ってこい!」

「はっ!」

「中央の偉いさんに人員をこっちにまわすよう伝令を出せ!!」

「しかし、いま騎士団は遠征中です」

「なら他の門で突っ立ってる連中を連れてこい! 侵入を赦したら街が大変なことになるぞっ!」

「はっ!!」


 門を守護る隊長さんと部下の方々が慌ただしく動いている。

 どうやら他の門を守護っている門番さんを呼び集めるようだ。 


「マサキ、オレたちも冒険者を集めてあいつらを手伝うぞ」

「わかりました。そんじゃゲーツさんとミャーちゃんを呼んできます」

「そうか。ならオレはライラを呼ぶかね」

「お互い戦力を集めたら、またこの南門に――」


 集合しましょう。そう言おうとしたタイミングで、北門、東門、西門の3つからも鐘の音が鳴りだしたのだった。

遅くなってすみません!

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