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第22話 ドロシーの実力は?

 調査依頼を受け、森へと入った俺たち。

 アンデッドを探すのが本来の目的だけど、出てくるのは森に生息するモンスターばかりで、ゾンビのゾの字も見えないときた。


「おーーーっほっほっほ! 虫ケラ風情がわたくしに近づこうだなんて100万年早いですわぁ。やあぁぁっ!」


 いまもまた、突如襲いかかってきたでっかいクモジャイアントスパイダーのモンスターを、ドロシーさんが一撃のもと葬り去る。


 さっきから出てくるモンスターは、だいたいドロシーさんの刺突剣(レイピア)とキエルさんの弓矢で片付いちゃってるもんだから、俺とロザミィさんは割と暇を持て余していた。


「おーーーっほっほっほ! どうかしらロザミィさん、わたくしの実力は? マサキさんのパートナーとして相応しいかしらぁ?」

「ぱ、パートナーだなんて……くぅぅっ……な、なかなかやるじゃない」


 ドヤ顔で訊いてくるドロシーさんに、ロザミィさんは苦々しい表情で答える。

 俺より冒険者歴が長いロザミィさんでも、ドロシーさんの剣の腕は認めざるを得なかったようだ。


「あらぁ、『なかなかやる』ですってぇ? ロザミィさん、貴女いまわたくしのことを『なかなかやる』、そうおっしゃいましたぁ?」

「い、言ったわよ! でもそれがどうしたっていうのよっ?」


「嫌ですわぁ。わたくし、まだ実力の10分の1も出していませんのよぉ? それなのに『なかなかやる』だなんてぇ……本気を出したらいったいどんなお言葉を頂けるのかしらぁ? わたくし、いまから楽しみですわぁ」

「きぃ~~~~~ッッッ」


 ロザミィさんがゲシゲシと地面を蹴りつけ、地団太を踏んでいる。

 その隣では、キエルさんが戦闘中ってわけでもないのに、無言のまま弓に矢をつがえようとしていた。


 新手のモンスターでも近づいているのかな?

 いつものキエルさんなら、モンスターの接近をすぐ教えてくれるはずなのにおかしいぞ。


「さあみなさん、調査を続けますわよぉ。わたくしについてきて下さいなぁ」

「なんであなたが仕切ってるのよ!」

「おーーーっほっほっほ! 領民を導くのは貴族の務めですわぁ」

「きぃ~~~~~~~ッッッッ!!」


 前衛に俺とドロシーさん。後衛にロザミィさん(地団太踏みながら)とキエルさん。俺たち4人は2列で森を進む。


「マサキさま、向こうからモンスターの足音が聞こえます」

「わかりました。警戒して進みましょう」


 耳がデビルイヤー(地獄耳)なキエルさんの特徴を活かして索敵し、事前にモンスターの襲撃を警告してくれるもんだから、不意打ちを喰らうこともなく森を探索できていた。


 レンジャーのキエルさんと剣士のドロシーさん。

 治癒師のロザミィさんに自称魔法戦士の俺を含めた即席パーティ。

 4人だと連携こそいまいちな部分こそあるけれど、戦力的には十二分なもんだから、日が傾くころには指定された範囲以上の調査を終えていた。

 自分で言うのもなんだけど、けっこー優秀じゃんねこれ。


「けっきょく、アンデッドはいなかったわね」


 ロザミィさんがどこか残念そうに呟く。

 最近ターンアンデットの神聖魔法を習得したそうだから、ひょっとしたら試したかったのかもしれないな。


「いませんでしたねー。アンデッドが森にいないってことは、アンデッドを操っていたネクロマンサーがもう森にいないってことなのかもしれませんね」


 俺は先日のネクロマンサー氏の後姿を思い浮かべる。

 ドロシーさんと俺に、「またな」と言い残して去っていったネクロマンサー氏。

 彼はいま、どこにいるのだろうか?


「ゾンビを操るネクロマンサーが、街に入ってなきゃいいんですけどねー」

「そればっかりは門番の働きに期待するしかないわね。ま、さっきのアレを見ちゃうと少し不安だけど」


 ロザミィさんが、皮肉を込めた視線でドロシーさんをチラリ。

 しかし当のドロシーさんは、


「おーーーっほっほっほ! 街にアンデッドが出てもお父様が創設した騎士団が排除してくれますわぁ。もちろん、このわたくしもぉ」


 と、まるで聞いちゃいないご様子。


「それでロザミィさん、わたくしはマサキさんのパートナーとして合格かしらぁ?」

「うぅ~~~~~…………ま、まあ、剣の腕? それだけは認めてあげるわ。で、でも剣の腕だけが冒険者じゃないわ!」


 渋々といった感じでロザミィさん。


「おーーーっほっほっほ! わたくしは『剣士』でしてよぉ? 剣士に剣の実力以外になにが必要というのかしらぁ? 新人冒険者のわたくしに教えてくださるぅ?」

「そ、それは――そのっ、な、仲間との連携だったり……」

「ご存じありませんのぉ? わたくしはマサキさんと十分に連携が取れてましてよぉ。ほらぁ、わたくしとマサキさんは相性がとても良いですからぁ。ねぇ、マサキさん?」

「へ? 俺?」


 不意に話を振られるも、俺は数秒考えてから答える。


「そうですね……ドロシーさんと一緒に戦う様になってまだ日は浅いですけど……。うん、個人的には連携も役割分担も取れてると思います」


 ゴブリンとの戦闘やゾンビの団体さんとの戦闘。

 それらを思い返した俺は、ドロシーさんとの連携に太鼓判を押す。


「おーっほっほっほ! ロザミィさんお聞きになりましてぇ?」

「くっ……」


 ドロシーさんにドヤ顔を向けられ、僅かにたじろくロザミィさん。


「わたくしとマサキさんとの相性は、もうこれ以上ないくらい良好ですわぁ。で、す、か、らぁ、」


 ドロシーさんが人差し指をロザミィさんに突きつけ、上品に微笑む。


「いい加減、わたくしとマサキさんで創った冒険者パーティ『黄昏の薔薇』の結成をお認め頂けるかしらぁ? もっともぉ、文句は誰にも言わせませんけどぉ。おーーーーーっほっほっほ!」


 なんか勝手に宣言されちゃった。

 ロザミィさんもキエルさんも、なんだかとっても悔しそうな顔をしているぞ。

 ドロシーさんは素でも割と絡み辛いおひとだから、精神の消耗が激しいのかもだな。


 ロザミィさんはなにか言おうとしているようだけど、ドロシーさんの実力を目の当たりにしたいまとなっては、なにも言い返せないでいるようだ。

 だからだろうか。


「ちょっとマサキ! マサキはいいのっ?」

「そうですよマサキさま! マサキさまはこの方とパーティを組むことに納得しておられるのですか?」


 なんか流れ弾がこっちにまで飛んできたんですけど。


「おーーーっほっほっほ! 当然マサキさんの了解は得ておりますわぁ」

「あなたには聞いてないのよ!」

「そうです! マサキさまはお優しい方ですから、本心では嫌でも嫌と言えない方なんです!」

「ならマサキさんに訊いてみてはいかがかしらぁ?」

「だからいま訊いてるんじゃない! ジャマしないでよね!」


 余裕しゃくしゃくのドロシーさんに、やいのやいのと突っかかるロザミィさん。

 一方でキエルさんは、不安げな顔を俺へと向け、


「マサキさま、本当はどうお思いなんですか? あの方とパーティをお組になられるのですか?」


 と訊いてくる。

 3人に見つめられる俺。

 俺の言葉を待つ美少女3人。


「えーっと、ドロシーさん、」

「なんでしょう?」

「ひとつ言い忘れていたんですけど、俺、実は他にも仕事を持ってまして、なんと言いますか……7日に1~2回ぐらいしか依頼を受けれないんですけど、それでも大丈夫ですかね? しかも、ほぼほぼ日帰り限定で」


 錦糸町でサラリーマンしてることをオブラードに包み込んでお伝えしたところ、


「わたくしは構いませんわぁ。わたくしも日が暮れてから帰ると婆やに小言を言われてしまいますからねぇ」


 あっさりと了承してもらえた。

 というか、さすがに冒険者になったといえども、お貴族さまだけあって門限はしっかりとあるみたいだな。


「よかった。それさえ問題なければ俺はドロシーさんとパーティ組むことに異論はありません」


 ドロシーさんが冒険者を出来るのは、ごくごく限られた期間だけ。

 親が決めた相手にお嫁に行っちゃうまでの、本当に短い期間でしかないのだ。

 異世界こっちじゃ、ドロシーさんの年齢はもう結婚適齢期。それこそ、今日明日にだって相手が決まってしまうかもしれない。


 ドロシーさんはまだ十代の女の子。なのに見ず知らずな相手との結婚だなんて……きっと常に不安と戦っているんだと思う。

 気丈に振舞っているのだって、その不安の裏返しだと俺は読んでいる。

 だからその不安を一時でも忘れられるのなら、俺は喜んでパーティを組みたいのだ。


 的なことをロザミィさんとキエルさんにお伝えしたいんだけど、


「ウソでしょマサキ……」

「マサキさま……そんな……」


 ふたりは地面に両手両膝をついて打ちひしがれているもんだから、言いたいことも言えないポイズン状態だった。

 家に帰ったらちゃんとふたりに話そう。

 俺はそう誓いを立てるのでした。



 ◇◆◇◆◇



 このあと俺たちはズェーダへと帰って来た。

 なぜかゾンビより顔色が悪くなったロザミィさんとキエルさんの手を引き、ギルドへ向かい調査報告を済ます。

 レコアさんから報酬を受け取り無事に依頼達成。そしてこの日はこのまま解散となった。


「ではマサキさん、また冒険致しましょう」


 お迎えにきたハイパー豪華な馬車に乗ったドロシーさんが、窓越しにそう言ってくる。


「ええ。ふたりでがんばって『黄昏の薔薇』の名を高めましょうね!」

「っ……。で、ではマサキさん、わたくしはこれで」

「はい。気をつけて帰ってください」

「それでは失礼いたしますわぁ」


 馬車に同乗していた婆やさんが合図を出し、御者が馬車馬を歩かせはじめる。

 道の向こうで小さくなっていく豪華な馬車を見送りながら、俺はあと何回ドロシーさんと『冒険』できるんだろう、と考えていた。


 結成したばかりの冒険者パーティ、黄昏の薔薇。

 活動リミットはドロシーさんが結婚するまでだ。


「少しでも長く冒険できるといいなー」


 俺は呟き、


「さあ、ふたりとも家に帰りましょう」


 茫然自失状態のロザミィさんとキエルさんの手を引きながら家路へと就くのでした。


 このときの俺は、少なくとも1年は黄昏の薔薇として活動できると思っていた。

 だから、まさかこの数日後にドロシーさんの結婚相手が決まるだなんて想像すらしていなかったのだ。

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