第21話 殺意の波動
ロザミィさんの強いご提案により、俺たちはドロシーさんを含めた4人で依頼を受ける運びとなった。
「これにしましょ」
そう言ってロザミィさんが手に掲げるは、『アンデッドの調査』の依頼書。
冒険者ギルド直々のご依頼で、ゾンビ騒動の舞台となった森を探索し、まだアンデッドがほっつき歩いてるかを調べてこいといった内容だった。
「条件に『死人返しを使えること』と書かれているけど、確かマサキはターン・アンデッドを使えたわよね?」
「ええ、めっちゃ使えますよ」
ロザミィさんの問いかけに、俺は親指をズビシと突き立てて頷く。
「ターンアンデットは高位の神聖魔法なのに使えるなんてさすがマサキね」
そこで一度区切ると、ロザミィさんはドロシーさんに顔を向ける。
「あたしも数回ならターンアンデットを使えるし、ちょうどいい依頼だと思うんだけど……どうかしら?」
「おーーーっほっほっほ。わたくしは構いませんわぁ」
「わたしもです」
ドロシーさんに続いて、バイト中のキエルさんまでやる気まんまん。
って、ちょっと待って。
「き、キエルさん、」
「なんでしょう?」
「……キエルさんいまお仕事中ですよね?」
そんな俺の言葉にキエルさんはニッコリと笑う。
「大丈夫です。これは仕事より大切なことですから」
そう言い、キエルさんは厨房に向かう。
そこで料理人のおじさまと幾度か言葉のキャッチボールをし、再びこっちに戻ってくると、
「午後はお休みを頂きました。さ、森へ行きましょう」
と言うのだった。
こうして、ロザミィさん、キエルさん、ドロシーさんに俺を含めた4人は受付で手続きを済ませ、ギルドをあとにした。
◇◆◇◆◇
「マサキさん、いい天気ですわねぇ」
「……そ、そうですね。いい……天気ですね」
街の門へ向かう道中、やたらと距離が近いドロシーさんが話しかけてきた。
門へと続く舗装された道は、かなり広い。なのにドロシーさんったら、肩が触れ合っちゃうどころか密着しちゃうぐらいの距離で俺の隣を歩いていたのだ。
馬車移動が基本のドロシーさんにとって、下々の者たちが行き交いする道を歩くのは不安だったのだろうか?
「……どうもお仕置きが必要みたいね」
「いけませんよロザミィ。仕掛けるなら街の外へ出てからです」
後ろを歩く、ロザミィさんとキエルさんの会話がこっちまで漏れ聞こえてくる。
なんか内容が物騒なのは、気のせいだと信じたい。
「わたくし、護衛をつけずにズェーダを歩くのははじめてですわぁ」
「ドロシーさんはいっつも馬車に乗ってますからね」
「そうなんですのぉ。わたくしが街中を歩くとどうしても注目を集めてしまいましてぇ、それで以前、別の街ですが良くない輩を引き寄せてしまったこともあるんですのぉ」
「良くない輩……ですか? どんなひとたちだったか訊いても?」
訊き返すと、ドロシーさんはこくりと頷いた。
「わたくしを攫ってお父様を脅迫しようと考えたんでしょうねぇ」
「攫うって……だ、大丈夫だったんですか?」
「もちろんですわぁ。わたくしの剣の錆にしてあげましたのよぉ。おーーーっほっほっほ!」
なるほど。
ドロシーさんをただのお嬢様と思って誘拐しようとしたら、見事返り討ちにあったわけか。
良くない輩って言うから、てっきりナンパかと思っちゃったぜ。残念。
「でもいまはマサキさんがこうして隣にいますからぁ、わたくし心強いですわぁ」
そう言うとドロシーさんは俺の腕に手を回し、ぎゅっと胸元に抱き寄せたじゃありませんか。
柔らかな感触が俺の上腕三頭筋のあたりを包み込む。
「ロザミィ……射っていいでしょうか?」
「やめなさい。殺るなら森のなかよ」
背後から漏れ聞こえる物騒な会話。
どうやらキエルさんもロザミィさんも、意識はすでに調査場所である森へと向いているようだ。
いかんいかん。俺もふたりを見習って集中しないとだ。
俺は頭を振り、右腕が伝えてくる柔らかな感触の信号をキャンセル。
ゾンビとの戦闘に備えて集中を高めていく。
そうこうしているうちに、俺たちは門へとたどり着いた。
門番さんに冒険者証を見せ、これから森へアンデッドの調査に向かうことを伝えていると、
「積荷を確認するだとっ!? 貴様! 門番の分際でチャイルド家の荷を検めると申すのかっ!!」
なにやら向こうのほうでトラブル発生。
何台もの荷馬車が立往生していた。
「もう一度だけ言うぞ。私が運んできたこの荷馬車に積まれている物はすべてシャリア様の――シャリア・ブール・チャイルド伯爵の所有物である! 末端の貴様が触れるはもちろん、見ることさえ不敬にあたる! それでもなお荷を検めると申すのかっ!?」
門番さんに思い切り唾を飛ばしながらハッスルしているのは、お役人っぽい格好をした中年男性。
「し、しかしこれは規則でして……」
「規則ぅ? 規則だとっ!? いいかよく聞け! シャリア様の腹心とまで呼ばれたこの私はな、シャリア様より直々に命を受けこの荷をお運びしているのだ! 『道中絶対に荷を開けるな』と命じられた以上、私は命を賭してこれを遂行せねばならない!」
ここまで聞こえてくる内容から察するに、あの中年男性は昨日お会いしたふとっちょおじさんこと、ドロシーさんの伯父さんの部下っぽいぞ。
「わかったか? わかったならそこを通してもらおうか!」
「で、ですが……」
門番さんは困り顔。
まるで課長からパワハラを受けてる後輩みたいな顔をしている。
「……貴様、名はなんという?」
「へ?」
「貴様がどうしても荷を検めるというのなら、私は貴様の名を主であるシャリア様に伝えねばならん。さあ、答えよ」
門番さんがごくりと生唾を飲み込む。
これは脅しだ。
いま門番さんはあの中年男性に脅されているのだ。
「ドロシーさん……あれ、なんとかなりません?」
さすがに見かね、パワハラ現場を指さしてお伺いするも、ドロシーさんは首を横に振る。
「申し訳ありませんがぁ、わたくしにはその権限がありませんのぉ」
「そうですか……」
「ええ。わたくしはお父様の娘でしかありません。政治にかかわる権限は、なにも与えられていないのですわぁ……」
「すみません。失礼なことを訊きました」
「いいんですのよぉ。……せめてお兄様がいればなんとかなったのかも知れませんのに」
ドロシーさんは現場を見つめ、悔しそうに唇を噛みしめる。
昨日もパパさんとふとっちょおじさんのいざこざを目の当たりにしたドロシーさんからしてみれば、目の前のパワハラ行為は耐えがたいものなんだろう。
「どうした? 名を告げぬか」
「そ、それは……」
門番さんが言葉に詰まると、いまのいままで怒声をあげていた中年男性が、急ににこやかな笑みを浮かべた。
「ふぅ……。そう心配するな。私の主シャリア様より、追ってこの街の領主であるカロッゾ卿へ伝えが届くだろう。安心せよ。いまこの場で荷を検めずとも、貴様が不都合にならぬようシャリア様には話を通しておく」
「ほ、本当ですか?」
「本当だとも。私の主に誓って約束しよう。それで……どうかな?」
怒りが有頂天状態からの、笑顔。
デンジャーなひとたちが使う常套手段だ。
まさか直で見る機会が訪れるとは思わなかったぜ。
かくて門番さんは、
「わ、わかりました。ではお通りください」
脅しに屈してしまった。
「感謝する。それと……怒鳴ってすまなかったな。謝罪しよう」
「いえ! こちらこそ引き留めてすみませんでした!」
的なやりとりを経て、何台もの馬車がズェーダへと入っていく。
権力の横暴さを目の当たりにした瞬間だった。
「念のため、戻ったらお父様にお伝えしておきますわぁ」
街中に消えていく馬車を見送ったドロシーさんが漏らす。
でもすぐに切り替えたのか、
「さあマサキさん、森へ行きましょう」
俺の腕と組んだまま、森へと歩きはじめた。
そして後ろには、殺気をみなぎらせたロザミィさんとキエルさんが続くのだった。




