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第17話 面接

 錦糸町に戻った俺は、ベッドですやすやと天使のように就寝。

 翌朝スーツに着替え出社して、


「近江外回りいってきまーす!」


 早々に会社を飛び出す。

 午前中に1件の契約と2件の追加購入の案件を片付け、お昼前に異世界あっちへと転移する。


「ただいまっと」


 キエルさんはギルドでウェイトレスのバイト。

 ソシエちゃんはリリアちゃんやイザベラさんとヌイグルミを作っている時間だから、いま家にいるのは俺ひとりだけだ。

 異世界の自室で時間を確認。

 

「12時か……ちょうどいい時間だな。今日はギルドで面接するって話だから、身だしなみを整えてっと」


 真っ白なワイシャツとチノパンに、スエード靴をチョイス。

 清潔な印象を与えるため、髪型もセットし直す。


 これで面接官に好印象を与えること間違いなしだぜ。

 そしていざ冒険者ギルドへ。



 ◇◆◇◆◇



 扉を開け入ると、ギルドの中はいつものように冒険者のみなさんで賑わっていた。

 ちょっとだけいつもより騒がしい感じがするのは、きっとネクロマンサー氏の存在に寄るところだろうな。

 みんな好き勝手に憶測を飛ばし合い、今後の対応や依頼について熱く意見を交わしている。


 なんかグリフォンが出たときと雰囲気が似てるな。

 危険度ではどっちが上なんだろうか?


「えーっと、面接会場はっと……」


 ギルド内をキョロキョロするも、面接待ちのひとらしき姿は見当たらない。

 みんな冒険者の格好をしてるから当たり前か。

 俺が慕って止まないムロンさんを探すも発見できず、おまけにレコアさんの姿も見えないときた。


「んー、しゃーない。受付で訊いてみるか」


 受付の列に並び、女性ギルド職員にいろいろとご質問。

 彼女は素敵な笑顔を浮かべ、質問に答えてくれた。


 まずムロンさんは、前日に昇級試験の試験官を担当していたから今日はお休だそうだ。

 あれだけ不眠不休で頑張ってたから当然か。


 そんでレコアさんは面接官をしていて、いままさに別室で面接の真っ最中らしい。

 受付のお姉さんが言うには、俺の順番がきたら声をかけるから、それまでギルドで待っていてください、とのこと。


 俺は「わかりました。教えてくれてありがとうございます」と言い、ギルドのカフェスペース(酒場)へと移動した。


 ウェイトレスをしているキエルさんは、今日も大人気。

 あちこちからオーダーを受け、料理やお酒を運んだりと忙しく動き回っている。


 ムロンさんから聞いた話によると、キエルさんが働くようになって酒場の売り上げが3倍になったらしい。

 ホントかウソかわからないけれど、ファンクラブみたいのまであるんだとか。


 忙しいそうなキエルさんを呼ぶのに気が引けた俺は、カウンターまで直に注文しに行こうとして――


「マサキ殿、さっそく会えたな」


 誰かに肩を叩かれた。

 振り返ると、そこには――


「昨夜は危ないところを救っていただき感謝する。約束通り奢らせて欲しいのだが、どうだろうか?」


 ゾンビの囲みから救出した、ラシードさんが立っていた。



 ◇◆◇◆◇



 俺とラシードさんはバーカウンターに横並びで座り、木製の杯を傾けていた。


「本当に酒ではなくて良かったのか?」


 ラシードさんが訊いてくる。

 俺がお酒ではなく、お茶をチョイスしたことに軽く驚いたのだろう。

 まー、ギルドの酒場で散々ハウンドドッグの3人とお酒飲みながら「うぇーい」してる俺がお茶を頼んだら、あれ? って思うよね。


「あはは、実はこれから昇級試験の面接なんですよね。さすがに面接前にお酒は飲めないな、と」

「なんと!? これから面接だったのか。てっきりもう終わったものだとばかりに……これは失礼した。なら日を改めて奢らせて欲しい」

「いえいえ、いーですって」


 俺は首をぶんぶんと振り、カウンターに置かれた、酒場のおすすめランチセットを指さす。

 これもラシードさん奢りの品だ。


「こうしてお昼ご飯をご馳走になってますしね。このご飯であの時の借りはチャラってことにしましょう」

「しかし、この程度では私の気持ちが……」


 ラシードさんは真面目で義理堅い人物なのか、ランチセット(おいしい)ではぜんぜん借りを返せていないと言って譲らない。


「やだなー。そんな難しく考えないでくださいよ」


 俺はそんなラシードさんの肩をぽんとひとつ叩く。


「あのとき、『冒険者は助け合い』って言いましたよね?」

「ああ」

「なら、俺が困ってるとき助けてください。それでどうです?」


 俺の提案を聞き、ラシードさんが大きく頷く。


「わかった。その時が来たならば、このラシード、命を賭してマサキ殿に協力しよう!」

「あははは、別に命は賭さなくてもいいんですけどね」

「何を言うかっ!」


 ラシードさんが大きな声を出す。

 無意識のうちに声のボリュームが上がってしまったようだな。


 おかげで酒場にいる他の冒険者のみなさんが会話を止め、こっちを注目しているじゃありませんか。


「この命はマサキ殿たちに救われたのだ! ならば、マサキ殿たちのためにこの命を使うのは必然であろう!」


 当然とばかりに強い口調で言うラシードさん。

 しかし、俺は首を横に振る。


「違いますよ。命は自分と、自分の大切なひとのために使うものです」

「マサキ殿……」


 しんと静まり返った酒場に、俺の声が響く。


「俺やドロシーさんに恩義を感じてくれるのは嬉しいです。ありがとうございます。でも、ラシードさんの命はラシードさん自身と、ラシードさんが大切に想う相手に使ってあげてください。少なくとも俺はそっちのほうがずっと嬉しいです」


 てな感じでかっこつけてみたところ、


「…………」


 ラシードさんは感極まったような表情を浮かべていた。

 よし。畳みかけるならいまだ。


「ラシードさん、約束してください。自分と、自分の大切なひとのために命を使うって」


 長い沈黙のあと、ラシードさんは、


「…………わかった。約束しよう」


 と言ってくれた。

 瞬間、酒場中から拍手が巻き起こった。


「さすがマサキだ!」


「お前、薬草だけじゃないんだな!」


「人として完成しすぎだろ!」


「俺たちとパーティ組もうぜ!」


 どうやら俺とラシードさんの会話に、みんな耳を傾けていたらしい。

 ぶっちゃけ恥ずかしいぜ。


「ど、どーもー」


 片手をあげ、鳴りやまない拍手に応える。

 注目の的となった俺を救うかのようなタイミングで、もっと注目を集めるご婦人が現れた。


「おーーーっほっほっほ! ちょっと遅れてしまいましたわぁ」


 ギルドの扉が開かれ、ド派手なドレスに身を包んだドロシーさんがご登場なされたのだ。


 一目でわかるほどの高級な生地を、ふんだんに使った真っ赤なドレス。

 ウエストはこれでもかとばかりに細く締められ、胸元は谷間を見せつけるかのように大胆に広く。


 冒険者ばかりが集まるギルドのなかで、浮いてるなんてレベルじゃない。

 浮きまくって場違いにもほどがあるぞ。

 このあと舞踏会でもあるんだろうか?


 ドロシーさんは、ギルドの中をキョロキョロと見回し…………俺で視線が固定される。


「あらぁ、そこにいましたのねぇ」

「あははは、ど、どーも」


 片手をあげて挨拶すると、ドロシーさんはドレスの裾を両手で摘まみながら近づいてきて、


「貴方ぁ、そこをどいて頂けないかしらぁ」


 と、ラシードさんにひと言。

 じっと見つめ、無言の圧力をかける。


「う、うむ」


 ラシードさんは慌てて頷き、ドロシーさんに席を譲る。


「感謝しますわぁ」


 かくてドロシーさんは、ラシードさんを押しのけて俺の隣へと腰を下ろした。


「マサキさん、またお会いできてわたくしとても嬉しいですわぁ」

「俺も嬉しいですよ。それより今日のドロシーさんすっごくキレイですね。そのドレスとても似合っていますよ」

「奇麗だなんてぇ……恥ずかしいですわぁ」


 ドロシーさんは両手をほっぺにあて、恥ずかしそうにもじもじする。

 俺が面接だからって身だしなみに気を使ったように、ドロシーさんも気を使った結果がこのドレス姿なのかも知れないな。


 なんせドロシーさんはお貴族さま。

 お貴族さまの普段着がドレスでも、なんら不思議ではないじゃんね。

 とか自分を納得させようとしてたんだけど、


「わたくし、『仲間』であるマサキさんとお逢いするから、婆やに無理を言ってドレスを着てきたんですのよぉ」


 どうやら俺のためだったようだ。

 なんだろう?


 お貴族さまにとって、仲間と会うときは正装しなきゃいけないルールでもあるんだろうか?

 俺もタキシード着てきたほうがよかったのかな?


 一般ピーポーな俺には、お貴族さまとのお付き合いがハードモードどころか、ナイトメアモードすぎるぜ。


「ところでマサキさん、」

「はい、なんでしょう?」

「マサキさんはもう面接を終えたのかしらぁ?」

「俺ですか? まだです。いま面接待ちですね」


 ドロシーさんからの質問にお答えすると、ちょうどギルドの奥の扉が開かれ、受験生らしき冒険者と一緒にレコアさんが出てきた。


「次の方は……あ、マサキさん、いらしたんですね」


 レコアさんが俺に気づき、笑みを浮かべる。


「ではマサキさん、昇級試験の面接をはじめますので、こちらにいらしてください」

「はい。わかりました」


 俺は立ち上がり、


「それじゃドロシーさん、俺面接してきちゃいますね」


 面接へと向かった。


「どうぞマサキさん」

「し、失礼します!」


 レコアさんに促され、イスに座る。

 目の前にあるテーブルを挟んだ対面にはレコアさんが座り、部屋の隅っこには用心棒替わりなのか、高ランクっぽい冒険者が2人座っていた。


「よろしくお願いします」


 両手をももの位置に置き、背筋を伸ばす。

 面接なんて久しぶり過ぎて緊張しちゃうぜ。


「では、はじめさせて頂きますね」


 レコアさんはそう前置きし、手元にある資料をぺらぺらとめくり――


「はい、たったいまマサキさんの昇級が決まりました」

「………………へ?」


 間抜け顔をしているであろう俺に、レコアさんはにこりと微笑む。


「もともとこの面接は冒険者個々人の人格や適性などを確認するためのものなんです。マサキさんは当ギルドにとって模範的な冒険者ですので、この面接も形だけのものでしかないんですよ」

「な、なるほど……」

「今回は当ギルドの申し出を快く引き受けてくれて感謝しております。引き続き当ギルドに所属し、ご活躍なさることを職員一同願っておりますね」


 いまレコアさんが言った「当ギルドの申し出」とは、俺への昇級試験の要請と、さりげなくドロシーさんを守護るように頼んだことに対してのものだろう。


「面接は以上です。お疲れ様でした」

「いえいえ、こちらこそです。レコアさんも面接がんばってくださいね」

「はい」


 こうして、俺の面接はわずか3分で終わった。

 俺と入れ替わるようにして部屋に入ったドロシーさん。


「おーーーーっほっほっほ! わたくしもマサキさんに続いて昇級してきますわぁ」


 3分の俺ととは違い、ドロシーさんの面接は30分ぐらいかかるのでした。

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