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第7話 昇級試験 その2

「おーっほっほっほ! 昇級試験はまだかしらぁ」


 口元に手を添え、高笑いする金髪を縦ロールにしたご婦人。

 冒険者ギルドでは場違いなタイプの女性で、ぶっちゃけかなり浮いてる。


「ムロンさん、あちらのやたら自己主張が強い女性はどなたですか? ギルドではじめて見る顔ですけど……」


 俺がまわりに聞こえないよう小声で訊くと、ムロンさんは「……はぁ」とため息をひとつ。


「……最近ズェーダに領主がやってきたのは知ってるな?」

「え? あ、はい。なんかロザミィさんがそんなこと言ってたような気がしないでもないですね」

「なんでぇ、知らねぇのか?」

「ごめんなさい。見栄はりました。実はぜんぜん知りません」

「がはは! しょーがねぇ奴だな」


 ムロンさんが大げさに手を広げ、呆れたように首を振る。


「あははは……ほら、俺ってあんまそのへんのこと知らないっていうか、ぶっちゃけそんな興味ないっていうか……ねぇ?」

「なにが『ねぇ?』だ。てめぇの住んでる街のことぐらい知っておくのが普通だぜ。税だって納めてんだからよ」

「で、ですよねー」

「ったくお前さんは……まあいい。ズェーダはいままで、ここいらを治めてる領主が代官を置いて街を仕切ってたんだけどよ、次男坊だか三男坊だかのために領地を分割して、ズェーダとその周辺を譲り渡したそうなんだわ」

「おー。いつの間にそんなことが」

「急だよなぁ。普通は長男が全て受け継ぐのが普通なんだが……ま、よっぽど親に愛されてたんだろうよ」

「もしくはすげぇ優秀だからか、とかですかね?」

「ああ、その可能性もあるな。でだ、新しくズェーダの領主になった奴の娘が――」


 ムロンさんは縦ロール婦人に視線を移し、続ける。


「あの嬢ちゃんってこった」

「なるほど。つまりあの方は貴族なんですね?」

「めんどくせぇことにな」


 俺とムロンさんは、未だ高笑いを続けている縦ロール婦人を見つめる。


「ねー、ムロンさん、」

「あん、なんだ?」

「なんで貴族が冒険者ギルドにいるんですか? しかも、なんか昇級試験受ける気満々っぽいんですけど」

「そんなのオレが聞きてぇよ。大方、お貴族様のお戯れか道楽だろうさ」


 ムロンさんが皮肉を言い、はんと鼻で笑う。

 やべぇ。そんなこといったら俺も冒険者エンジョイ勢なんですけど。

 ちょっと胸が痛いぜ。


 ムロンさんとお喋りしている横で、レコアさんがギルドに集まってきた冒険者の名を順に読み上げていく。

 俺の名も呼ばれたから、たぶん昇級試験を受けるひとたちの名前なんだろう。

 試験を受けるメンバーの出欠を取ったレコアさんは、コホンと咳ばらいをしてから一歩前へと出る。


「全員揃ったようですね。みなさんおはようございます。わたしは当ギルド、『黒龍の咆哮』で職員をしております、レコアと申します。これから昇級試験の説明をはじめますので、しっかりと聞いてください」


 そう言い、レコアさんは受験生の顔を見回し反応を伺った。

 レコアさんは俺と目が合った時だけちょっと微笑んでいたけど、すぐにきりりと真面目な顔に戻る。


「今回の昇級試験の内容は、対象モンスターの討伐になります。対象モンスターについては試験場である北の森に移動してから、そちらの――」


 レコアさんが視線でムロンさんを指し示す。

受験生のみなさまがたの視線が、一斉にこちら(正確には俺の隣にいるムロンさん)を向いた。


「試験官から説明されます。いま教えないのは、不正を防ぐためですのでご理解ください。ではムロンさん、あとはお願いしますね」

「おう。任せときな」


 レコアさんからバトンを受け継いだムロンさんは、片手をあげ受験生のみなさんにご挨拶。


「オレが試験官のムロンだ。ここで喋っててもはじまらねぇからよ、まずは森へ移動するぞ。ついてこい」


 ムロンさんが先頭きってギルドを出ていき、表に停めてあった馬車へと乗り込む。

 この馬車はギルドが用意したもので、目的地である北の森まで送り迎えしてくれるのだ。


「さぁ、お前たちも乗りな」


 ムロンさんに促され、受験生のみなさまが次々と乗り込んでいく。


「あらぁ、これは荷馬車ではないのぉ? こんな汚らしい馬車に乗るのははじめてだわぁ」


 そんなことを言いながら、縦ロール婦人が馬車へと乗り込む。


「そんじゃ俺もっと」


 俺が馬車に乗ると、縦ロール婦人の隣の席しか空いていなかった。

 貴族との繋がりを持ちたがる冒険者は多いけど、残念ながら縦ロール婦人の隣はスカスカである。個性が強すぎぎるのも考えものなんだね。


「お隣、失礼しますねー」

「おーっほっほ! よくってよぉ」


 縦ロール婦人の許可を得て隣に着席。

 全員が座ったことを確認した御者が馬車を進ませる。


「あらあら、なんて座り心地が悪いのかしらぁ。このままでは森に着く前にお尻が痛くて動けなくなってしまうわぁ」

「あ、よかったらこれ使います?」


 俺はカバンからクッション性のあるシートを取り出す。

 NASAが開発したこのシートは、上から生卵を落としても割れないほど衝撃急力に優れているのだ。


「あらぁ、これは?」

「これをお尻の下に敷いてください。こう見えてかなり衝撃を殺してくれるんですよ」

「お借りするわぁ。…………あらぁ、いいじゃないのこれぇ」

「でしょ? 俺、馬車に乗る時これを敷いてるんですよ」

「貴方の分はないのかしらぁ?」

「一枚しか持ってないんですよ。あ、でも気にしないでください。女性には優しくしろってのが、一昨年他界しかけた爺さんの口癖なんで」

「素敵なお祖父様ねぇ。それじゃあ遠慮なくお借りするわぁ」

「どーぞどーぞ」

「冒険者にしては物腰が柔らかいのねぇ。それに身だしなみも整ってる。うん、貴方見所があるわぁ。わたくしの下僕にしてあげてもよくってよ?」

「あはは……え、遠慮しておきます」

「残念だわぁ」


 森へと向かう馬車内は、そんな個性的すぎる縦ロール婦人の存在により、終始お通夜のような雰囲気だった。



 ◇◆◇◆◇



「着いたぞ。みんな降りてくれ」


 ムロンさんの指示の下、受験生のみなさんが馬車から降り、一列に並ぶ。


「よし。そんじゃお前さんたちが倒してくるモンスターを教えるぞ。いまから説明するからよく聞ぃとけよ。対象のモンスターはいくつかある。まずひとつ目が――――……」


 ムロンさんがモンスターの名を上げ、討伐証明となる部位、注意すべき点などを説明していく。

 ほとんどの受験生が、ムロンさんの話を真剣に聞いていた。


 あんま真剣じゃないのは、


「なんか思ってたよりイージーっぽいな」


 冒険者エンジョイ勢だけど、強敵との戦闘経験がそれなりにある俺と、


「あらぁ、大したことなさそうなモンスターばかりねぇ」


 縦ロール婦人のふたりぐらいなものだった。


「期限は三日後の正午までだ。基本的には各自好きに行動していいが、街に戻るのは禁止だ。あと命を粗末にするような真似だけはすんじゃねぇぞ。それじゃ、開始といこうじゃねぇか」


 ムロンさんの言葉を合図に、受験生のみなさんが一斉に動き出す。

 ひとりで森の奥へと入っていくひともいれば、即席のパーティを組むひとたちまでと、様々だ。

 対象モンスターの脅威度はそれほど……というか、俺なら超よゆーで倒せるのばかりだったから、ひとりで森に入っていこうとしたんだけど――


「あー、マサキ、ちと待ってくれ」


 ムロンさんに待ったをかけられた。

 振り返る俺に、ムロンさんはちょいちょいと手招きする。


「はいはい、どうかしましたか?」

「マサキ、お前さんを見込んでひとつ頼みがある」

「俺に? いったいなにをです?」

「実はな……」


 ムロンさんは、縦ロール婦人を一瞥してから口を開く。


「あの嬢ちゃんと一緒に行動しちゃくれねぇか?」

「んなっ――俺が? いったいどうしてです?」

「すまん! これは完全にギルドの都合だ。早ぇ話が、お貴族様に万が一があったらギルドが困んだとよ」

「それってもしかして……?」

「そうだ。マサキはギルドに――ギルドマスターにハメられたことになるな」

「ああ、なるほど。急に昇級試験を受けろって言われたから、ちょっこし違和感があったんですよねー」


 これで全て繋がったぞ。

 冒険者エンジョイ勢の俺に、ギルドマスター(会ったことないけど)から直々昇級試験を受けるよう要請があったこと事態、どこかおかしいと思ったんだ。


 レコアさんの手前OKしたけど、まさか裏にこんなカラクリがあったとはねー。まいったぜ。

 要は、縦ロール婦人のボディガードとして、俺が適任だったわけだ。


 実力はそれなり。戦闘経験もそれなり。しかし最下級。

 うん。縦ロール婦人のボディーガードをするには、なかなか適任なんじゃないの。


「俺は別に構いませんけど、貴族なら自前の護衛とかいないんですか?」

「領主は護衛をつけたかったらしいんだけどよ、なんでもあの嬢ちゃんがワガママ言って遠ざけちまったらしいぜ。まあ、試験を受けてる連中の中にゃそれっぽい(・・・・・)のがいるにはいるが、ワガママ娘が警戒して近づけさせないみてぇだな。ほれ、あれを見てみろ」


 ムロンさんが小声で言い、縦ロール婦人を見るよう促してくる。

 こっそり見ると、縦ロール婦人にパーティを組まないか的なことを誘っていたイケメン戦士が、


「おーっほっほ! お断りですわっ」


 無残にも撃沈していた。

 親の差し金じゃないかと警戒しているのかもしれないな。


「マサキは冒険者になってそれなりだろ? 前からギルドにいるお前さんなら、あのワガママ娘も警戒しないと思うんだ。というわけでマサキ、」


 ムロンさんは俺の肩にぽんと手を置き、


「あのワガママ娘のこと、任せたぞ」


 と無茶ぶりしてきた。

 それに対し俺は、


「わーお」


 と言って頭を抱えるのでした。

遅くなってすみません!

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