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第13話 迷えるおっさんたち

「太陽があっちでー、いりしゃのお月さまがあっちだからぁー……こっちだ! お兄ちゃん、お家はこっちだよ」

「おおっ、リリアちゃんは太陽と月の位置を見ただけで、どっちに行けばいいかわかるんだね。すごいなぁ」

「へへー。これね、お父さんにおしえてもらったんだよー」


 俺が頭を撫でてあげると、リリアちゃんは嬉しそうに目を細める。


「いこー、お兄ちゃん」

「ああ」


 俺とリリアちゃんは手をつないだまま、森を進む。

 最初はリリアちゃんを抱っこして進もうとしたんだけど、


「リリア元気だから、ひとりであるけるよー」


 と言われてしまい、却下されてしまったのだ。

 なんでも、「体から力がわいてくるから、じぶんで歩きたい」とのことらしい。


「あ、カイの実だー。えいっ!」


 近くの木に生っていた果実を、リリアちゃんは垂直跳びでむしり取る。


「とれたー! はいっ、お兄ちゃんのぶん」

「あ、ありがと……」

「これねー、甘くておいしーんだよー。もぐ、もぐっ」


 リリアちゃんはリンゴみたいな果実を、しゃくりしゃくりと音をたてながら食べている。

 俺は手渡された果実と、生っていた木を交互に見た。


「…………」


 カイの実とやらは、大人でも手が届かないような高さに生っている。

 というかリリアちゃん、いま俺の頭ぐらいまで跳んでたぞ。


 俺の身長は170ちょっと。

 地球での垂直跳び世界記録は、1メートルとちょっと。


「…………」


 いまリリアちゃんは、地球の世界記録を簡単に塗り替えたのだ。


「お兄ちゃん、はやくはやくー」


 俺の手をひくその力は、かなり強い。


「……リリアちゃん、なんか逞しくなったね」

「うん! リリアね、なんか力がつよくなったみたいなの」

「へ、へー。あ……そ、そうだリリアちゃん、」

「ん? なーに?」

「この石をさ、ちょっと空に向かってなげてみてくれないかな?」

「いーよー。石ちょうだい」


 リリアちゃんの手に、俺はこぶし大の石を握らせる。

 小さな――5歳の女の子が投げるには、大きすぎるサイズだ。


「はい」

「いくよー、えーい!」


 リリアちゃんがなげた石は、空の彼方へ消え去り、キラリと星になった。


「わー! とーくまでとんだー! お兄ちゃん見た? 見た? リリアとーくに投げれたよ!」

「う、うん……こりゃまた、えらく遠くまで飛んでったね」

「リリアすごーい!」


 間違いない。

 これ、リリアちゃんはジャイアント・ビーとの戦闘を経て、かなりレベルアップしてるぞ。

 どうやら俺がきた異世界(世界)は、RPGみたくモンスターを倒すとレベルアップして、強くなる世界みたいだな。

 ということは、だ。


「ふむ」


 俺もレベルアップしてる可能性が高い、ってことだ。

 どれ、なにかで試して――


「お兄ちゃん、いこー」


 手ごろな何かを探していると、リリアちゃんに急かされてしまった。

 仕方がない。試すのあとにしよう。


「いまいくよー」

「はやくー」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら森を進むリリアちゃん。

 なんか、スゲーはえー。


「待ってー、リリアちゃーん」

「きゃはは、はやくー」


 そんなリリアちゃんを追いかけ、俺も駆け出すのだった。





「お兄ちゃん、もう少しでお家だよ」


 リリアちゃんが声をはずませる。

 そういえば、ここら辺の景色は見たことがあるな。


「お父さんとお母さんおきてるかなー?」

「もう日が昇ってきたからね。ふたりとも起きてるんじゃないかな」


 というか、リリアちゃんを心配して一睡もしてないだろうけどね。いや、ひょっとしたらいまもリリアちゃんを探してるかもしれない。

 はやく帰らないとだ。

 でも――


「リリアちゃん、ちょっと待って」

「んー? どうしたのお兄ちゃん?」

「ムロンさんの家に帰る前にね、リリアちゃんに言っておかなきゃならないことがあるんだ」

「うん。なーに?」


 俺はリリアちゃんと目線を合わせ、人差し指を口にあてながら言う。


「俺と行った『魔法の国』のことはね、誰にも話しちゃダメなんだ」

「えー、そうなの?」

「うん」

「お父さんとお母さんにも?」

「そう。ムロンさんとイザベラさんにも言っちゃダメなんだ」

「……なんでぇ?」


 リリアちゃんのほっぺが膨らんできた。

 この顔は、帰ったら話す気まんまんだった顔だ。


「そんな顔しないで。魔法の国の約束事でね、そう決まってるんだよ」

「えー……」


 リリアちゃんは不満げだ。

 さてどうしたもんか?

 俺は少しだけ考えたあと、ある考えが浮かび、ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべる。


「もしリリアちゃんが話しちゃったらね、もうリリアちゃんを錦糸町――じゃなくて、魔法の国に連れていけなくなっちゃうんだ」

「えーっ!?」


 リリアちゃんが驚いた顔をする。

 うーん、なんて素直な反応だ。


「じゃ、じゃあリリアが話しちゃうと、リリアもうまほーの国にいけないの?」

「そういうことになるね」

「もんじゃも食べれない?」

「食べれない」

「……おふろも?」

「お風呂も」


 リリちゃんの顔がみるみるうちに曇っていく。

 さて、そろそろ頃合かな?


「でもね、もしリリアちゃんが誰にも話さなかったら――」


 俺はリリアちゃんに顔を近づけ、耳元でささやく。


「次は、スカイツリーに連れてってあげるよ」

「――ッ!? ほ、ほんと!? お兄ちゃんほんと!?」

「本当だよ」

「あのキラキラしたとこだよ!」

「そう、あのキラキラしたところに連れてってあげるよ」

「リリアだれにも言わない! お父さんとお母さんにもひみつにするっ!」


 両手をぎゅっと握りしめたリリアちゃんの顔は、真剣そのもの。

 俺はそんなリリアちゃんの頭を撫でてから、手を差し出す。


「ありがとうリリアちゃん。じゃあ、そろそろ帰ろう。リリアちゃんのお家に」

「うん!」


 俺とリリアちゃんは歩き出し、ほどなくしてムロンさんの家の前に着いた。

 さて、ふたりとも家にいるかな?


「さあ、リリアちゃん」

「ん、」


 俺に促され、リリアちゃんは胸いっぱいに息を吸い込み、大きな声をあげる。


「おとーさーん、おかーさーん、ただいまー」


 リリアちゃんの元気な声が響くと、すぐに扉が開いた。

 そして俺は、荒々しく開いた扉に顔面を激しく打ちつけることになったのだった。

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